第一章
夢小説設定
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「んあ~いっぱい飲んだぁ」
「そんだけ飲んでよく潰れないね」
「北人さんは弱すぎます」
さくらがアルコールで火照った身体を冷ますためにセーターの襟元をぱたぱたする。
その襟元からちらりとあるものが見えて、俺はぎょっとした。
思わず肩を掴んでこっちに向けさせる。
「えっ、さくら、タトゥー入れたの?」
左の鎖骨下に彫られた星が連なるようなデザインのタトゥー。型崩れした襟元から僅かに顔を出している。
驚く俺をよそに、さくらは平然と頷いた。
「え、うん。ていうか今更?私言ってなかったっけ?」
「聞いてないよ。いつから…」
さくらは興味を持ったことは速攻手を出すタイプだし、何事にも偏見を持っていないから社会的に見て驚かれるようなことも結構気軽にやってしまう。
酒も飲むし、タバコも吸う。20歳になったとたん「ギャンブルがしたい」とか言って突然LAのカジノまで行ったこともある。ちなみにぼろ勝ちしてた。
そんなさくらがタトゥーに興味を持ったとしてもなんの不思議もない。
ないんだけど。
「え、結構前だよ。19歳の夏くらい」
「まじか…全然気づかなかった…」
「樹と会うの肌見せしない冬場ばっかだったからね」
気づかなかったというか気づけなかった。
ほぼ毎日一緒にいた頃は服の趣味が変わったとか、ピアスホールが増えたとか、細かいことにもすぐ気づいていたのに。
改めて2人の間の距離を痛感して、なぜだか寂しくなる。
「いいっすねタトゥー。俺たち今のところはHIROさんにやめとけって言われてるからシールとかしかやったことないんですよ。どんなデザインですか?」
ファッションに敏感な慎が身を乗り出す。さくらは袖をまくり上げて左肩を見せた。
鎖骨から肩へとリボンのように繋がる星屑のデザイン。肩には三日月の中に猫のシルエット。その下には二の腕を1周するように英語の文字が彫り込まれている。
綺麗だと思った。
さくらの白い腕に、黒のオシャレでシンプルなタトゥーはよく映える。
あと猫っていうのも何だか嬉しい。
「英文、なんて書いてあるの」
俺が尋ねると、さくらは文字を撫でながら柔らかく微笑んだ。
驚くほど美しい笑顔だった。
「『Love the life you live. Live the life you love.』…お前の生きる人生を愛せ、お前の愛する人生を生きろ」
「…さくららしいね」
たぶんつまり「楽しいことだけをして暮らしたい」って意味なんだろうけど。
「何で猫と月なの」
俺が尋ねると、さくらは悪戯っぽく笑ってくちびるの前に人差し指を立てた。
その仕草が最高に可愛いことに気づいているのは俺と周りのメンバーだけ。
「ないしょ」
「なにそれ。教えろって」
「絶対教えない~」
しつこく食い下がっても、結局さくらは教えてくれなかった。
「それじゃ、こんな大所帯ですみませんでした。美味しかったです」
「礼儀正しいね、また福岡に来た時はぜひ寄って」
「はい。さくらちゃんも、小説頑張って。また飲もう」
「臨むところです」
力矢さんが挨拶をして、みんなは口々にお礼を言いながらさくら屋を後にする。
でも、俺はその場に立ち止まったまま。
「…樹?行くよ、明日プリレジェの撮影で早く出発しなきゃいけないんだから」
さくら屋の前から動かない俺に気づいた北人さんが手招きする。俺は「先行っててください」とみんなを先に行かせ、さくらに向き直った。おじさんとおばさんは何かを察したのか俺に笑いかけて店に戻っていく。
「樹?どしたの?」
「今日、クリスマスイヴだから」
鞄の中から、綺麗にラッピングされた包みを取り出す。
「はい」
「ふぇ?」
まさかこの場で渡されると思ってなかったのだろう、さくらは目を瞬かせて包みを受け取った。
クリスマスプレゼントとバレンタイン・ホワイトデー、それから誕生日は必ずプレゼントを贈りあっているけど、福岡と東京で離れてしまったここ3年は正月に会う時に全部ひっくるめて済ませてしまっていた。
「クリスマスプレゼント?見ていい?」
「ここで?いいけど」
さくらは包装を丁寧に剥がして、細長い箱をかぱりと開いた。
「これって…」
