第二章
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大砲の音、剣と剣がぶつかる音。
悲鳴、唸り声、断末魔。
「樹さん、みんな…!」
THE RAMPAGE号と海軍の船、計4隻の甲板は戦場と化していた。
私は樹さんの猫たちを抱きながら、上甲板にある隠し部屋に潜む。
個々の強さでいったら間違いなくTHE RAMPAGEが上だろう。
しかし、みんなが苦戦する原因はその圧倒的な数力差にあった。
こちらが16人なのに対し、向こうの勢力は約1000人。水夫までもが訓練を施された戦闘員で構成されているらしい。
「クッソ…キリがないな」
慎さんが舌打ちを打つ。そんな慎さんと背中合わせで戦う壱馬さんも息が上がっていた。
…と、モノクルを付けて高い位置から銃を構えていた昂秀さんが焦りの表情を浮かべる。
「…やべぇ」
一体どうしたのか、と血の海のような船上を見回して。
気がついた。
北人さんの様子がおかしい。
左腕についた切り傷。そこを押さえたことで手のひらにべったりとついた鮮血を見つめている。
絶えず流転する戦いの中において、北人さんだけが時間が止まったようだった。
「北人さん…?」
窓のふちに手をかけて、大鎌を持ったまま固まる北人さんを見つめる。
そんな様子に、樹さんも気づいた。
「…!しまった」
どうしたのだろう。自分の手のひらを見つめたままだった北人さんの口角がつり上がった。
「血…」
「北人さん、落ち着いてください!」
樹さんの叫びに他のみんなも気がついた。
動かない北人さんを狙った海兵がカトラスを振り上げる。
と。
それまで微動だにしなかった北人さんが、突然予備動作もなしに片腕だけで大鎌を振り抜いた。
ざくり、内蔵や骨の断面図までがくっきりと見えるような鋭い一撃。
吹き出る血しぶきの向こうで、北人さんは瞳をギラギラと光らせながら笑っていた。
「血だァ…」
その表情に、ぞくりと恐怖を覚える。
北人さんじゃない。
誰だあれは。
「陣さん!!北人さんが!!」
昂秀さんが叫ぶ。陣さんは突然豹変したその様子を見て舌打ちをもらした。
「クソ…最悪のタイミングで出てきやがった、『自分の血を見たら理性がトぶ』北ちゃんのクセ。お前ら、今の北ちゃんには近付くなよ!敵も味方も判別できずに、自分の身体がぶっ壊れるまで止まらへんで!」
そんな…!
普段はあんなに温厚な北人さんが、そんな。
私の見つめる先で、北人さんはリミッターが外れたようなめちゃくちゃな戦いを繰り広げている。
怪我した左腕も厭わずに自分の身長よりも大きな鎌を振り回し、視界に入った者を片っ端から殺していく。
「ぎゃああああああああああああああああああ」
恐怖にまみれた絶叫は、大鎌を振り上げる北人さんに船の隅まで追い詰められた海兵のもの。
隣の船にいる私の耳にまで届く、空気を切り裂く音。
硬い木製の甲板が北人さんを中心に粉砕された。
いや、それだけじゃない。
「ウソでしょ…!?」
大鎌の一撃は最下甲板にまで達し、竜骨までも真っ二つにしてみせた。
巨大なキャラック船が轟音と共に沈み始める。
あんな細い身体のどこにそんな力があるのだろう。私はただ恐ろしくて、まいるやココを抱きしめガタガタと震える。
大鎌の先に人間をぶら下げてこちらを振り返るその姿は、まるで悪魔だった。
その時。
隣の船から、式島が両手を広げて嘲笑った。
「『THE RAMPAGEの死神』か。己の血で我を忘れるとは笑止千万!かかってこい、私が冥界へと送り返してやる」
北人さんが沈み行く船から飛ぶ。と思えば式島のいるガレオン船へと乗り移った。
激しく打ち合うふたり。
初めのうちは力量は互角に思われた。
でも、手数を重ねるにつれて徐々に北人さんが劣勢に立たされ始める。
理性を保っている分、式島の方が有利だった。
と。
ガギィッ
金属同士がぶつかる嫌な音がした。
北人さんが式島の撃ち込みのパワーに耐えきれず、船の外まで吹っ飛ばされる。
「北人さん!!!!」
樹さんの叫ぶ声。
ドボンと、水しぶきをあげて北人さんが海に落ちた。
「まずい、北人あいつ泳げへんで!」
とっさに壱馬さんが助けに行こうとするも海兵に阻まれた。
北人さんは浮かび上がってこない。みんなは助けに行こうにも倒しても倒しても尽きることのない敵の攻撃を防ぐのに精一杯で。
「にゃあ」
じゅじゅが小さな声で鳴いた。
その声で、私は弾かれたように立ち上がる。
猫の言葉は分からなくても、気持ちは通じた。
「ごめん。まいる、ピアス、ココ、でお、じゅじゅ。ここに隠れててね。見つかっちゃダメだよ」
「にゃ」
海に面した窓ははめ殺し。
