第1章
夢小説設定
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時間になったら起こしに来て、という昨日の言葉通り、慎はロイヤルスイートの扉を10時ぴったりに3回ノックした。
「おはようございます、あおいさん」
「おはよう」
扉の向こうから少しくぐもった感じの挨拶が聞こえる。私は数分後、完璧に着飾って慎の前に立っていた。
今日の慎はタイトな黒のスラックスに淡いブルーのシャツ、グレーのネクタイを緩く締めてネイビーのジャケットを着ていた。落ち着いたカラーの中にもワインレッドのニットでアクセントを足しているあたりがお洒落な慎らしい。
「いつもとは雰囲気違うわね」
「カジュアルめにと言ったのはあおいさんでしょう」
「ふふ、あからさまにカジノホストな男性を連れて街を歩くのはちょっとはしたないでしょ?」
「はぁ」
「さ、行くわよ。今日はとことん付き合ってもらうんだから」
私はシャンパンゴールドのピンヒールの踵を鳴らして車寄せに停まっていた艶やかな黒のランボルギーニに乗り込んだ。私は助手席、慎は運転席。
「どちらへ?」
「ロデオドライブ」
「さすがですね」
流れるように車が走り出す。心地よいエンジンのリズムに揺られながら、私はハンドルを持つ慎の綺麗な手を何の気なしに眺めていた。
「THE RAMPAGEのVIPには世界でも有名な億万長者が沢山いるのね。シェードバンクの総裁とか、レインドットの会長とか、来栖グループの社長とか」
「ありがたいことに。でも最近の1番のハイローラーはあおいさんですよ」
「ここは負けた額の何割かじゃなくて遊んだ額の何割かがカジノ側の報酬になるものね。絶対に負けない私はいいカモだわ」
「1度負けてみては?」
「嫌よ。貧乏ほど恐ろしいことはないもの」
ふと脳裏に過ぎったのは、幼い日の記憶。
ゴミだらけの路地裏、穴の空いた屋根。アザだらけの母の背中。
「…あおいさん?」
「……考え事しちゃった。あぁ、もうすぐ着くわね」
「はい」
ロデオドライブの駐車場には隅から隅まで高級車が整然と並んでいる。慎はBMWとレクサスの間にするりと車体を潜り込ませると、流れるような仕草で助手席の扉を開いた。
「どうぞ」
「できる男ね」
「伊達にあなたの専属やってませんから」
「言うじゃない」
慎の頬を軽くつついて、私は見慣れたゲートをくぐった。少し遅れて着いてくる慎は平静を装っているがちょっと目が泳いでいて、それが可愛らしい。
ロデオドライブはラスベガスでも有名な高級ショッピングストリートだ。ハリウッドで活躍するセレブや大富豪たちが集い、様々なブランドのショップが軒を連ねる。
「慎」
「はい?」
「今日はホストじゃなくて私の貸し切りなんだから。隣を歩いて」
「あ、はい」
私は慎の腕にするりと自分の腕を絡ませると、小洒落たストリートの真ん中を歩き始めた。
最初こそぎこちないもののさすがはTHE RAMPAGEのチーフカジノホスト、すぐに私が歩きやすいように慣れた様子でリードしてくれる。
「あ、あのコート素敵」
「メンズですよ」
「分かってるわよ」
私はメンズファッションの店に入ると、慎の身体にあれこれ当ててコーディネートを考え始めた。
慎はスタイルがいい。きっとどんな服でも似合うだろう。
「いや、あおいさん…あなたの買い物に来たんじゃないですか」
「私の買い物よ?私が買うんだから…あぁこっちも似合うわね…これとこれ、試着してみて」
「いやあの、」
「いいから」
私は見繕ったいくつかの服と慎を試着室に押し込んだ。
しばらくしてカーテンを開けた慎はタイトなダメージジーンズにスニーカー、フードつきの白いトレーナー、黒のレザージャケットにキャップを被ったアメリカンカジュアルスタイルだった。
それがあまりにも似合っていて、私は思わず手を叩いてはしゃぐ。
「やだ可愛い!似合うじゃない慎!」
「…俺、私服はこんな感じです」
「あ、やっぱり?とっても似合ってるもの。でも普段からこういう服着ているなら服被っちゃうかしら?同じようなもの持っているとか」
「いや、これは持ってないですね」
