第5章
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慎がいる。
目の前に、慎が立っている。
「慎…!?なんで、」
「あおいさん、ダメだ。そんなことしちゃダメです」
こちらに1歩近づいてくるのを見て、私はとっさに握ったナイフを慎に向けた。ベッドから降りて、血を流す来栖を背中に隠すように立ち塞がる。
「来ないで!!!!!!!!!!!!!!!」
ヒステリックにそう叫ぶ。
来るな。邪魔をするな。
この男へ復讐をさせてくれ。
ナイフの先端が情けなくぶるぶると震える。私はそれでも慎に叫ぶ。
「それ以上近づいたらあなたも殺すわよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
しかし、慎は動じなかった。
黒い虹彩が、悲しげに私を見つめている。
なんで、なんでそんな顔で私を見るの。
ねぇ、慎。
どうして。
「麻藤院あおい、さん」
刹那、私の身体の全ての細胞が音を立てて凍りついた。
麻痺したように硬直する脳みそが絞り出したのは、間抜けな問いかけ。
「なんで……私、の、名前…」
「やめましょう、こんなこと。今ここでそいつを殺したところでなんの意味もない。報復を受けてもっと惨い殺され方をするだけです」
こんなこと…?
こんなことと言ったか?
「何だっていい。こいつさえ殺せれば。この20年、復讐のために生きてきた。それを果たしてしまえばもう生きる意味なんてないわ。どうせ行先は地獄なんだもの、すぐに死んでやる」
ナイフを持つ手をぱたんと降ろして、振り返る。痛みに苦しむ来栖が、怯えた目で私を見上げる。
「邪魔しないで慎。私は、母を死に追いやった
この男に、母と同じ苦しみを味合わせなければならないのよ。分かるでしょう?」
廊下が騒がしい。慎がそちらにチラリと視線を向けて舌打ちを打つ。
恐らく警備を突破したはいいものの生き残りが応援を呼んだのだろう。余計なことをしてくれたものだ。
「分かりません。多分俺にはあおいさんのその思いは一生分からない。俺だけじゃなくて、あおいさん以外の誰も分からないんだと思います」
「はっ、論外だわ。黙ってそこで見てるのね」
「嫌です」
一瞬で距離を詰めた慎が、私が来栖に向かって振り上げたナイフの刃を素手で掴んだ。
慎の手のひらから溢れた血が来栖の服に滴り落ちる。痛いはずなのに、それでも慎の万力のような力はナイフを空中に貼り付けたかのようにビクともしない。
「ちょっ…!?離して!離しなさい!」
「それも、嫌です」
不意に慎が私の背中に腕を回して、ぐい、と自分の方に引き寄せた。
「え、」
慎の黒い瞳が目の前に迫る。
噛み付くようなキス。ほんの一瞬の、短く、激しいキス。
いつの間にかナイフから離した手のひらが、私の頬を包み込む。きっと私の頬には慎の血がべっとりと着いているはずだ。
「ん…っ、ふ、ぅ……っ!っ、」
「っ、は…………あおいさん、俺にはあなたの抱え込んできたものを図り知ることもできないけれど、でも」
黒真珠の瞳に、私の金色の虹彩が溶けていく。
そうやってひとつになって、私の心に押さえ込んでいたものもいつしかどろどろに混ざりあって流れ出していく。
「あなたの生きる意味にはなりたい」
その時になって、ようやく気づいた。
この20年、復讐の計画と共に残りの人生に悔いを残さないよう、好きなことだけをして生きてきた。金と名声と男を欲しいままにし、心の赴くまま行動してきた。
しかし、心残りは作らない。
恋とか愛とか、友情とか。そういったものから徹底的に逃げてきたのだ。
逃げてきた、のに。
