第五章
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部屋に突入した俺たちの目に飛び込んできたのは、ナイフ片手に待ち構えるみさの姿だった。
「さすがはTHE RAMPAGE、僕の計算よりも早くここを見つけたね」
「てことはあんたの計算よりもあんたの寿命が短くなったっつーことやな」
壱馬さんが手のひらの上で炎を揺らめかせながら地を這うような低い声で言った。
少年はみさの背後でカラカラと笑う。
「僕を殺せるとでも?」
「ぶっ殺す」
俺はスナイパーライフルを構えたまま言った。
射線は通る。
トリガーを引く。
銃弾はみさの耳ギリギリをすり抜けて少年の眉間へと向かっていく。
しかし。
目にも止まらぬ動きで瞳を金色に光らせたみさが少年の前に立ち塞がると、ナイフをまっすぐ前に突き出した。
弾頭とナイフの刃先がぶつかり、弾は真っ二つに割れる。
「────────…な、」
何だ今の動きは。
呆気に取られる俺たちに注がれる金色のひかり。
いや、違う。
あいつは何も見ていない。
あの瞳は、何も映していない。
「…能力は鍛えればどんなことでもできるようになる。例えば、過去に最凶と恐れられたナイフ使いが愛用していたナイフ。そこに残る記憶を辿り、自我に投影すれば?」
少年の甘く冷たい声は怖気となり俺の腕を這い登る。
そんなことをしたら、
「みさやめろ!能力を暴走させる気か!?」
俺の声にも反応はない。
だめだ、サイコメトリーのキャパシティは記憶や感情を読み取るところまでのはず。
自己に他人の記憶を投影して同一化するなんて、明らかに許容範囲を超えている。それにこのままそんなことをし続けたら能力が暴走するだけでなく自我の崩壊を招く。
自分が自分でなくなってしまう。
「ふふ、君たちにみさを殺す覚悟があるのかい?」
みさが予備動作の一切ない洗練された動きで前に飛び出した。
かと思えば、次の瞬間には海青さんの目の前に現れ、その首筋に向かってナイフを振りかざす。
「うおっ!?」
海青さんはとっさに横に飛んでそれを交わすが、みさは身を翻しざまにナイフを一閃する。
海青さんの背中を刃が穿つ、その一瞬前に強烈な突風がふたりの間を吹き抜けてみさの軽い体を後方に弾き飛ばした。
陸さんの能力だ。
みさと陸さん、互いに金色をした視線がぶつかる。
「…そりゃないよみさちゃん。俺たちのこと忘れちゃったの?」
みさは答えない。再び地を蹴ったかと思えば、今度は陸さんに猛然と襲いかかる。
「っ、く…!」
「みさやめろ!」
翔吾さんが叫んでふたりの間に割って入った。翔吾さんの心臓に向けてナイフの刃が振り下ろされる。
「『SIX PENCE』!」
“偶然にも”、みさが足を滑らせた。刃先は逸れ、翔吾さんの腕を掠めるだけに留まる。
「いたた…俺が助かる確率4/5ってとこか。ま、ラッキー」
そのそばでは、バランスを崩しみさに一瞬スキができたのを力矢さんは見逃さなかった。
みさの両腕を掴み、目をのぞき込む。
「みさやめろ。このままじゃ自分を見失うぞ」
ひゅ、とみさの長い脚が鞭のようにしなって力矢さんの横腹に蹴りを入れる。
どごっ、と鈍い音がした。力矢さんの顔が苦痛に歪む。
非力な女のパワーと思えない。自己投影をするとここまで変わるのか。今のみさの動きはまさに天才殺し屋のそれだった。
スキをついてみさがナイフを指先のコントロールだけでひょい、と天井に放る。
くるくる回転するそれを器用に口でキャッチすると、みさは柄を歯で支えたままぐっと顔を横に向けた。
「ぅあッ…!」
血飛沫。
力矢さんの右目にナイフが突き刺さっている。痛みのあまり後方によろめき、みさを掴んでいた手が離れる。
両手が自由になると、みさはそのナイフを躊躇いなく引き抜いた。
「力矢さん!!」
頬に返り血を浴びて佇むその姿はまるで美しすぎる悪魔だ。
みさは苦悶する力矢さんを一瞥するとこちらに向き直った。
(…?)