「じゃあそれ買いましょ。すみません、これ買います」
「いや、だからあおいさん」
「いいの、お金はあるから。ほら、それ脱いでらっしゃい」
私は食い下がろうとする慎にぴしゃりと言って、私は店員にブラックカードを差し出した。
自分だけじゃなくて、他の誰かを着飾ることも好きだ。この人にはこういう服が似合うだろうなとか、あの人のセンスはなかなかいいとか、そういったことを考えながら人間観察をするのがちょっとした趣味になっているくらいには。
トータルコーディネートは軽く100万を超えたが、私は全く気にせず会計を済ませてブランドのロゴが入った紙袋を慎に持たせた。
「さ、次は…あぁそうだ、新しいピアスが欲しいんだった。慎はピアス開いてる…わね。じゃあついでに慎のものも買っちゃいましょ」
こんな調子で自分に関するものよりも慎にお金をかけながら、私は午前中いっぱい買い物を楽しんだ。そのままストリート内にある高級レストランで昼食を済ませ、車に戻る。
次に向かったのは知り合いの世界的歌手のコンサート。もちろんVIP席だ。
チケット2枚のうち1枚を慎に差し出すと、慎は目を丸くして私を見た。
「この歌手のコンサートなんてプレミアものですよ」
「ラッキーだったじゃない」
私はそう笑いかけてホールへ入る。ふかふかのソファ型の席に身を沈め、特等席からステージを見下ろした。
コンサートが始まる。隣に座った慎は真剣な眼差しでスポットライトを浴びる歌手を見つめている。
少しは私への警戒心も解いてくれただろうか。最初のうちは慎のみならずTHE RAMPAGE幹部全員が私を怪しんでいたことは何となく感じ取っていた。
確かに私は彼らのカジノをとある『計画』に利用するために来た。でも彼らだって私の名前を使って売上を上げようとしているのだろうし、お互い様ではないか。
これは打算的な関係。私は彼らや慎を利用し、彼らも私を利用する。それだけでいい。
それ以上は、決して踏み込んではならない。
信じるべきは自分の直感のみ。それが私の口癖だった。
ちらりと慎に視線をやる。鼻の高い綺麗な横顔だ。
慎のことだって信頼しているわけではない。信じてはならない。
分かっている。
分かっては、いるんだ。
「おはようございます、あおいさん」
「おはよう」
扉の向こうから少しくぐもった感じの挨拶が聞こえる。私は数分後、完璧に着飾って慎の前に立っていた。
今日の慎はタイトな黒のスラックスに淡いブルーのシャツ、グレーのネクタイを緩く締めてネイビーのジャケットを着ていた。落ち着いたカラーの中にもワインレッドのニットでアクセントを足しているあたりがお洒落な慎らしい。
「いつもとは雰囲気違うわね」
「カジュアルめにと言ったのはあおいさんでしょう」
「ふふ、あからさまにカジノホストな男性を連れて街を歩くのはちょっとはしたないでしょ?」
「はぁ」
「さ、行くわよ。今日はとことん付き合ってもらうんだから」
私はシャンパンゴールドのピンヒールの踵を鳴らして車寄せに停まっていた艶やかな黒のランボルギーニに乗り込んだ。私は助手席、慎は運転席。
「どちらへ?」
「ロデオドライブ」
「さすがですね」
流れるように車が走り出す。心地よいエンジンのリズムに揺られながら、私はハンドルを持つ慎の綺麗な手を何の気なしに眺めていた。
「THE RAMPAGEのVIPには世界でも有名な億万長者が沢山いるのね。シェードバンクの総裁とか、レインドットの会長とか、来栖グループの社長とか」
「ありがたいことに。でも最近の1番のハイローラーはあおいさんですよ」
「ここは負けた額の何割かじゃなくて遊んだ額の何割かがカジノ側の報酬になるものね。絶対に負けない私はいいカモだわ」
「1度負けてみては?」
「嫌よ。貧乏ほど恐ろしいことはないもの」
ふと脳裏に過ぎったのは、幼い日の記憶。
ゴミだらけの路地裏、穴の空いた屋根。アザだらけの母の背中。
「…あおいさん?」
「……考え事しちゃった。あぁ、もうすぐ着くわね」
「はい」
ロデオドライブの駐車場には隅から隅まで高級車が整然と並んでいる。慎はBMWとレクサスの間にするりと車体を潜り込ませると、流れるような仕草で助手席の扉を開いた。
