第一章
夢小説設定
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「暗号化が5重にかかってるね。でもってその上にパスワードか」
「入れそう?」
慎に尋ねられ、私は唇の端を吊り上げた。
「へっへーん私の手にかかればこんなもの余裕のよっちゃんだね」
THE RAMPAGEの拠点とするウェスタンシティに来て1週間。
私はホストクラブの地下にある物置にパソコンを運び込み、自分の作業場兼自室にすることにした。HIROから近くのマンションをあてがわれてはいたんだけど移動時間ほど非効率的なものはないし、ベッドなんてなくたって床で寝ればいい、1階に上がればTHE RAMPAGEのみんなが使っているシャワールームと小さな洗濯機がある。食事なんて1日一食で充分だから誰かに持ってこさせればいい。
とどのつまり、私はインターネットの海に浸かっていられればそれで満足なのだ。
猛然とキーボードを叩く。1分と経たないうちに私は今回のターゲットである貿易会社の機密データベースに潜り込んだ。
「…ハッキングせいこーう」
「はやっ」
回転椅子に膝を立てて座り、知恵の輪をいじくり回していた慎が12個ある液晶画面のうちのひとつに寄ってきた。
そこには過去の取引に関する詳細がずらーっと並んでいる。そのあまりの膨大さに慎は顔をしかめた。
「うわ…こんなに大量のデータの中から手がかりになりそうなの見つかるの?」
「まこっちゃんのような凡庸な頭では無理だろうね」
「今すぐ12.7mm×99mmNATO弾でお前のその自慢の脳みそをぶち抜きたい」
「僻みはよせ長谷川クン」
「…」
もう何を言っても無駄だ、みたいな表情をした慎が元の椅子に戻って再び知恵の輪をカチャカチャやり始める。
私はそれを横目に、おもむろに能力を発動した。瞳が金色に光る。
液晶画面のデータが立体的に浮かび上がって、そこから連想ゲームのように様々な映像が流れていく。
「これじゃない…これも違う、これは…違うな、じゃあこっち、」
ぶつぶつ呟きながらマウスでスクロールしていく。
と、ついに怪しいデータを見つけたその時。
突然慎が私の顔をがしっと掴んで自分の方を向かせた。
視界いっぱいに慎の整った顔が広がって、私は思わず能力を発動させたまま瞼をぱしぱしする。
「…やっぱ能力者じゃん」
「ちょっとぉ、今いい所だったんだけど」
「能力名は」
至近距離でまじまじと眺め回してくる慎の瞳にデコピンを食らわせる。慎は「いった!」と叫んでようやく私の顔を離した。
「気安く触るなっつの、この半端ホスト!」
「半端でもホストの顔に傷をつけるなよ…」
「この前のスケコマシ女が悲しんでくれるね」
私はべえっと舌を突き出して画面に向き直った。
「…『サイコメトリー』」
「は?」
「残留思念感応。私の能力」
「何それ」
「場所とか物とか動植物とか…人間以外のあらゆるものに残る人の記憶、思い出、感情を見ることができる能力のこと。私はそれを電子レベルまで広げることで誰がいつどこでどうやってどんな情報にアクセスしたかを知ることができる。分かった?」
まさにハッカーのためにあるような能力。
それが私に与えられた力だ。
「っは、?」
チートじゃん、慎が呆然と言った。
「そう。つまり私の天才的な頭脳とハッキングの腕にさらにこの能力が加われば鬼に金棒どころか鬼に鬼、まさに神の御業…」
「鬼か神かどっちだよ」
「そのどちらをも超越した存在…」
「バッカみたい」
「バカは貴様じゃ」
私はさっきから一向に解ける様子のない知恵の輪を慎の手からひったくった。
1秒とかからずに絡み合っていた鉄の輪っかがバラバラになる。
「あーっ俺の今までの努力が…」
「ていうかそもそも何でまこつが私の聖域にいるの?」
知恵の輪を投げ返して、私は三度画面に向き直る。上に流れていくデータの中から、目的のものを見つけ出した。
あった、これだ。やっぱり他の交易品とは明らかに違う。
「今日非番。したら力也さんにみさがご飯も食わずにずっと地下室に籠りっぱなしだから様子見て来いって言われて」
「食事なんてお腹減ったら食べるし」
「そんなこと言って3日間食べてないじゃん。外に食べに行くとかあるでしょ…ていうかそもそもこんなところに住み着かずにちゃんとした部屋で寝ないと。HIROさんがお前用のマンション用意したって言ってたけど」
「明るい場所は落ち着かないし睡眠なんてたかだか2時間寝るだけだからここでいい、ていうか移動時間がもったいない」
「はぁ…」
慎のため息は無視。私はマウスで例のデータをクリックした。
…書き換えられた痕跡がある。他にも、ある時点以降にちらほら上書きの記憶が。
だが書き換えられたとはいえ、最も古い記憶まで辿っても一応は何の変哲もない銃弾や火薬ということになっている。
ここから先は実際に確かめる必要がありそうだ。
私は怪しいデータだけをUSBに落として慎に放った。
「今のところグレーゾーンにあるやつをそこにコピーしたから、あとはよろしく。こっから先は君らの仕事でしょ」
「ん」
