第五章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「…お、目ェ覚めたか」
見慣れない天井。
声のした方に目をやると、俺が横たわるベッドのそばで壱馬さんが使用済みの薬莢を選別していた。古ぼけた机の上いっぱいに盛られた薬莢がザラザラと子気味良い音を立てる。
「……夢を、見てました。壱馬さんに出会う前までの頃の夢」
「そっか」
壱馬さんは凹んだりして使えない薬莢を選り分けていく。そして、こちらを見ないまま言った。
「樹が氷でシェルター作ったおかげで瓦礫の下敷きになっても頭打つだけで済んだらしい。亜嵐さんは大樹さんの能力で何とか命は取り留めたそうや。まだ意識は戻ってへんけどな」
大樹さんの能力『Minerva』はLDHで唯一のヒール系の能力だ。触れた動植物の治癒能力を劇的に高める力。
薬莢の山をザラザラとかき回しながら、さらに壱馬さんが低い声で続ける。
「HIROさんが重体や。他の人を庇って逃げ遅れた。大樹さんが付きっきりでおるけど、まだどうなるか分からへん」
「HIROさんが…?」
「ああ。でも、あの人なら大丈夫や。俺たちの中の誰よりも強いひとだから」
壱馬さんは眉根をぎゅっと寄せて、俺の肩に手を置く。
あたたかい。
「とにかく、慎が無事でよかった」
「壱馬さん…」
額に触れると、包帯が巻かれているのが分かる。他にも身体の所々にガーゼや包帯が巻かれており、点滴の管にも繋がれていた。
壱馬さんの座る方とは反対側を見ると、隣のベッドの上で樹さんが眠っている。
樹さんとみさ、兄妹の横顔が重なってあの時の光景を思い出す。
『さよなら』
みさの声が、言葉が。俺の頭をガンガン叩く。
あれからどうなった?戦いは、本社は、仲間は、
みさは?
「あの、壱馬さん、」
「言わんでええ」
言いたいことは分かってる、壱馬さんは感情を押し殺した声でそう呟いた。薬莢を置いて、右手を差し出す。
「立てるか?」
「はい」
差し出された壱馬さんの手を掴んで、俺はぐいっとベッドの上に上体を起こした。少しふらつくが大丈夫だろう。
壱馬さんの後に続いて木製の扉から外に出る。
真昼の日差しが眩しくて、一瞬なにも見えなくなる。数度瞬きをした俺は、驚愕で言葉を失った。
「な……………」
ダウンタウンの雑然としているがどこか人情味のある街並みは戦いの爆発と炎、血で荒廃しきってしまっていた。そこらじゅうで煙が燻り、炭と瓦礫の山があちこちに築かれている。
そしてその中心にあるはずのLDH本社が、無くなっていた。
かわりにうずたかく積もるのが瓦礫の山。
本社『だったもの』の残骸。
「そんな…本社が………ダウンタウンが」
「戦闘員、非戦闘員共に死傷者多数。崩落に巻き込まれて何人も死んだ。でも敵はみんな先に避難してて手がかりも何も残ってへん」
「…みさは」
壱馬さんは悲しげに眉を寄せ、黙って首を横に振った。
「そう、ですか」
行ってしまった。
あの少年のもとへ。
自らの創造主のもとへ。
壱馬さんが大きく息を吐く。その場にしゃがみこむと、自分の髪をくしゃりと掴んだ。
くぐもって聞こえてきたその声は、微かに震えていた。
「負けたんや。俺たちは」
見慣れない天井。
声のした方に目をやると、俺が横たわるベッドのそばで壱馬さんが使用済みの薬莢を選別していた。古ぼけた机の上いっぱいに盛られた薬莢がザラザラと子気味良い音を立てる。
「……夢を、見てました。壱馬さんに出会う前までの頃の夢」
「そっか」
壱馬さんは凹んだりして使えない薬莢を選り分けていく。そして、こちらを見ないまま言った。
「樹が氷でシェルター作ったおかげで瓦礫の下敷きになっても頭打つだけで済んだらしい。亜嵐さんは大樹さんの能力で何とか命は取り留めたそうや。まだ意識は戻ってへんけどな」
大樹さんの能力『Minerva』はLDHで唯一のヒール系の能力だ。触れた動植物の治癒能力を劇的に高める力。
薬莢の山をザラザラとかき回しながら、さらに壱馬さんが低い声で続ける。
「HIROさんが重体や。他の人を庇って逃げ遅れた。大樹さんが付きっきりでおるけど、まだどうなるか分からへん」
「HIROさんが…?」
「ああ。でも、あの人なら大丈夫や。俺たちの中の誰よりも強いひとだから」
壱馬さんは眉根をぎゅっと寄せて、俺の肩に手を置く。
あたたかい。
「とにかく、慎が無事でよかった」
「壱馬さん…」
額に触れると、包帯が巻かれているのが分かる。他にも身体の所々にガーゼや包帯が巻かれており、点滴の管にも繋がれていた。
壱馬さんの座る方とは反対側を見ると、隣のベッドの上で樹さんが眠っている。
樹さんとみさ、兄妹の横顔が重なってあの時の光景を思い出す。
『さよなら』
みさの声が、言葉が。俺の頭をガンガン叩く。
あれからどうなった?戦いは、本社は、仲間は、
みさは?
「あの、壱馬さん、」
「言わんでええ」
言いたいことは分かってる、壱馬さんは感情を押し殺した声でそう呟いた。薬莢を置いて、右手を差し出す。
「立てるか?」
「はい」
差し出された壱馬さんの手を掴んで、俺はぐいっとベッドの上に上体を起こした。少しふらつくが大丈夫だろう。
壱馬さんの後に続いて木製の扉から外に出る。
真昼の日差しが眩しくて、一瞬なにも見えなくなる。数度瞬きをした俺は、驚愕で言葉を失った。
「な……………」
ダウンタウンの雑然としているがどこか人情味のある街並みは戦いの爆発と炎、血で荒廃しきってしまっていた。そこらじゅうで煙が燻り、炭と瓦礫の山があちこちに築かれている。
そしてその中心にあるはずのLDH本社が、無くなっていた。
かわりにうずたかく積もるのが瓦礫の山。
本社『だったもの』の残骸。
「そんな…本社が………ダウンタウンが」
「戦闘員、非戦闘員共に死傷者多数。崩落に巻き込まれて何人も死んだ。でも敵はみんな先に避難してて手がかりも何も残ってへん」
「…みさは」
壱馬さんは悲しげに眉を寄せ、黙って首を横に振った。
「そう、ですか」
行ってしまった。
あの少年のもとへ。
自らの創造主のもとへ。
壱馬さんが大きく息を吐く。その場にしゃがみこむと、自分の髪をくしゃりと掴んだ。
くぐもって聞こえてきたその声は、微かに震えていた。
「負けたんや。俺たちは」