第2章
夢小説設定
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「んー…グレーゾーンだね」
薄暗いなかにブルーライトの不健康な明かりだけがひかる部屋で、昂秀は顎を撫でた。
「まぁあからさまな反応があるとは思ってなかったけど、それにしても無反応すぎたな」
「さすがはあおいさん」
さっきのバーでの会話。『来栖』という単語を出してそれとなくカマをかけてみたが、そんなものに引っかかる梟ではなかった。
「やっぱ一筋縄じゃいかないな、あの人…」
「かくなる上はまこっちゃんのテクニックであおいさんを骨抜きにするしか…あ、ごめん、フラれたんだったね。クラブで」
「…何で知ってんの」
「俺の仕事忘れたの?」
昂秀がチェアをくるりと回して『それら』に向かい合う。
壁一面を覆ういくつものモニター。そこに映るのは、THE RAMPAGEのカジノリゾートのあらゆる場所に設置された監視カメラからリアルタイムで送られてくる映像だ。
「これで見てた」
「悪趣味」
「うへへ〜これが俺の仕事だからね」
警備部サイべランス課。主にカジノリゾート内の監視、治安維持を担当する部署だ。昂秀はそのサイべランス課のトップに立つ人間。
デジタル方面にはめっぽう強い昂秀は、時には法をも恐れぬ方法でカジノに悪影響を及ぼすゲストや人物の情報を集めてくる。そのネットワークは凄まじく、国際警察ですら知らないような情報ですら簡単に拾ってきてしまうのだ。
「で、俺はちゃんと自分の仕事を全うしてるわけだ」
「他所の組織のデータベースを違法にハッキングすることをね」
「ここは政府も警察も手を出せない無法の楽園。だろ?」
「ま、ね。それで、つまり。あおいさんに関しては何も分からないってことでいい?」
「あおいさんに関してはね」
俺は思わず回転式の椅子をぐるぐると回す昂秀をじろりと見下ろした。
「…他に何か分かった?」
「分かったってほどじゃないけど、ちょっと不自然な点が見えてきた。来栖雷蔵の過去にね」
「来栖?」
ブルーライトの光が不健康に俺たちを照らす。しかし昂秀はそんなこと気にする様子もなくキーボードをものすごい勢いでかたかたと叩き始めた。最も大きい液晶パネルの映像が切り替わる。
「あおいさんの過去はどれだけ洗っても分からなかったから、唯一関連のありそうな来栖を調べてみたんだよ。そしたらこのおっさん、怪しいことだらけでさ。その中でも1番謎なのが、これ」
パネルに表示されたのは、どこかの航空写真。工場群だろうか、かなり広大な土地にスチームパンクな建物が林立している。それと並んで浮かび上がったのは、1枚目の航空写真とほぼ同じ地形の写真。これはおそらく、スラム街か何かを上から映したのだろうことが見て取れる。
さらにその隣に新聞記事データも表示される。
「『来栖グループ、大火事で荒廃しきったかつてのスラム街を買い取り工場地帯に生まれ変わらせる』…『さらにスラム街全てを焼きつくした凶悪なる放火犯に関する有力な証言も警察に提出』……?」
「これさ、元々の土地の所有者はアメリカ政府なんだけど、買取価格が破格すぎる気がするんだよね」
昂秀はじっとパネルを見ながらぼそりと呟く。
「へぇ…確かに怪しい。何か裏で取引されてたのかな」
「なー、疑っちゃうよな。しかも都合よく放火犯を知ってるとか、ちょっと偶然にしてはできすぎてる気がする」
「ていうかよく考えたら辻褄合わなくない、これ。放火犯として指名手配され、後に自殺したのはスラム街の娼館で働いていた娼婦で…来栖が『彼女がやった』って証言してるけどさ、こんな大富豪がスラム街の住人なんて知らないでしょ普通」
「そこなんだよね。来栖がこの娼館を出入りしていた情報は全くない。仮にその情報を持ってる人がいたとしても、この大火事で全員死んでる」
俺たちは思わず顔を見合わせた。