違和感を覚えたのは、俺だけだろうか。
次の標的は陣さん。ナイフとサブマシンガンのバレルがぶつかり、ガリガリと火花が散る。
「おいおいみさ、やっていいことと悪いことがあるやろ」
陣さんの瞳が怒りと戸惑いで燃える。
怒涛のごとく繰り出される攻撃をなんとか受け止めつつ、陣さんは能力でみさの心を探ろうとする。
しかし。
「あかん…!心が読めん!」
「今みさを動かしているのはみさ自身の意思じゃない。そのナイフの前の持ち主だから…」
俺は最後まで言い切ることができなかった。
腕をナイフの刃が貫通し、陣さんが絶叫する。
そこで俺たちはようやく察した。
もう俺たちの知っているみさはいない。
みさの形をした悪魔がいるだけだ。
「くっそ…!」
拓磨が飛び出していった。反対側から龍も襲いかかる。
同時に2人を相手にしても、みさは全く動じない。
拓磨の能力で、コンクリートの床がみさを絡めとろうと突き出すが、それを躱す動きの方が少し速い。
そこへ追い討ちをかけるように龍の催眠ガスが襲いかかる。
「意識さえなくなれば…!」
龍の祈りも、呆気なく崩れ落ちる。
みさはガスを吸い込む前に素早く前に出、龍のみぞおちに拳を叩き込んだ。
「がはッ」
膝から崩れる龍には脇目もふらず、みさは拓磨に向かっていく。
やっぱりそうだ。
さっきから感じていた違和感の正体はこれだったんだ。
俺はおもむろに前に出ると、ぶつかり合う拓磨とみさの間に割って入った。
「慎、やめろ!今のみさじゃお前を認識できひん!」
壱馬さんの制止も聞かず、俺はみさのナイフをライフルで受け止めた。
至近距離でみさの瞳のひかりが明滅する。整った顔が苦しげに歪んだ。
能力の限界が近い。やっぱりこんな力の使い方は無茶だったのだ。
でも、俺が感じていた違和感はこれじゃない。
ひゅ、ひゅお、
耳元で刃が空気を切り裂く音がする。
次々と繰り出される攻撃をギリギリのところで交わしながら、徐々に壁際に追い詰められていく。
こいつ、近距離戦でいったら壱馬さんと同じくらいの強さだ。
と、ふいにみさが俺の足をひっかけた。
視界がぐるりと周り、背中を床に強くぶつける。
間髪入れずにみさが俺の腹の上に馬乗りになり、ナイフを振り上げた。
「慎!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
壱馬さんが叫ぶ。
一瞬、未来が見えた。
大丈夫。
俺は死なない。
ピタリ
俺の喉元1mm手前で刃先が止まる。
「…やっぱり」
金色のひかりが弱々しく瞬く。
華奢な肩が上下する。
あと少し、届かなかった刃が震えていた。
銀色の髪がはらりと俺の頬に落ちてくる。
「俺はみさを殺せないけど」
でも、お前も。
とうとうみさの瞳がもとの淡いブルーに戻った。
噛み締めた唇の隙間から、声が零れ落ちる。
「マスター…………」
力矢さんの視力を奪い、陣さんの腕を貫き、龍を殴った。
でも、誰も致命傷には至っていない。殺せるチャンスはいくらでもあったのに。
それが違和感の正体だった。
静まり返った部屋に、みさの声だけが響く。
「私には、彼らを殺すことはできません」
俺の上で、みさは瞳を大きく見開いて言った。
「できません…私には、殺せません」
視線が絡み合う。
やっぱりそうだ。たとえ自我が飲み込まれていても、みさはTHE RAMPAGEの誰にもトドメを刺さなかった。
できなかった。
「みさ…」
すぐ上で、大きな青い瞳が揺れていた。
極限状態に陥って、ようやく見えたみさの心。
どちらに身を委ねることも出来ず、苦しむひとりの人間。
俺は右手をその頬に向かって伸ばした。
あと少しで触れる、その瞬間。
「みさ」
悪魔の囁き。
黒髪の少年がうっすらと笑みを浮かべていた。
「できないんじゃない。やるんだ」
ひゅ、とみさが空気を吸い込む音がした。瞳が零れ落ちそうなほど大きく見開かれている。
