第二章
夢小説設定
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人生ではじめて、スランプに陥った。
書きたいことが、紡ぎたい言葉が思い浮かばない。パソコンの前に座ると、吐き気がこみ上げてくる。
「しばらくお休みしましょう、先生。マスコミへの対応は僕がしておきますから、今は落ち着くまでゆっくりしてください」
新しく引っ越した家にやってきた日向さんは、目の下にクマを作りながらも優しく笑ってくれた。
私がストーカーに襲われたことを嗅ぎつけたマスコミが私の家だけでなく、編集社の方にも来ている。連日その対応に当たってもらっていた日向さんは相当疲れているだろう。
申し訳なさと、情けない気持ちでいっぱいだった。
「すいません…」
「先生が謝る必要はありませんよ!僕にできることがあれば、何でも言ってください」
「ありがとうございます」
日向さんが帰っていくと、私は寝室に戻って日本号をぎゅっと抱き寄せた。
「にゃあ」
「にほ…どうしちゃったんだろうね、私。自分がこんなに弱いとは思わなかったよ」
寝室のすみに置かれたドレッサー。その姿見に、疲れきって痩せ細った私が映った。それから、袖なしの服から覗く猫と月のタトゥー。
誰にも内緒で温め続けていた、ある物語。
『猫と月』
このタトゥーを入れたことをきっかけに最近書き始めたところだったのに。
今ではそれも書けなくなってしまった。頭の中にあったはずのストーリーも、もう思い浮かばない。
「もう、ダメなのかな」
あれから樹が頻繁に家に来てくれるようになった。励ますわけでも、あからさまに心配するわけでもなく、ただそばにいてくれる。
それが、今の私の心の支えだった。
今日は翔平の地元、長崎でライブ。
付き合いが長い翔平からは最近頻繁に元気づけるような謎のダンス動画が届いていたので、少しでもそのお礼をしようとLINEを送った。
【翔平、地元でのライブ頑張って
応援してます
樹やメンバーのみんなによろしく】
【今楽屋入った!!!!!!!!!!!】
「返信はやっ」
ていうかビックリマークが多い。翔平らしい返信にくすりと笑みが零れた。
…そういえば、久しぶりに笑ったかも。
そんなことを思っていると、翔平から電話がかかってきた。
少し迷って、通話ボタンを押す。
「…もしもし?」
『もしもーし!全力ぶちかまし少年です!』
うるさい。
「どうしたの?」
『いや、生存確認。あとライブ前でテンション爆上げだったから』
「なにそれ」
『テレビ通話にしていい?今楽屋だからみんないるんだけど』
「ええ…まぁいいか」
『はいみなさん!特に樹注目!』
ぱっと、画面に楽屋の様子が映った。翔平の方の画面には私と日本号の姿が映っているだろう。
こちらを振り向いた樹が驚いて近寄ってきた。
『さくら?どうしたの、何かあった?』
「ううん、何も無いよ。翔平が電話かけてくれたから」
『いま家?』
「そう。にほおじもいるよ」
「にゃお」
日本号が画面に顔を近づけて鳴いた。その後頭部に遮られて樹たちが見えなくなってしまったので、私は日本号を膝の上に抱き上げる。
『さくら~また飲みに行きたいよ~』
「とか言って北人さんお酒弱いじゃないですか」
『俺オレンジジュースでテキーラのテンションまで持っていけるから』
「最強ですね」
『さくら、面白い本見つけたから今度貸すな』
「壱馬さん、ありがとうございます」
『ハイサイ!今からライブだ~』
「ハイサイ健太さん、頑張ってタンクトップ引き裂いてくださいね」
みんなと話していると、最近使っていなかった表情筋が自然と動いて笑顔になれる。
あぁ、やっぱりこのグループが大好きだと改めて思った。
「みんな、頑張ってくださいね」
『『頑張るぞ~!!』』
『じゃあ、また電話する』
「うん、ありがとう、ちょっと元気出た」
『マジ!?』
「うん」
『よかった!ライブぶちあげてくるな!』
「怪我しないようにね」
どアップで映っている翔平に挨拶をして通話を終えようとしたら、隣から樹が翔平のスマホを奪い取った。
『さくら、明後日の夜、家行くから。泊まってく』
「疲れてない?私は大丈夫だよ」
『俺が会いたいから行くだけ』
またそんな嬉しいこと言ってくれちゃって。ささくれだった心に樹のハスキーな声がじんわりと染みていくのが分かった。
『それからご飯はちゃんと食べて。痩せすぎ』
「…うん、分かった。じゃあね、ライブ頑張って」
『うん。それじゃ』
ふっと、通話が切れる。
