第一章
夢小説設定
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黄昏時。
「着いた…」
俺たちは真っ白い雪の積もる海岸に降り立った。あたりには難破した船の破片らしきものも転がっている。
「すごい!真っ白!これが雪なんですね!」
うみは嬉しそうに雪の塊に駆け寄るとなんの躊躇いもなく手を突っ込んで、「冷たっ」と飛び跳ねた。
可愛い。
「雪、初めて見るの?」
「はい、私の住んでたところは暖かい気候だったので」
みなさんと一緒にいると初めてのことばかり経験できるので楽しいです、そう笑ううみの瞳と同じ色の宝石が胸元で輝いているのを見て、俺の中の子供じみた思いが満たされるのを感じる。
まだ名前のないこの思い。
「さむ…こんな所に出る怪物って、雪男とかっすかね」
「どうせやったら美人の雪女がええな」
慎と壱馬さんがそんな会話をしている。絵本でしか見たことがなかった人魚が実在していることを知ってしまった今となっては、みんなその手の伝説じみたものに寛容になりつつある。
「奥に街があるかもしれない。そこで物資を分けてもらおう」
「「はい」」
俺はまだ雪と戯れているうみを振り返った。
「うみ、そんなに冷たいのばっか触ってると手が凍傷になって腐って落ちるよ」
「えっ!?本当ですか!?」
「うそ。ほら、行くよ」
うみは一瞬ぽかんとした顔をしていたが、すぐに頬を膨らませて追いかけてきた。
「世間知らずだからってからかわないでくださいよ」
「ちょっとは人を疑えば?そんなんだから攫われるんだろ」
「うっ…」
痛いところを突かれて口ごもる。
「で、でも」
「うん?」
「私は樹さんたちを信じるって決めたから今ここにいられるんです。疑ってひとりぼっちになるよりも、信じる方がずっといい」
驚くほど純粋で、無垢で。
美しいひと。
俺は思わず笑ってしまった。
「あっまたバカにしてる」
「樹、あんまいじめてるとうみに海に沈められるぞ」
みかねた翔平がそう言った時、ふいに視界が広がった。
「街だ」
大きくはないが、それなりに栄えた街らしかった。道を通りかかった住人が俺たちを見て眉を顰める。
「あんたら貿易商…ってわけじゃなさそうだな。海賊かい?」
「はい。THE RAMPAGEです。俺は船長の力矢。この宝石類と物々交換で物資を分けてほしいんですが」
海軍や貿易船には敵視される海賊だが、こうした民間には歓迎されることの方が多い。
食料や生活必需品をまとめ買いしてくれる大口の客である上に、財宝なども提供してくれるからだ。
「あぁ、それはありがたい。店に案内しよう」
俺たちは案内された先の店で水や食料、その他諸々の航海に必要なものを買い揃えた。
外はすっかり夜。今夜はこの街に泊まることになりそうだ。
「この街に泊まれるところはありますか?」
「宿があるよ。近くには酒屋もある。君たちは久しぶりの上客だし、みんな歓迎してくれるだろ」
「酒!」
健太さんの反応が速い。俺たちはさっそく宿に荷物を置くと酒屋に繰り出した。
大きな酒屋には街の女もいて、みんな楽しそうにどんちゃん騒ぎをしている。
「この街の方はみんな優しいんですね!こんなに手厚く歓迎してくださるなんて」
「…うん」
「樹さん?」
北人さんが3杯目で既に爆睡モードに入っている。いつもは5杯目からなのに。
他のみんなもいつもより酔いが回るのが速い。女たちがどんどん飲ませてくるのもあるが…
おかしい。
「うみ、ちょっと抜け出そうか」
「え?」
まぁうちの男どもは心配しなくても大丈夫だろう。最優先に守るべきはうみだ。
なるべく自然にこの場を抜け出す必要がある。
俺はうみの肩を抱くと、耳元に顔を寄せた。
「俺に口説かれてるフリをしてこのまま聞いて。これは罠だ。理由は分からないけど、たぶんこのお酒には睡眠薬が入ってる。俺たちを眠らせてどこかへ連れていくつもりなんだと思う」
