第2章
夢小説設定
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眼下のダンスフロアでは人々が汗ばんだ肌をネオンの色に光らせながら、リズムに合わせて飛び跳ねていた。
心地よいビートが滑らかに別の曲へと移り変わる。
この空間の音を支配しているのはTHE RAMPAGE専属DJの翔平だ。ターンテーブルを操る手はそのまま、2階のバルコニー席にもたれかかる私を見上げる。
お、い、で
口の動きだけでそう言ったのが分かった。
普段はおちゃらけた言動でゲストやメンバーを笑わせてくれる翔平が、こうしてDJブースにいる時はがらりと雰囲気が変わる。男らしさとセクシーさを兼ね備えたダンスフロアの魔術師となるのだ。
挑発するようなその目に魅せられて、私はふっと口角を上げた。後ろに控えていた慎にシャンパンのグラスを渡し立ち上がる。
「下のフロアへ?」
「あんな風に誘われたら行くしかないじゃない」
「翔平さんのリミックスはすごいですよ」
「楽しませてもらおうかしら」
カツカツとヒールを鳴らしながら螺旋階段を降りる。翔平がマイクを持ち、人々と私を煽る。
「Hey、今宵はスペシャルなゲストのお出ましだ!全戦無敗のカジノクイ〜〜〜〜ン!お前らもっともっと暴れ回ろうぜ!!」
熱狂、歓声。
たくさんの人の目が私に向いているのをはっきりと意識しながら、私は金色の瞳をすっと細めて人と人との間をするすると通って行った。
そして手近にいた若い男の肩に腕を絡める。
「ふふ、」
「あ、すげぇ…本物の梟……」
「クラブにはあまり慣れていなくて。教えてくださる?」
「はっ、はい!もちろん」
腹の底に響くような重低音のビート。それに合わせて身体を揺らし、腰をくねらせ髪をかきあげる。めくるめく移り変わる音楽が心地よい。
肌と肌を密着させてひとしきりダンスを楽しむと、私は少し離れたところに立っている慎を見た。
人差し指をくい、と曲げ合図する。
「Hey Hey Hey!冷めた目のCoolなBoyも麗しのすましたLadyも!今夜は無礼講だ、踊り狂おうぜ」
翔平にも煽られ、慎がどこか悔しげに笑う。
そして私の腰に腕を回し、翔平の作り出す音に合わせ踊り始めた。男らしい無骨な振りのなかにもちゃんと私をリードする色気や余裕があって、あれ、なんだか、
すごく素敵だ。
曲のテンポがどんどん激しく、速くなっていく。私たちは夢中で踊り、笑い、はしゃぐ。
そして花火の弾けるような派手な効果音と共に、DJ SHOHEYのリミックスは終焉を迎えた。
「はぁ、は…ふふ」
「やべぇ…あは、楽し」
「ぷっ、くく…あははははははは」
ふたりして何が面白いのか、大口を開けてわらいあう。まだ音楽の余韻と熱が身体のなかでゆったりと回って、まるで中毒だ。確かにTHE RAMPAGE専属DJの実力は伊達じゃない。
ふと同じタイミングで私たちの笑い声が途切れる。思ったよりも近くに慎の黒い瞳がある。私の腰に細くも男らしい腕がするりと絡む。
「…慎がこんなに笑ってる顔、初めて見たわ」
「俺もですよ。あおいさん、ギャンブルでどんな大金を手に入れても気取って大声では笑ってくれないから」
「あら失礼ね。礼儀を弁えて、と言ってくれる?」
「こんなに綺麗なんだから、もっと笑えばいいのに」
「その言葉、そっくりそのまま慎にお返しするわ」
慎の顎のラインを指先でなぞる。引き寄せられるように、ふたりの距離が近づいていく。
あぁ、私はきっと次の1秒の間に慎と唇を重ねていて、熱くとろけるようなその甘美さを味わっているのだろう。
慎が瞼を閉じる。
私はその瞼を見ている。
薄く、蜜色をした瞼。そこを彩る長い睫毛。
それを間近で見た瞬間、私はとっさに慎の唇に人差し指を置いていた。
互いの動きがぴたりと止まる。
「…あらやだ。私ったら、こんな所で」
慎が至近距離で、私の金色の瞳をじっと見つめている。私はそんな彼にふわりと笑いかけて、身を離した。
「だめよ慎、ちゃんと人を見る目を養わなくちゃ。カジノホストでしょう?」
「あおいさん、」
「あぁ、汗かいちゃった。部屋に戻るわ」
また螺旋階段を登る。ちらりと後ろを確認すると慎は黙って私の荷物を持ち、いつも通り1歩後ろを着いてきてきた。
その後は2人とも何事もなかったかのように振る舞い、ロイヤルスイートルームの入口でおやすみの挨拶を交わす。
「翔平によろしくお伝えしておいて」
「かしこまりました」
ぱたん、扉が閉まる。
私はすぐにバスルームに向かうと、服を脱ぎ捨て熱いシャワーを頭からかぶった。
どうしてキスできなかったのだろう。
男の人とのキスなんて数えきれないくらいしてきた。別になんでもないことのはずじゃないか。慎だって今まで関わって、時には狂わせてきた男と同じように考えればいいだけ。
それだけのことが、なぜできない。
思考がまとまらない。頭のなかをぐるぐると巡るのは翔平の音と、慎の弾けるような笑顔。
あぁそうだ、あの笑顔。
冷静沈着な彼を年相応、いやそれ以下にまで幼く見せる笑顔が、脳裏にこびりついて離れないのだ。