ナイフを握る手に力がこもるのが分かった。
「私は…」
お前はどちらを選ぶ。
あいつか、俺たちか。
「わたし、は」
その時だった。
突然無数の弾丸が鋼鉄の扉をぶち壊した。大鷲姿の敬浩さんと、その背中に乗ったHIROさんが目にも止まらぬ速さで突っ込んでくる。
巨大な鷲は俺たちの頭上を通過し、まっすぐに黒髪の少年へと飛んでいく。
と、HIROさんがばっと宙に飛び上がった。
「────────────────よぉ、マスター?」
その瞳が鋭く金色の光を帯びる。右の手のひらに3つの6が浮かび上がる。そこから黒い渦が生まれた。
重力に従い落ちるその身体が、大きくしなる。
「能力、『666 』」
ぐわりと、黒い渦が広がって少年に襲いかかった。
HIROさんの能力、『666』。
その黒い渦に飲み込まれたら終わりだと思った方がいい。
あらゆるものは無限の闇へと吸い込まれ、物理攻撃も、能力ですら無効にするエンカウンター能力。
まさに悪魔のような強さを誇るその力がHIROさんを最強たらしめている要因のひとつであることは間違いない。
殺った。
誰もがそう思った。
せつな。
突然ひとりの男が降って湧いたように現れた。少年と渦との間に割り込み、少年を抱き抱える。
例の瞬間移動の能力者だ。GENERATIONSが相手をしていたはずなのに、こんな所に現れたということは亜嵐さんたちは負けたのか。
まさか、そんな。
HIROさんの登場すらも想定済みだったということか。
男と少年はそのまま消えたかと思ったら次は俺の目の前に現れた。
いや、違う。みさの前に。
「、行くなッ」
「まこっちゃ、」
今、この手を離したら終わりだ。
俺はとっさに喉元に突き出されたナイフの刃を掴む。手のひらに鋭い痛みが走ったが、そんなことはどうでもよかった。
ただ、失いたくなくて。
「慎!!!!」
壱馬さんの声。
俺はそちら振り返って小さく頷いた。
次の瞬間にはふっと、かき消える。
俺も、みさも。
「さすがはTHE RAMPAGE、僕の計算よりも早くここを見つけたね」
「てことはあんたの計算よりもあんたの寿命が短くなったっつーことやな」
壱馬さんが手のひらの上で炎を揺らめかせながら地を這うような低い声で言った。
少年はみさの背後でカラカラと笑う。
「僕を殺せるとでも?」
「ぶっ殺す」
俺はスナイパーライフルを構えたまま言った。
射線は通る。
トリガーを引く。
銃弾はみさの耳ギリギリをすり抜けて少年の眉間へと向かっていく。
しかし。
目にも止まらぬ動きで瞳を金色に光らせたみさが少年の前に立ち塞がると、ナイフをまっすぐ前に突き出した。
弾頭とナイフの刃先がぶつかり、弾は真っ二つに割れる。
「────────…な、」
何だ今の動きは。
呆気に取られる俺たちに注がれる金色のひかり。
いや、違う。
あいつは何も見ていない。
あの瞳は、何も映していない。
「…能力は鍛えればどんなことでもできるようになる。例えば、過去に最凶と恐れられたナイフ使いが愛用していたナイフ。そこに残る記憶を辿り、自我に投影すれば?」
少年の甘く冷たい声は怖気となり俺の腕を這い登る。
そんなことをしたら、
「みさやめろ!能力を暴走させる気か!?」
俺の声にも反応はない。
だめだ、サイコメトリーのキャパシティは記憶や感情を読み取るところまでのはず。
自己に他人の記憶を投影して同一化するなんて、明らかに許容範囲を超えている。それにこのままそんなことをし続けたら能力が暴走するだけでなく自我の崩壊を招く。
自分が自分でなくなってしまう。
「ふふ、君たちにみさを殺す覚悟があるのかい?」
みさが予備動作の一切ない洗練された動きで前に飛び出した。
かと思えば、次の瞬間には海青さんの目の前に現れ、その首筋に向かってナイフを振りかざす。
「うおっ!?」