極限の緊張にあった心が、きりきりと音を立てて張り詰めていた糸が、ふいにぷつりと切れた。
堰を切るように涙が溢れてくる。
そうだ、気がついた時にはもうこの計画は破綻していたんだ。
「慎………っ!」
だって、慎のことを好きになってしまっていたのだから。
「助けて」
涙をぼろぼろ零しながら言う私に、慎は優しく微笑んでみせた。
「─────────────────はい」
刹那、部屋に武装した男たちがなだれ込んでくる。同時に慎の無線に翔吾の声が響く。
『しまった、突破された!まこっちゃん、そっちに3人行ったで!』
「はい、大丈夫です。あおいさんを回収して離脱します」
そう返しながら、慎は流れるような動きで懐からハンドガンを取り出し発砲する。その間コンマ数秒という早業だった。
ひとり倒した。私も握っていたナイフをもうひとりの右目に向かって力いっぱい投げる。
「ナイスシュート」
「逃げるの?来栖は?」
「考えがあります。このまま生かしておきましょう」
「信じていいのね?」
「はい」
「分かった」
襲いかかってきた男に、慎が見事な回し蹴りを喰らわせる。首の骨が折れるぐきりという音が響いた。
「行きましょう」
慎に手を引かれて、私は走り出した。途中で転がっていたハンドガンを拾い上げる。
廊下に出ると、翔吾と翔平が2人で戦線を突破しようとする敵を必死に防いでいた。
「あっ、あおいさんだ!」
「翔平、翔吾…!」
「行ってください!俺らもすぐに追いつきます!」
言われるまま、私たちは出口に向かって全速力で駆け抜けた。警備員の死体がごろごろ転がる玄関ホールを通り抜けると、目の前の車寄せには流線形が特徴的な高級車と、数台の大型バイクが待ち構えていた。
車の運転席から陸が叫ぶ。
「乗って!早く!」
背後から銃声がして振り返ると、翔吾と翔平が迫り来る敵からこちらに向かって猛然と逃げているところだった。
「あっちょっと!敵連れてこないでよ!」
「すんません健太さん!さすがにこの人数相手にするのは無理でした!」
「翔吾、お前は拓磨の後ろ!そんで翔平は俺の後ろ乗れ!さっさとズラかるぞ!」
現場指示を担当する山彰さんの素早い指示が飛んで、私たちは車、バイクそれぞれに別れて飛び乗った。
「やべー、こういうの久しぶりだね!」
「陸さん楽しんでます?」
「すっごい楽しい!」
「はあ…」
私の隣で慎がリロードをしながら呆れたようなため息をついた。明らかに道交法違反のスピードで道をぶっ飛ばしながら、陸は軽快にハンドルを切る。
「…!来たわよ」
奴らが、追いかけてきた。
数えきれないバイクと車が夜のラスベガスの街を怒涛の如く突っ走ってくる。と、ふいに車に付いた無線機から陣の大声が響いた。
『山彰、健太、拓磨、は東西に展開!後ろに乗ってる翔吾、瑠唯、翔平が迎え撃てよ、ええな!THE RAMPAGEがただのディーラーじゃないことを思い知らせてやれ』
「陣…?どこから喋ってるの?」
「あれ、空です」
「空…?」
慎の指し示す方向を見ると、濃紺の空には一機のヘリコプター。やけに低空飛行なそのヘリコプターはよく見るとドアが開いていて、そこから陣が無線機片手に身を乗り出していた。
「…超本気臨戦態勢じゃない。どうしてここまで……」
「リアルに言っちゃえば利害の一致ですよ」
「え?」
「後で詳しく話しますけど、来栖が俺たちの敵でもあることが分かったんです」
慎はそれだけ言うと、窓から身を乗り出して後方に向かい発砲した。しかし敵からの攻撃や目の前を通過する一般の車を避けるために絶えず蛇行する運転のせいで狙いが定まらない。
「陸さん、まっすぐ運転してください。射線通りません」
「無茶言わないでよ!この車が事故ってないだけ俺のおかげだと思って!」
