第一章
夢小説設定
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「…なーんか見る度にイケメン度が増してくね。東京こわい」
「なんだそれ」
2016年最後の日。樹が福岡に帰ってくる数少ない時期。
私は樹の家のこたつで猫を抱きながら、みかんをむいてもらっていた。
「ちゃんと白いところも取ってね」
「自分でやれよ」
とか言いながらしっかりやってくれる樹が好きだ。
「ほら、口あけて」
「あー…むっ」
なんて幸せな時間。みかんが甘いってだけで来年1年頑張れる。
私は樹にみかんで餌付けされながらテレビを眺めていた。
「紅白も終わっちゃうね」
「来年はTHE RAMPAGEもあそこに立ってるから」
でおの毛並みを撫でながら言った、その言葉。
「…じゃあ来年からはお正月にも会えなくなっちゃうのか~、寂しいね、まいる~」
私はまいるの柔らかい背中に顔を埋めて、もごもごと話す。それが嫌だったのか、まいるが「にゃあ」と抗議の声をあげた。
どんどん遠くなっちゃうなぁ。
応援したい気持ち9割9部9厘、寂しさ1厘。
「…さくらも東京来ればいいのに」
「え?」
「そうしたら、もっと気軽に会えるだろ」
樹はこっちを見ないままそう言った。
今のはちょっと嬉しいぞこの野郎。目を見て言ってくれたらなおよかったけど。
「ん~…でもひとり暮らしとか絶対無理だし」
「確かに。ていうかそうだ、大学こっちじゃん」
今私は大学1年生。九州でもかなり有名な大学の文学部に通っている。
いや、通っていた、か。
「大学?やめたけど」
「は?」
「あれ、私樹に言わなかったっけ?[#dn=1#
]ちゃんがやめたの、2ヶ月前くらいよね?」
キッチンで洗い物をしていた樹ママが首を傾げる。樹は「聞いてない」と顔をぶんぶん振った。
「そうそう、10月の終わり頃」
「せっかくあんな頭いい大学入ったのに、何でやめたの」
「いや~…授業がつまんなかったから」
平然と言い放った私に、樹は肺の空気を全部吐き出すようなため息をついた。
「お前な…じゃあ何、今ニート?」
「できることならニートになりたかったんだけどね。残念なことに小説家っていう肩書きがくっついてきてる」
一年前までは『現役高校生作家』、2ヶ月前までは『現役大学生作家』、そして今は『小説家』。無事にピチューからライチュウに進化した。
樹はもう何か言う気も失せたようで、無表情でみかんを私の口に押し込んだ。
「さくらに小説があってよかったって、いま心の底から思ってる」
「もぐ、他に何も無いみたいな言い方…何も無いな」
物心ついた頃から、私の生活には文字が欠かせなかった。読むのも好きだったし、ある程度語彙力がついてくると湧き上がってくるイメージを文字に起こせるようになった。
そんなことをやっているうちに、周りは『天才』とかはやし立ててきて。
それは少し面倒だけど、いい担当編集者さんにも出会えたし、やっぱり物語を書くことが好きだから小説家になったのだ。
「でも編集社からは『東京来い』ってすごい圧をかけられてる」
「まぁ取材とかサイン会とかやるなら東京にいる方が絶対いいしな」
「そう。でも会社の言いなりになるの癪だから断り続けてる。別に原稿送るだけなら福岡にいてもできるしね」
「ほんとひねくれてんな」
樹が呆れ顔をしたけど無視。みかんをもぐもぐやりながらテレビ画面を指さした。
「…あ、あと1分で2016年終わるよ」
「ほんとだ」
テレビではゆく年くる年も終わり、時計の針がカチリと真上を指す。
「「あけましておめでとうございます」」
藤原一家プラス私はこたつを囲んで一斉に頭を下げる。毎年恒例だ。
それからこれも、毎年恒例。
「じゃ、行くか。初詣」
「ん」
「なんだそれ」
2016年最後の日。樹が福岡に帰ってくる数少ない時期。
私は樹の家のこたつで猫を抱きながら、みかんをむいてもらっていた。
「ちゃんと白いところも取ってね」
「自分でやれよ」
とか言いながらしっかりやってくれる樹が好きだ。
「ほら、口あけて」
「あー…むっ」
なんて幸せな時間。みかんが甘いってだけで来年1年頑張れる。
私は樹にみかんで餌付けされながらテレビを眺めていた。
「紅白も終わっちゃうね」
「来年はTHE RAMPAGEもあそこに立ってるから」
でおの毛並みを撫でながら言った、その言葉。
「…じゃあ来年からはお正月にも会えなくなっちゃうのか~、寂しいね、まいる~」
私はまいるの柔らかい背中に顔を埋めて、もごもごと話す。それが嫌だったのか、まいるが「にゃあ」と抗議の声をあげた。
どんどん遠くなっちゃうなぁ。
応援したい気持ち9割9部9厘、寂しさ1厘。
「…さくらも東京来ればいいのに」
「え?」
「そうしたら、もっと気軽に会えるだろ」
樹はこっちを見ないままそう言った。
今のはちょっと嬉しいぞこの野郎。目を見て言ってくれたらなおよかったけど。
「ん~…でもひとり暮らしとか絶対無理だし」
「確かに。ていうかそうだ、大学こっちじゃん」
今私は大学1年生。九州でもかなり有名な大学の文学部に通っている。
いや、通っていた、か。
「大学?やめたけど」
「は?」
「あれ、私樹に言わなかったっけ?[#dn=1#
]ちゃんがやめたの、2ヶ月前くらいよね?」
キッチンで洗い物をしていた樹ママが首を傾げる。樹は「聞いてない」と顔をぶんぶん振った。
「そうそう、10月の終わり頃」
「せっかくあんな頭いい大学入ったのに、何でやめたの」
「いや~…授業がつまんなかったから」
平然と言い放った私に、樹は肺の空気を全部吐き出すようなため息をついた。
「お前な…じゃあ何、今ニート?」
「できることならニートになりたかったんだけどね。残念なことに小説家っていう肩書きがくっついてきてる」
一年前までは『現役高校生作家』、2ヶ月前までは『現役大学生作家』、そして今は『小説家』。無事にピチューからライチュウに進化した。
樹はもう何か言う気も失せたようで、無表情でみかんを私の口に押し込んだ。
「さくらに小説があってよかったって、いま心の底から思ってる」
「もぐ、他に何も無いみたいな言い方…何も無いな」
物心ついた頃から、私の生活には文字が欠かせなかった。読むのも好きだったし、ある程度語彙力がついてくると湧き上がってくるイメージを文字に起こせるようになった。
そんなことをやっているうちに、周りは『天才』とかはやし立ててきて。
それは少し面倒だけど、いい担当編集者さんにも出会えたし、やっぱり物語を書くことが好きだから小説家になったのだ。
「でも編集社からは『東京来い』ってすごい圧をかけられてる」
「まぁ取材とかサイン会とかやるなら東京にいる方が絶対いいしな」
「そう。でも会社の言いなりになるの癪だから断り続けてる。別に原稿送るだけなら福岡にいてもできるしね」
「ほんとひねくれてんな」
樹が呆れ顔をしたけど無視。みかんをもぐもぐやりながらテレビ画面を指さした。
「…あ、あと1分で2016年終わるよ」
「ほんとだ」
テレビではゆく年くる年も終わり、時計の針がカチリと真上を指す。
「「あけましておめでとうございます」」
藤原一家プラス私はこたつを囲んで一斉に頭を下げる。毎年恒例だ。
それからこれも、毎年恒例。
「じゃ、行くか。初詣」
「ん」