第三章
夢小説設定
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「最近元気なかったのはさくらにフラれたからだったんだ」
「フラれたとは言ってない。一言も」
「まあ飲めよ。失恋の傷を紛らわすには酒が一番だ」
「だから…」
ツアーの本公演も無事終わり、残すはファイナルのみとなった7月下旬。
俺は珍しく翔平と2人で飲みに来ていた。
「…でもまずはさくらが無事に復活してきたことを喜ばないと。一時ガリガリに痩せちゃってたよな」
「うん。何食べても吐いちゃうし、夜は寝れないみたいで。大好きな本も読まないで仕事の方はスランプ状態…見てるこっちが辛かった」
どうして守ってやれなかったのかと、自分を責め続けた。人生のどん底に沈んでいくさくらに、何もしてあげられないことが辛かった。
今だって、完全に元の生活に戻れた訳では無い。
俺が泊まっている時でも夜中に自分の悲鳴で飛び起きるのはしょっちゅうで、その度に取り乱すさくらの背中を俺がさすってやる。
小説もまだ短いものしか書けないらしく、何か思いつめたような表情でパソコンに文章を打ち込んでは全消去するみたいなことを繰り返している。
「それでも、さくらが少しずつ元気になってきてるのは樹のおかげだと思うよ。やっぱりさくらには樹がいないとダメなんだって」
「そんなの分かってる」
「うーわ出たよ」
お互いがお互いにとって特別な存在であることは間違いない。
ただそこに、大人の男女としての概念を挟み込む余地はないだけで。
「俺とそういうことは絶対ムリって言われた時にショックを受けてる自分にショックを受けた」
「何で?」
「何か…自分がすごい最低な奴な気がして」
しかも、断る理由が理由だ。
あいつは、俺が幸せになることを純粋に心の底から願っている。
「うーん…結局のところ、樹はさくらのことが好きなの?」
「好きっていうか…そういう次元じゃない。家族?それ以上?に大切に思ってる」
「アイシテル?」
慣れない単語を使ったせいか、片言ぎみに翔平が尋ねた。
愛してる、か。どうなんだろう。
そういえば、高校生の頃にさくらが教えてくれた言葉があったな。
「まるで私と樹みたい」だと喜んでいたけど、俺にはよく分からなかった。
ええと、何だったっけ…
あぁ、そうだ確か、
「Mångata」
「は?」
翔平がジョッキに口を付けたまま異星人を見るような目を俺に向けた。
「もー…?どうした?バグった?」
「モーンガータ。スウェーデン語だよ。前にさくらが教えてくれた」
「どういう意味?」
確か、日本語に翻訳できないスウェーデン独自の言葉だったと思うんだけど。
意味は、
「水面に映った月光が一本の道みたいになっていることをそうやって言うんだって。日本の単語では言い表せない言葉。あいつそういうエモい感じのやつ好きだから」
「いや余計に分かんねぇわ。何で急にそれが出てくんだよ」
「俺も分かんないけど、日本語に俺たちの関係を表す単語は存在しないってこと。愛してるはちょっとしっくりこない」
「とんでもねぇな」
さくらにとって俺は、一筋の月のひかりだと、そういうことだと思うんだけど。
…そういえば。
あのタトゥーも、月をモチーフにしてたな。関係あるのだろうか。
月と猫のタトゥーに思いを巡らせていると、翔平がバシンと俺の背中を叩いた。
「まー、あれだ。フラれてもさくらにとって樹が特別なことには変わりないんだし、元気出せって。チャンスはあるよ。自信持ってこ」
「だからフラれてないっつの」
「すいまっせーん!この傷心のイケメンに生ひとつくださーい!」
ここぞとばかりにいじり倒すつもりらしい。これはいちいち反応しないのが得策か。
俺は運ばれて来たジョッキを一気に煽った。
「っぷは」
「おっ、いいぞ藤原ぁ」
アルコールがかっと胃袋を直撃する。
「…俺は、できるのに。そういうこと」
「つまり、それが樹の幸せってことだろ」
「それ俺すげぇ最低な奴じゃん」
「違くて。結局は他の女の人じゃなくてさくらと恋人になりたいんじゃないのってこと」
翔平が箸を俺に向けて言った。
さくらと恋人になることが、俺の幸せ?
でもさくらはそれを望んでない。
ていうかそもそもさくらにとっての幸せって何だ?
