第5章
夢小説設定
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Casino THE RAMPAGE、豪奢な長机が置かれた馴染み深い会議室。
日頃はリゾートを取り仕切る組織のトップ達が厳かに会議を行う場だが、今日ばかりはその空気を一変させていた。
全長10mはあろうかという巨大な長机の上になぜか土足で立つ樹、その向かいに立つのは来栖側の陣営の男だ。両者とも片手に鋭利なサバイバルナイフを持ち、視線で射殺さんとばかりに睨み合っている。
「かつてのギリシャではコロッセオで剣闘士たちを戦わせていたそうじゃないか。実に面白いエンターテインメントにも関わらず、現代では法律が邪魔をする。ギャンブルにあたって最も白熱する賭けは命だ。そうだろう?」
「貴方のその悪趣味な談義は聞きたくないわ」
私は向かいに座る来栖をキッと睨みつけた。
ついにこの日が来てしまった。私と彼の、最後のゲームだ。
あまりにも悪趣味で残虐な3番勝負。その1つ目の戦いの火蓋が今、まさに切って落とされようとしている。
樹がちらりと私を見た。小さく微笑んで頷いてみせる。
今から樹は命を賭けた戦闘に挑もうとしているのだ。私の目の前で。仲間たちの目の前で。
数日前に送られてきた3番勝負の内容を見た時に、真っ先にこの狂ったゲームに立候補したのが樹だった。RAMPAGEの面々も特に反対をしなかったのを見るに、彼はおそらく相当のやり手なのだろう。
私はただ、祈ることしかできない。
隣に座る慎の手をテーブルの下でぎゅっと握る。握り返してくれるその手の温もりに、私は気持ちを奮い立たせる。
私は梟。吉報の印にして、最強の運の持ち主。
大丈夫。
「樹」
「はい」
「貴方が勝つわ。絶対にね」
あまりにも美しく、あまりにも恐ろしい微笑みを浮かべた樹がナイフをくるりと回した。
「梟の加護のもとに」
来栖が片手を軽く挙げた。
「イカサマはなしよ」
「分かっているさ。さぁ、始めようか。READY…」
慎の手に力が込もる。
「Fight!」
樹が消えた。そう錯覚するほどの速さで、彼は一瞬にして敵の目の前に飛び出していた。むき出しの腕の筋肉が美しく躍動する。振り抜いた刃は、しかし敵を捕らえることはできない。敵はすばやく後ろに飛び退ると、まるで東洋のニンジャのように高く跳躍し、樹の頭上を飛び越え背後に回る。振り返りざま、とっさに翳した樹のナイフと敵のナイフが鈍い音を立てて交錯した。
RAMPAGEのメンバーもその動きを見て確信したはずだ。
敵の男も、樹に匹敵するほどの強さだということに。
「ほう」
来栖が満足げに笑う。敵陣営の男たちも薄汚い笑みを浮かべている。目の前で人が命のやり取りをしている中平然と、まるでそれを楽しむかのように笑うその様子に吐き気が込み上げた。
狭いテーブルの上で繰り広げられる戦いは白熱していた。両者とも避けずとも致命傷にならない傷はかわさなかったなめ、あっという間に磨きこまれたテーブルの天板に紅い線が幾重にも重なっていく。
まさに目と鼻の先で展開する命のゲームを、RAMPAGEの面々は固唾を飲んで見守っていた。あの翔平ですら一言も発さない。
いや違う。
樹の勝利を信じているのだ。焦らずとも、勝敗はいずれ着く。そして結果は分かっている。確信している。だから何か言う必要もない。
しかしだ。
実力は拮抗している。
そして、長きに渡る組みうちで樹に疲労が見え始める。
私は唇を噛む。樹が負けるはずがない。そう信じていても、これは命を賭けたデスゲームだ。敗者は死者となる。私のために樹を殺すなどあってはならない。もうこれ以上、大切な人間の死を見たくない。
ちらりと慎を見やる。
慎はうっすらと笑っていた。