さくらが好きなシルバーアクセサリーブランドのネックレスとピアス。最近東京に新しい店舗がオープンしたと聞いて、福岡に来る前に買っておいたのだ。
「ええ~可愛い~無理~樹大好き~無理~」
なんだかよく分からない喜び方だな。
「あ、ちなみにそれ俺が今付けてるリングとお揃いのデザイン」
「ええ~好き~~~」
さくらはさっそくピアスを新しいものに付けかえると、ご機嫌そうに太めのフープを揺らした。
さっきも誰かが言ってたけど、清楚そうな見た目の割に結構パンクなものが好きなさくらは俺よりもピアスホールの数が多いし、ゴリゴリのメンズアクセを付けてたりする。
これでタトゥーまで入れちゃったし本当にヤバい奴にしか見えなくなってきたな…
「さくら」
「ん?」
俺と離れているうちに、さくらはすごい賞を取って、世間からも注目され始めて、タトゥーを入れた。
俺の知らないさくらがどんどん増えていく。それが寂しかった。
「ぎゅってさせて」
「は?」
周りから囃し立てられるようになるまではよくやっていたハグ。
無性にさくらの温もりに触れたかった。俺の大事な幼なじみはここにいると、実感したかった。
言わずとも伝わったのだろう、さくらは戸惑いながらも大人しく俺の腕の中に収まった。
「…ちっちゃい頃はよくこうやってぎゅーってやってたね」
コートを羽織った俺の胸元にほおをくっつけて、さくらは目を細める。今にも喉をごろごろと鳴らしそうな様子だ。
俺はさくらの首筋に顔を埋めて、微かに甘い肌の香りを吸い込んだ。
「…ん。これからもたまにやって」
「寒い時だけね」
「暑い時にやる」
「やめろ」
しばらくお互いの体温を味わって、身体を離す。久しぶりにハグをしたので何だか気恥ずかしくて、微妙な沈黙が流れる。
「…えっと、じゃあ。帰るから」
「お正月は帰ってこれるの?」
「うん。大晦日の新幹線で」
「そっか」
さくらは「今年は紅白出るって言ってなかったっけ?」とからかうように笑った。
「来年こそ出る」
「頑張れ」
「じゃ、また大晦日に」
「うん、バイバイ。ランペのみんなにもよろしく」
さくらにひらりと手を振って、さくら屋の近くに取ってあるホテルへと歩き出す。
と、ふいに俺の背中に向かってさくらが大声で言った。
「私からのクリスマスプレゼント、楽しみにしといてね~」
「そんだけ飲んでよく潰れないね」
「北人さんは弱すぎます」
さくらがアルコールで火照った身体を冷ますためにセーターの襟元をぱたぱたする。
その襟元からちらりとあるものが見えて、俺はぎょっとした。
思わず肩を掴んでこっちに向けさせる。
「えっ、さくら、タトゥー入れたの?」
左の鎖骨下に彫られた星が連なるようなデザインのタトゥー。型崩れした襟元から僅かに顔を出している。
驚く俺をよそに、さくらは平然と頷いた。
「え、うん。ていうか今更?私言ってなかったっけ?」
「聞いてないよ。いつから…」
さくらは興味を持ったことは速攻手を出すタイプだし、何事にも偏見を持っていないから社会的に見て驚かれるようなことも結構気軽にやってしまう。
酒も飲むし、タバコも吸う。20歳になったとたん「ギャンブルがしたい」とか言って突然LAのカジノまで行ったこともある。ちなみにぼろ勝ちしてた。
そんなさくらがタトゥーに興味を持ったとしてもなんの不思議もない。
ないんだけど。
「え、結構前だよ。19歳の夏くらい」
「まじか…全然気づかなかった…」
「樹と会うの肌見せしない冬場ばっかだったからね」
気づかなかったというか気づけなかった。
ほぼ毎日一緒にいた頃は服の趣味が変わったとか、ピアスホールが増えたとか、細かいことにもすぐ気づいていたのに。
改めて2人の間の距離を痛感して、なぜだか寂しくなる。
「いいっすねタトゥー。俺たち今のところはHIROさんにやめとけって言われてるからシールとかしかやったことないんですよ。どんなデザインですか?」
ファッションに敏感な慎が身を乗り出す。さくらは袖をまくり上げて左肩を見せた。
鎖骨から肩へとリボンのように繋がる星屑のデザイン。肩には三日月の中に猫のシルエット。その下には二の腕を1周するように英語の文字が彫り込まれている。
綺麗だと思った。
さくらの白い腕に、黒のオシャレでシンプルなタトゥーはよく映える。
あと猫っていうのも何だか嬉しい。
「英文、なんて書いてあるの」
俺が尋ねると、さくらは文字を撫でながら柔らかく微笑んだ。
