第五章
夢小説設定
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白い部屋。
なんの汚れもない純白の床に、俺の手のひらから鮮血が滴り落ちる。
「まこっちゃん、何で、」
ぺたりと腰が抜けたようにみさは座り込んでいた。俺は掴んでいたナイフの刃を離す。
「俺は、お前の選択肢のひとつ。選ぶのはみさ自身だよ」
「随分寛大なんだな、長谷川くん」
白を背景にした少年が、無邪気に笑っていた。
俺は手のひらに布を巻き付けると、立ち上がって少年と向かい合った。その隣には例の瞬間移動の能力者もいる。
「勘違いするな、お前はただの死に損ないのクソガキだろ。全知全能の神様にでもなったつもり?」
「教祖様にそのような口の利き方をして、許されると思っているのか」
瞬間移動の能力者が声を荒らげる。
教祖様、か。いいご身分だ。
俺は口を歪めてせせら笑った。
「悪いけど、俺は神様も教祖様も信じたことないから」
男が掻き消えた。
せつな、俺の目の前に現れる。
「兄の仇だ。死ね」
ああ、陣さんが殺したあの男、こいつの兄だったのか。
俺はそんなことを思いながら頸動脈目掛けて襲いかかるナイフをひらりと交わした。
大丈夫、
『見えてる』。
「な……ッ」
男の肩越しに、少年が僅かに目を細めた。
「『広目天』か…やはり仕上げてきたね」
「まこっちゃん、未来が…」
みさから手ほどきを受けた、能力の強化。
ここに来てゾーンに突入した俺は、その真髄を理解しつつあった。
次に男がどこに現れるのかが手に取るように分かる。その一挙一動に先手を打つ反射神経も研ぎ澄まされていた。
「どうして、どうして…ッ!どうして当たらない!?」
男の顔に苛立ちと微かな恐怖が滲む。
勝った。
戦場じゃ、恐怖に囚われた者から敗者に転落していく。
「…相手が悪かったね」
俺は誰もいない虚空に向かって銃弾を放った。
いや、違う。
そこに現れるはずの男の心臓を狙って。
俺の狙いに、狂いはなかった。
「ぐふっ」
心臓を撃ち抜かれて、男が倒れる。
これで、一対一。
「あーあ、そいつ結構使えたのに」
部下が目の前で死んでも、少年は何ら動じていなかった。
むしろその瞳に楽しげな色をたたえて、俺を見る。
「あと30分だ、長谷川くん。決着をつけようじゃないか」
「結果ならもう分かってる」
俺は瞳を金色に光らせて、少年を見つめた。
彼の未来。
そして過去。
「なぁ、お前、自分が永遠に転生し続けられるとでも思ってんの?」
彼ですら知らない、彼の秘密。
少年は怪訝そうに眉をひそめ、そしてみさははっと目を見開いた。
やっぱり。みさは気づいていたんだ。
ただ、『今』が何度目かは分からなかった。
だから、賭けに出た。
「あんたの能力名、『リンネ』じゃないんじゃない?」
「何だと?」
彼自身、幾度もの人生のなかでほとんど口にしなかった彼の能力名。記憶を残したまま転生を繰り返すうちに心と脳がそのキャパシティを超え、事実を捻じ曲げてしまった。
何度でも新たな肉体と魂を得て、転生することができる能力。
いつしか彼も、そう勘違いしていた。
「自分の能力名も覚えてられないなら、もう転生やめたらいいのに」
「どういう…」
少年が俺を、それからみさを見る。
みさはその青い虹彩に哀しみをいっぱいにたたえていた。
「マスター…」
みさの小さなくちびるから、美しい発音の言葉が流れでた。
「A witch may take on her a cats body nine times.」
少年の瞳に、驚愕が浮かぶ。
英語の苦手な俺でも、その意味は何となく分かった。
1561年、イギリスの小説家ウィリアム・ボールドウィンが発表した作品、「Beware the Cat」(猫にご用心)に出てきた有名な一説。
「魔女はその猫の体を9回使うことを許される」
みさのその超人的な頭脳は、皮肉なことに自身の創造主の長年蓄積されてきた年の功すら優に超える知識を持っていた。
そして、おそらく少年の無敵ともとれる能力のからくりにかなり早い段階で気づいていたのだろう。
それでも、みさの能力は過去を見ることはできない。
それは、俺の力だから。
「HIROさんに殺された『あいつ』が、8回目の命だったんだよ」
少年の顔が苦悶に歪んだ。
食いしばった歯の隙間から、獣のような唸り声がもれる。
