第1章
夢小説設定
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THE RAMPAGEのVIPルームで、私は無造作にテーブルの上にチップを重ねた。
「レイズ、10000」
恰幅のいい老紳士がわずかに眉を動かす。私のオーダーでこのゲームのディーラーを務めている慎は、表情ひとつ変えずにたった今私が置いたチップの山を崩してポットにまとめた。
ここはTHE RAMPAGEのVIPルーム。テキサスホールデムポーカーの真っ最中だった。
「うむ…コール」
シルバーグレーのスリーピーススーツに身を包んだ老人が同じ額を賭ける。
やはり乗ってきたか。表情や仕草、目線の動きや言動からして彼の手札は相当いい役のはずだ。しかし賭け金を上げるライズではなく同額を出すコールを選択したと言うことは…
私は心の中だけで口の端を釣り上げる。
慎の綺麗な指が5枚目のカードをめくる。その面が晒される前から、私はそれがハートのAだと直感していた。
テーブル中央に置かれたコミュニティカードはハートとスペードのA、ダイヤとスペードのJ、クローバーの8。
老紳士が綺麗に整えられたロマンスグレーの口ひげの向こうでにこりと微笑んだ。
「あら…随分と余裕そうですね」
「そう見えるかい?」
「ええ」
テーブルの縁に肘を置く。私はまたチップの山を掴んでポットに重ねた。
「レイズ50000」
「レイズ80000」
老紳士は強気だった。慎が私に視線を向ける。私は肩を竦めてもう80000分、黒いチップを押し出した。
「コール80000」
これでベット額は同等。ワンゲームが終了だ。慎が静かに告げる。
「Showdownです」
老紳士が手札を晒す。慎が素早く役を確認した。
「クローバーのJ、スペードの8…フルハウスです」
フルハウスとは同じ数字が3枚とワンペアの組み合わせのこと。慎が読み上げた紳士の手札とコミュニティカードのJが2枚で同じ数字3枚、クローバーの8でワンペア。ポーカーでもなかなか強い役に入る。
私はくすりと微笑んで、手札2枚を表に向けた。
ダイヤとクローバーのA。
慎のミドルな声が無機質に告げた。
「…A4枚とJでフォーカードです。あおい様の勝利」
「なっ」
老紳士が短い叫び声を上げる。
当然だろう、私は絶対に負けない。相手がどれほどいいカードを持っていても、それ以上のものを手に入れるのが私なのだから。
イカサマなどしたことはない。全て、私の持ち合わせた運の良さからだった。
私は腕を伸ばして、ポットに無造作に積まれた大量のチップを引き寄せた。ざらざらと耳孔をくすぐるのは、私の未来を彩るカネの音。
「ふふ、楽しいゲームでした」
次は何をしようかとテーブルの間を歩きながら、慎に話しかける。
「私がイカサマをしていると思う?」
スロットやチップの擦れる音で騒々しいホールの中でも、慎の声はまっすぐに私の耳に届く。
嘘をついていない人間の声だった。
「いえ。ディーラーの経験は長いのでどんな小細工もすぐに分かりますけど、あおいさんがイカサマをしてる様子はありませんでした」
「…ふふ、そう。ありがとう」
半分だけ振り返って慎を見る。隙のないダークスーツに身を包んだ慎は、綺麗な顔で笑っていた。
「あおいさんがベットする時、絶対に迷わないでまっすぐチップを出すでしょう。自分や周りに嘘をついている人にあんな賭け方はできません」
驚いた。このカジノに来てまだ1週間も経っていないのによく観察しているものだ。さすが若くしてチーフホストに選ばれているだけある。
慎だけじゃない。総支配人を覗いた幹部14人と何度か話したが、全員その若さには相応しくないほどの鋭さと落ち着きを持っていた。
やはりマフィアの一員なだけある。
ここを『勝負の場所』に選んでよかった。私の選択に間違いはなかったのだ。
「…今日はこのあたりで切り上げるわ」
「部屋に?」
「ええ」
「かしこまりました」
ピンヒールの踵を返して、出口に向かう。いつも通り慎の先導で隣接のホテルに入り、エレベーターに乗った。
「明日は買い物にでも行こうかしら」
「お車の手配を致しましょうか」
「お願いするわ…それから」
慎が首を傾げて振り返る。
私はにこりと笑ってクラッチバッグ型の財布を軽く振った。
