第二章
夢小説設定
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あの戦いのあと、うみは自分が狙われているショックからか塞ぎ込んでしまって、水槽の隅を黙って漂っていることが多くなった。
それが心配でちょくちょく声をかけに行くんだけど、以前のような明るさは戻らない。
俺たちは奇襲に備えて見張りを強化するようになった。
幸いにもあれ以降海軍とは出会わず、気候も安定。
そして次の島に到着した。
今うみを単独行動させるのはまずいし、俺たちが目立った行動を取るのもよくない。
力矢さんと陣さんの判断で船を目立たない場所に停め、数人だけで資源の調達に向かうことになった。買い出し組が戻ってきたら即出航だ。
「…いつまでも塞ぎ込んでても気が滅入るだろ。樹、ちょっとうみに声かけてそこら辺の海岸散歩してきてくれる?翔平もついて行ってやれ」
「はい」
俺は図書室に降りて水の中をぼんやりと泳ぐうみに声をかけた。
「うみ、ちょっと海岸に降りよう。気分転換に散歩でも。俺と翔平がついてるから」
「いいんですか?」
「力矢さんが言ってくれたんだよ」
「じゃあ…ちょっとだけ。着替えてくるので待っててください」
数分後、俺と翔平、それから人間の姿になったうみは砂浜の海岸に降り立った。
船からあまり離れないよう、ゆっくりと波打ち際を歩く。
「ふふ、砂がくすぐったいです」
「人魚のヒレも憧れるけど、自分の足でも歩ける人魚ってすげえ羨ましい」
「でも人魚は1日以上水に触れないでいると呼吸が出来なくなっちゃうから、完全な人間ってわけにはいきませんね」
「へぇ~ちなみに俺は『1日以上誰かと喋らないでいると死んじゃう』生態を持ってる」
「あはは、翔平さんっぽいです」
うみは白い足でぱしゃぱしゃと水を蹴りあげる。その顔に少し笑顔が戻っているのを見て、俺は少し安心した。
しばらく3人で他愛もない話をしたところで船へと引き返す。
「翔平と人魚と滑舌の悪いイケメンが戻りましたぁ~!」
「おい」
終始うみを笑わせることに努めていた翔平は本当に優しい奴だ、と改めて思う。けど滑舌悪いイケメンって。
1番はじめに翔平がハシゴを上り、次はうみ。
うみはハシゴに手をかけた所で俺を振り返った。
「…樹さん」
「何?」
「この前の戦いで、北人さんの血が止まらなくて」
「…そうだ、うみが治してくれたって」
「はい。人魚のキスはあらゆる怪我や病気を治すと伝えられています」
「…え、」
確かに北人さんは左腕に傷を負った。
『うみが治してくれた』という北人さんの言葉。今まで色々あって気にとめてなかったけど、そういうことだったのか。
「でも、キスをしてもうっすら傷跡が残ってたんです。完璧に治せたわけじゃなかった」
人魚は治癒力の高い生き物だ。口づけは傷や病気を癒し、肉は長寿の力をもたらす。
しかし、万能薬ではない。
治癒できるものにも、限度があるのだとしたら。
「…人魚の癒す力も万能じゃないってこと?」
「はい」
ハシゴを掴む手にぎゅっと力を込めて、うみは続ける。
「海軍はおそらく、人魚の長寿の力を狙っている。もしこれからもTHE RAMPAGEのみなさんが私への手がかりとして狙われ続けるとして、誰かが慎さんや私でも治せないような怪我をしたとしたら」
だんだんうみが何を言いたいのか分かってきた。
あの戦いから、うみはずっとそのことを考えていたんだ。
「それが怖いんです。私のせいで樹さんやみなさんを危険に晒すことが。それならいっそ、私が海軍に投降してしまえば…」
「ダメだ、そんなの」
思わず強い口調で遮って、ハシゴを持っていない方の手をぎゅっと握った。
うみは優しいから。