「武器は?ハンドガンだけなの?」
「後部座席の下!あおいさんの足元に入ってる!」
陸の言葉に足元をのぞき込むと、硬化プラスチックの大きなケースが収納されていた。それを引きずり出し、がばりと開ける。
ハンドガンやサブマシンガンが綺麗に収まっているその中で、私はおあつらえ向きのものを見つける。
ダネルMGL 140。大型のグレネードランチャーだ。
私はずっしりと重いそれを掴みあげると、素早く弾倉を確認する。さすが準備がいい、フル装填済みだ。
銃弾を撃ち込まれて後部のガラスが砕けた。敵がすぐそこまで迫っている。
「…あおいさん?何してるんですか」
後部座席の窓から上半身を乗り出して応戦していた慎が、怪訝な表情で私を振り返った。
私は、ただ微笑む。
「いいこと思いついたの」
そしてそれと同時に、車の天井に向かって擲弾をぶっ放した。
さほど広くもない車内に耳をつんざく爆音が響き、ちょうど私の真上あたりに人ひとりが通れるくらいの穴が開く。
その衝撃で、陸が握るハンドルが左右に大きく振れた。
「おわわわっ!?えっ何事!?あおいさん何やってんすか!?」
「大丈夫、ちゃんと修理費は出すわ」
「いやそういう問題じゃなくて!」
わめく陸と真横で爆音を聞いたせいで頭をふらふらさせている慎は無視して、私はグレネードランチャーをぽいと天井に空いた穴から外に出すと、後部座席の上に立ち上がって上半身も穴の外にひっぱりあげた。
びゅうびゅうと後ろに流れていく冷えた空気が頬を叩く。ざっと髪が後ろへなびく。
一斉に私に向けて敵の射撃が降り注ぐが、激しいカーチェイスの最中のためか全く当たらない。
「えっあおいさん!?なにしてんすか、隠れて隠れて!撃たれますよ!」
瑠唯を後ろに乗せてバイクをぶっ飛ばしていた健太がぎょっとこっちを見上げた。身振り手振りで降りろと伝えるが、私は全く耳を貸さない。
「大丈夫よ、私運はいいの。弾が避けてくれるわ」
そして、グレネードランチャーを肩に担ぐ。スコープで照準を合わせるのは、真後ろに付けた大型車だ。
よく狙う。
運がいいとは言えこんな堂々と敵の的になるような場所に身を晒すのは危険だ。一発勝負だった。
カチリ
骨の髄まで震わすような衝撃が右肩を走る。コンマ数秒後にフロント部分に弾丸がぶち当たり、車は乗車者諸共木っ端微塵に吹き飛んだ。
爆風を浴びながら、私はぼそりと呟く。
「…あなた達のアンラッキーは私を敵に回したことよ」
目の前に、慎が立っている。
「慎…!?なんで、」
「あおいさん、ダメだ。そんなことしちゃダメです」
こちらに1歩近づいてくるのを見て、私はとっさに握ったナイフを慎に向けた。ベッドから降りて、血を流す来栖を背中に隠すように立ち塞がる。
「来ないで!!!!!!!!!!!!!!!」
ヒステリックにそう叫ぶ。
来るな。邪魔をするな。
この男へ復讐をさせてくれ。
ナイフの先端が情けなくぶるぶると震える。私はそれでも慎に叫ぶ。
「それ以上近づいたらあなたも殺すわよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
しかし、慎は動じなかった。
黒い虹彩が、悲しげに私を見つめている。
なんで、なんでそんな顔で私を見るの。
ねぇ、慎。
どうして。
「麻藤院あおい、さん」
刹那、私の身体の全ての細胞が音を立てて凍りついた。
麻痺したように硬直する脳みそが絞り出したのは、間抜けな問いかけ。
「なんで……私、の、名前…」
「やめましょう、こんなこと。今ここでそいつを殺したところでなんの意味もない。報復を受けてもっと惨い殺され方をするだけです」
こんなこと…?
こんなことと言ったか?
