第二章
夢小説設定
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海軍の船に乗って、何日経っただろう。
私は狭い水槽の中にぼんやりと浮きながら日数を数えてみた。
ダメだ。分からない。
水槽が置かれた部屋に窓はなく、灯りと言えば木製の扉の隙間から差し込む光だけ。太陽がどこにあるのかなんて、知る術もなかった。
船が止まる気配。どこかの島に到着したのだろうか。
カシャン
首輪から伸びる鎖が音を立てた。
鉄製の手枷、首輪。
自分で選んだ道とはいえ、これじゃまるで…
ネックレスにそっと触れる。
「樹さん…」
その時、突然部屋の扉が開いて式島が現れた。
「目的地まではまだ少しあるが、補給のために島に寄港する。何か欲しいものはあるか」
「…ずいぶん丁寧に扱ってくださるんですね」
式島にも船員にも、乱暴されないばかりか指一本触れようとしない。
魚は新鮮さが命。捕まえてからも生簀で食べるギリギリ前まで生かす。
それと同じ理論。
やっぱり、食べられるんだ。
「上官からお前には傷一つつけるなと命令されている。軍人というものはなかなか肩身が狭いんでな」
「…どうして、人魚を手に入れたがっているんですか。あなたの上官は」
どうせ死ぬのなら真っ当な理由が欲しかった。
式島は少し迷うそぶりを見せたが、水槽の前まで来ると床にどさりと座った。
「権力者というものは、できるだけ長くその力を保持していたいと願うものだ。まだ上へ行けると信じてな。海軍のトップに立つ連中もそういう考えを持っているらしい。私には理解できないが」
「…」
「太古から、人魚に魅せられてきたのはそこら辺の富に狂った金持ちや、美を追求するあまり人倫を踏み外した哀れな女だけじゃないんだ」
人魚がたった1万年の間にその数を激減させたのは人間による乱獲が原因だ。
しかし、捕えられたその先はまちまちで。
食用、研究用、見世物、観賞用。酷いものだと異種姦の道具として。
考えうる限りの残虐な手法で、同胞たちは人間の手に堕ちていった。
「我々の上に立つ人間も、お前たち人魚に魅了されている。軍の資料にわずかに残る記録からまだ見ぬ美しい生物に思いを馳せ、いつしかその気持ちは歪な憧憬へと変わっていった」
「つまり、」
寒気がした。
これまでこの船の人たちが私に指一本触れようとしなかったのは。
式島の切れ長の瞳が冷たく私を見据える。
「同情するよ。これからお前は海軍元帥の愛玩動物として死ぬまで飼われることになるんだからな」
海の神様は残酷だと思った。
死よりもつらい運命を私に課そうとしているのだから。
それでも、あの人たちを守ることができるのならば。
私はこの運命を甘んじて受け入れよう。
「…少し無駄話が過ぎたな。欲しいものは?」
私は黙ってくるりと身体を半回転させ、式島に背を向けた。
「何もいりません」
「食事も摂っていないようだが」
「いりません」
歩み寄ってくる足音。
式島は水槽の蓋を開けると、首輪に繋がる鎖をぐっと引っ張った。
すごい力だ。肩から上が水面から出る。
「俺の言うことを聞かないと、あの海賊たちの命はないぞ」
「っ…!」
狡い、そう思った。
うまく呼吸ができない。息が苦しい。
視界が霞んでくる。
私は必死に声を絞り出した。
「わ、かりました……だから…ッ、みんなには、手を、出さないで…………」
式島の手がぱっと開かれる。
私はどぼんと水の中に沈み、げほげほと咳き込んだ。
再び水槽の蓋が閉められる。
「30分後にまたここに来る。それまでに食べておけ」
式島はそう言い残して出口へと歩き出した。
しかし、その時。
ドカァン!!!!!!!!!!!!!!!!
私は狭い水槽の中にぼんやりと浮きながら日数を数えてみた。
ダメだ。分からない。
水槽が置かれた部屋に窓はなく、灯りと言えば木製の扉の隙間から差し込む光だけ。太陽がどこにあるのかなんて、知る術もなかった。
船が止まる気配。どこかの島に到着したのだろうか。
カシャン
首輪から伸びる鎖が音を立てた。
鉄製の手枷、首輪。
自分で選んだ道とはいえ、これじゃまるで…
ネックレスにそっと触れる。
「樹さん…」
その時、突然部屋の扉が開いて式島が現れた。
「目的地まではまだ少しあるが、補給のために島に寄港する。何か欲しいものはあるか」
「…ずいぶん丁寧に扱ってくださるんですね」
式島にも船員にも、乱暴されないばかりか指一本触れようとしない。
魚は新鮮さが命。捕まえてからも生簀で食べるギリギリ前まで生かす。
それと同じ理論。
やっぱり、食べられるんだ。
「上官からお前には傷一つつけるなと命令されている。軍人というものはなかなか肩身が狭いんでな」
「…どうして、人魚を手に入れたがっているんですか。あなたの上官は」
どうせ死ぬのなら真っ当な理由が欲しかった。
式島は少し迷うそぶりを見せたが、水槽の前まで来ると床にどさりと座った。
「権力者というものは、できるだけ長くその力を保持していたいと願うものだ。まだ上へ行けると信じてな。海軍のトップに立つ連中もそういう考えを持っているらしい。私には理解できないが」
「…」
「太古から、人魚に魅せられてきたのはそこら辺の富に狂った金持ちや、美を追求するあまり人倫を踏み外した哀れな女だけじゃないんだ」
人魚がたった1万年の間にその数を激減させたのは人間による乱獲が原因だ。
しかし、捕えられたその先はまちまちで。
食用、研究用、見世物、観賞用。酷いものだと異種姦の道具として。
考えうる限りの残虐な手法で、同胞たちは人間の手に堕ちていった。
「我々の上に立つ人間も、お前たち人魚に魅了されている。軍の資料にわずかに残る記録からまだ見ぬ美しい生物に思いを馳せ、いつしかその気持ちは歪な憧憬へと変わっていった」
「つまり、」
寒気がした。
これまでこの船の人たちが私に指一本触れようとしなかったのは。
式島の切れ長の瞳が冷たく私を見据える。
「同情するよ。これからお前は海軍元帥の愛玩動物として死ぬまで飼われることになるんだからな」
海の神様は残酷だと思った。
死よりもつらい運命を私に課そうとしているのだから。
それでも、あの人たちを守ることができるのならば。
私はこの運命を甘んじて受け入れよう。
「…少し無駄話が過ぎたな。欲しいものは?」
私は黙ってくるりと身体を半回転させ、式島に背を向けた。
「何もいりません」
「食事も摂っていないようだが」
「いりません」
歩み寄ってくる足音。
式島は水槽の蓋を開けると、首輪に繋がる鎖をぐっと引っ張った。
すごい力だ。肩から上が水面から出る。
「俺の言うことを聞かないと、あの海賊たちの命はないぞ」
「っ…!」
狡い、そう思った。
うまく呼吸ができない。息が苦しい。
視界が霞んでくる。
私は必死に声を絞り出した。
「わ、かりました……だから…ッ、みんなには、手を、出さないで…………」
式島の手がぱっと開かれる。
私はどぼんと水の中に沈み、げほげほと咳き込んだ。
再び水槽の蓋が閉められる。
「30分後にまたここに来る。それまでに食べておけ」
式島はそう言い残して出口へと歩き出した。
しかし、その時。
ドカァン!!!!!!!!!!!!!!!!