自分よりも俺たちを優先させようとしている。
でも、そんなの。
「約束しただろ。俺たちは死なないって。必ずうみを両親のもとに送り届けてみせるから。何も心配しなくていいから」
うみを失いたくない。
それが本音だった。
うみは大きな瞳を潤ませて、俺を見つめている。
俺が送ったネックレスと同じくらい、いやそれ以上に美しいその瞳を守ってやりたい。
傷を治すためとはいえ、口づけをされた北人さんに嫉妬しているような器の小さい自分が守り手に相応しいかは分からないけれど。
「だからそんなこと言わないで、頼むから。仲間だろ」
「樹さん…」
いつまで経っても上がってこない俺たちを気にして、翔平が上から顔を出す。ちょうどそこへ買い出し組も戻ってきた。
うみの手がはたりと、ハシゴから落ちる。
「私、嬉しいんです。THE RAMPAGEのみなさんが、種族も違う私を助けてくれて、仲間として受け入れてくれたことが。生まれてはじめて心から信頼できる人間に出会えたことが」
大きな瞳から一筋の涙が溢れた。
それは顎を伝って零れ、俺の手の甲に触れた瞬間に大粒の宝石に変わる。
青みがかった紫色。
アイオライトだ。
俺が反射的にそれを受け止めると同時にうみの手がするりと離れていった。
「樹さんも、みなさんも。大切な仲間だから、余計に失うのが怖いんです」
立ち尽くす俺に微笑みかけて、うみは口を開いた。
美しい歌声が浜辺に広がっていく。
ふいに視界がぐらりと揺らめいた。
うみの手をもう一度掴みたいのに身体が言うことをきかない。力が入らない。
霞がかった頭の隅で、あぁ、と理解する。
人魚の歌は人を惑わせる。それは例えば、眠らせることだってできるかもしれない。
今まで全然本気出して歌ってなかったってことか。
あぁ、ダメだ。
行くな。
そばにいて、俺の大切なひと。
「THE RAMPAGEの仲間になれて幸せでした。さようなら…それから、樹さん。これが最後なので、言わせてください。
あなたのことが────────────────」
それが心配でちょくちょく声をかけに行くんだけど、以前のような明るさは戻らない。
俺たちは奇襲に備えて見張りを強化するようになった。
幸いにもあれ以降海軍とは出会わず、気候も安定。
そして次の島に到着した。
今うみを単独行動させるのはまずいし、俺たちが目立った行動を取るのもよくない。
力矢さんと陣さんの判断で船を目立たない場所に停め、数人だけで資源の調達に向かうことになった。買い出し組が戻ってきたら即出航だ。
「…いつまでも塞ぎ込んでても気が滅入るだろ。樹、ちょっとうみに声かけてそこら辺の海岸散歩してきてくれる?翔平もついて行ってやれ」
「はい」
俺は図書室に降りて水の中をぼんやりと泳ぐうみに声をかけた。
「うみ、ちょっと海岸に降りよう。気分転換に散歩でも。俺と翔平がついてるから」
「いいんですか?」
「力矢さんが言ってくれたんだよ」
「じゃあ…ちょっとだけ。着替えてくるので待っててください」
数分後、俺と翔平、それから人間の姿になったうみは砂浜の海岸に降り立った。
船からあまり離れないよう、ゆっくりと波打ち際を歩く。
「ふふ、砂がくすぐったいです」
「人魚のヒレも憧れるけど、自分の足でも歩ける人魚ってすげえ羨ましい」
「でも人魚は1日以上水に触れないでいると呼吸が出来なくなっちゃうから、完全な人間ってわけにはいきませんね」
「へぇ~ちなみに俺は『1日以上誰かと喋らないでいると死んじゃう』生態を持ってる」
「あはは、翔平さんっぽいです」
うみは白い足でぱしゃぱしゃと水を蹴りあげる。その顔に少し笑顔が戻っているのを見て、俺は少し安心した。
しばらく3人で他愛もない話をしたところで船へと引き返す。