「『お前』で最後だ」
俺の舌が、少年の真の名をなぞる。
「なぁ、バステト」
なんの汚れもない純白の床に、俺の手のひらから鮮血が滴り落ちる。
「まこっちゃん、何で、」
ぺたりと腰が抜けたようにみさは座り込んでいた。俺は掴んでいたナイフの刃を離す。
「俺は、お前の選択肢のひとつ。選ぶのはみさ自身だよ」
「随分寛大なんだな、長谷川くん」
白を背景にした少年が、無邪気に笑っていた。
俺は手のひらに布を巻き付けると、立ち上がって少年と向かい合った。その隣には例の瞬間移動の能力者もいる。
「勘違いするな、お前はただの死に損ないのクソガキだろ。全知全能の神様にでもなったつもり?」
「教祖様にそのような口の利き方をして、許されると思っているのか」
瞬間移動の能力者が声を荒らげる。
教祖様、か。いいご身分だ。
俺は口を歪めてせせら笑った。
「悪いけど、俺は神様も教祖様も信じたことないから」
男が掻き消えた。
せつな、俺の目の前に現れる。
「兄の仇だ。死ね」
ああ、陣さんが殺したあの男、こいつの兄だったのか。
俺はそんなことを思いながら頸動脈目掛けて襲いかかるナイフをひらりと交わした。
大丈夫、
『見えてる』。
「な……ッ」
男の肩越しに、少年が僅かに目を細めた。
「『広目天』か…やはり仕上げてきたね」
「まこっちゃん、未来が…」
みさから手ほどきを受けた、能力の強化。
ここに来てゾーンに突入した俺は、その真髄を理解しつつあった。
次に男がどこに現れるのかが手に取るように分かる。その一挙一動に先手を打つ反射神経も研ぎ澄まされていた。
「どうして、どうして…ッ!どうして当たらない!?」
男の顔に苛立ちと微かな恐怖が滲む。
勝った。
戦場じゃ、恐怖に囚われた者から敗者に転落していく。
「…相手が悪かったね」
俺は誰もいない虚空に向かって銃弾を放った。
いや、違う。
そこに現れるはずの男の心臓を狙って。
俺の狙いに、狂いはなかった。
「ぐふっ」
心臓を撃ち抜かれて、男が倒れる。
これで、一対一。
「あーあ、そいつ結構使えたのに」
部下が目の前で死んでも、少年は何ら動じていなかった。
むしろその瞳に楽しげな色をたたえて、俺を見る。
「あと30分だ、長谷川くん。決着をつけようじゃないか」
「結果ならもう分かってる」
俺は瞳を金色に光らせて、少年を見つめた。
彼の未来。
そして過去。
「なぁ、お前、自分が永遠に転生し続けられるとでも思ってんの?」
彼ですら知らない、彼の秘密。
少年は怪訝そうに眉をひそめ、そしてみさははっと目を見開いた。
やっぱり。みさは気づいていたんだ。
ただ、『今』が何度目かは分からなかった。
だから、賭けに出た。
「あんたの能力名、『リンネ』じゃないんじゃない?」
「何だと?」
彼自身、幾度もの人生のなかでほとんど口にしなかった彼の能力名。記憶を残したまま転生を繰り返すうちに心と脳がそのキャパシティを超え、事実を捻じ曲げてしまった。
何度でも新たな肉体と魂を得て、転生することができる能力。
いつしか彼も、そう勘違いしていた。
「自分の能力名も覚えてられないなら、もう転生やめたらいいのに」
「どういう…」
少年が俺を、それからみさを見る。
みさはその青い虹彩に哀しみをいっぱいにたたえていた。
「マスター…」
みさの小さなくちびるから、美しい発音の言葉が流れでた。
「A witch may take on her a cats body nine times.」
少年の瞳に、驚愕が浮かぶ。
英語の苦手な俺でも、その意味は何となく分かった。
1561年、イギリスの小説家ウィリアム・ボールドウィンが発表した作品、「Beware the Cat」(猫にご用心)に出てきた有名な一説。
「魔女はその猫の体を9回使うことを許される」
みさのその超人的な頭脳は、皮肉なことに自身の創造主の長年蓄積されてきた年の功すら優に超える知識を持っていた。
そして、おそらく少年の無敵ともとれる能力のからくりにかなり早い段階で気づいていたのだろう。
それでも、みさの能力は過去を見ることはできない。
それは、俺の力だから。
「HIROさんに殺された『あいつ』が、8回目の命だったんだよ」
少年の顔が苦悶に歪んだ。
食いしばった歯の隙間から、獣のような唸り声がもれる。
「『お前』で最後だ」
俺の舌が、少年の真の名をなぞる。
「なぁ、バステト」