「ほかのメンバーよりもちょっとだけ長く2人のことを見てきた俺からするとさ、」
ぐるぐると思考のスパイラルに陥る俺をよそに、翔平は何気ない口調で呟いた。
「2人が落ち着くべき場所って、結局のところそこだと思うよ」
「フラれたとは言ってない。一言も」
「まあ飲めよ。失恋の傷を紛らわすには酒が一番だ」
「だから…」
ツアーの本公演も無事終わり、残すはファイナルのみとなった7月下旬。
俺は珍しく翔平と2人で飲みに来ていた。
「…でもまずはさくらが無事に復活してきたことを喜ばないと。一時ガリガリに痩せちゃってたよな」
「うん。何食べても吐いちゃうし、夜は寝れないみたいで。大好きな本も読まないで仕事の方はスランプ状態…見てるこっちが辛かった」
どうして守ってやれなかったのかと、自分を責め続けた。人生のどん底に沈んでいくさくらに、何もしてあげられないことが辛かった。
今だって、完全に元の生活に戻れた訳では無い。
俺が泊まっている時でも夜中に自分の悲鳴で飛び起きるのはしょっちゅうで、その度に取り乱すさくらの背中を俺がさすってやる。
小説もまだ短いものしか書けないらしく、何か思いつめたような表情でパソコンに文章を打ち込んでは全消去するみたいなことを繰り返している。
「それでも、さくらが少しずつ元気になってきてるのは樹のおかげだと思うよ。やっぱりさくらには樹がいないとダメなんだって」
「そんなの分かってる」
「うーわ出たよ」
お互いがお互いにとって特別な存在であることは間違いない。
ただそこに、大人の男女としての概念を挟み込む余地はないだけで。
「俺とそういうことは絶対ムリって言われた時にショックを受けてる自分にショックを受けた」
「何で?」
「何か…自分がすごい最低な奴な気がして」
しかも、断る理由が理由だ。
あいつは、俺が幸せになることを純粋に心の底から願っている。
「うーん…結局のところ、樹はさくらのことが好きなの?」
「好きっていうか…そういう次元じゃない。家族?それ以上?に大切に思ってる」
「アイシテル?」
慣れない単語を使ったせいか、片言ぎみに翔平が尋ねた。
愛してる、か。どうなんだろう。
そういえば、高校生の頃にさくらが教えてくれた言葉があったな。
「まるで私と樹みたい」だと喜んでいたけど、俺にはよく分からなかった。
ええと、何だったっけ…
あぁ、そうだ確か、
「Mångata」
「は?」
翔平がジョッキに口を付けたまま異星人を見るような目を俺に向けた。
「もー…?どうした?バグった?」
「モーンガータ。スウェーデン語だよ。前にさくらが教えてくれた」
「どういう意味?」
確か、日本語に翻訳できないスウェーデン独自の言葉だったと思うんだけど。
意味は、
「水面に映った月光が一本の道みたいになっていることをそうやって言うんだって。日本の単語では言い表せない言葉。あいつそういうエモい感じのやつ好きだから」
「いや余計に分かんねぇわ。何で急にそれが出てくんだよ」
「俺も分かんないけど、日本語に俺たちの関係を表す単語は存在しないってこと。愛してるはちょっとしっくりこない」
「とんでもねぇな」
さくらにとって俺は、一筋の月のひかりだと、そういうことだと思うんだけど。
…そういえば。
あのタトゥーも、月をモチーフにしてたな。関係あるのだろうか。
月と猫のタトゥーに思いを巡らせていると、翔平がバシンと俺の背中を叩いた。
「まー、あれだ。フラれてもさくらにとって樹が特別なことには変わりないんだし、元気出せって。チャンスはあるよ。自信持ってこ」
「だからフラれてないっつの」
「すいまっせーん!この傷心のイケメンに生ひとつくださーい!」
ここぞとばかりにいじり倒すつもりらしい。これはいちいち反応しないのが得策か。
俺は運ばれて来たジョッキを一気に煽った。
「っぷは」
「おっ、いいぞ藤原ぁ」
アルコールがかっと胃袋を直撃する。
「…俺は、できるのに。そういうこと」
「つまり、それが樹の幸せってことだろ」
「それ俺すげぇ最低な奴じゃん」
「違くて。結局は他の女の人じゃなくてさくらと恋人になりたいんじゃないのってこと」
翔平が箸を俺に向けて言った。
さくらと恋人になることが、俺の幸せ?
でもさくらはそれを望んでない。
ていうかそもそもさくらにとっての幸せって何だ?
「ほかのメンバーよりもちょっとだけ長く2人のことを見てきた俺からするとさ、」
ぐるぐると思考のスパイラルに陥る俺をよそに、翔平は何気ない口調で呟いた。
「2人が落ち着くべき場所って、結局のところそこだと思うよ」