「翔平と人魚と滑舌の悪いイケメンが戻りましたぁ~!」
「おい」
終始うみを笑わせることに努めていた翔平は本当に優しい奴だ、と改めて思う。けど滑舌悪いイケメンって。
1番はじめに翔平がハシゴを上り、次はうみ。
うみはハシゴに手をかけた所で俺を振り返った。
「…樹さん」
「何?」
「この前の戦いで、北人さんの血が止まらなくて」
「…そうだ、うみが治してくれたって」
「はい。人魚のキスはあらゆる怪我や病気を治すと伝えられています」
「…え、」
確かに北人さんは左腕に傷を負った。
『うみが治してくれた』という北人さんの言葉。今まで色々あって気にとめてなかったけど、そういうことだったのか。
「でも、キスをしてもうっすら傷跡が残ってたんです。完璧に治せたわけじゃなかった」
人魚は治癒力の高い生き物だ。口づけは傷や病気を癒し、肉は長寿の力をもたらす。
しかし、万能薬ではない。
治癒できるものにも、限度があるのだとしたら。
「…人魚の癒す力も万能じゃないってこと?」
「はい」
ハシゴを掴む手にぎゅっと力を込めて、うみは続ける。
「海軍はおそらく、人魚の長寿の力を狙っている。もしこれからもTHE RAMPAGEのみなさんが私への手がかりとして狙われ続けるとして、誰かが慎さんや私でも治せないような怪我をしたとしたら」
だんだんうみが何を言いたいのか分かってきた。
あの戦いから、うみはずっとそのことを考えていたんだ。
「それが怖いんです。私のせいで樹さんやみなさんを危険に晒すことが。それならいっそ、私が海軍に投降してしまえば…」
「ダメだ、そんなの」
思わず強い口調で遮って、ハシゴを持っていない方の手をぎゅっと握った。
うみは優しいから。
自分よりも俺たちを優先させようとしている。
でも、そんなの。
「約束しただろ。俺たちは死なないって。必ずうみを両親のもとに送り届けてみせるから。何も心配しなくていいから」
うみを失いたくない。
それが本音だった。
うみは大きな瞳を潤ませて、俺を見つめている。
俺が送ったネックレスと同じくらい、いやそれ以上に美しいその瞳を守ってやりたい。
傷を治すためとはいえ、口づけをされた北人さんに嫉妬しているような器の小さい自分が守り手に相応しいかは分からないけれど。
「だからそんなこと言わないで、頼むから。仲間だろ」
「樹さん…」
いつまで経っても上がってこない俺たちを気にして、翔平が上から顔を出す。ちょうどそこへ買い出し組も戻ってきた。
うみの手がはたりと、ハシゴから落ちる。
「私、嬉しいんです。THE RAMPAGEのみなさんが、種族も違う私を助けてくれて、仲間として受け入れてくれたことが。生まれてはじめて心から信頼できる人間に出会えたことが」
大きな瞳から一筋の涙が溢れた。
それは顎を伝って零れ、俺の手の甲に触れた瞬間に大粒の宝石に変わる。
青みがかった紫色。
アイオライトだ。
俺が反射的にそれを受け止めると同時にうみの手がするりと離れていった。
「樹さんも、みなさんも。大切な仲間だから、余計に失うのが怖いんです」
立ち尽くす俺に微笑みかけて、うみは口を開いた。
美しい歌声が浜辺に広がっていく。
ふいに視界がぐらりと揺らめいた。
うみの手をもう一度掴みたいのに身体が言うことをきかない。力が入らない。
霞がかった頭の隅で、あぁ、と理解する。
人魚の歌は人を惑わせる。それは例えば、眠らせることだってできるかもしれない。
今まで全然本気出して歌ってなかったってことか。
あぁ、ダメだ。
行くな。
そばにいて、俺の大切なひと。
「THE RAMPAGEの仲間になれて幸せでした。さようなら…それから、樹さん。これが最後なので、言わせてください。
あなたのことが────────────────」