第2章
夢小説設定
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「はぁ、おいしかったわね」
「和食なんてあんまり食べないから新鮮でした」
「それはよかった」
何度目かの、あおいさんとのデート。恋人という訳では無いけど、周りがデートだデートだと囃し立てるものだから俺のなかでもそう呼ぶようになってしまった。
1日500万。あおいさんは俺の時間を金で買って、ショッピングや観劇などの荷物持ち兼運転手をさせる。
しかも食事代や諸々の経費は向こう持ち。男として情けなく思うし、俺だってそれなりに稼いでいるのだから払わせてほしいのだが、あおいさんは頑として俺に財布を出させなかった。
高級レストランからTHE RAMPAGEまではそれほど遠くないため2人で煌びやかな夜の街を歩く。ごく自然な動きで、俺たちは腕を絡め合う。
不思議だ、とふと思う。
紳士淑女なら恋人どうしでなくとも腕を組むなんて普通のことなのに、こんなこと今までたくさんの女性とやってきたことなのに。
あおいさんの細くも柔らかい腕を自分の右側に感じるたび、俺の心臓はほんの少しだけ速く脈打つ。
「たまには歩くのもいいわね。夜のラスベガスが1番好きだわ」
「俺もです。こっからが俺たちの時間って感じがする」
「さすがカジノで働く人間ね」
お酒が入って少しご機嫌なあおいさんは口元を手で抑えてくすくすと笑った。
俺は夜に最も輝くカジノで生きる人間だ。
でも、それだけじゃない。
マフィアをはじめとする闇社会の人間たちも、夜の暗がりに紛れて動き始めるのだ。
ぴたり、俺たちは全く同時に足を止めた。
「…俺にカジノホスト以外の顔があるって、言ってませんでしたっけ」
「聞いてはいないけどそれくらい知ってるわよ」
俺の手がゆっくりと懐へ伸びる。あおいさんがまっすぐ前を向いたまま言った。
「あなた達がマフィアの一員だってことくらいね」
懐から取り出しざまに、トリガーを引いた。
前方のビルの影に潜んでいた敵が1発、眉間を撃ち抜かれて声もなく倒れる。
それを見るや、俺たちの周りを十数人の男たちが取り囲んだ。
俺はあおいさんを背中に庇うようにしながら、愛用のハンドガンをくるりと回す。
「最近は落ち着いてたのにな…すみません、巻き込んでしまって」
「いいえ?」
敵対するマフィアか、それとも国際警察の手先か。俺が敵の正体を見極めようとしている背後で、あおいさんが平然と笑った。
「こういうのには、慣れてるから」
「…え?」
ドン、腹の底に響くような衝撃。ぎょっと振り返ると、いつの間にかあおいさんの手の中に握りこまれたハンドガンの銃口から煙が立ち上っていた。
またひとり、敵が倒れる。
「あおいさん、それ、」
「ほら、ぼんやりしてると殺されちゃうわよ」
その言葉で戦いの火蓋が切って落とされた。降り注ぐ銃弾を避けながら距離を詰め、手近にいた男のみぞおちを蹴る。
さらに次の敵の鼻柱に踵を叩き込むと、何かが砕けるようなべしゃりという音がした。
背後から飛んできた銃弾をひらりと躱し、そちらを見もせずに銃口を向け、放つ。
ぎゃ、という悲鳴と共に男が心臓を撃ち抜かれ倒れた。
「あんたらどこの回し者か知らないけど、俺を相手にするならもうちょい数を集めてきた方がよかったんじゃない」
いくら女の人を庇いながらとはいえ、俺の実力を舐めてもらっては困る。こちとら戦場育ちなのだ、むしろ乱闘の方が得意だった。
それに…
「レディーにそんな物騒なもの、向けないでくれる、かしら?」
的確に関節を極め、流れるような美しい動きで次々に敵を倒していくあおいさんの動きは、どう考えてもただのギャンブラーではない。
あれならほとんど庇う必要もないだろう。味方の戦力がひとり増えた。
先程鼻を折った男の襟首をぐい、と掴んで盾にする。味方の銃弾を3発喰らって、男が絶叫した。
あっけなく死んだ男の身体をぽいと放り、再び電光石火の速さで敵の群れのなかに飛び込む。回し蹴りや拳を繰り出しながら素早く排莢、リロード。的確に急所をぶち抜き、5分後には謎の敵は全員コンクリートの地面に累々と転がる屍と化していた。
あおいさんの方を見る。
ほとんど呼吸も乱れず、返り血もほんの僅か。
戦いに慣れた人間のコロシだった。
「…あおいさん。どういうことですか」