海青さんはとっさに横に飛んでそれを交わすが、みさは身を翻しざまにナイフを一閃する。
海青さんの背中を刃が穿つ、その一瞬前に強烈な突風がふたりの間を吹き抜けてみさの軽い体を後方に弾き飛ばした。
陸さんの能力だ。
みさと陸さん、互いに金色をした視線がぶつかる。
「…そりゃないよみさちゃん。俺たちのこと忘れちゃったの?」
みさは答えない。再び地を蹴ったかと思えば、今度は陸さんに猛然と襲いかかる。
「っ、く…!」
「みさやめろ!」
翔吾さんが叫んでふたりの間に割って入った。翔吾さんの心臓に向けてナイフの刃が振り下ろされる。
「『SIX PENCE』!」
“偶然にも”、みさが足を滑らせた。刃先は逸れ、翔吾さんの腕を掠めるだけに留まる。
「いたた…俺が助かる確率4/5ってとこか。ま、ラッキー」
そのそばでは、バランスを崩しみさに一瞬スキができたのを力矢さんは見逃さなかった。
みさの両腕を掴み、目をのぞき込む。
「みさやめろ。このままじゃ自分を見失うぞ」
ひゅ、とみさの長い脚が鞭のようにしなって力矢さんの横腹に蹴りを入れる。
どごっ、と鈍い音がした。力矢さんの顔が苦痛に歪む。
非力な女のパワーと思えない。自己投影をするとここまで変わるのか。今のみさの動きはまさに天才殺し屋のそれだった。
スキをついてみさがナイフを指先のコントロールだけでひょい、と天井に放る。
くるくる回転するそれを器用に口でキャッチすると、みさは柄を歯で支えたままぐっと顔を横に向けた。
「ぅあッ…!」
血飛沫。
力矢さんの右目にナイフが突き刺さっている。痛みのあまり後方によろめき、みさを掴んでいた手が離れる。
両手が自由になると、みさはそのナイフを躊躇いなく引き抜いた。
「力矢さん!!」
頬に返り血を浴びて佇むその姿はまるで美しすぎる悪魔だ。
みさは苦悶する力矢さんを一瞥するとこちらに向き直った。
(…?)
違和感を覚えたのは、俺だけだろうか。
次の標的は陣さん。ナイフとサブマシンガンのバレルがぶつかり、ガリガリと火花が散る。
「おいおいみさ、やっていいことと悪いことがあるやろ」
陣さんの瞳が怒りと戸惑いで燃える。
怒涛のごとく繰り出される攻撃をなんとか受け止めつつ、陣さんは能力でみさの心を探ろうとする。
しかし。
「あかん…!心が読めん!」
「今みさを動かしているのはみさ自身の意思じゃない。そのナイフの前の持ち主だから…」
俺は最後まで言い切ることができなかった。
腕をナイフの刃が貫通し、陣さんが絶叫する。
そこで俺たちはようやく察した。
もう俺たちの知っているみさはいない。
みさの形をした悪魔がいるだけだ。
「くっそ…!」
拓磨が飛び出していった。反対側から龍も襲いかかる。
同時に2人を相手にしても、みさは全く動じない。
拓磨の能力で、コンクリートの床がみさを絡めとろうと突き出すが、それを躱す動きの方が少し速い。
そこへ追い討ちをかけるように龍の催眠ガスが襲いかかる。
「意識さえなくなれば…!」
龍の祈りも、呆気なく崩れ落ちる。
みさはガスを吸い込む前に素早く前に出、龍のみぞおちに拳を叩き込んだ。
「がはッ」
膝から崩れる龍には脇目もふらず、みさは拓磨に向かっていく。
やっぱりそうだ。
さっきから感じていた違和感の正体はこれだったんだ。
俺はおもむろに前に出ると、ぶつかり合う拓磨とみさの間に割って入った。
「慎、やめろ!今のみさじゃお前を認識できひん!」
壱馬さんの制止も聞かず、俺はみさのナイフをライフルで受け止めた。
至近距離でみさの瞳のひかりが明滅する。整った顔が苦しげに歪んだ。
能力の限界が近い。やっぱりこんな力の使い方は無茶だったのだ。
でも、俺が感じていた違和感はこれじゃない。
ひゅ、ひゅお、
耳元で刃が空気を切り裂く音がする。
次々と繰り出される攻撃をギリギリのところで交わしながら、徐々に壁際に追い詰められていく。
