第5章
夢小説設定
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「…それじゃあ、20年前のスラム街の大火災は……?」
俺に尋ねられて、あおいさんは小さく笑うと首をゆるゆると横に振った。
「あれは母の犯行じゃない。全て来栖が仕組んだものよ」
その場にいた全員が息を飲んだ。
怒りが込み上げてきて、俺は拳をぎゅっと握りしめる。
「あの場所に、自分の会社の工場を建設するために…?」
「そう。あのスラム街はいわば負の遺産…政府にとっても目障りだったことは間違いないわ。あの場所に住む人間も含めてね。だから焼き払ってもらう代わりに来栖グループに安く売り払ってしまったのよ」
「政府と癒着してたなんて…」
翔吾さんが苦々しい表情で呟く。あおいさんは力なく笑ってさらに続ける。
「彼は私の母が火をつけたのだという噂を流し、民衆のスケープゴートをでっち上げた。さらに跡地に工場を建設し、行き場のなくなったスラム街の住人にその工場で働かせるという職を与えることでヒーロー気取り……まぁその工場も今では不当な労働を強いられる監獄と化しているようだけど。その一方で来栖に癒着していた警察が母を指名手配、ついでとばかりに私も札付きにされたわ。そこから1年間、私たちは警察や世間の目から逃げ回った。来栖への憎しみを胸に」
いつもの会議室で、あおいさんは机の上に置いた手を関節が白くなるほど強く握った。その瞳には激しい憎悪の炎がゆらゆらと揺れている。しかしそれも一瞬。次の瞬間にはその顔に疲労の色が濃く浮かんだ。
「母は精神を病んで命を絶った。私に復讐を託して。そこから先はまぁ、大変だったけど運はよかったからなんとか警察にも正体がバレることなくここまで這い登ってきたって感じかしら。人は目的があればなんでもできるのね。母のことがなければギャンブラーは私の天職だったかもしれないわ」
なんでも、たったそれだけの言葉でもあおいさんの半生の凄まじさを伺うことができる。
しばしの沈黙の後、あおいさんはふう、とため息をついた。
そこに夜のカジノに君臨する女王の面影はなかった。ただ重くつらい過去を背負って孤独に生きてきた強く弱い女性。
それが、このひと、麻藤院あおいの本当の姿だったのだ。
「あいつへの復讐を果たしたら、さっさと死んでしまおうと思っていた。だから未練は残したくなくてずっとひとりで生きてきたわ。復讐以外に生きる意味を持たないようにしていたの」
金色の瞳がふっと上がる。煙るような長い睫毛に縁取られた美しい猛禽の瞳が俺を捉える。
初めて会ったその瞬間から、俺はこの瞳に惹かれていたのだ。そのとらえどころの無い不思議な微笑みに、妖艶な佇まいに、時折見せる普通の女性としての素朴な言動に。その全てに、どうしようもなく魅入られていたのだ。
「…だからこんな気持ちは知らなかった。私のこれまでの人生が寂しかったのだと初めて気付いた…この気持ちが、」
左胸のあたりできゅっと手を握って切なげに眉根を寄せるその姿は、この世のものとは思えないほどに美しかった。
ひとりの人間としての麻藤院あおいの美しさだった。
「恋なのね。これが」
あの人の黄金の瞳に映る俺はどれほどの男なのだろう。
あおいさんに釣り合うような男であったらいいなと思う。たとえ今はまだ未熟でもこれからの俺の、俺たちの人生で。
ふたり、寄り添って成長していけたらと思うのだ。
立ち上がる。上座に座る力矢さんと陣さんをまっすぐ見つめる。
「Casino THE RAMPAGEカジノホストマネージャー長谷川慎としてでもなく、マフィアLDH Family傘下THE RAMPAGE幹部の長谷川慎としてでもなく、ひとりの男として、俺は戦いたい。守るべきものを守りたいと思います」
しかし現実はフィクションのように、格好いい俺ではいさせてくれはしない。
だから恥も分外もプライドも捨て、頭を下げる。