私は近くにあったバールを手に取ると、窓ガラスに向かって思い切り振りかぶった。
ガシャンと派手な音を立てて窓が割れる。
通れる。
敵の狙いは私であることは、もう忘れていた。
とにかく北人さんを助けないと、とそればかりで。
服も着たまま海に飛び込む。
「うみ!?」
樹さんの声が聞こえたが答えなかった。
海の中でスカートも下着も脱いで人魚の姿になると、あたりを見回す。
THE RAMPAGEのみんなに倒された海兵たちが浮かぶ中で、見つけた。
「北人さん…!」
大鎌を持ったまま沈んでいく北人さん。意識を失ってしまったのだろうか、目を閉じている。
その周りの水は血で赤く染まっていた。
「北人さん、北人さん!」
その身体を抱きとめて、水をかき一気に海面へ。空気を吸って咳き込んではいるが相変わらず目は閉じたままだ。
左腕の傷から溢れる血で、水がどんどん赤くなる。とにかく手当をしようと思い、私は少し離れた所に突き出た岩場へと泳いでいった。
敵の死角となる位置で北人さんを岩へと引っ張りあげる。
「北人さん…!北人さん聞こえますか!?お願い、目を開けて…!」
傷口を抑えても、後から後から血が溢れてくる。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
パニックになりかけた私の頭に浮かんだのは、人魚の特性についてのこと。
人魚のキスはあらゆる怪我や病気を治す。
これしかない。
とにかく助けたい一心で、私は北人さんの唇に自分のそれを押し当てた。
お願い。無事でいて。
その時。
「ん…」
「!」
北人さんの目が開いた。私は顔を離して左腕を確認する。
そこにはうっすらと傷跡が残っているだけだった。
「よかった…」
私は思わず大きく息をはいて、がばりと北人さんに抱きつく。
「よかった、無事で…!」
「うみ…?」
北人さんは状況を飲み込めずに混乱しているみたいだったけど、私の背中に腕を回してさすってくれた。
「えっと…何があったか全然覚えてないんだけど、戦いはどうなった?」
「まだ続いてます。北人さんは自分の血を見て暴走して、海に落ちたんです。血が止まらなかったので、その…私の人魚の力で治そうと思って…」
「あー…そっか、人魚のキス」
北人さんは岩に頭を預けて天を仰いだ。
「樹に怒られる…」
何で樹さんが怒るんだろう。よく分からないけど、北人さんはもう一度私の身体を軽く抱き寄せた。
「ありがとう。うみのお陰で助かった。迷惑かけてごめん」
悲鳴、唸り声、断末魔。
「樹さん、みんな…!」
THE RAMPAGE号と海軍の船、計4隻の甲板は戦場と化していた。
私は樹さんの猫たちを抱きながら、上甲板にある隠し部屋に潜む。
個々の強さでいったら間違いなくTHE RAMPAGEが上だろう。
しかし、みんなが苦戦する原因はその圧倒的な数力差にあった。
こちらが16人なのに対し、向こうの勢力は約1000人。水夫までもが訓練を施された戦闘員で構成されているらしい。
「クッソ…キリがないな」
慎さんが舌打ちを打つ。そんな慎さんと背中合わせで戦う壱馬さんも息が上がっていた。
…と、モノクルを付けて高い位置から銃を構えていた昂秀さんが焦りの表情を浮かべる。
「…やべぇ」
一体どうしたのか、と血の海のような船上を見回して。
気がついた。
北人さんの様子がおかしい。
左腕についた切り傷。そこを押さえたことで手のひらにべったりとついた鮮血を見つめている。
絶えず流転する戦いの中において、北人さんだけが時間が止まったようだった。
「北人さん…?」
窓のふちに手をかけて、大鎌を持ったまま固まる北人さんを見つめる。
そんな様子に、樹さんも気づいた。
「…!しまった」
どうしたのだろう。自分の手のひらを見つめたままだった北人さんの口角がつり上がった。
「血…」
「北人さん、落ち着いてください!」
樹さんの叫びに他のみんなも気がついた。
動かない北人さんを狙った海兵がカトラスを振り上げる。
と。
それまで微動だにしなかった北人さんが、突然予備動作もなしに片腕だけで大鎌を振り抜いた。
ざくり、内蔵や骨の断面図までがくっきりと見えるような鋭い一撃。
吹き出る血しぶきの向こうで、北人さんは瞳をギラギラと光らせながら笑っていた。
「血だァ…」
その表情に、ぞくりと恐怖を覚える。
北人さんじゃない。
誰だあれは。
「陣さん!!北人さんが!!」
昂秀さんが叫ぶ。陣さんは突然豹変したその様子を見て舌打ちをもらした。
「クソ…最悪のタイミングで出てきやがった、『自分の血を見たら理性がトぶ』北ちゃんのクセ。お前ら、今の北ちゃんには近付くなよ!敵も味方も判別できずに、自分の身体がぶっ壊れるまで止まらへんで!」
そんな…!