シャワーの粒が床を叩く。
忘れるな。私には目的がある。ここで迷ったら勝負運は逃げていく。
思い出せ。
あの日の怒りと絶望を。
心地よいビートが滑らかに別の曲へと移り変わる。
この空間の音を支配しているのはTHE RAMPAGE専属DJの翔平だ。ターンテーブルを操る手はそのまま、2階のバルコニー席にもたれかかる私を見上げる。
お、い、で
口の動きだけでそう言ったのが分かった。
普段はおちゃらけた言動でゲストやメンバーを笑わせてくれる翔平が、こうしてDJブースにいる時はがらりと雰囲気が変わる。男らしさとセクシーさを兼ね備えたダンスフロアの魔術師となるのだ。
挑発するようなその目に魅せられて、私はふっと口角を上げた。後ろに控えていた慎にシャンパンのグラスを渡し立ち上がる。
「下のフロアへ?」
「あんな風に誘われたら行くしかないじゃない」
「翔平さんのリミックスはすごいですよ」
「楽しませてもらおうかしら」
カツカツとヒールを鳴らしながら螺旋階段を降りる。翔平がマイクを持ち、人々と私を煽る。
「Hey、今宵はスペシャルなゲストのお出ましだ!全戦無敗のカジノクイ〜〜〜〜ン!お前らもっともっと暴れ回ろうぜ!!」
熱狂、歓声。
たくさんの人の目が私に向いているのをはっきりと意識しながら、私は金色の瞳をすっと細めて人と人との間をするすると通って行った。
そして手近にいた若い男の肩に腕を絡める。
「ふふ、」
「あ、すげぇ…本物の梟……」
「クラブにはあまり慣れていなくて。教えてくださる?」
「はっ、はい!もちろん」
腹の底に響くような重低音のビート。それに合わせて身体を揺らし、腰をくねらせ髪をかきあげる。めくるめく移り変わる音楽が心地よい。
肌と肌を密着させてひとしきりダンスを楽しむと、私は少し離れたところに立っている慎を見た。
人差し指をくい、と曲げ合図する。
「Hey Hey Hey!冷めた目のCoolなBoyも麗しのすましたLadyも!今夜は無礼講だ、踊り狂おうぜ」
翔平にも煽られ、慎がどこか悔しげに笑う。
そして私の腰に腕を回し、翔平の作り出す音に合わせ踊り始めた。男らしい無骨な振りのなかにもちゃんと私をリードする色気や余裕があって、あれ、なんだか、
すごく素敵だ。
曲のテンポがどんどん激しく、速くなっていく。私たちは夢中で踊り、笑い、はしゃぐ。
そして花火の弾けるような派手な効果音と共に、DJ SHOHEYのリミックスは終焉を迎えた。
「はぁ、は…ふふ」
「やべぇ…あは、楽し」
「ぷっ、くく…あははははははは」
ふたりして何が面白いのか、大口を開けてわらいあう。まだ音楽の余韻と熱が身体のなかでゆったりと回って、まるで中毒だ。確かにTHE RAMPAGE専属DJの実力は伊達じゃない。
ふと同じタイミングで私たちの笑い声が途切れる。思ったよりも近くに慎の黒い瞳がある。私の腰に細くも男らしい腕がするりと絡む。
「…慎がこんなに笑ってる顔、初めて見たわ」
「俺もですよ。あおいさん、ギャンブルでどんな大金を手に入れても気取って大声では笑ってくれないから」
「あら失礼ね。礼儀を弁えて、と言ってくれる?」
「こんなに綺麗なんだから、もっと笑えばいいのに」
「その言葉、そっくりそのまま慎にお返しするわ」
慎の顎のラインを指先でなぞる。引き寄せられるように、ふたりの距離が近づいていく。
あぁ、私はきっと次の1秒の間に慎と唇を重ねていて、熱くとろけるようなその甘美さを味わっているのだろう。
慎が瞼を閉じる。
私はその瞼を見ている。
薄く、蜜色をした瞼。そこを彩る長い睫毛。
それを間近で見た瞬間、私はとっさに慎の唇に人差し指を置いていた。
互いの動きがぴたりと止まる。
「…あらやだ。私ったら、こんな所で」
慎が至近距離で、私の金色の瞳をじっと見つめている。私はそんな彼にふわりと笑いかけて、身を離した。
「だめよ慎、ちゃんと人を見る目を養わなくちゃ。カジノホストでしょう?」
「あおいさん、」
「あぁ、汗かいちゃった。部屋に戻るわ」
また螺旋階段を登る。ちらりと後ろを確認すると慎は黙って私の荷物を持ち、いつも通り1歩後ろを着いてきてきた。
その後は2人とも何事もなかったかのように振る舞い、ロイヤルスイートルームの入口でおやすみの挨拶を交わす。
「翔平によろしくお伝えしておいて」
「かしこまりました」
ぱたん、扉が閉まる。
私はすぐにバスルームに向かうと、服を脱ぎ捨て熱いシャワーを頭からかぶった。
どうしてキスできなかったのだろう。
男の人とのキスなんて数えきれないくらいしてきた。別になんでもないことのはずじゃないか。慎だって今まで関わって、時には狂わせてきた男と同じように考えればいいだけ。
それだけのことが、なぜできない。
思考がまとまらない。頭のなかをぐるぐると巡るのは翔平の音と、慎の弾けるような笑顔。
あぁそうだ、あの笑顔。
冷静沈着な彼を年相応、いやそれ以下にまで幼く見せる笑顔が、脳裏にこびりついて離れないのだ。
シャワーの粒が床を叩く。
忘れるな。私には目的がある。ここで迷ったら勝負運は逃げていく。
思い出せ。
あの日の怒りと絶望を。