「どうぞ」
「できる男ね」
「伊達にあなたの専属やってませんから」
「言うじゃない」
慎の頬を軽くつついて、私は見慣れたゲートをくぐった。少し遅れて着いてくる慎は平静を装っているがちょっと目が泳いでいて、それが可愛らしい。
ロデオドライブはラスベガスでも有名な高級ショッピングストリートだ。ハリウッドで活躍するセレブや大富豪たちが集い、様々なブランドのショップが軒を連ねる。
「慎」
「はい?」
「今日はホストじゃなくて私の貸し切りなんだから。隣を歩いて」
「あ、はい」
私は慎の腕にするりと自分の腕を絡ませると、小洒落たストリートの真ん中を歩き始めた。
最初こそぎこちないもののさすがはTHE RAMPAGEのチーフカジノホスト、すぐに私が歩きやすいように慣れた様子でリードしてくれる。
「あ、あのコート素敵」
「メンズですよ」
「分かってるわよ」
私はメンズファッションの店に入ると、慎の身体にあれこれ当ててコーディネートを考え始めた。
慎はスタイルがいい。きっとどんな服でも似合うだろう。
「いや、あおいさん…あなたの買い物に来たんじゃないですか」
「私の買い物よ?私が買うんだから…あぁこっちも似合うわね…これとこれ、試着してみて」
「いやあの、」
「いいから」
私は見繕ったいくつかの服と慎を試着室に押し込んだ。
しばらくしてカーテンを開けた慎はタイトなダメージジーンズにスニーカー、フードつきの白いトレーナー、黒のレザージャケットにキャップを被ったアメリカンカジュアルスタイルだった。
それがあまりにも似合っていて、私は思わず手を叩いてはしゃぐ。
「やだ可愛い!似合うじゃない慎!」
「…俺、私服はこんな感じです」
「あ、やっぱり?とっても似合ってるもの。でも普段からこういう服着ているなら服被っちゃうかしら?同じようなもの持っているとか」
「いや、これは持ってないですね」
「じゃあそれ買いましょ。すみません、これ買います」
「いや、だからあおいさん」
「いいの、お金はあるから。ほら、それ脱いでらっしゃい」
私は食い下がろうとする慎にぴしゃりと言って、私は店員にブラックカードを差し出した。
自分だけじゃなくて、他の誰かを着飾ることも好きだ。この人にはこういう服が似合うだろうなとか、あの人のセンスはなかなかいいとか、そういったことを考えながら人間観察をするのがちょっとした趣味になっているくらいには。
トータルコーディネートは軽く100万を超えたが、私は全く気にせず会計を済ませてブランドのロゴが入った紙袋を慎に持たせた。
「さ、次は…あぁそうだ、新しいピアスが欲しいんだった。慎はピアス開いてる…わね。じゃあついでに慎のものも買っちゃいましょ」
こんな調子で自分に関するものよりも慎にお金をかけながら、私は午前中いっぱい買い物を楽しんだ。そのままストリート内にある高級レストランで昼食を済ませ、車に戻る。
次に向かったのは知り合いの世界的歌手のコンサート。もちろんVIP席だ。
チケット2枚のうち1枚を慎に差し出すと、慎は目を丸くして私を見た。
「この歌手のコンサートなんてプレミアものですよ」
「ラッキーだったじゃない」
私はそう笑いかけてホールへ入る。ふかふかのソファ型の席に身を沈め、特等席からステージを見下ろした。
コンサートが始まる。隣に座った慎は真剣な眼差しでスポットライトを浴びる歌手を見つめている。
少しは私への警戒心も解いてくれただろうか。最初のうちは慎のみならずTHE RAMPAGE幹部全員が私を怪しんでいたことは何となく感じ取っていた。
確かに私は彼らのカジノをとある『計画』に利用するために来た。でも彼らだって私の名前を使って売上を上げようとしているのだろうし、お互い様ではないか。
これは打算的な関係。私は彼らや慎を利用し、彼らも私を利用する。それだけでいい。
それ以上は、決して踏み込んではならない。
信じるべきは自分の直感のみ。それが私の口癖だった。
ちらりと慎に視線をやる。鼻の高い綺麗な横顔だ。
慎のことだって信頼しているわけではない。信じてはならない。
分かっている。
分かっては、いるんだ。