笑っていた。
「あ」
呟いたのは誰だったのだろう。
樹が天板に滴った血で足を滑らせた。ぐらりと上体が傾き、バランスを取ろうとかざしたナイフを持っていない方の腕が無防備に敵の眼前に放り出される。
ごり、ナイフの刃が骨に当たる嫌な音が響いた。まるで自分の腕を刺されたかのように感じる。見開いた私の瞳は、勝負の決着を映していた。
「勝った」
慎の囁き。
刺された左腕に、樹がぐっと力を込める。筋肉の抵抗により敵がナイフを抜くことができずにいるその一瞬の間に、死角から飛び出した樹のナイフが敵の手首を鮮やかに切り落とす。振り下ろした勢いのまま次は右足首の腱。左脚。さらにまだ残っている手首を切り裂くまで、僅か数秒の早業だった。
敵が苦悶の絶叫と共にテーブルに倒れ伏す。
勝負あった。
流れ出す鮮血を見下ろして、樹は自分の腕に突き刺さったままのナイフを事も無げに引き抜く。
「──────────あんたはもう戦えない。俺の勝ちだ」
男が絶望の眼差しで樹を見上げるのが分かった。来栖の瞳に激しい怒りの感情が湧き上がるのを見た。
負けたら死ぬはずの勝負で、樹は命を奪わずに勝利してみせたのだ。腱を切られた敵はもう立つことも、ナイフを握ることもできやしない。勝負が逼迫していたからこそ、樹はわざと自分の不利な状況からの一発逆転に賭けたのだ。それを理解したからこそ、慎も笑っていた。
さすがはCasino THE RAMPAGEのメンバー。彼もまたギャンブラーだったということか。
命知らずの勝負師が私を振り返る。
「生還しました」
「無茶をして…ヒヤヒヤしたじゃない」
樹は小さく笑って、テーブルからすとんと降りる。しかし翔平に肩をばしばし叩かれたのが傷に響いたのか顔を顰めて殴り返していた。
「…さぁ。これで俺たちの1点リードだな、来栖」
力矢が鋭く来栖を睨んだ。来栖は血走った目をして爪を噛んでいる。
「次の勝負に行こうか」
日頃はリゾートを取り仕切る組織のトップ達が厳かに会議を行う場だが、今日ばかりはその空気を一変させていた。
全長10mはあろうかという巨大な長机の上になぜか土足で立つ樹、その向かいに立つのは来栖側の陣営の男だ。両者とも片手に鋭利なサバイバルナイフを持ち、視線で射殺さんとばかりに睨み合っている。
「かつてのギリシャではコロッセオで剣闘士たちを戦わせていたそうじゃないか。実に面白いエンターテインメントにも関わらず、現代では法律が邪魔をする。ギャンブルにあたって最も白熱する賭けは命だ。そうだろう?」
「貴方のその悪趣味な談義は聞きたくないわ」
私は向かいに座る来栖をキッと睨みつけた。
ついにこの日が来てしまった。私と彼の、最後のゲームだ。
あまりにも悪趣味で残虐な3番勝負。その1つ目の戦いの火蓋が今、まさに切って落とされようとしている。
樹がちらりと私を見た。小さく微笑んで頷いてみせる。
今から樹は命を賭けた戦闘に挑もうとしているのだ。私の目の前で。仲間たちの目の前で。
数日前に送られてきた3番勝負の内容を見た時に、真っ先にこの狂ったゲームに立候補したのが樹だった。RAMPAGEの面々も特に反対をしなかったのを見るに、彼はおそらく相当のやり手なのだろう。
私はただ、祈ることしかできない。
隣に座る慎の手をテーブルの下でぎゅっと握る。握り返してくれるその手の温もりに、私は気持ちを奮い立たせる。
私は梟。吉報の印にして、最強の運の持ち主。
大丈夫。
「樹」
「はい」
「貴方が勝つわ。絶対にね」
あまりにも美しく、あまりにも恐ろしい微笑みを浮かべた樹がナイフをくるりと回した。
「梟の加護のもとに」
来栖が片手を軽く挙げた。
「イカサマはなしよ」
「分かっているさ。さぁ、始めようか。READY…」
慎の手に力が込もる。