うみの身体が強ばる。
「他のみんなは馬鹿みたいに強いから大丈夫。とにかく、俺たちはここを抜け出そう」
「で、でも…」
「大丈夫」
俺はわざと周りにも聞こえるようなボリュームに戻して言った。
「優しくしてあげるから」
これは演技。
演技なのに、うみは顔を真っ赤にしている。
こっちまで恥ずかしくなってきたので俺は肩を抱いたままさっさと立ち上がらせて出口に向かった。
酒屋の扉に手をかけたところでピタリと立ち止まる。
「…どういうつもりか知らないけど、」
俺はうみの肩を抱く手にぐっと力を込めた。振り返らないまま背後の『そいつ』に向かって言う。
「俺たちに手を出すんなら、それ相応の覚悟はしてんだろうな」
発砲音。
俺はうみの脚をひっかけて転ばせる。床に背中を打つ直前でその腰に腕を回して支えると同時に刀を抜いた。
刀身と弾頭がぶつかって火花が散る。
「い、樹さ、」
俺の真下でうみは怯えたように目を瞬いている。俺はぐっと腕に力を込めて立ち上がらせると自分の背後に下がらせた。
「ごめん、気づくのが遅かった。俺から離れないで」
「はっ、はい」
酒屋の中にさっきまでの楽しい雰囲気はなかった。
代わりに立ち込めるのは殺気。
男女問わず手に武器を取り、血走った目で俺を睨みつけている。酒屋の外にも何人もの気配を感じるから、恐らく初めてから俺たちを嵌めるつもりだったんだろう。
「…寝たフリ、バレてますよ」
俺が呑気にいびきをかく15人に向かって言うと、堪えきれなくなった陣さんがくつくつと肩を震わせながら起き上がった。他のみんなも酔い潰れたフリはやめて起き始める。
「なんや、樹だけで充分やろ」
「タダ働きはいやです」
せっかく久しぶりの地上でゆっくり酒を楽しめると思ったらこれだ。俺だけ面倒を押し付けられるのは納得いかない。
俺は街の住人たちに鋭い視線を向けた。
「先に仕掛けたのはそっちだからな」
「着いた…」
俺たちは真っ白い雪の積もる海岸に降り立った。あたりには難破した船の破片らしきものも転がっている。
「すごい!真っ白!これが雪なんですね!」
うみは嬉しそうに雪の塊に駆け寄るとなんの躊躇いもなく手を突っ込んで、「冷たっ」と飛び跳ねた。
可愛い。
「雪、初めて見るの?」
「はい、私の住んでたところは暖かい気候だったので」
みなさんと一緒にいると初めてのことばかり経験できるので楽しいです、そう笑ううみの瞳と同じ色の宝石が胸元で輝いているのを見て、俺の中の子供じみた思いが満たされるのを感じる。
まだ名前のないこの思い。
「さむ…こんな所に出る怪物って、雪男とかっすかね」
「どうせやったら美人の雪女がええな」
慎と壱馬さんがそんな会話をしている。絵本でしか見たことがなかった人魚が実在していることを知ってしまった今となっては、みんなその手の伝説じみたものに寛容になりつつある。
「奥に街があるかもしれない。そこで物資を分けてもらおう」
「「はい」」
俺はまだ雪と戯れているうみを振り返った。
「うみ、そんなに冷たいのばっか触ってると手が凍傷になって腐って落ちるよ」
「えっ!?本当ですか!?」
「うそ。ほら、行くよ」
うみは一瞬ぽかんとした顔をしていたが、すぐに頬を膨らませて追いかけてきた。
「世間知らずだからってからかわないでくださいよ」
「ちょっとは人を疑えば?そんなんだから攫われるんだろ」
「うっ…」
痛いところを突かれて口ごもる。
「で、でも」
「うん?」
「私は樹さんたちを信じるって決めたから今ここにいられるんです。疑ってひとりぼっちになるよりも、信じる方がずっといい」
驚くほど純粋で、無垢で。
美しいひと。
俺は思わず笑ってしまった。
「あっまたバカにしてる」
「樹、あんまいじめてるとうみに海に沈められるぞ」