普段はあんなに温厚な北人さんが、そんな。
私の見つめる先で、北人さんはリミッターが外れたようなめちゃくちゃな戦いを繰り広げている。
怪我した左腕も厭わずに自分の身長よりも大きな鎌を振り回し、視界に入った者を片っ端から殺していく。
「ぎゃああああああああああああああああああ」
恐怖にまみれた絶叫は、大鎌を振り上げる北人さんに船の隅まで追い詰められた海兵のもの。
隣の船にいる私の耳にまで届く、空気を切り裂く音。
硬い木製の甲板が北人さんを中心に粉砕された。
いや、それだけじゃない。
「ウソでしょ…!?」
大鎌の一撃は最下甲板にまで達し、竜骨までも真っ二つにしてみせた。
巨大なキャラック船が轟音と共に沈み始める。
あんな細い身体のどこにそんな力があるのだろう。私はただ恐ろしくて、まいるやココを抱きしめガタガタと震える。
大鎌の先に人間をぶら下げてこちらを振り返るその姿は、まるで悪魔だった。
その時。
隣の船から、式島が両手を広げて嘲笑った。
「『THE RAMPAGEの死神』か。己の血で我を忘れるとは笑止千万!かかってこい、私が冥界へと送り返してやる」
北人さんが沈み行く船から飛ぶ。と思えば式島のいるガレオン船へと乗り移った。
激しく打ち合うふたり。
初めのうちは力量は互角に思われた。
でも、手数を重ねるにつれて徐々に北人さんが劣勢に立たされ始める。
理性を保っている分、式島の方が有利だった。
と。
ガギィッ
金属同士がぶつかる嫌な音がした。
北人さんが式島の撃ち込みのパワーに耐えきれず、船の外まで吹っ飛ばされる。
「北人さん!!!!」
樹さんの叫ぶ声。
ドボンと、水しぶきをあげて北人さんが海に落ちた。
「まずい、北人あいつ泳げへんで!」
とっさに壱馬さんが助けに行こうとするも海兵に阻まれた。
北人さんは浮かび上がってこない。みんなは助けに行こうにも倒しても倒しても尽きることのない敵の攻撃を防ぐのに精一杯で。
「にゃあ」
じゅじゅが小さな声で鳴いた。
その声で、私は弾かれたように立ち上がる。
猫の言葉は分からなくても、気持ちは通じた。
「ごめん。まいる、ピアス、ココ、でお、じゅじゅ。ここに隠れててね。見つかっちゃダメだよ」
「にゃ」
海に面した窓ははめ殺し。
私は近くにあったバールを手に取ると、窓ガラスに向かって思い切り振りかぶった。
ガシャンと派手な音を立てて窓が割れる。
通れる。
敵の狙いは私であることは、もう忘れていた。
とにかく北人さんを助けないと、とそればかりで。
服も着たまま海に飛び込む。
「うみ!?」
樹さんの声が聞こえたが答えなかった。
海の中でスカートも下着も脱いで人魚の姿になると、あたりを見回す。
THE RAMPAGEのみんなに倒された海兵たちが浮かぶ中で、見つけた。
「北人さん…!」
大鎌を持ったまま沈んでいく北人さん。意識を失ってしまったのだろうか、目を閉じている。
その周りの水は血で赤く染まっていた。
「北人さん、北人さん!」
その身体を抱きとめて、水をかき一気に海面へ。空気を吸って咳き込んではいるが相変わらず目は閉じたままだ。
左腕の傷から溢れる血で、水がどんどん赤くなる。とにかく手当をしようと思い、私は少し離れた所に突き出た岩場へと泳いでいった。
敵の死角となる位置で北人さんを岩へと引っ張りあげる。
「北人さん…!北人さん聞こえますか!?お願い、目を開けて…!」
傷口を抑えても、後から後から血が溢れてくる。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
パニックになりかけた私の頭に浮かんだのは、人魚の特性についてのこと。
人魚のキスはあらゆる怪我や病気を治す。
これしかない。
とにかく助けたい一心で、私は北人さんの唇に自分のそれを押し当てた。
お願い。無事でいて。
その時。
「ん…」
「!」
北人さんの目が開いた。私は顔を離して左腕を確認する。
そこにはうっすらと傷跡が残っているだけだった。
「よかった…」
私は思わず大きく息をはいて、がばりと北人さんに抱きつく。
「よかった、無事で…!」
「うみ…?」
北人さんは状況を飲み込めずに混乱しているみたいだったけど、私の背中に腕を回してさすってくれた。
「えっと…何があったか全然覚えてないんだけど、戦いはどうなった?」
「まだ続いてます。北人さんは自分の血を見て暴走して、海に落ちたんです。血が止まらなかったので、その…私の人魚の力で治そうと思って…」
「あー…そっか、人魚のキス」
北人さんは岩に頭を預けて天を仰いだ。
「樹に怒られる…」
何で樹さんが怒るんだろう。よく分からないけど、北人さんはもう一度私の身体を軽く抱き寄せた。
「ありがとう。うみのお陰で助かった。迷惑かけてごめん」