「何だっていい。こいつさえ殺せれば。この20年、復讐のために生きてきた。それを果たしてしまえばもう生きる意味なんてないわ。どうせ行先は地獄なんだもの、すぐに死んでやる」
ナイフを持つ手をぱたんと降ろして、振り返る。痛みに苦しむ来栖が、怯えた目で私を見上げる。
「邪魔しないで慎。私は、母を死に追いやった
この男に、母と同じ苦しみを味合わせなければならないのよ。分かるでしょう?」
廊下が騒がしい。慎がそちらにチラリと視線を向けて舌打ちを打つ。
恐らく警備を突破したはいいものの生き残りが応援を呼んだのだろう。余計なことをしてくれたものだ。
「分かりません。多分俺にはあおいさんのその思いは一生分からない。俺だけじゃなくて、あおいさん以外の誰も分からないんだと思います」
「はっ、論外だわ。黙ってそこで見てるのね」
「嫌です」
一瞬で距離を詰めた慎が、私が来栖に向かって振り上げたナイフの刃を素手で掴んだ。
慎の手のひらから溢れた血が来栖の服に滴り落ちる。痛いはずなのに、それでも慎の万力のような力はナイフを空中に貼り付けたかのようにビクともしない。
「ちょっ…!?離して!離しなさい!」
「それも、嫌です」
不意に慎が私の背中に腕を回して、ぐい、と自分の方に引き寄せた。
「え、」
慎の黒い瞳が目の前に迫る。
噛み付くようなキス。ほんの一瞬の、短く、激しいキス。
いつの間にかナイフから離した手のひらが、私の頬を包み込む。きっと私の頬には慎の血がべっとりと着いているはずだ。
「ん…っ、ふ、ぅ……っ!っ、」
「っ、は…………あおいさん、俺にはあなたの抱え込んできたものを図り知ることもできないけれど、でも」
黒真珠の瞳に、私の金色の虹彩が溶けていく。
そうやってひとつになって、私の心に押さえ込んでいたものもいつしかどろどろに混ざりあって流れ出していく。
「あなたの生きる意味にはなりたい」
その時になって、ようやく気づいた。
この20年、復讐の計画と共に残りの人生に悔いを残さないよう、好きなことだけをして生きてきた。金と名声と男を欲しいままにし、心の赴くまま行動してきた。
しかし、心残りは作らない。
恋とか愛とか、友情とか。そういったものから徹底的に逃げてきたのだ。
逃げてきた、のに。
極限の緊張にあった心が、きりきりと音を立てて張り詰めていた糸が、ふいにぷつりと切れた。
堰を切るように涙が溢れてくる。
そうだ、気がついた時にはもうこの計画は破綻していたんだ。
「慎………っ!」
だって、慎のことを好きになってしまっていたのだから。
「助けて」
涙をぼろぼろ零しながら言う私に、慎は優しく微笑んでみせた。
「─────────────────はい」
刹那、部屋に武装した男たちがなだれ込んでくる。同時に慎の無線に翔吾の声が響く。
『しまった、突破された!まこっちゃん、そっちに3人行ったで!』
「はい、大丈夫です。あおいさんを回収して離脱します」
そう返しながら、慎は流れるような動きで懐からハンドガンを取り出し発砲する。その間コンマ数秒という早業だった。
ひとり倒した。私も握っていたナイフをもうひとりの右目に向かって力いっぱい投げる。
「ナイスシュート」
「逃げるの?来栖は?」
「考えがあります。このまま生かしておきましょう」
「信じていいのね?」
「はい」
「分かった」
襲いかかってきた男に、慎が見事な回し蹴りを喰らわせる。首の骨が折れるぐきりという音が響いた。
「行きましょう」
慎に手を引かれて、私は走り出した。途中で転がっていたハンドガンを拾い上げる。
廊下に出ると、翔吾と翔平が2人で戦線を突破しようとする敵を必死に防いでいた。
「あっ、あおいさんだ!」
「翔平、翔吾…!」
「行ってください!俺らもすぐに追いつきます!」
言われるまま、私たちは出口に向かって全速力で駆け抜けた。警備員の死体がごろごろ転がる玄関ホールを通り抜けると、目の前の車寄せには流線形が特徴的な高級車と、数台の大型バイクが待ち構えていた。
車の運転席から陸が叫ぶ。
「乗って!早く!」
背後から銃声がして振り返ると、翔吾と翔平が迫り来る敵からこちらに向かって猛然と逃げているところだった。
「あっちょっと!敵連れてこないでよ!」
