第二章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ちょっとタバコ」
カラカラ、と子気味良い音を建ててベランダに面した窓が開く。
ベランダにひじをもたせかけて、さくらは紫煙をくゆらせはじめた。
「…タバコもそこそこにな」
「ん~…」
驚くほど気のない返事。たぶん誰が何を言ってもタバコをやめる気はないのだろう。ヘビースモーカーというわけではないのだが、もう止められないのかもしれない。
俺はベランダに出ると、さくらの左隣に立ったてみた。
さくらは煙を吐き出しながら、ぼんやりと東京の街並みを眺めている。こういう時は大体頭の中で物語を組み立てていることが多い。
「さくら」
「ん?」
「…いや。何でもない」
沈黙。
俺はふとさくらの肩に住む猫と月が見たくなって、そのぶかぶかのパーカーの袖を捲りあげた。
「なに、どうしたの樹」
「…」
三日月の中に映る猫のシルエット。白い肌にくっきりと彫り込まれたそれを親指でなぞる。
「これの意味、まだ教えてくれないの」
「まだダメ」
「まだってことは、そのうち教えてくれる?」
「どうだろ」
「何だよ」
少しむっとした俺の顔に、さくらはからかうように器用に煙で輪っかを作って吹きかける。
「うわっ副流煙」
「あはは」
すっかり短くなったタバコをベランダの手すりに押し付けて火を消すと、さくらは俺にぴったりとくっついた。俺の腰に細い腕がまわる。
シャンプーの香りがふわりと香った。
「最近外出るたびに声かけられまくってしんどかったから、樹充電。これでしばらく頑張れる」
最近のさくらは頻繁にメディアで特集が組まれたりして、かなり知名度が上がってきている。人見知りのさくらからしたらストレスが貯まるだろう。
「んん~、やっぱり樹落ち着くなぁ。好き~」
さくらは度々、冗談めかすように俺のことを「好き」だと言う。
たぶんそこに深い意味はないのだろうけど、妙に温もりを持ったその言葉が、俺は好きだった。
さくらの頭に腕をまわして、俺の肩にもたせかける。ぽんぽん、とその髪を軽く叩きながら俺も笑った。
「俺も好きだよ。一緒にいてすごい落ち着くし楽しいから」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないですか」
俺たちがそんなことを喋っていると。
ふいに背後から誰かの声がした。
「仲良しですねぇ」
「「!?」」
突然背後から聞こえてきた声に、俺たちは驚いて飛び上がった。慌てて振り返ると、そこには日本号を抱いて聖母のような笑みを浮かべる日向さんの姿。
「ひゅ、日向さんインターホン鳴らしてくださいよ!」
「鳴らしましたよ!でも何回鳴らしても返事がないから大家さんに頼んで。大家さんに『またか』って呆れられちゃいました」
生活が不規則なさくらのことだから、寝ていたりしてインターホンに応答しないのなんて日常茶飯事なのだろう。日向さんに心の底から同情する。
「藤原さんにお会いするのは久しぶりですね」
「そうっすね。いつもさくらが迷惑かけてすみません」
「いえいえ!振り回されるのなんて先生が高校生の時からですから。慣れちゃいました」
「別に振り回してないですよ。締切はギリギリ守ってるし」
「締切3分前に完成させるのはギリギリを攻めすぎてます」
やっぱり迷惑をかけまくっているようだ。申し訳ない。
「ていうか先生!原稿!今日までですよ!」
「できてますって」
さくらは面倒くさそうに部屋に戻っていった。机の上をガサガサと漁ってプリントアウトした原稿の束を日向さんに渡す。
「はい、確かにお受け取りしました。それから、テレビ出演と取材のオファーがたくさん来てるんですけど」
「全部お断りしてください」
「じゃあその代わりに来月サイン会やりましょう。去年の11月以来やってなくて読者の方から催促のメールが山ほど届いてるんです」
「ひえっ」
「二択ですよ!メディア出演かサイン会か!」
「…サイン会で」
「はい、それじゃ予定組んでおきますね。失礼しまーす、藤原さんも先生のことよろしくお願いしますね!」
「あ、はい」
してやったりの笑顔を浮かべて去っていく日向さん。さくらはさっき起きたばかりにも関わらずもう疲労困憊の表情を浮かべていた。
