第1章
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「慎です。戻りました」
「入って」
俺は会議室の扉をノックして、ノブに手をかけた。
広い会議室の椅子に腰掛けるのは16人の幹部たち。最も上座に控えるのが俺たちのカジノの総支配人、力矢さんと陣さんだ。
俺は海青さんと龍の間、自分の定位置に腰掛けた。
「梟からのご指名デートいいなーまこっちゃんモテモテだなーいいなー」
「昂秀うるさい」
隣に座る龍と顔を見合わせてくすくす笑う昂秀は、相変わらずノートパソコンを膝の上に置いて会議と同時進行で情報収集に務めている。山彰さんとは別の意味でワーカーホリックだ。
「それじゃあ全員揃ったし、会議始めんで」
独特のイントネーションで、総支配人のひとり陣さんが口火を切った。
金と赤を貴重とした豪奢な長机。そこに向かい合って座る16人の幹部たちはこうして見るとかなりの迫力だ。
机の西側に座るのは年長の8人。上手から総支配人エリオット力矢、坂本陣。カジノ部スロット課スロットマネージャー青山陸、ホテル部フロントオペレーション課マネージャー神谷健太、飲食部マネージャー与那嶺瑠唯、財務部マネージャー山本彰吾、カジノ部テーブルゲーム課ゲームマネージャー川村壱馬、カジノ部カジノマーケティング課マネージャー吉野北人。
そしてそれに向かい合うようにして東側の長辺に座るのがカジノ部ポーカー課・キノ課マネージャー岩谷翔吾、ダンスホール部マネージャー兼専属DJ浦川翔平、カジノ部テーブルゲーム課シフトマネージャー藤原樹、警備部セキュリティ一課マネージャー武知海青、そして俺、カジノ部マーケティング課チーフカジノホスト長谷川慎、カジノ部スロット課シフトマネージャー阿多龍太郎、警備部サイべランス課サイべランスオフィサー鈴木昴秀、カジノ部テーブルゲーム課シフトマネージャー後藤拓磨。
casino THE RAMPAGEを統べる錚々たるメンバーが一同に会し話し合う今日の議題は…
「まこっちゃん、今日あおいさんとデートしてきたんやろ。何か聞き出せたか?」
「いやデートというわけでは…」
「異性と1対1で出かけるのをデート言うんや。とにかく今日あったことを1から10まで教えてくれ」
陣さん、絶対美人とふたりで出かけた俺に嫉妬してるんだ。俺は若干むくれながら椅子から立ち上がり、今日の行動全てを話した。
「んー…至って普通のデートっすね…」
海青さんが顎を撫でながら唸る。俺はもうデートであることを否定しない。
しかし力矢さんと山彰さんはどこか腑に落ちない表情を浮かべ、ふたりで目を合わせていた。
「まこっちゃん、来栖グループの社長って来栖雷蔵で間違いないよな?」
「あ、はい。来栖グループの社長は来栖雷蔵様です」
「昂秀、あおいさんがVIPルームに来た日の他の客のデータ出せる?」
「余裕っす」
力矢さんに促され、昂秀が膝の上のパソコンをかたかたと操作する。豪奢な装飾が施されたテーブルの天板が一瞬にしてデジタル液晶パネルと化し、俺たちひとりひとりの前に細かいデータが浮かび上がった。
それを見ているうち、俺はあることに気づく。
俺と同じことに気づいたのだろう、翔平さんがぼそりと呟いた。
「あおいさんと来栖さんはうちのカジノでは1度も会ってない…ですね」
「やっぱりそうだよな…来栖さんもあおいさんもうちではトップを争うハイローラーだから財務部の仕事してたらすぐ分かるんだよ、売り上げが爆上がりしてたらどっちかが遊んでたってことだから」
さすがうちの金の流れは全て把握している財務部マネージャー山彰さん。THE RAMPAGEイチのキレ者はどんな些細なことも見逃さない。
来栖雷蔵は3年前からうちのVIP客となった男だ。アメリカ全土にその名を轟かせる巨大複合企業、来栖グループを一代で築き上げた敏腕社長。
引き締まった体にタテに割れたオトガイが往年の銀幕スターを思わせる。大人の色気漂うダンディーな佇まいは50歳を迎えても尚女性の視線を引き付けてやまないようだが、俺はどうにも苦手だった。あの鋭い瞳の奥で、得体の知れない黒い炎がゆらゆらと揺らめいているような気がして。
「何であおいさんは来栖さんがうちのVIPだって知ってたんだろう…会ったことないのに」
静まり返った部屋に、陸さんの声がぽかりと浮かび上がる。
あおいさんと来栖雷蔵。この2人が、一体どう結びつくと言うのだろう。
頭の中でふたりを並べてみる。どちらも容姿端麗、年齢不詳なところは共通している。あおいさんが来栖の腕に自分の腕を絡ませて歩く様子を想像した俺は、慌ててその妄想をかき消した。
