第五章
夢小説設定
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「ここにいたんか」
壱馬さんが鉄塔の階段を登ってきた。
いつだったか、みさと共に夜景を見た鉄塔。そこに俺はひとりで座っていた。
「…ここからなら、あいつが見つかるんじゃないかと思って」
「せやな」
昼に見るダウンタウンの景色も好きだ。カラフルで、人々が生きる力強い足音が聞こえてくる気がする。
でも、戦いの爪痕がまだ残る街はひどく痛々しかった。
鉄塔のへりにふたり並んで座る。
「…小さい頃から何も変わってない気がするんです。大切な人を、誰ひとり護れない」
風が吹いた。
「未来を見られても、それを変える力がないんじゃ意味が無い。俺はいつだってただの傍観者だ」
壱馬さんにこんなこと言っても困らせるだけだと分かっている。
それでも、この気持ちをひとりで抱え続けていたら自分が壊れてしまいそうで。
風が俺の言葉を後ろへ運んでいく。
「…俺らが初めて会った日のこと覚えてる?」
唐突に壱馬さんが話し始めた。
「路地裏で慎が倒れてて、俺は身ぐるみ剥がそうなんて考えて近づいたんだよ。そしたら、慎が未来を見てた」
「…そうでしたっけ」
「うん。あの時の慎の予言のおかげで俺は襲いかかってきた不良グループに勝てたんやで」
「え……?」
足を組み替えて、壱馬さんは空を見上げた。
「慎のおかげで俺は助かった」
あの時は時系列的に言えばさっきまで見ていた夢の続きで、生と死の狭間を彷徨って意識もギリギリのところだったし、半ば夢見心地で未来が見えたんだと思う。見ようと思って見えたものじゃない。
「あの、」
ふいに壱馬さんが俺の肩に腕を回してぐいっと引き寄せた。
壱馬さんがいつも付けている香水の匂いが、ふわりと鼻腔を満たす。
「俺は慎のこと、ほんまの弟やと思ってる。俺にとってすげぇ大切な人なんや。でも、慎の中じゃ俺はそうじゃなかったってことか?」
「ちがっ…そんなことないです!俺だってあの時壱馬さんが助けてくれなきゃ死んでた」
俺はとっさに顔をあげようとしたが、壱馬さんの力強い腕がそれを許さない。
耳元でとくん、とくんと壱馬さんの鼓動が規則正しいリズムを刻んでいる。
「じゃあ誇れ。慎はその力で俺を救ってくれた。そんで、これからもうひとり大切な人を助ける。せやろ?」
壱馬さんは俺の肩を乱暴にさすって、身体を離した。その顔には頼もしい笑顔が浮かんでいる。
いつだって壱馬さんは俺の一番の理解者で、頼れる兄貴なんだ。
敵わない、そう思った。
「みさを見つけ出して、LDHに引き戻す。絶対に。HIROさんにもみんなにも、きっと分かってもらえる。たとえ何があろうとも、みさは俺たちの大切な仲間なんや」
「はい」
「奴らの居場所がわかったって、健太さんと瑠唯さんから報告があった。たぶんすぐに襲撃や。陣さんに説得されて大人しくしとった樹も、それから慎も。このチャンスを逃したらあかんで?」
「分かってます」
「そんで、みさが戻ってきたらもう二度と離すな。ちゃんと慎があいつを幸せにしてやれ」
「…はい」
少し恥ずかしくなって俯いた俺の頭をくしゃくしゃと撫でて、壱馬さんは笑った。立ち上がり、地上へ戻る階段に足をかける。
俺はその背中に「壱馬さん、」と声をかけた。
「ん?」
俺は鉄塔のへりに立ち上がって壱馬さんの目をまっすぐに見た。
風が吹いて俺の前髪をかきあげていく。
「俺、壱馬さんが兄貴でよかったです」
半分だけ振り返った壱馬さんは、ふ、と口角を上げた。
「気づくの遅いんや」
その時。
ふいに俺たちの耳元で陣さんの緊迫した声が響いた。
