第二章
夢小説設定
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樹さんがキスしたことを覚えてなかった。
そりゃそんなの無責任だとか、ファーストキスだったのにとか、言いたいことは沢山あるけれど。
でも。
このまま無かったことにしてしまえば。
樹さんの笑顔や、真剣な顔や、少し不機嫌そうな顔。
それを見る度に胸がきゅっとなってしまうこの気持ちを捨ててしまえるかもしれない。
「人魚と人間の恋なんて、できるはずないのに」
水槽の中で膝(にあたる部分)を抱え、くるくると回ってみる。
と、回転する視界の端で図書室に降りてくる北人さんの姿を捉えた。
「北人さん」
「海が落ち着いてるから俺いらないって。酷いよね」
「航海が順調なのはいいことです」
「ま、確かに」
北人さんは肩を竦めると、水槽のガラスに手をついて私を見上げた。
「悩んでることがあるんじゃない?」
「え?」
北人さんの少し目尻の下がった大きな瞳が、悪戯っぽく煌めいた。
悩んでること、は。あるけど。
「俺、あの時起きてたんだよ」
…なんだって?
「物音がしたから目が覚めちゃって、見たらうみと樹が…」
「わーっ!!!ストップ!!!やめてください!!!」
「ははっ、必死」
あの時見られてたなんて。
まさか北人さんだけじゃなくて他の人も起きてたんじゃ…!?
そんな私の思考を見抜くように、北人さんは笑う。
「大丈夫、あの時起きてたの俺だけだから。さ、おにーさんに相談してみ?これでも結構モテるから恋愛経験は豊富なんだよ」
確かに北人さんモテそうだけど。
私は少し迷ってから図書室に誰もいないことを確認して、小声で話し始めた。
「…樹さんが覚えてないなら、それでいいんです。無かったことにしちゃえば」
「何で?もしかしたら想いが通じ合ってるかもしれないのに?」
「だって、私は人魚で樹さんは人間だから…ダメなんです、好きになっちゃ」
もし、あのキスが本気だったとしたら。
この思いは、きっともう隠しきれないから。
「いいんです、これで。あの夜私と樹さんの間には何も無かった。そういうことにしておいてくれませんか?お願いします」
私がぺこりと頭を下げると、北人さんは困り顔で頭をかいた。
「うみがそう言うなら…」
「ありがとうございます」
これでいいんだ。
あの人は好きになっちゃいけない人だから。
と、不意に北人さんの顔が真剣になった。
「でもさ、どうせ俺たちは海賊、自由を求める身。それこそ種族なんて気にしてない。それに…」
ふっと、北人さんの赤みがかったブラウンの瞳が伏せられる。
「後から後悔する恋もあるってこと、忘れないで」
「北人さん…?」
そんな、悲しそうな顔。
私は北人さんのそんな顔を見たくなくて、ガラス越しにそっと手のひらを合わせる。
「…話、聞いてくださってありがとうございます。少しスッキリしました」
「ん。ならよかった」
北人さんにようやく笑顔が戻った。
そうだ。私は北人さんのくしゃっと笑う笑顔が好き。
北人さんはガラス越しに重なった手のひらを眺め、「うみ手ぇ小さいね」なんて楽しそうに言う。
「そうですかね?」
「うん。可愛い」
「…可愛くないです」
今まで可愛いなんて言ってくれる人はいなかったから、どう反応すればいいか分からない。
私が顔を赤くしてガラスから離れると、北人さんも後ろに下がった。
「…じゃ、トレーニングしてくるね」
「はい」
「応援してるから」
樹もうみも、大事な仲間だからね。
北人さんは優しい声でそう言って図書室を出ていった。
「後から後悔する恋、か」
あれは北人さんの実体験だろうか。
でも、私はきっと後悔なんてしないだろう。
だってこれはまだ恋じゃないから。
恋にしちゃいけないものだから。
そりゃそんなの無責任だとか、ファーストキスだったのにとか、言いたいことは沢山あるけれど。
でも。
このまま無かったことにしてしまえば。
樹さんの笑顔や、真剣な顔や、少し不機嫌そうな顔。
それを見る度に胸がきゅっとなってしまうこの気持ちを捨ててしまえるかもしれない。
「人魚と人間の恋なんて、できるはずないのに」
水槽の中で膝(にあたる部分)を抱え、くるくると回ってみる。
と、回転する視界の端で図書室に降りてくる北人さんの姿を捉えた。
「北人さん」
「海が落ち着いてるから俺いらないって。酷いよね」
「航海が順調なのはいいことです」
「ま、確かに」
北人さんは肩を竦めると、水槽のガラスに手をついて私を見上げた。
「悩んでることがあるんじゃない?」
「え?」
北人さんの少し目尻の下がった大きな瞳が、悪戯っぽく煌めいた。
悩んでること、は。あるけど。
「俺、あの時起きてたんだよ」
…なんだって?
「物音がしたから目が覚めちゃって、見たらうみと樹が…」
「わーっ!!!ストップ!!!やめてください!!!」
「ははっ、必死」
あの時見られてたなんて。
まさか北人さんだけじゃなくて他の人も起きてたんじゃ…!?
そんな私の思考を見抜くように、北人さんは笑う。
「大丈夫、あの時起きてたの俺だけだから。さ、おにーさんに相談してみ?これでも結構モテるから恋愛経験は豊富なんだよ」
確かに北人さんモテそうだけど。
私は少し迷ってから図書室に誰もいないことを確認して、小声で話し始めた。
「…樹さんが覚えてないなら、それでいいんです。無かったことにしちゃえば」
「何で?もしかしたら想いが通じ合ってるかもしれないのに?」
「だって、私は人魚で樹さんは人間だから…ダメなんです、好きになっちゃ」
もし、あのキスが本気だったとしたら。
この思いは、きっともう隠しきれないから。
「いいんです、これで。あの夜私と樹さんの間には何も無かった。そういうことにしておいてくれませんか?お願いします」
私がぺこりと頭を下げると、北人さんは困り顔で頭をかいた。
「うみがそう言うなら…」
「ありがとうございます」
これでいいんだ。
あの人は好きになっちゃいけない人だから。
と、不意に北人さんの顔が真剣になった。
「でもさ、どうせ俺たちは海賊、自由を求める身。それこそ種族なんて気にしてない。それに…」
ふっと、北人さんの赤みがかったブラウンの瞳が伏せられる。
「後から後悔する恋もあるってこと、忘れないで」
「北人さん…?」
そんな、悲しそうな顔。
私は北人さんのそんな顔を見たくなくて、ガラス越しにそっと手のひらを合わせる。
「…話、聞いてくださってありがとうございます。少しスッキリしました」
「ん。ならよかった」
北人さんにようやく笑顔が戻った。
そうだ。私は北人さんのくしゃっと笑う笑顔が好き。
北人さんはガラス越しに重なった手のひらを眺め、「うみ手ぇ小さいね」なんて楽しそうに言う。
「そうですかね?」
「うん。可愛い」
「…可愛くないです」
今まで可愛いなんて言ってくれる人はいなかったから、どう反応すればいいか分からない。
私が顔を赤くしてガラスから離れると、北人さんも後ろに下がった。
「…じゃ、トレーニングしてくるね」
「はい」
「応援してるから」
樹もうみも、大事な仲間だからね。
北人さんは優しい声でそう言って図書室を出ていった。
「後から後悔する恋、か」
あれは北人さんの実体験だろうか。
でも、私はきっと後悔なんてしないだろう。
だってこれはまだ恋じゃないから。
恋にしちゃいけないものだから。