驚くほど美しい笑顔だった。
「『Love the life you live. Live the life you love.』…お前の生きる人生を愛せ、お前の愛する人生を生きろ」
「…さくららしいね」
たぶんつまり「楽しいことだけをして暮らしたい」って意味なんだろうけど。
「何で猫と月なの」
俺が尋ねると、さくらは悪戯っぽく笑ってくちびるの前に人差し指を立てた。
その仕草が最高に可愛いことに気づいているのは俺と周りのメンバーだけ。
「ないしょ」
「なにそれ。教えろって」
「絶対教えない~」
しつこく食い下がっても、結局さくらは教えてくれなかった。
「それじゃ、こんな大所帯ですみませんでした。美味しかったです」
「礼儀正しいね、また福岡に来た時はぜひ寄って」
「はい。さくらちゃんも、小説頑張って。また飲もう」
「臨むところです」
力矢さんが挨拶をして、みんなは口々にお礼を言いながらさくら屋を後にする。
でも、俺はその場に立ち止まったまま。
「…樹?行くよ、明日プリレジェの撮影で早く出発しなきゃいけないんだから」
さくら屋の前から動かない俺に気づいた北人さんが手招きする。俺は「先行っててください」とみんなを先に行かせ、さくらに向き直った。おじさんとおばさんは何かを察したのか俺に笑いかけて店に戻っていく。
「樹?どしたの?」
「今日、クリスマスイヴだから」
鞄の中から、綺麗にラッピングされた包みを取り出す。
「はい」
「ふぇ?」
まさかこの場で渡されると思ってなかったのだろう、さくらは目を瞬かせて包みを受け取った。
クリスマスプレゼントとバレンタイン・ホワイトデー、それから誕生日は必ずプレゼントを贈りあっているけど、福岡と東京で離れてしまったここ3年は正月に会う時に全部ひっくるめて済ませてしまっていた。
「クリスマスプレゼント?見ていい?」
「ここで?いいけど」
さくらは包装を丁寧に剥がして、細長い箱をかぱりと開いた。
「これって…」
さくらが好きなシルバーアクセサリーブランドのネックレスとピアス。最近東京に新しい店舗がオープンしたと聞いて、福岡に来る前に買っておいたのだ。
「ええ~可愛い~無理~樹大好き~無理~」
なんだかよく分からない喜び方だな。
「あ、ちなみにそれ俺が今付けてるリングとお揃いのデザイン」
「ええ~好き~~~」
さくらはさっそくピアスを新しいものに付けかえると、ご機嫌そうに太めのフープを揺らした。
さっきも誰かが言ってたけど、清楚そうな見た目の割に結構パンクなものが好きなさくらは俺よりもピアスホールの数が多いし、ゴリゴリのメンズアクセを付けてたりする。
これでタトゥーまで入れちゃったし本当にヤバい奴にしか見えなくなってきたな…
「さくら」
「ん?」
俺と離れているうちに、さくらはすごい賞を取って、世間からも注目され始めて、タトゥーを入れた。
俺の知らないさくらがどんどん増えていく。それが寂しかった。
「ぎゅってさせて」
「は?」
周りから囃し立てられるようになるまではよくやっていたハグ。
無性にさくらの温もりに触れたかった。俺の大事な幼なじみはここにいると、実感したかった。
言わずとも伝わったのだろう、さくらは戸惑いながらも大人しく俺の腕の中に収まった。
「…ちっちゃい頃はよくこうやってぎゅーってやってたね」
コートを羽織った俺の胸元にほおをくっつけて、さくらは目を細める。今にも喉をごろごろと鳴らしそうな様子だ。
俺はさくらの首筋に顔を埋めて、微かに甘い肌の香りを吸い込んだ。
「…ん。これからもたまにやって」
「寒い時だけね」
「暑い時にやる」
「やめろ」
しばらくお互いの体温を味わって、身体を離す。久しぶりにハグをしたので何だか気恥ずかしくて、微妙な沈黙が流れる。
「…えっと、じゃあ。帰るから」
「お正月は帰ってこれるの?」
「うん。大晦日の新幹線で」
「そっか」
さくらは「今年は紅白出るって言ってなかったっけ?」とからかうように笑った。
「来年こそ出る」
「頑張れ」
「じゃ、また大晦日に」
「うん、バイバイ。ランペのみんなにもよろしく」
さくらにひらりと手を振って、さくら屋の近くに取ってあるホテルへと歩き出す。
と、ふいに俺の背中に向かってさくらが大声で言った。
「私からのクリスマスプレゼント、楽しみにしといてね~」