まだ俺の右腕の内側には、あの人の温もりが残っている。そりゃ俺たちは客と従業員という関係に過ぎないけど、でも、何だろう。
あおいさんと来栖が並んでいるのは、何だか嫌だ。
「まぁ他のカジノで知り合ってそういう話をしたっていう可能性もありますからね。何とも言えないですけど」
壱馬さんが腕を組んで冷静に言う。そしてこの店での彼女の戦績データをじっと見下ろしながら、細く息を吐き出した。
「でも個人的な意見を言わせてもらうと、この人には裏がある。そう思います。ここまで徹底的に過去を消し去っているなんて絶対におかしい」
「俺も壱馬と同意見です。ゲストと直接関わることが多いマーケティング課だから分かるんですけど、あの人は自分のことは一切話そうとしない。ギャンブルのこと以外はね」
北人さんも壱馬さんに同調する。他にも数人がうんうんと頷いていることからして、全く正体の掴めないあおいさんのことを危険視しているメンバーはそれなりに多いようだ。
しかし、俺のなかの靄は晴れない。身体の右側に残る彼女の腕の感触が、俺の思考回路に入り込んでくる。
黙り込む俺に、陣さんが水を向けた。
「まこっちゃんは?今んとこあの人を1番近くで見とるのはまこっちゃんや。あおいさんを怪しいと思うか?」
「俺は…」
右肩上がりに上昇していくあおいさんの賭け金のグラフをじっと見つめる。
全戦全勝のギャンブルの女神。猛禽の瞳を持つ美しい女性。
俺の今日24時間を500万で買ったひと。
「ゲームにおいても、今日1日行動を共にしてみても。不審な様子は見られませんでした。俺はあおいさんが俺たちのカジノを荒らし、貶めようと企むような人間には思えません」
力矢さんが俺の目を見ないまま「そうか」とだけ返す。全員がしばらく力矢さんの方を見て、その決定を待っていた。
「…THE RAMPAGEは利益第一。たとえゲストがどんなに最低な人間でもカジノに金を落としてくれるなら、俺たちは受け入れる。ただ、もし従業員や他のゲストに危害を加えるようなら容赦はしない」
「…」
俺は我知らず、ごくりと唾を飲み込んだ。力矢さんが顔を上げる。
頼もしい俺たちのリーダーの顔だった。
「たとえどんな裏があろうとも、あおいさんは俺たちの大切なゲストだよ。向こうがどういうつもりかは知らないけど、こちらもたっぷり金儲けさせてもらおう」
「入って」
俺は会議室の扉をノックして、ノブに手をかけた。
広い会議室の椅子に腰掛けるのは16人の幹部たち。最も上座に控えるのが俺たちのカジノの総支配人、力矢さんと陣さんだ。
俺は海青さんと龍の間、自分の定位置に腰掛けた。
「梟からのご指名デートいいなーまこっちゃんモテモテだなーいいなー」
「昂秀うるさい」
隣に座る龍と顔を見合わせてくすくす笑う昂秀は、相変わらずノートパソコンを膝の上に置いて会議と同時進行で情報収集に務めている。山彰さんとは別の意味でワーカーホリックだ。
「それじゃあ全員揃ったし、会議始めんで」
独特のイントネーションで、総支配人のひとり陣さんが口火を切った。
金と赤を貴重とした豪奢な長机。そこに向かい合って座る16人の幹部たちはこうして見るとかなりの迫力だ。
机の西側に座るのは年長の8人。上手から総支配人エリオット力矢、坂本陣。カジノ部スロット課スロットマネージャー青山陸、ホテル部フロントオペレーション課マネージャー神谷健太、飲食部マネージャー与那嶺瑠唯、財務部マネージャー山本彰吾、カジノ部テーブルゲーム課ゲームマネージャー川村壱馬、カジノ部カジノマーケティング課マネージャー吉野北人。
そしてそれに向かい合うようにして東側の長辺に座るのがカジノ部ポーカー課・キノ課マネージャー岩谷翔吾、ダンスホール部マネージャー兼専属DJ浦川翔平、カジノ部テーブルゲーム課シフトマネージャー藤原樹、警備部セキュリティ一課マネージャー武知海青、そして俺、カジノ部マーケティング課チーフカジノホスト長谷川慎、カジノ部スロット課シフトマネージャー阿多龍太郎、警備部サイべランス課サイべランスオフィサー鈴木昴秀、カジノ部テーブルゲーム課シフトマネージャー後藤拓磨。
casino THE RAMPAGEを統べる錚々たるメンバーが一同に会し話し合う今日の議題は…
「まこっちゃん、今日あおいさんとデートしてきたんやろ。何か聞き出せたか?」
「いやデートというわけでは…」
「異性と1対1で出かけるのをデート言うんや。とにかく今日あったことを1から10まで教えてくれ」
陣さん、絶対美人とふたりで出かけた俺に嫉妬してるんだ。俺は若干むくれながら椅子から立ち上がり、今日の行動全てを話した。