きっと昂秀が掘り出してこなければ誰の目にも触れないような情報だったに違いないが、それにしても不自然だ。
「…この事件、何年前?」
「ええと…20年前」
「じゃあ違うか」
「あおいさんがこの放火魔で、自殺したように見せかけて別人に扮し自分を貶めた来栖に復讐をしようとしてるっていう推理?」
「そう。だけどさすがに20年前だったらあの人もまだ子供だから違うな」
「分かんないよ、あおいさん年齢不詳だから。もしかしたら今40代かもしれないじゃん。美魔女ってよく言うし」
「まさか。さすがに…ない、よね?」
「俺に聞かれても」
もしあおいさんが今40代だとしたら、俺は自分の親としてもおかしくない女性とキスをしようとしたことになる。
ぞっと鳥肌を立てる俺をよそに、昂秀は画面を睨む。
「んー…あおいさんには関係ないか」
「ぽいね。来栖が怪しい人物だってことは分かったけど」
「ま、そんな気はしてたけど」
「まこっちゃんあのおっさん嫌いだよね〜」
「嫌いっていうか好きになれないんだよな」
「カジノホストがゲストをそんな風に思ってちゃダメでしょ」
「俺だって人間だから。好き嫌いくらいする」
今年でちょうど50歳になるという来栖雷蔵は、柔和な笑みの裏に何かが隠れている気がして俺はどうも好きになれない。
ディーラーやカジノホストをやっていれば、嘘をついている人間は目を見ればすぐに分かるのだ。
彼は常に何かしらの嘘をついている。他人にも、自分にも。
まぁ来栖が犯罪者でも前科持ち何でもいい。どうせ経営する側だってマフィアの一員なのだ、金を落としてくれるのなら誰だって歓待する。それがTHE RAMPAGEのスタンスだ。
だからこそ、俺たちはあおいさんを受け入れたんじゃないか。
考え込む俺の顔を、昂秀がニヤニヤしながら覗き込んだ。
「じゃああおいさんのことは好き?」
「好きじゃないよ」
「45歳の美魔女でも?」
「…恋に歳は関係ないだろ」
「あー!やっぱ好きなんじゃないの!?」
「うるさい好きじゃないから」
薄暗いなかにブルーライトの不健康な明かりだけがひかる部屋で、昂秀は顎を撫でた。
「まぁあからさまな反応があるとは思ってなかったけど、それにしても無反応すぎたな」
「さすがはあおいさん」
さっきのバーでの会話。『来栖』という単語を出してそれとなくカマをかけてみたが、そんなものに引っかかる梟ではなかった。
「やっぱ一筋縄じゃいかないな、あの人…」
「かくなる上はまこっちゃんのテクニックであおいさんを骨抜きにするしか…あ、ごめん、フラれたんだったね。クラブで」
「…何で知ってんの」
「俺の仕事忘れたの?」
昂秀がチェアをくるりと回して『それら』に向かい合う。
壁一面を覆ういくつものモニター。そこに映るのは、THE RAMPAGEのカジノリゾートのあらゆる場所に設置された監視カメラからリアルタイムで送られてくる映像だ。
「これで見てた」
「悪趣味」
「うへへ〜これが俺の仕事だからね」
警備部サイべランス課。主にカジノリゾート内の監視、治安維持を担当する部署だ。昂秀はそのサイべランス課のトップに立つ人間。
デジタル方面にはめっぽう強い昂秀は、時には法をも恐れぬ方法でカジノに悪影響を及ぼすゲストや人物の情報を集めてくる。そのネットワークは凄まじく、国際警察ですら知らないような情報ですら簡単に拾ってきてしまうのだ。
「で、俺はちゃんと自分の仕事を全うしてるわけだ」
「他所の組織のデータベースを違法にハッキングすることをね」
「ここは政府も警察も手を出せない無法の楽園。だろ?」
「ま、ね。それで、つまり。あおいさんに関しては何も分からないってことでいい?」
「あおいさんに関してはね」
俺は思わず回転式の椅子をぐるぐると回す昂秀をじろりと見下ろした。
「…他に何か分かった?」
「分かったってほどじゃないけど、ちょっと不自然な点が見えてきた。来栖雷蔵の過去にね」
