第2章
夢小説設定
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シャンデリアの柔らかいひかりが照らすパーティーホール。
THE RAMPAGE側が主催する、VIP客を対象としたパーティー。それに、私は参加していた。
私は顔見知りの貿易商とシャンパングラス片手に話しながら、さりげなく目的の男を探していた。
「いやぁ、今日も今日とて君は美しいね」
「ふふ、お世辞が上手ですね」
どこだ、どこにいる。
視界の端に慎がいる。美しい夫人と喋っている様子になぜだかチクリと心が痛むが、それはほんの一瞬だ。自覚する前にその痛みは消え去ってしまう。
違う、慎じゃない。
私が探しているのは、あの男だ。
「おや、来栖さんじゃありませんか」
どこからかそんな声が聞こえてきた。
どくん
心臓が大きく跳ねる。
平静を装い、なるべく自然な動きで振り返る。
そこに、奴がいた。
20年近く会っていないが、すぐに分かる。私と、私の母の人生を狂わせた来栖雷蔵に間違いなかった。
私の視線を感じたのか、来栖がふい、とこちらを見る。視線がぶつかる。
目を逸らしたら負けだと直感して、私は偽りの笑みを口元に貼り付けたまま、半ば睨むようにして来栖のグレーの瞳を遠巻きから見つめ続けた。
近づいてきたのは、向こうから。
「…はじめまして。貴女が梟ですか」
はじめましてなんかじゃない。心が叫ぶ。
「はじめまして。来栖さん」
「おや、私のことを知って頂いているとは。感激だな」
「来栖グループの社長といえば、ここらのカジノでは知らない人はいませんわ。大層お強いと伺っております」
「貴女ほどじゃないよ、無敗のカジノクイーン様?」
来栖が私のシャンパングラスに自分のグラスをこつん、とぶつけた。私の手にガチガチに力が入っていたことに気づかれなければいいけど。
「THE RAMPAGEのカジノホールでお会いした時は、ぜひ対戦してみたいな」
「ええ、楽しみにしております」
「噂にはよく聞いていたからどんなひとなんだろうと思っていたけど、予想以上に美しくて驚いている。ぜひまた話そう」
「ええ。それじゃ」
「じゃあまた」
5分足らずの短い会話。人と人の間をするすると通り抜けて去っていく彼の背中を見送って、私は人気のないバルコニーに出た。
「はぁ…」
両肩に疲れがどっとのしかかる。欄干に背中を預け、震える手で額を押さえる。バルコニーから見えるラスベガスのネオンも、今はちくちくと瞳を刺激するだけ。
あの男とまともに話したのはこれが初めてだ。身体の中のありとあらゆる臓器をひっくり返してしまいそうなほどの憎悪が、出口を求めて暴れている。
奴を殺せと、そう叫ぶ。
(殺してやるわよ…もうすぐね)
自分の心を落ち着けるためにそう独りごちて、身体の向きを変える。見慣れたラスベガスの夜景をぼんやりと見つめていると、いつの間にか隣に慎が立っていた。
「パーティーはどうですか?」
「とても楽しいわ。招待してくれてありがとう」
「よかった」
慎の顔を見ていたら刺々しく脈打っていた心も落ち着いてきて、私はふう、と息を吐く。
「疲れてます?」
唐突な言葉だったので、反応が少し遅れた。
「え?」
「いや、なんか顔色がよくないから。疲れてんのかなって思って」
お酒が入っている影響か、いつもよりフランクな話し方をする慎が、いつもより少し近い距離から私の顔を覗き込む。
その整った顔は、いつもよりかっこよく見えて。
「…たくさんの人と喋ったからかしら。少し気疲れしてるかもしれないわね」
「部屋に戻りますか?パーティーももうそろそろ終わると思いますけど」
「そうね、部屋でゆっくり休もうかしら」
「案内しますよ」
いつもの癖でかそう言い出す慎を、私は手で制す。
「主催者側の役人なんだから抜け出しちゃダメ。もうここに来て3ヶ月になるし、部屋くらいひとりで戻れるわ」
でも、と不満げに言い連ねようとする慎の手の甲をするりと撫でる。いつも思うが、本当に綺麗な手だ。