『LDHメンバー全員に陣から緊急連絡。たった今、みさから思念での接触がありました。これより全員とみさとの精神を接続します』
壱馬さんが鉄塔の階段を登ってきた。
いつだったか、みさと共に夜景を見た鉄塔。そこに俺はひとりで座っていた。
「…ここからなら、あいつが見つかるんじゃないかと思って」
「せやな」
昼に見るダウンタウンの景色も好きだ。カラフルで、人々が生きる力強い足音が聞こえてくる気がする。
でも、戦いの爪痕がまだ残る街はひどく痛々しかった。
鉄塔のへりにふたり並んで座る。
「…小さい頃から何も変わってない気がするんです。大切な人を、誰ひとり護れない」
風が吹いた。
「未来を見られても、それを変える力がないんじゃ意味が無い。俺はいつだってただの傍観者だ」
壱馬さんにこんなこと言っても困らせるだけだと分かっている。
それでも、この気持ちをひとりで抱え続けていたら自分が壊れてしまいそうで。
風が俺の言葉を後ろへ運んでいく。
「…俺らが初めて会った日のこと覚えてる?」
唐突に壱馬さんが話し始めた。
「路地裏で慎が倒れてて、俺は身ぐるみ剥がそうなんて考えて近づいたんだよ。そしたら、慎が未来を見てた」
「…そうでしたっけ」
「うん。あの時の慎の予言のおかげで俺は襲いかかってきた不良グループに勝てたんやで」
「え……?」
足を組み替えて、壱馬さんは空を見上げた。
「慎のおかげで俺は助かった」
あの時は時系列的に言えばさっきまで見ていた夢の続きで、生と死の狭間を彷徨って意識もギリギリのところだったし、半ば夢見心地で未来が見えたんだと思う。見ようと思って見えたものじゃない。
「あの、」
ふいに壱馬さんが俺の肩に腕を回してぐいっと引き寄せた。
壱馬さんがいつも付けている香水の匂いが、ふわりと鼻腔を満たす。
「俺は慎のこと、ほんまの弟やと思ってる。俺にとってすげぇ大切な人なんや。でも、慎の中じゃ俺はそうじゃなかったってことか?」
「ちがっ…そんなことないです!俺だってあの時壱馬さんが助けてくれなきゃ死んでた」
俺はとっさに顔をあげようとしたが、壱馬さんの力強い腕がそれを許さない。
耳元でとくん、とくんと壱馬さんの鼓動が規則正しいリズムを刻んでいる。
「じゃあ誇れ。慎はその力で俺を救ってくれた。そんで、これからもうひとり大切な人を助ける。せやろ?」
壱馬さんは俺の肩を乱暴にさすって、身体を離した。その顔には頼もしい笑顔が浮かんでいる。
いつだって壱馬さんは俺の一番の理解者で、頼れる兄貴なんだ。
敵わない、そう思った。
「みさを見つけ出して、LDHに引き戻す。絶対に。HIROさんにもみんなにも、きっと分かってもらえる。たとえ何があろうとも、みさは俺たちの大切な仲間なんや」
「はい」
「奴らの居場所がわかったって、健太さんと瑠唯さんから報告があった。たぶんすぐに襲撃や。陣さんに説得されて大人しくしとった樹も、それから慎も。このチャンスを逃したらあかんで?」
「分かってます」
「そんで、みさが戻ってきたらもう二度と離すな。ちゃんと慎があいつを幸せにしてやれ」
「…はい」
少し恥ずかしくなって俯いた俺の頭をくしゃくしゃと撫でて、壱馬さんは笑った。立ち上がり、地上へ戻る階段に足をかける。
俺はその背中に「壱馬さん、」と声をかけた。
「ん?」
俺は鉄塔のへりに立ち上がって壱馬さんの目をまっすぐに見た。
風が吹いて俺の前髪をかきあげていく。
「俺、壱馬さんが兄貴でよかったです」
半分だけ振り返った壱馬さんは、ふ、と口角を上げた。
「気づくの遅いんや」
その時。
ふいに俺たちの耳元で陣さんの緊迫した声が響いた。
『LDHメンバー全員に陣から緊急連絡。たった今、みさから思念での接触がありました。これより全員とみさとの精神を接続します』