こいつ、近距離戦でいったら壱馬さんと同じくらいの強さだ。
と、ふいにみさが俺の足をひっかけた。
視界がぐるりと周り、背中を床に強くぶつける。
間髪入れずにみさが俺の腹の上に馬乗りになり、ナイフを振り上げた。
「慎!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
壱馬さんが叫ぶ。
一瞬、未来が見えた。
大丈夫。
俺は死なない。
ピタリ
俺の喉元1mm手前で刃先が止まる。
「…やっぱり」
金色のひかりが弱々しく瞬く。
華奢な肩が上下する。
あと少し、届かなかった刃が震えていた。
銀色の髪がはらりと俺の頬に落ちてくる。
「俺はみさを殺せないけど」
でも、お前も。
とうとうみさの瞳がもとの淡いブルーに戻った。
噛み締めた唇の隙間から、声が零れ落ちる。
「マスター…………」
力矢さんの視力を奪い、陣さんの腕を貫き、龍を殴った。
でも、誰も致命傷には至っていない。殺せるチャンスはいくらでもあったのに。
それが違和感の正体だった。
静まり返った部屋に、みさの声だけが響く。
「私には、彼らを殺すことはできません」
俺の上で、みさは瞳を大きく見開いて言った。
「できません…私には、殺せません」
視線が絡み合う。
やっぱりそうだ。たとえ自我が飲み込まれていても、みさはTHE RAMPAGEの誰にもトドメを刺さなかった。
できなかった。
「みさ…」
すぐ上で、大きな青い瞳が揺れていた。
極限状態に陥って、ようやく見えたみさの心。
どちらに身を委ねることも出来ず、苦しむひとりの人間。
俺は右手をその頬に向かって伸ばした。
あと少しで触れる、その瞬間。
「みさ」
悪魔の囁き。
黒髪の少年がうっすらと笑みを浮かべていた。
「できないんじゃない。やるんだ」
ひゅ、とみさが空気を吸い込む音がした。瞳が零れ落ちそうなほど大きく見開かれている。
ナイフを握る手に力がこもるのが分かった。
「私は…」
お前はどちらを選ぶ。
あいつか、俺たちか。
「わたし、は」
その時だった。
突然無数の弾丸が鋼鉄の扉をぶち壊した。大鷲姿の敬浩さんと、その背中に乗ったHIROさんが目にも止まらぬ速さで突っ込んでくる。
巨大な鷲は俺たちの頭上を通過し、まっすぐに黒髪の少年へと飛んでいく。
と、HIROさんがばっと宙に飛び上がった。
「────────────────よぉ、マスター?」
その瞳が鋭く金色の光を帯びる。右の手のひらに3つの6が浮かび上がる。そこから黒い渦が生まれた。
重力に従い落ちるその身体が、大きくしなる。
「能力、『
ぐわりと、黒い渦が広がって少年に襲いかかった。
HIROさんの能力、『666』。
その黒い渦に飲み込まれたら終わりだと思った方がいい。
あらゆるものは無限の闇へと吸い込まれ、物理攻撃も、能力ですら無効にするエンカウンター能力。
まさに悪魔のような強さを誇るその力がHIROさんを最強たらしめている要因のひとつであることは間違いない。
殺った。
誰もがそう思った。
せつな。
突然ひとりの男が降って湧いたように現れた。少年と渦との間に割り込み、少年を抱き抱える。
例の瞬間移動の能力者だ。GENERATIONSが相手をしていたはずなのに、こんな所に現れたということは亜嵐さんたちは負けたのか。
まさか、そんな。
HIROさんの登場すらも想定済みだったということか。
男と少年はそのまま消えたかと思ったら次は俺の目の前に現れた。
いや、違う。みさの前に。
「、行くなッ」
「まこっちゃ、」
今、この手を離したら終わりだ。
俺はとっさに喉元に突き出されたナイフの刃を掴む。手のひらに鋭い痛みが走ったが、そんなことはどうでもよかった。
ただ、失いたくなくて。
「慎!!!!」
壱馬さんの声。
俺はそちら振り返って小さく頷いた。
次の瞬間にはふっと、かき消える。
俺も、みさも。