「Fight!」
樹が消えた。そう錯覚するほどの速さで、彼は一瞬にして敵の目の前に飛び出していた。むき出しの腕の筋肉が美しく躍動する。振り抜いた刃は、しかし敵を捕らえることはできない。敵はすばやく後ろに飛び退ると、まるで東洋のニンジャのように高く跳躍し、樹の頭上を飛び越え背後に回る。振り返りざま、とっさに翳した樹のナイフと敵のナイフが鈍い音を立てて交錯した。
RAMPAGEのメンバーもその動きを見て確信したはずだ。
敵の男も、樹に匹敵するほどの強さだということに。
「ほう」
来栖が満足げに笑う。敵陣営の男たちも薄汚い笑みを浮かべている。目の前で人が命のやり取りをしている中平然と、まるでそれを楽しむかのように笑うその様子に吐き気が込み上げた。
狭いテーブルの上で繰り広げられる戦いは白熱していた。両者とも避けずとも致命傷にならない傷はかわさなかったなめ、あっという間に磨きこまれたテーブルの天板に紅い線が幾重にも重なっていく。
まさに目と鼻の先で展開する命のゲームを、RAMPAGEの面々は固唾を飲んで見守っていた。あの翔平ですら一言も発さない。
いや違う。
樹の勝利を信じているのだ。焦らずとも、勝敗はいずれ着く。そして結果は分かっている。確信している。だから何か言う必要もない。
しかしだ。
実力は拮抗している。
そして、長きに渡る組みうちで樹に疲労が見え始める。
私は唇を噛む。樹が負けるはずがない。そう信じていても、これは命を賭けたデスゲームだ。敗者は死者となる。私のために樹を殺すなどあってはならない。もうこれ以上、大切な人間の死を見たくない。
ちらりと慎を見やる。
慎はうっすらと笑っていた。
笑っていた。
「あ」
呟いたのは誰だったのだろう。
樹が天板に滴った血で足を滑らせた。ぐらりと上体が傾き、バランスを取ろうとかざしたナイフを持っていない方の腕が無防備に敵の眼前に放り出される。
ごり、ナイフの刃が骨に当たる嫌な音が響いた。まるで自分の腕を刺されたかのように感じる。見開いた私の瞳は、勝負の決着を映していた。
「勝った」
慎の囁き。
刺された左腕に、樹がぐっと力を込める。筋肉の抵抗により敵がナイフを抜くことができずにいるその一瞬の間に、死角から飛び出した樹のナイフが敵の手首を鮮やかに切り落とす。振り下ろした勢いのまま次は右足首の腱。左脚。さらにまだ残っている手首を切り裂くまで、僅か数秒の早業だった。
敵が苦悶の絶叫と共にテーブルに倒れ伏す。
勝負あった。
流れ出す鮮血を見下ろして、樹は自分の腕に突き刺さったままのナイフを事も無げに引き抜く。
「──────────あんたはもう戦えない。俺の勝ちだ」
男が絶望の眼差しで樹を見上げるのが分かった。来栖の瞳に激しい怒りの感情が湧き上がるのを見た。
負けたら死ぬはずの勝負で、樹は命を奪わずに勝利してみせたのだ。腱を切られた敵はもう立つことも、ナイフを握ることもできやしない。勝負が逼迫していたからこそ、樹はわざと自分の不利な状況からの一発逆転に賭けたのだ。それを理解したからこそ、慎も笑っていた。
さすがはCasino THE RAMPAGEのメンバー。彼もまたギャンブラーだったということか。
命知らずの勝負師が私を振り返る。
「生還しました」
「無茶をして…ヒヤヒヤしたじゃない」
樹は小さく笑って、テーブルからすとんと降りる。しかし翔平に肩をばしばし叩かれたのが傷に響いたのか顔を顰めて殴り返していた。
「…さぁ。これで俺たちの1点リードだな、来栖」
力矢が鋭く来栖を睨んだ。来栖は血走った目をして爪を噛んでいる。
「次の勝負に行こうか」
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