「んー…至って普通のデートっすね…」
海青さんが顎を撫でながら唸る。俺はもうデートであることを否定しない。
しかし力矢さんと山彰さんはどこか腑に落ちない表情を浮かべ、ふたりで目を合わせていた。
「まこっちゃん、来栖グループの社長って来栖雷蔵で間違いないよな?」
「あ、はい。来栖グループの社長は来栖雷蔵様です」
「昂秀、あおいさんがVIPルームに来た日の他の客のデータ出せる?」
「余裕っす」
力矢さんに促され、昂秀が膝の上のパソコンをかたかたと操作する。豪奢な装飾が施されたテーブルの天板が一瞬にしてデジタル液晶パネルと化し、俺たちひとりひとりの前に細かいデータが浮かび上がった。
それを見ているうち、俺はあることに気づく。
俺と同じことに気づいたのだろう、翔平さんがぼそりと呟いた。
「あおいさんと来栖さんはうちのカジノでは1度も会ってない…ですね」
「やっぱりそうだよな…来栖さんもあおいさんもうちではトップを争うハイローラーだから財務部の仕事してたらすぐ分かるんだよ、売り上げが爆上がりしてたらどっちかが遊んでたってことだから」
さすがうちの金の流れは全て把握している財務部マネージャー山彰さん。THE RAMPAGEイチのキレ者はどんな些細なことも見逃さない。
来栖雷蔵は3年前からうちのVIP客となった男だ。アメリカ全土にその名を轟かせる巨大複合企業、来栖グループを一代で築き上げた敏腕社長。
引き締まった体にタテに割れたオトガイが往年の銀幕スターを思わせる。大人の色気漂うダンディーな佇まいは50歳を迎えても尚女性の視線を引き付けてやまないようだが、俺はどうにも苦手だった。あの鋭い瞳の奥で、得体の知れない黒い炎がゆらゆらと揺らめいているような気がして。
「何であおいさんは来栖さんがうちのVIPだって知ってたんだろう…会ったことないのに」
静まり返った部屋に、陸さんの声がぽかりと浮かび上がる。
あおいさんと来栖雷蔵。この2人が、一体どう結びつくと言うのだろう。
頭の中でふたりを並べてみる。どちらも容姿端麗、年齢不詳なところは共通している。あおいさんが来栖の腕に自分の腕を絡ませて歩く様子を想像した俺は、慌ててその妄想をかき消した。
まだ俺の右腕の内側には、あの人の温もりが残っている。そりゃ俺たちは客と従業員という関係に過ぎないけど、でも、何だろう。
あおいさんと来栖が並んでいるのは、何だか嫌だ。
「まぁ他のカジノで知り合ってそういう話をしたっていう可能性もありますからね。何とも言えないですけど」
壱馬さんが腕を組んで冷静に言う。そしてこの店での彼女の戦績データをじっと見下ろしながら、細く息を吐き出した。
「でも個人的な意見を言わせてもらうと、この人には裏がある。そう思います。ここまで徹底的に過去を消し去っているなんて絶対におかしい」
「俺も壱馬と同意見です。ゲストと直接関わることが多いマーケティング課だから分かるんですけど、あの人は自分のことは一切話そうとしない。ギャンブルのこと以外はね」
北人さんも壱馬さんに同調する。他にも数人がうんうんと頷いていることからして、全く正体の掴めないあおいさんのことを危険視しているメンバーはそれなりに多いようだ。
しかし、俺のなかの靄は晴れない。身体の右側に残る彼女の腕の感触が、俺の思考回路に入り込んでくる。
黙り込む俺に、陣さんが水を向けた。
「まこっちゃんは?今んとこあの人を1番近くで見とるのはまこっちゃんや。あおいさんを怪しいと思うか?」
「俺は…」
右肩上がりに上昇していくあおいさんの賭け金のグラフをじっと見つめる。
全戦全勝のギャンブルの女神。猛禽の瞳を持つ美しい女性。
俺の今日24時間を500万で買ったひと。
「ゲームにおいても、今日1日行動を共にしてみても。不審な様子は見られませんでした。俺はあおいさんが俺たちのカジノを荒らし、貶めようと企むような人間には思えません」
力矢さんが俺の目を見ないまま「そうか」とだけ返す。全員がしばらく力矢さんの方を見て、その決定を待っていた。
「…THE RAMPAGEは利益第一。たとえゲストがどんなに最低な人間でもカジノに金を落としてくれるなら、俺たちは受け入れる。ただ、もし従業員や他のゲストに危害を加えるようなら容赦はしない」
「…」
俺は我知らず、ごくりと唾を飲み込んだ。力矢さんが顔を上げる。
頼もしい俺たちのリーダーの顔だった。
「たとえどんな裏があろうとも、あおいさんは俺たちの大切なゲストだよ。向こうがどういうつもりかは知らないけど、こちらもたっぷり金儲けさせてもらおう」