みかねた翔平がそう言った時、ふいに視界が広がった。
「街だ」
大きくはないが、それなりに栄えた街らしかった。道を通りかかった住人が俺たちを見て眉を顰める。
「あんたら貿易商…ってわけじゃなさそうだな。海賊かい?」
「はい。THE RAMPAGEです。俺は船長の力矢。この宝石類と物々交換で物資を分けてほしいんですが」
海軍や貿易船には敵視される海賊だが、こうした民間には歓迎されることの方が多い。
食料や生活必需品をまとめ買いしてくれる大口の客である上に、財宝なども提供してくれるからだ。
「あぁ、それはありがたい。店に案内しよう」
俺たちは案内された先の店で水や食料、その他諸々の航海に必要なものを買い揃えた。
外はすっかり夜。今夜はこの街に泊まることになりそうだ。
「この街に泊まれるところはありますか?」
「宿があるよ。近くには酒屋もある。君たちは久しぶりの上客だし、みんな歓迎してくれるだろ」
「酒!」
健太さんの反応が速い。俺たちはさっそく宿に荷物を置くと酒屋に繰り出した。
大きな酒屋には街の女もいて、みんな楽しそうにどんちゃん騒ぎをしている。
「この街の方はみんな優しいんですね!こんなに手厚く歓迎してくださるなんて」
「…うん」
「樹さん?」
北人さんが3杯目で既に爆睡モードに入っている。いつもは5杯目からなのに。
他のみんなもいつもより酔いが回るのが速い。女たちがどんどん飲ませてくるのもあるが…
おかしい。
「うみ、ちょっと抜け出そうか」
「え?」
まぁうちの男どもは心配しなくても大丈夫だろう。最優先に守るべきはうみだ。
なるべく自然にこの場を抜け出す必要がある。
俺はうみの肩を抱くと、耳元に顔を寄せた。
「俺に口説かれてるフリをしてこのまま聞いて。これは罠だ。理由は分からないけど、たぶんこのお酒には睡眠薬が入ってる。俺たちを眠らせてどこかへ連れていくつもりなんだと思う」
うみの身体が強ばる。
「他のみんなは馬鹿みたいに強いから大丈夫。とにかく、俺たちはここを抜け出そう」
「で、でも…」
「大丈夫」
俺はわざと周りにも聞こえるようなボリュームに戻して言った。
「優しくしてあげるから」
これは演技。
演技なのに、うみは顔を真っ赤にしている。
こっちまで恥ずかしくなってきたので俺は肩を抱いたままさっさと立ち上がらせて出口に向かった。
酒屋の扉に手をかけたところでピタリと立ち止まる。
「…どういうつもりか知らないけど、」
俺はうみの肩を抱く手にぐっと力を込めた。振り返らないまま背後の『そいつ』に向かって言う。
「俺たちに手を出すんなら、それ相応の覚悟はしてんだろうな」
発砲音。
俺はうみの脚をひっかけて転ばせる。床に背中を打つ直前でその腰に腕を回して支えると同時に刀を抜いた。
刀身と弾頭がぶつかって火花が散る。
「い、樹さ、」
俺の真下でうみは怯えたように目を瞬いている。俺はぐっと腕に力を込めて立ち上がらせると自分の背後に下がらせた。
「ごめん、気づくのが遅かった。俺から離れないで」
「はっ、はい」
酒屋の中にさっきまでの楽しい雰囲気はなかった。
代わりに立ち込めるのは殺気。
男女問わず手に武器を取り、血走った目で俺を睨みつけている。酒屋の外にも何人もの気配を感じるから、恐らく初めてから俺たちを嵌めるつもりだったんだろう。
「…寝たフリ、バレてますよ」
俺が呑気にいびきをかく15人に向かって言うと、堪えきれなくなった陣さんがくつくつと肩を震わせながら起き上がった。他のみんなも酔い潰れたフリはやめて起き始める。
「なんや、樹だけで充分やろ」
「タダ働きはいやです」
せっかく久しぶりの地上でゆっくり酒を楽しめると思ったらこれだ。俺だけ面倒を押し付けられるのは納得いかない。
俺は街の住人たちに鋭い視線を向けた。
「先に仕掛けたのはそっちだからな」