「あなたの明日の24時間はいくらで買い取ることができるのかしら?」
「…え?」
「レイズ、10000」
恰幅のいい老紳士がわずかに眉を動かす。私のオーダーでこのゲームのディーラーを務めている慎は、表情ひとつ変えずにたった今私が置いたチップの山を崩してポットにまとめた。
ここはTHE RAMPAGEのVIPルーム。テキサスホールデムポーカーの真っ最中だった。
「うむ…コール」
シルバーグレーのスリーピーススーツに身を包んだ老人が同じ額を賭ける。
やはり乗ってきたか。表情や仕草、目線の動きや言動からして彼の手札は相当いい役のはずだ。しかし賭け金を上げるライズではなく同額を出すコールを選択したと言うことは…
私は心の中だけで口の端を釣り上げる。
慎の綺麗な指が5枚目のカードをめくる。その面が晒される前から、私はそれがハートのAだと直感していた。
テーブル中央に置かれたコミュニティカードはハートとスペードのA、ダイヤとスペードのJ、クローバーの8。
老紳士が綺麗に整えられたロマンスグレーの口ひげの向こうでにこりと微笑んだ。
「あら…随分と余裕そうですね」
「そう見えるかい?」
「ええ」
テーブルの縁に肘を置く。私はまたチップの山を掴んでポットに重ねた。
「レイズ50000」
「レイズ80000」
老紳士は強気だった。慎が私に視線を向ける。私は肩を竦めてもう80000分、黒いチップを押し出した。
「コール80000」
これでベット額は同等。ワンゲームが終了だ。慎が静かに告げる。
「Showdownです」
老紳士が手札を晒す。慎が素早く役を確認した。
「クローバーのJ、スペードの8…フルハウスです」
フルハウスとは同じ数字が3枚とワンペアの組み合わせのこと。慎が読み上げた紳士の手札とコミュニティカードのJが2枚で同じ数字3枚、クローバーの8でワンペア。ポーカーでもなかなか強い役に入る。
私はくすりと微笑んで、手札2枚を表に向けた。
ダイヤとクローバーのA。
慎のミドルな声が無機質に告げた。
「…A4枚とJでフォーカードです。あおい様の勝利」
「なっ」
老紳士が短い叫び声を上げる。
当然だろう、私は絶対に負けない。相手がどれほどいいカードを持っていても、それ以上のものを手に入れるのが私なのだから。
イカサマなどしたことはない。全て、私の持ち合わせた運の良さからだった。
私は腕を伸ばして、ポットに無造作に積まれた大量のチップを引き寄せた。ざらざらと耳孔をくすぐるのは、私の未来を彩るカネの音。
「ふふ、楽しいゲームでした」
次は何をしようかとテーブルの間を歩きながら、慎に話しかける。
「私がイカサマをしていると思う?」
スロットやチップの擦れる音で騒々しいホールの中でも、慎の声はまっすぐに私の耳に届く。
嘘をついていない人間の声だった。
「いえ。ディーラーの経験は長いのでどんな小細工もすぐに分かりますけど、あおいさんがイカサマをしてる様子はありませんでした」
「…ふふ、そう。ありがとう」
半分だけ振り返って慎を見る。隙のないダークスーツに身を包んだ慎は、綺麗な顔で笑っていた。
「あおいさんがベットする時、絶対に迷わないでまっすぐチップを出すでしょう。自分や周りに嘘をついている人にあんな賭け方はできません」
驚いた。このカジノに来てまだ1週間も経っていないのによく観察しているものだ。さすが若くしてチーフホストに選ばれているだけある。
慎だけじゃない。総支配人を覗いた幹部14人と何度か話したが、全員その若さには相応しくないほどの鋭さと落ち着きを持っていた。
やはりマフィアの一員なだけある。
ここを『勝負の場所』に選んでよかった。私の選択に間違いはなかったのだ。
「…今日はこのあたりで切り上げるわ」
「部屋に?」
「ええ」
「かしこまりました」
ピンヒールの踵を返して、出口に向かう。いつも通り慎の先導で隣接のホテルに入り、エレベーターに乗った。
「明日は買い物にでも行こうかしら」
「お車の手配を致しましょうか」
「お願いするわ…それから」
慎が首を傾げて振り返る。
私はにこりと笑ってクラッチバッグ型の財布を軽く振った。
「あなたの明日の24時間はいくらで買い取ることができるのかしら?」
「…え?」