「すんません健太さん!さすがにこの人数相手にするのは無理でした!」
「翔吾、お前は拓磨の後ろ!そんで翔平は俺の後ろ乗れ!さっさとズラかるぞ!」
現場指示を担当する山彰さんの素早い指示が飛んで、私たちは車、バイクそれぞれに別れて飛び乗った。
「やべー、こういうの久しぶりだね!」
「陸さん楽しんでます?」
「すっごい楽しい!」
「はあ…」
私の隣で慎がリロードをしながら呆れたようなため息をついた。明らかに道交法違反のスピードで道をぶっ飛ばしながら、陸は軽快にハンドルを切る。
「…!来たわよ」
奴らが、追いかけてきた。
数えきれないバイクと車が夜のラスベガスの街を怒涛の如く突っ走ってくる。と、ふいに車に付いた無線機から陣の大声が響いた。
『山彰、健太、拓磨、は東西に展開!後ろに乗ってる翔吾、瑠唯、翔平が迎え撃てよ、ええな!THE RAMPAGEがただのディーラーじゃないことを思い知らせてやれ』
「陣…?どこから喋ってるの?」
「あれ、空です」
「空…?」
慎の指し示す方向を見ると、濃紺の空には一機のヘリコプター。やけに低空飛行なそのヘリコプターはよく見るとドアが開いていて、そこから陣が無線機片手に身を乗り出していた。
「…超本気臨戦態勢じゃない。どうしてここまで……」
「リアルに言っちゃえば利害の一致ですよ」
「え?」
「後で詳しく話しますけど、来栖が俺たちの敵でもあることが分かったんです」
慎はそれだけ言うと、窓から身を乗り出して後方に向かい発砲した。しかし敵からの攻撃や目の前を通過する一般の車を避けるために絶えず蛇行する運転のせいで狙いが定まらない。
「陸さん、まっすぐ運転してください。射線通りません」
「無茶言わないでよ!この車が事故ってないだけ俺のおかげだと思って!」
「武器は?ハンドガンだけなの?」
「後部座席の下!あおいさんの足元に入ってる!」
陸の言葉に足元をのぞき込むと、硬化プラスチックの大きなケースが収納されていた。それを引きずり出し、がばりと開ける。
ハンドガンやサブマシンガンが綺麗に収まっているその中で、私はおあつらえ向きのものを見つける。
ダネルMGL 140。大型のグレネードランチャーだ。
私はずっしりと重いそれを掴みあげると、素早く弾倉を確認する。さすが準備がいい、フル装填済みだ。
銃弾を撃ち込まれて後部のガラスが砕けた。敵がすぐそこまで迫っている。
「…あおいさん?何してるんですか」
後部座席の窓から上半身を乗り出して応戦していた慎が、怪訝な表情で私を振り返った。
私は、ただ微笑む。
「いいこと思いついたの」
そしてそれと同時に、車の天井に向かって擲弾をぶっ放した。
さほど広くもない車内に耳をつんざく爆音が響き、ちょうど私の真上あたりに人ひとりが通れるくらいの穴が開く。
その衝撃で、陸が握るハンドルが左右に大きく振れた。
「おわわわっ!?えっ何事!?あおいさん何やってんすか!?」
「大丈夫、ちゃんと修理費は出すわ」
「いやそういう問題じゃなくて!」
わめく陸と真横で爆音を聞いたせいで頭をふらふらさせている慎は無視して、私はグレネードランチャーをぽいと天井に空いた穴から外に出すと、後部座席の上に立ち上がって上半身も穴の外にひっぱりあげた。
びゅうびゅうと後ろに流れていく冷えた空気が頬を叩く。ざっと髪が後ろへなびく。
一斉に私に向けて敵の射撃が降り注ぐが、激しいカーチェイスの最中のためか全く当たらない。
「えっあおいさん!?なにしてんすか、隠れて隠れて!撃たれますよ!」
瑠唯を後ろに乗せてバイクをぶっ飛ばしていた健太がぎょっとこっちを見上げた。身振り手振りで降りろと伝えるが、私は全く耳を貸さない。
「大丈夫よ、私運はいいの。弾が避けてくれるわ」
そして、グレネードランチャーを肩に担ぐ。スコープで照準を合わせるのは、真後ろに付けた大型車だ。
よく狙う。
運がいいとは言えこんな堂々と敵の的になるような場所に身を晒すのは危険だ。一発勝負だった。
カチリ
骨の髄まで震わすような衝撃が右肩を走る。コンマ数秒後にフロント部分に弾丸がぶち当たり、車は乗車者諸共木っ端微塵に吹き飛んだ。
爆風を浴びながら、私はぼそりと呟く。
「…あなた達のアンラッキーは私を敵に回したことよ」