俺は薬室に残った薬莢を排莢して、雑に地面に落としながらあおいさんに詰め寄る。チャリン、金属の薬莢が固い地面にぶつかる耳障りな音が響く。
「何が?」
「普通の動きじゃない。これまで何度も人を殺してきた者の動きだ。それに、そんなものも持ってるなんて」
あおいさんの手のひらに握りこまれた『それ』を、俺は自分のハンドガンで示す。自分のことを棚に上げて、というのはまさにこういうことなのだろう。
「マフィアに言われたくないわね」
「そうですよ、俺はマフィアだ。でもあおいさんは違うでしょう?あなたはただの、」
「ただ運がいいだけのいいカモだって?」
想像したよりも鋭いその声に、俺は思わず口を噤む。俺の少し下で、金色の双眸が悲しげに揺れていた。
夜のネオンを受けてとめどなく変化していくその虹彩に魅入られるように、俺は息を詰めてじっとあおいさんを見つめている。
しばらくの沈黙の後、あおいさんはふいに目を逸らした。ふう、とため息をつく。
その姿は、バルコニーに佇む先日の姿とそっくりだった。ひどく疲れ果てて、普段よりもひとまわり小さく見えるような。
「…私はあなたが思ってるほど綺麗な人間じゃないわ」
あおいさんはそれだけ言って、鞄の中に銃を仕舞う。次に俺を見上げたその瞳は、いつも通り自信に溢れたミステリアスな金色だった。
「それにしても、慎は強いのね。ビックリしたわ」
「…こう見えて戦場育ちなんで」
どこまでも掴みどころのない、不思議なひと。まるで宿り木を次から次へと音もなく羽ばたいていく梟のようだ。
俺は懐に銃をしまいこむと、代わりにスマホを取り出した。
「…もしもし。俺です。はい……はい。片付け、よろしくお願いします」
LDH本部に設置された、通称『掃除屋』。コロシの痕跡を跡形もなく消し、証拠隠滅をしてくれる便利な部署だ。後はスマホのGPSから俺の居場所を割り出して始末しておいてくれるだろう。
「行きましょう。どこに伏兵がいるか分からない…THE RAMPAGEのホールに入ってしまえば安全です」
「ええ」
俺に促され、あおいさんが歩きだす。
その背中を斜め後ろから見つめながら、俺は何度目かも分からない問いかけを心の中で繰り返した。
あなたは一体何者なんですか、と。
「和食なんてあんまり食べないから新鮮でした」
「それはよかった」
何度目かの、あおいさんとのデート。恋人という訳では無いけど、周りがデートだデートだと囃し立てるものだから俺のなかでもそう呼ぶようになってしまった。
1日500万。あおいさんは俺の時間を金で買って、ショッピングや観劇などの荷物持ち兼運転手をさせる。
しかも食事代や諸々の経費は向こう持ち。男として情けなく思うし、俺だってそれなりに稼いでいるのだから払わせてほしいのだが、あおいさんは頑として俺に財布を出させなかった。
高級レストランからTHE RAMPAGEまではそれほど遠くないため2人で煌びやかな夜の街を歩く。ごく自然な動きで、俺たちは腕を絡め合う。
不思議だ、とふと思う。
紳士淑女なら恋人どうしでなくとも腕を組むなんて普通のことなのに、こんなこと今までたくさんの女性とやってきたことなのに。
あおいさんの細くも柔らかい腕を自分の右側に感じるたび、俺の心臓はほんの少しだけ速く脈打つ。
「たまには歩くのもいいわね。夜のラスベガスが1番好きだわ」
「俺もです。こっからが俺たちの時間って感じがする」
「さすがカジノで働く人間ね」
お酒が入って少しご機嫌なあおいさんは口元を手で抑えてくすくすと笑った。
俺は夜に最も輝くカジノで生きる人間だ。
でも、それだけじゃない。
マフィアをはじめとする闇社会の人間たちも、夜の暗がりに紛れて動き始めるのだ。
ぴたり、俺たちは全く同時に足を止めた。
「…俺にカジノホスト以外の顔があるって、言ってませんでしたっけ」
「聞いてはいないけどそれくらい知ってるわよ」
俺の手がゆっくりと懐へ伸びる。あおいさんがまっすぐ前を向いたまま言った。
「あなた達がマフィアの一員だってことくらいね」
懐から取り出しざまに、トリガーを引いた。
前方のビルの影に潜んでいた敵が1発、眉間を撃ち抜かれて声もなく倒れる。
それを見るや、俺たちの周りを十数人の男たちが取り囲んだ。
俺はあおいさんを背中に庇うようにしながら、愛用のハンドガンをくるりと回す。