「来栖?」
ブルーライトの光が不健康に俺たちを照らす。しかし昂秀はそんなこと気にする様子もなくキーボードをものすごい勢いでかたかたと叩き始めた。最も大きい液晶パネルの映像が切り替わる。
「あおいさんの過去はどれだけ洗っても分からなかったから、唯一関連のありそうな来栖を調べてみたんだよ。そしたらこのおっさん、怪しいことだらけでさ。その中でも1番謎なのが、これ」
パネルに表示されたのは、どこかの航空写真。工場群だろうか、かなり広大な土地にスチームパンクな建物が林立している。それと並んで浮かび上がったのは、1枚目の航空写真とほぼ同じ地形の写真。これはおそらく、スラム街か何かを上から映したのだろうことが見て取れる。
さらにその隣に新聞記事データも表示される。
「『来栖グループ、大火事で荒廃しきったかつてのスラム街を買い取り工場地帯に生まれ変わらせる』…『さらにスラム街全てを焼きつくした凶悪なる放火犯に関する有力な証言も警察に提出』……?」
「これさ、元々の土地の所有者はアメリカ政府なんだけど、買取価格が破格すぎる気がするんだよね」
昂秀はじっとパネルを見ながらぼそりと呟く。
「へぇ…確かに怪しい。何か裏で取引されてたのかな」
「なー、疑っちゃうよな。しかも都合よく放火犯を知ってるとか、ちょっと偶然にしてはできすぎてる気がする」
「ていうかよく考えたら辻褄合わなくない、これ。放火犯として指名手配され、後に自殺したのはスラム街の娼館で働いていた娼婦で…来栖が『彼女がやった』って証言してるけどさ、こんな大富豪がスラム街の住人なんて知らないでしょ普通」
「そこなんだよね。来栖がこの娼館を出入りしていた情報は全くない。仮にその情報を持ってる人がいたとしても、この大火事で全員死んでる」
俺たちは思わず顔を見合わせた。
きっと昂秀が掘り出してこなければ誰の目にも触れないような情報だったに違いないが、それにしても不自然だ。
「…この事件、何年前?」
「ええと…20年前」
「じゃあ違うか」
「あおいさんがこの放火魔で、自殺したように見せかけて別人に扮し自分を貶めた来栖に復讐をしようとしてるっていう推理?」
「そう。だけどさすがに20年前だったらあの人もまだ子供だから違うな」
「分かんないよ、あおいさん年齢不詳だから。もしかしたら今40代かもしれないじゃん。美魔女ってよく言うし」
「まさか。さすがに…ない、よね?」
「俺に聞かれても」
もしあおいさんが今40代だとしたら、俺は自分の親としてもおかしくない女性とキスをしようとしたことになる。
ぞっと鳥肌を立てる俺をよそに、昂秀は画面を睨む。
「んー…あおいさんには関係ないか」
「ぽいね。来栖が怪しい人物だってことは分かったけど」
「ま、そんな気はしてたけど」
「まこっちゃんあのおっさん嫌いだよね〜」
「嫌いっていうか好きになれないんだよな」
「カジノホストがゲストをそんな風に思ってちゃダメでしょ」
「俺だって人間だから。好き嫌いくらいする」
今年でちょうど50歳になるという来栖雷蔵は、柔和な笑みの裏に何かが隠れている気がして俺はどうも好きになれない。
ディーラーやカジノホストをやっていれば、嘘をついている人間は目を見ればすぐに分かるのだ。
彼は常に何かしらの嘘をついている。他人にも、自分にも。
まぁ来栖が犯罪者でも前科持ち何でもいい。どうせ経営する側だってマフィアの一員なのだ、金を落としてくれるのなら誰だって歓待する。それがTHE RAMPAGEのスタンスだ。
だからこそ、俺たちはあおいさんを受け入れたんじゃないか。
考え込む俺の顔を、昂秀がニヤニヤしながら覗き込んだ。
「じゃああおいさんのことは好き?」
「好きじゃないよ」
「45歳の美魔女でも?」
「…恋に歳は関係ないだろ」
「あー!やっぱ好きなんじゃないの!?」
「うるさい好きじゃないから」