振り回されるだけでは終わらない日向さん、恐るべし。
「やり手編集者こわい…」
カラカラ、と子気味良い音を建ててベランダに面した窓が開く。
ベランダにひじをもたせかけて、さくらは紫煙をくゆらせはじめた。
「…タバコもそこそこにな」
「ん~…」
驚くほど気のない返事。たぶん誰が何を言ってもタバコをやめる気はないのだろう。ヘビースモーカーというわけではないのだが、もう止められないのかもしれない。
俺はベランダに出ると、さくらの左隣に立ったてみた。
さくらは煙を吐き出しながら、ぼんやりと東京の街並みを眺めている。こういう時は大体頭の中で物語を組み立てていることが多い。
「さくら」
「ん?」
「…いや。何でもない」
沈黙。
俺はふとさくらの肩に住む猫と月が見たくなって、そのぶかぶかのパーカーの袖を捲りあげた。
「なに、どうしたの樹」
「…」
三日月の中に映る猫のシルエット。白い肌にくっきりと彫り込まれたそれを親指でなぞる。
「これの意味、まだ教えてくれないの」
「まだダメ」
「まだってことは、そのうち教えてくれる?」
「どうだろ」
「何だよ」
少しむっとした俺の顔に、さくらはからかうように器用に煙で輪っかを作って吹きかける。
「うわっ副流煙」
「あはは」
すっかり短くなったタバコをベランダの手すりに押し付けて火を消すと、さくらは俺にぴったりとくっついた。俺の腰に細い腕がまわる。
シャンプーの香りがふわりと香った。
「最近外出るたびに声かけられまくってしんどかったから、樹充電。これでしばらく頑張れる」
最近のさくらは頻繁にメディアで特集が組まれたりして、かなり知名度が上がってきている。人見知りのさくらからしたらストレスが貯まるだろう。
「んん~、やっぱり樹落ち着くなぁ。好き~」
さくらは度々、冗談めかすように俺のことを「好き」だと言う。
たぶんそこに深い意味はないのだろうけど、妙に温もりを持ったその言葉が、俺は好きだった。
さくらの頭に腕をまわして、俺の肩にもたせかける。ぽんぽん、とその髪を軽く叩きながら俺も笑った。
「俺も好きだよ。一緒にいてすごい落ち着くし楽しいから」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないですか」
俺たちがそんなことを喋っていると。
ふいに背後から誰かの声がした。
「仲良しですねぇ」
「「!?」」
突然背後から聞こえてきた声に、俺たちは驚いて飛び上がった。慌てて振り返ると、そこには日本号を抱いて聖母のような笑みを浮かべる日向さんの姿。
「ひゅ、日向さんインターホン鳴らしてくださいよ!」
「鳴らしましたよ!でも何回鳴らしても返事がないから大家さんに頼んで。大家さんに『またか』って呆れられちゃいました」
生活が不規則なさくらのことだから、寝ていたりしてインターホンに応答しないのなんて日常茶飯事なのだろう。日向さんに心の底から同情する。
「藤原さんにお会いするのは久しぶりですね」
「そうっすね。いつもさくらが迷惑かけてすみません」
「いえいえ!振り回されるのなんて先生が高校生の時からですから。慣れちゃいました」
「別に振り回してないですよ。締切はギリギリ守ってるし」
「締切3分前に完成させるのはギリギリを攻めすぎてます」
やっぱり迷惑をかけまくっているようだ。申し訳ない。
「ていうか先生!原稿!今日までですよ!」
「できてますって」
さくらは面倒くさそうに部屋に戻っていった。机の上をガサガサと漁ってプリントアウトした原稿の束を日向さんに渡す。
「はい、確かにお受け取りしました。それから、テレビ出演と取材のオファーがたくさん来てるんですけど」
「全部お断りしてください」
「じゃあその代わりに来月サイン会やりましょう。去年の11月以来やってなくて読者の方から催促のメールが山ほど届いてるんです」
「ひえっ」
「二択ですよ!メディア出演かサイン会か!」
「…サイン会で」
「はい、それじゃ予定組んでおきますね。失礼しまーす、藤原さんも先生のことよろしくお願いしますね!」
「あ、はい」
してやったりの笑顔を浮かべて去っていく日向さん。さくらはさっき起きたばかりにも関わらずもう疲労困憊の表情を浮かべていた。
振り回されるだけでは終わらない日向さん、恐るべし。
「やり手編集者こわい…」