USBを器用に手のひらで転がしながら、慎が立ち上がる。そして親指で扉の外をくいっと示した。
「じゃあ行くぞ」
「え?」
「メシ」
「入れそう?」
慎に尋ねられ、私は唇の端を吊り上げた。
「へっへーん私の手にかかればこんなもの余裕のよっちゃんだね」
THE RAMPAGEの拠点とするウェスタンシティに来て1週間。
私はホストクラブの地下にある物置にパソコンを運び込み、自分の作業場兼自室にすることにした。HIROから近くのマンションをあてがわれてはいたんだけど移動時間ほど非効率的なものはないし、ベッドなんてなくたって床で寝ればいい、1階に上がればTHE RAMPAGEのみんなが使っているシャワールームと小さな洗濯機がある。食事なんて1日一食で充分だから誰かに持ってこさせればいい。
とどのつまり、私はインターネットの海に浸かっていられればそれで満足なのだ。
猛然とキーボードを叩く。1分と経たないうちに私は今回のターゲットである貿易会社の機密データベースに潜り込んだ。
「…ハッキングせいこーう」
「はやっ」
回転椅子に膝を立てて座り、知恵の輪をいじくり回していた慎が12個ある液晶画面のうちのひとつに寄ってきた。
そこには過去の取引に関する詳細がずらーっと並んでいる。そのあまりの膨大さに慎は顔をしかめた。
「うわ…こんなに大量のデータの中から手がかりになりそうなの見つかるの?」
「まこっちゃんのような凡庸な頭では無理だろうね」
「今すぐ12.7mm×99mmNATO弾でお前のその自慢の脳みそをぶち抜きたい」
「僻みはよせ長谷川クン」
「…」
もう何を言っても無駄だ、みたいな表情をした慎が元の椅子に戻って再び知恵の輪をカチャカチャやり始める。
私はそれを横目に、おもむろに能力を発動した。瞳が金色に光る。
液晶画面のデータが立体的に浮かび上がって、そこから連想ゲームのように様々な映像が流れていく。
「これじゃない…これも違う、これは…違うな、じゃあこっち、」
ぶつぶつ呟きながらマウスでスクロールしていく。
と、ついに怪しいデータを見つけたその時。
突然慎が私の顔をがしっと掴んで自分の方を向かせた。
視界いっぱいに慎の整った顔が広がって、私は思わず能力を発動させたまま瞼をぱしぱしする。
「…やっぱ能力者じゃん」
「ちょっとぉ、今いい所だったんだけど」
「能力名は」
至近距離でまじまじと眺め回してくる慎の瞳にデコピンを食らわせる。慎は「いった!」と叫んでようやく私の顔を離した。
「気安く触るなっつの、この半端ホスト!」
「半端でもホストの顔に傷をつけるなよ…」
「この前のスケコマシ女が悲しんでくれるね」
私はべえっと舌を突き出して画面に向き直った。
「…『サイコメトリー』」
「は?」
「残留思念感応。私の能力」
「何それ」
「場所とか物とか動植物とか…人間以外のあらゆるものに残る人の記憶、思い出、感情を見ることができる能力のこと。私はそれを電子レベルまで広げることで誰がいつどこでどうやってどんな情報にアクセスしたかを知ることができる。分かった?」
まさにハッカーのためにあるような能力。
それが私に与えられた力だ。
「っは、?」
チートじゃん、慎が呆然と言った。
「そう。つまり私の天才的な頭脳とハッキングの腕にさらにこの能力が加われば鬼に金棒どころか鬼に鬼、まさに神の御業…」
「鬼か神かどっちだよ」
「そのどちらをも超越した存在…」
「バッカみたい」
「バカは貴様じゃ」
私はさっきから一向に解ける様子のない知恵の輪を慎の手からひったくった。
1秒とかからずに絡み合っていた鉄の輪っかがバラバラになる。
「あーっ俺の今までの努力が…」
「ていうかそもそも何でまこつが私の聖域にいるの?」
知恵の輪を投げ返して、私は三度画面に向き直る。上に流れていくデータの中から、目的のものを見つけ出した。
あった、これだ。やっぱり他の交易品とは明らかに違う。
「今日非番。したら力也さんにみさがご飯も食わずにずっと地下室に籠りっぱなしだから様子見て来いって言われて」
「食事なんてお腹減ったら食べるし」
「そんなこと言って3日間食べてないじゃん。外に食べに行くとかあるでしょ…ていうかそもそもこんなところに住み着かずにちゃんとした部屋で寝ないと。HIROさんがお前用のマンション用意したって言ってたけど」
「明るい場所は落ち着かないし睡眠なんてたかだか2時間寝るだけだからここでいい、ていうか移動時間がもったいない」
「はぁ…」
慎のため息は無視。私はマウスで例のデータをクリックした。
…書き換えられた痕跡がある。他にも、ある時点以降にちらほら上書きの記憶が。
だが書き換えられたとはいえ、最も古い記憶まで辿っても一応は何の変哲もない銃弾や火薬ということになっている。
ここから先は実際に確かめる必要がありそうだ。
私は怪しいデータだけをUSBに落として慎に放った。
「今のところグレーゾーンにあるやつをそこにコピーしたから、あとはよろしく。こっから先は君らの仕事でしょ」
「ん」
USBを器用に手のひらで転がしながら、慎が立ち上がる。そして親指で扉の外をくいっと示した。
「じゃあ行くぞ」
「え?」
「メシ」