夜風が私たちの間を吹き抜けていった。
「おやすみなさい。また明日」
THE RAMPAGE側が主催する、VIP客を対象としたパーティー。それに、私は参加していた。
私は顔見知りの貿易商とシャンパングラス片手に話しながら、さりげなく目的の男を探していた。
「いやぁ、今日も今日とて君は美しいね」
「ふふ、お世辞が上手ですね」
どこだ、どこにいる。
視界の端に慎がいる。美しい夫人と喋っている様子になぜだかチクリと心が痛むが、それはほんの一瞬だ。自覚する前にその痛みは消え去ってしまう。
違う、慎じゃない。
私が探しているのは、あの男だ。
「おや、来栖さんじゃありませんか」
どこからかそんな声が聞こえてきた。
どくん
心臓が大きく跳ねる。
平静を装い、なるべく自然な動きで振り返る。
そこに、奴がいた。
20年近く会っていないが、すぐに分かる。私と、私の母の人生を狂わせた来栖雷蔵に間違いなかった。
私の視線を感じたのか、来栖がふい、とこちらを見る。視線がぶつかる。
目を逸らしたら負けだと直感して、私は偽りの笑みを口元に貼り付けたまま、半ば睨むようにして来栖のグレーの瞳を遠巻きから見つめ続けた。
近づいてきたのは、向こうから。
「…はじめまして。貴女が梟ですか」
はじめましてなんかじゃない。心が叫ぶ。
「はじめまして。来栖さん」
「おや、私のことを知って頂いているとは。感激だな」
「来栖グループの社長といえば、ここらのカジノでは知らない人はいませんわ。大層お強いと伺っております」
「貴女ほどじゃないよ、無敗のカジノクイーン様?」
来栖が私のシャンパングラスに自分のグラスをこつん、とぶつけた。私の手にガチガチに力が入っていたことに気づかれなければいいけど。
「THE RAMPAGEのカジノホールでお会いした時は、ぜひ対戦してみたいな」
「ええ、楽しみにしております」
「噂にはよく聞いていたからどんなひとなんだろうと思っていたけど、予想以上に美しくて驚いている。ぜひまた話そう」
「ええ。それじゃ」
「じゃあまた」
5分足らずの短い会話。人と人の間をするすると通り抜けて去っていく彼の背中を見送って、私は人気のないバルコニーに出た。
「はぁ…」
両肩に疲れがどっとのしかかる。欄干に背中を預け、震える手で額を押さえる。バルコニーから見えるラスベガスのネオンも、今はちくちくと瞳を刺激するだけ。
あの男とまともに話したのはこれが初めてだ。身体の中のありとあらゆる臓器をひっくり返してしまいそうなほどの憎悪が、出口を求めて暴れている。
奴を殺せと、そう叫ぶ。
(殺してやるわよ…もうすぐね)
自分の心を落ち着けるためにそう独りごちて、身体の向きを変える。見慣れたラスベガスの夜景をぼんやりと見つめていると、いつの間にか隣に慎が立っていた。
「パーティーはどうですか?」
「とても楽しいわ。招待してくれてありがとう」
「よかった」
慎の顔を見ていたら刺々しく脈打っていた心も落ち着いてきて、私はふう、と息を吐く。
「疲れてます?」
唐突な言葉だったので、反応が少し遅れた。
「え?」
「いや、なんか顔色がよくないから。疲れてんのかなって思って」
お酒が入っている影響か、いつもよりフランクな話し方をする慎が、いつもより少し近い距離から私の顔を覗き込む。
その整った顔は、いつもよりかっこよく見えて。
「…たくさんの人と喋ったからかしら。少し気疲れしてるかもしれないわね」
「部屋に戻りますか?パーティーももうそろそろ終わると思いますけど」
「そうね、部屋でゆっくり休もうかしら」
「案内しますよ」
いつもの癖でかそう言い出す慎を、私は手で制す。
「主催者側の役人なんだから抜け出しちゃダメ。もうここに来て3ヶ月になるし、部屋くらいひとりで戻れるわ」
でも、と不満げに言い連ねようとする慎の手の甲をするりと撫でる。いつも思うが、本当に綺麗な手だ。
夜風が私たちの間を吹き抜けていった。
「おやすみなさい。また明日」