「最近は落ち着いてたのにな…すみません、巻き込んでしまって」
「いいえ?」
敵対するマフィアか、それとも国際警察の手先か。俺が敵の正体を見極めようとしている背後で、あおいさんが平然と笑った。
「こういうのには、慣れてるから」
「…え?」
ドン、腹の底に響くような衝撃。ぎょっと振り返ると、いつの間にかあおいさんの手の中に握りこまれたハンドガンの銃口から煙が立ち上っていた。
またひとり、敵が倒れる。
「あおいさん、それ、」
「ほら、ぼんやりしてると殺されちゃうわよ」
その言葉で戦いの火蓋が切って落とされた。降り注ぐ銃弾を避けながら距離を詰め、手近にいた男のみぞおちを蹴る。
さらに次の敵の鼻柱に踵を叩き込むと、何かが砕けるようなべしゃりという音がした。
背後から飛んできた銃弾をひらりと躱し、そちらを見もせずに銃口を向け、放つ。
ぎゃ、という悲鳴と共に男が心臓を撃ち抜かれ倒れた。
「あんたらどこの回し者か知らないけど、俺を相手にするならもうちょい数を集めてきた方がよかったんじゃない」
いくら女の人を庇いながらとはいえ、俺の実力を舐めてもらっては困る。こちとら戦場育ちなのだ、むしろ乱闘の方が得意だった。
それに…
「レディーにそんな物騒なもの、向けないでくれる、かしら?」
的確に関節を極め、流れるような美しい動きで次々に敵を倒していくあおいさんの動きは、どう考えてもただのギャンブラーではない。
あれならほとんど庇う必要もないだろう。味方の戦力がひとり増えた。
先程鼻を折った男の襟首をぐい、と掴んで盾にする。味方の銃弾を3発喰らって、男が絶叫した。
あっけなく死んだ男の身体をぽいと放り、再び電光石火の速さで敵の群れのなかに飛び込む。回し蹴りや拳を繰り出しながら素早く排莢、リロード。的確に急所をぶち抜き、5分後には謎の敵は全員コンクリートの地面に累々と転がる屍と化していた。
あおいさんの方を見る。
ほとんど呼吸も乱れず、返り血もほんの僅か。
戦いに慣れた人間のコロシだった。
「…あおいさん。どういうことですか」
俺は薬室に残った薬莢を排莢して、雑に地面に落としながらあおいさんに詰め寄る。チャリン、金属の薬莢が固い地面にぶつかる耳障りな音が響く。
「何が?」
「普通の動きじゃない。これまで何度も人を殺してきた者の動きだ。それに、そんなものも持ってるなんて」
あおいさんの手のひらに握りこまれた『それ』を、俺は自分のハンドガンで示す。自分のことを棚に上げて、というのはまさにこういうことなのだろう。
「マフィアに言われたくないわね」
「そうですよ、俺はマフィアだ。でもあおいさんは違うでしょう?あなたはただの、」
「ただ運がいいだけのいいカモだって?」
想像したよりも鋭いその声に、俺は思わず口を噤む。俺の少し下で、金色の双眸が悲しげに揺れていた。
夜のネオンを受けてとめどなく変化していくその虹彩に魅入られるように、俺は息を詰めてじっとあおいさんを見つめている。
しばらくの沈黙の後、あおいさんはふいに目を逸らした。ふう、とため息をつく。
その姿は、バルコニーに佇む先日の姿とそっくりだった。ひどく疲れ果てて、普段よりもひとまわり小さく見えるような。
「…私はあなたが思ってるほど綺麗な人間じゃないわ」
あおいさんはそれだけ言って、鞄の中に銃を仕舞う。次に俺を見上げたその瞳は、いつも通り自信に溢れたミステリアスな金色だった。
「それにしても、慎は強いのね。ビックリしたわ」
「…こう見えて戦場育ちなんで」
どこまでも掴みどころのない、不思議なひと。まるで宿り木を次から次へと音もなく羽ばたいていく梟のようだ。
俺は懐に銃をしまいこむと、代わりにスマホを取り出した。
「…もしもし。俺です。はい……はい。片付け、よろしくお願いします」
LDH本部に設置された、通称『掃除屋』。コロシの痕跡を跡形もなく消し、証拠隠滅をしてくれる便利な部署だ。後はスマホのGPSから俺の居場所を割り出して始末しておいてくれるだろう。
「行きましょう。どこに伏兵がいるか分からない…THE RAMPAGEのホールに入ってしまえば安全です」
「ええ」
俺に促され、あおいさんが歩きだす。
その背中を斜め後ろから見つめながら、俺は何度目かも分からない問いかけを心の中で繰り返した。
あなたは一体何者なんですか、と。