「現実的に考えて俺たちだけでは到底及ばない大きな力が裏で動いているのは事実。だからお願いします。俺に、俺たちに、力を貸してください」
俺に尋ねられて、あおいさんは小さく笑うと首をゆるゆると横に振った。
「あれは母の犯行じゃない。全て来栖が仕組んだものよ」
その場にいた全員が息を飲んだ。
怒りが込み上げてきて、俺は拳をぎゅっと握りしめる。
「あの場所に、自分の会社の工場を建設するために…?」
「そう。あのスラム街はいわば負の遺産…政府にとっても目障りだったことは間違いないわ。あの場所に住む人間も含めてね。だから焼き払ってもらう代わりに来栖グループに安く売り払ってしまったのよ」
「政府と癒着してたなんて…」
翔吾さんが苦々しい表情で呟く。あおいさんは力なく笑ってさらに続ける。
「彼は私の母が火をつけたのだという噂を流し、民衆のスケープゴートをでっち上げた。さらに跡地に工場を建設し、行き場のなくなったスラム街の住人にその工場で働かせるという職を与えることでヒーロー気取り……まぁその工場も今では不当な労働を強いられる監獄と化しているようだけど。その一方で来栖に癒着していた警察が母を指名手配、ついでとばかりに私も札付きにされたわ。そこから1年間、私たちは警察や世間の目から逃げ回った。来栖への憎しみを胸に」
いつもの会議室で、あおいさんは机の上に置いた手を関節が白くなるほど強く握った。その瞳には激しい憎悪の炎がゆらゆらと揺れている。しかしそれも一瞬。次の瞬間にはその顔に疲労の色が濃く浮かんだ。
「母は精神を病んで命を絶った。私に復讐を託して。そこから先はまぁ、大変だったけど運はよかったからなんとか警察にも正体がバレることなくここまで這い登ってきたって感じかしら。人は目的があればなんでもできるのね。母のことがなければギャンブラーは私の天職だったかもしれないわ」
なんでも、たったそれだけの言葉でもあおいさんの半生の凄まじさを伺うことができる。
しばしの沈黙の後、あおいさんはふう、とため息をついた。
そこに夜のカジノに君臨する女王の面影はなかった。ただ重くつらい過去を背負って孤独に生きてきた強く弱い女性。
それが、このひと、麻藤院あおいの本当の姿だったのだ。
「あいつへの復讐を果たしたら、さっさと死んでしまおうと思っていた。だから未練は残したくなくてずっとひとりで生きてきたわ。復讐以外に生きる意味を持たないようにしていたの」
金色の瞳がふっと上がる。煙るような長い睫毛に縁取られた美しい猛禽の瞳が俺を捉える。
初めて会ったその瞬間から、俺はこの瞳に惹かれていたのだ。そのとらえどころの無い不思議な微笑みに、妖艶な佇まいに、時折見せる普通の女性としての素朴な言動に。その全てに、どうしようもなく魅入られていたのだ。
「…だからこんな気持ちは知らなかった。私のこれまでの人生が寂しかったのだと初めて気付いた…この気持ちが、」
左胸のあたりできゅっと手を握って切なげに眉根を寄せるその姿は、この世のものとは思えないほどに美しかった。
ひとりの人間としての麻藤院あおいの美しさだった。
「恋なのね。これが」
あの人の黄金の瞳に映る俺はどれほどの男なのだろう。
あおいさんに釣り合うような男であったらいいなと思う。たとえ今はまだ未熟でもこれからの俺の、俺たちの人生で。
ふたり、寄り添って成長していけたらと思うのだ。
立ち上がる。上座に座る力矢さんと陣さんをまっすぐ見つめる。
「Casino THE RAMPAGEカジノホストマネージャー長谷川慎としてでもなく、マフィアLDH Family傘下THE RAMPAGE幹部の長谷川慎としてでもなく、ひとりの男として、俺は戦いたい。守るべきものを守りたいと思います」
しかし現実はフィクションのように、格好いい俺ではいさせてくれはしない。
だから恥も分外もプライドも捨て、頭を下げる。
「現実的に考えて俺たちだけでは到底及ばない大きな力が裏で動いているのは事実。だからお願いします。俺に、俺たちに、力を貸してください」