第一章
夢小説設定
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「最新作読みました!とっても面白かったです!」
「ありがとうございます~」
都内某所。
私は入れ代わり立ち代わりでやってくる読者の方々への握手やサインに追われていた。私のサイン会だから当然か。
「先生、笑顔です笑顔」
「笑ってますよ」
「目が笑ってないです」
後ろに立つ日向さんに囁かれ、私はそっちを振り返ると思いっきり変顔をしてやった。日向さんが爆笑をこらえきれずにブースの外へ出ていく。
「櫻川先生、今作はまた新たな先生の魅力に触れた気がしてとても感動しました!」
そこへやってきた最後のお客さん。
この人の顔は覚えている。私のサイン会に第1回から欠かさず来てくれている中年のおじさん。
名前は…
「山田さん」
「!僕の名前覚えてくださったんですね!」
「そりゃ毎回来てくださってますし…サインの宛名もいつも『山田』なんで」
今回も『山田さんへ』でいいですか?と尋ねると、少しふくよかな体型の彼は本を差し出しながらうんうんと頷いた。
ハードカバーの裏表紙にさらさらとサインをする。返すついでに握手も。
人見知りで、見ず知らずの人と会話することに疲れていた私は日向さんいつまで笑ってんだよ早く戻ってこいよなんて、全然関係ないことに意識を飛ばしていた。
「…ですね」
「え?なんですか?」
「今日もお美しいですね、先生」
思わず顔を顰めてしまった。
山田さんの指が私の手の甲を撫でる感覚に、ぞわりと鳥肌が立つ。
たまにいるんだ、こういう人。今日も何人かいたけど、山田さんまでそっち側だとは思わなかった。
「…どーも。あの、手」
そこへようやく日向さんが戻ってきた。私の無言の訴えに気づいたのか、山田さんの手を強制的に離させる。
「…また次も来ます」
じっとりとした視線を残して、山田さんが去っていく。
彼が最後でブースにもう読者さんは残っていなかったので、私は日向さんの革靴を踏んずけた。
「ゲラだからって私ひとりにしないでくださいよ!人見知りなの知ってるくせに」
「だっ、だって…先生の顔があまりにも…」
思い出し笑いでくつくつと肩を揺らしている日向さんに私がもう一度同じ顔をしてやると、日向さんは今度こそ大声で笑いだした。
私の方は全く笑う気分になれないのに。
疲れたし、変態おじさんたちの相手をするのだけは本当に嫌だ。
「はぁ…今何時ですか」
「ふふ、ええと、くくくっ、6時40分ですね、ぶは、」
いつまで笑ってんだこの人。私は半ば呆れながら約束の時間を逆算する。
「後片付けとか諸々やって…どう頑張っても7時過ぎちゃうな」
「ご予定が?ホテルは六本木に取ってますが」
「樹とご飯」
「あぁ、なるほど。じゃあ後のことは僕がやるので先生はどうぞ行ってきてください」
「マジ?いいんですか?」
「せっかくの水入らずの時間ですから。先生がサイン会に気乗りしていないのに無理やりやらせてしまったせめてもの罪滅ぼしに」
「日向さん最高」
でもサイン会嫌なの分かってるなら次からはもうやるな、と思いの丈をぶつけながら私はカバンを掴んだ。
樹に会って、ちょっと話を聞いてもらえたらすっきりできる。
私は少し足取りを軽くして地下鉄の駅へと向かった。
「ありがとうございます~」
都内某所。
私は入れ代わり立ち代わりでやってくる読者の方々への握手やサインに追われていた。私のサイン会だから当然か。
「先生、笑顔です笑顔」
「笑ってますよ」
「目が笑ってないです」
後ろに立つ日向さんに囁かれ、私はそっちを振り返ると思いっきり変顔をしてやった。日向さんが爆笑をこらえきれずにブースの外へ出ていく。
「櫻川先生、今作はまた新たな先生の魅力に触れた気がしてとても感動しました!」
そこへやってきた最後のお客さん。
この人の顔は覚えている。私のサイン会に第1回から欠かさず来てくれている中年のおじさん。
名前は…
「山田さん」
「!僕の名前覚えてくださったんですね!」
「そりゃ毎回来てくださってますし…サインの宛名もいつも『山田』なんで」
今回も『山田さんへ』でいいですか?と尋ねると、少しふくよかな体型の彼は本を差し出しながらうんうんと頷いた。
ハードカバーの裏表紙にさらさらとサインをする。返すついでに握手も。
人見知りで、見ず知らずの人と会話することに疲れていた私は日向さんいつまで笑ってんだよ早く戻ってこいよなんて、全然関係ないことに意識を飛ばしていた。
「…ですね」
「え?なんですか?」
「今日もお美しいですね、先生」
思わず顔を顰めてしまった。
山田さんの指が私の手の甲を撫でる感覚に、ぞわりと鳥肌が立つ。
たまにいるんだ、こういう人。今日も何人かいたけど、山田さんまでそっち側だとは思わなかった。
「…どーも。あの、手」
そこへようやく日向さんが戻ってきた。私の無言の訴えに気づいたのか、山田さんの手を強制的に離させる。
「…また次も来ます」
じっとりとした視線を残して、山田さんが去っていく。
彼が最後でブースにもう読者さんは残っていなかったので、私は日向さんの革靴を踏んずけた。
「ゲラだからって私ひとりにしないでくださいよ!人見知りなの知ってるくせに」
「だっ、だって…先生の顔があまりにも…」
思い出し笑いでくつくつと肩を揺らしている日向さんに私がもう一度同じ顔をしてやると、日向さんは今度こそ大声で笑いだした。
私の方は全く笑う気分になれないのに。
疲れたし、変態おじさんたちの相手をするのだけは本当に嫌だ。
「はぁ…今何時ですか」
「ふふ、ええと、くくくっ、6時40分ですね、ぶは、」
いつまで笑ってんだこの人。私は半ば呆れながら約束の時間を逆算する。
「後片付けとか諸々やって…どう頑張っても7時過ぎちゃうな」
「ご予定が?ホテルは六本木に取ってますが」
「樹とご飯」
「あぁ、なるほど。じゃあ後のことは僕がやるので先生はどうぞ行ってきてください」
「マジ?いいんですか?」
「せっかくの水入らずの時間ですから。先生がサイン会に気乗りしていないのに無理やりやらせてしまったせめてもの罪滅ぼしに」
「日向さん最高」
でもサイン会嫌なの分かってるなら次からはもうやるな、と思いの丈をぶつけながら私はカバンを掴んだ。
樹に会って、ちょっと話を聞いてもらえたらすっきりできる。
私は少し足取りを軽くして地下鉄の駅へと向かった。