久しぶりに幸せな気持ちにひたりながら、私は日本号の毛並みに顔を埋めた。
「私も、頑張らなくちゃ」
書きたいことが、紡ぎたい言葉が思い浮かばない。パソコンの前に座ると、吐き気がこみ上げてくる。
「しばらくお休みしましょう、先生。マスコミへの対応は僕がしておきますから、今は落ち着くまでゆっくりしてください」
新しく引っ越した家にやってきた日向さんは、目の下にクマを作りながらも優しく笑ってくれた。
私がストーカーに襲われたことを嗅ぎつけたマスコミが私の家だけでなく、編集社の方にも来ている。連日その対応に当たってもらっていた日向さんは相当疲れているだろう。
申し訳なさと、情けない気持ちでいっぱいだった。
「すいません…」
「先生が謝る必要はありませんよ!僕にできることがあれば、何でも言ってください」
「ありがとうございます」
日向さんが帰っていくと、私は寝室に戻って日本号をぎゅっと抱き寄せた。
「にゃあ」
「にほ…どうしちゃったんだろうね、私。自分がこんなに弱いとは思わなかったよ」
寝室のすみに置かれたドレッサー。その姿見に、疲れきって痩せ細った私が映った。それから、袖なしの服から覗く猫と月のタトゥー。
誰にも内緒で温め続けていた、ある物語。
『猫と月』
このタトゥーを入れたことをきっかけに最近書き始めたところだったのに。
今ではそれも書けなくなってしまった。頭の中にあったはずのストーリーも、もう思い浮かばない。
「もう、ダメなのかな」
あれから樹が頻繁に家に来てくれるようになった。励ますわけでも、あからさまに心配するわけでもなく、ただそばにいてくれる。
それが、今の私の心の支えだった。
今日は翔平の地元、長崎でライブ。
付き合いが長い翔平からは最近頻繁に元気づけるような謎のダンス動画が届いていたので、少しでもそのお礼をしようとLINEを送った。
【翔平、地元でのライブ頑張って
応援してます
樹やメンバーのみんなによろしく】
【今楽屋入った!!!!!!!!!!!】
「返信はやっ」
ていうかビックリマークが多い。翔平らしい返信にくすりと笑みが零れた。
…そういえば、久しぶりに笑ったかも。
そんなことを思っていると、翔平から電話がかかってきた。
少し迷って、通話ボタンを押す。
「…もしもし?」
『もしもーし!全力ぶちかまし少年です!』
うるさい。
「どうしたの?」
『いや、生存確認。あとライブ前でテンション爆上げだったから』
「なにそれ」
『テレビ通話にしていい?今楽屋だからみんないるんだけど』
「ええ…まぁいいか」
『はいみなさん!特に樹注目!』
ぱっと、画面に楽屋の様子が映った。翔平の方の画面には私と日本号の姿が映っているだろう。
こちらを振り向いた樹が驚いて近寄ってきた。
『さくら?どうしたの、何かあった?』
「ううん、何も無いよ。翔平が電話かけてくれたから」
『いま家?』
「そう。にほおじもいるよ」
「にゃお」
日本号が画面に顔を近づけて鳴いた。その後頭部に遮られて樹たちが見えなくなってしまったので、私は日本号を膝の上に抱き上げる。
『さくら~また飲みに行きたいよ~』
「とか言って北人さんお酒弱いじゃないですか」
『俺オレンジジュースでテキーラのテンションまで持っていけるから』
「最強ですね」
『さくら、面白い本見つけたから今度貸すな』
「壱馬さん、ありがとうございます」
『ハイサイ!今からライブだ~』
「ハイサイ健太さん、頑張ってタンクトップ引き裂いてくださいね」
みんなと話していると、最近使っていなかった表情筋が自然と動いて笑顔になれる。
あぁ、やっぱりこのグループが大好きだと改めて思った。
「みんな、頑張ってくださいね」
『『頑張るぞ~!!』』
『じゃあ、また電話する』
「うん、ありがとう、ちょっと元気出た」
『マジ!?』
「うん」
『よかった!ライブぶちあげてくるな!』
「怪我しないようにね」
どアップで映っている翔平に挨拶をして通話を終えようとしたら、隣から樹が翔平のスマホを奪い取った。
『さくら、明後日の夜、家行くから。泊まってく』
「疲れてない?私は大丈夫だよ」
『俺が会いたいから行くだけ』
またそんな嬉しいこと言ってくれちゃって。ささくれだった心に樹のハスキーな声がじんわりと染みていくのが分かった。
『それからご飯はちゃんと食べて。痩せすぎ』
「…うん、分かった。じゃあね、ライブ頑張って」
『うん。それじゃ』
ふっと、通話が切れる。
久しぶりに幸せな気持ちにひたりながら、私は日本号の毛並みに顔を埋めた。
「私も、頑張らなくちゃ」