第五章
夢小説設定
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娼館の玄関に飾ってあった青い花たちが、微かに揺れた。
「…?」
俺は洗いたてのシーツを外に運ぶ足を止め、花瓶を振り返る。
「慎?どうしたの?お客さん来るからそれ早く干しちゃってよ」
館の娼婦の1人が怪訝な顔で俺を見る。そこへ鮮やかなブルーのドレスを着た母さんも現れた。
「あら慎、また北区の花屋さんで買ってきたの?綺麗なカーネーションね」
「あ、うん」
地震?
俺が首を傾げたその時だった。
耳を劈く轟音と共に、館全体がぐらりと揺れる。
「きゃあ!?」
俺の身長ほどもある花瓶が倒れて砕ける。せっかくの美しい花弁があえなく散っていった。
何だ、今のは。
俺は窓に駆け寄って街を見る。館は小高い丘の上に建っているため街を一望することができるのだ。
俺の住む街はそんなに広くない。何が起こったのか、すぐに分かった。
街の北。その一角から凄まじい勢いで炎が噴き出し、建物を何軒も巻き込んで燃えていた。
「爆発!?どうしたの!?」
「炎が!」
館の女性たちも窓に集まってきて騒ぎ始める。母さんが震えながら俺を抱き寄せた。
それでも俺は赤々と燃える炎から目が離せない。
あの場所は…
「花屋が…!」
俺は母の腕を振りほどいて館を飛び出した。
「慎!待ちなさい!」
母さんの制止の叫びも聞こえていなかった。
街の人々は突然の出来事にパニックになり逃げ惑っている。俺はその流れに必死に逆らってあの花屋を目指した。
あの角を曲がれば、彼女がいつものように笑って出迎えてくれる。「いらっしゃい慎くん」と、どの花にも負けない笑顔を見せてくれる。
そのはずだった。
ぶわりと、嘲笑うかのように俺の頬を熱風が叩いていく。
「そんな…」
花屋が業火に包まれていた。
彼女は、おじさんとおばさんは。
俺はメキメキと音を立てて燃える建物に駆け寄って、必死に名前を呼ぶ。灰を吸い込んで喉が焼け付くように傷んでも、叫び続けた。
「崩れるぞ!」
誰かが叫んだ。
つい数時間前まで美しい花たちが並んでいた店が、今は赤一色に染まって轟音と共に崩れ落ちる。
その一瞬を、俺の目が捉えた。
もはや性別も分からないほどに焼けただれたおじさんとおばさんの姿を。
崩れ行く店の中でグレーの眸いっぱいに恐怖を映した彼女が炎に飲み込まれていくのを。
俺の千里眼は、全てを見ていた。
「危ない!」
見ず知らずの男性が俺を抱えあげ、炎から遠ざかるように走り出す。
俺は肩に担がれたまま瞳を金色に光らせて、焼けていく彼女の姿を目の前に見ていた。肌は醜く焼けただれ、瞳が濁っていく。
片恋の相手が生きたまま炎に舐られて死にゆく様を、それでも目を離すことも出来ず、俺はただ眺めていた。
「あ………」
そうか。
朝に見たあの映像は、彼女の未来だったんだ。
俺はもしかしたらあの子を助けられたかもしれなかったのに。
俺があの子を、おじさんとおばさんを、
殺したも同然だ。
ドォン!!!!!!!!!!!!!
気がつけばあちこちで爆発が起こっている。黒いマスクに銃を持った男たちが口々に何かを叫んではパニックを起こす人々を殺していた。
「クソッ、無差別テロか…!」
俺を抱える男性が吐き捨てるように呟いた。
銃声が響いて、ふいに視界がガクンと傾く。
地面に頭からぶつかって、俺は一瞬だけ意識を失う。
頭を振りながら身体を起こすために手のひらをつく。
ぬるり
何か生暖かいものに触れたと思ったら、手のひらがどす黒く染まっていた。
傍に、俺を助けてくれた男性が倒れている。
眉間を銃弾に撃ち抜かれて。
俺の喉から絹をさくような絶叫が漏れる。
男性を撃ち抜いたのは、小型のスナイパーライフルを持った男だった。
男はゆっくりと近寄ってきて、俺に狙いを定める。
「ひ…ッ」
殺される。
殺される。
殺される。
脳裏に浮かんだのは、見る影もなく黒焦げになったあの子。
「嫌だ」
死にたくない。
瞳がぎらりと金色の光を帯びた。
男の次の動きが見える。
殺せる 。
俺は傍に落ちていたバールを掴むと、無我夢中で男に襲いかかった。
「…?」
俺は洗いたてのシーツを外に運ぶ足を止め、花瓶を振り返る。
「慎?どうしたの?お客さん来るからそれ早く干しちゃってよ」
館の娼婦の1人が怪訝な顔で俺を見る。そこへ鮮やかなブルーのドレスを着た母さんも現れた。
「あら慎、また北区の花屋さんで買ってきたの?綺麗なカーネーションね」
「あ、うん」
地震?
俺が首を傾げたその時だった。
耳を劈く轟音と共に、館全体がぐらりと揺れる。
「きゃあ!?」
俺の身長ほどもある花瓶が倒れて砕ける。せっかくの美しい花弁があえなく散っていった。
何だ、今のは。
俺は窓に駆け寄って街を見る。館は小高い丘の上に建っているため街を一望することができるのだ。
俺の住む街はそんなに広くない。何が起こったのか、すぐに分かった。
街の北。その一角から凄まじい勢いで炎が噴き出し、建物を何軒も巻き込んで燃えていた。
「爆発!?どうしたの!?」
「炎が!」
館の女性たちも窓に集まってきて騒ぎ始める。母さんが震えながら俺を抱き寄せた。
それでも俺は赤々と燃える炎から目が離せない。
あの場所は…
「花屋が…!」
俺は母の腕を振りほどいて館を飛び出した。
「慎!待ちなさい!」
母さんの制止の叫びも聞こえていなかった。
街の人々は突然の出来事にパニックになり逃げ惑っている。俺はその流れに必死に逆らってあの花屋を目指した。
あの角を曲がれば、彼女がいつものように笑って出迎えてくれる。「いらっしゃい慎くん」と、どの花にも負けない笑顔を見せてくれる。
そのはずだった。
ぶわりと、嘲笑うかのように俺の頬を熱風が叩いていく。
「そんな…」
花屋が業火に包まれていた。
彼女は、おじさんとおばさんは。
俺はメキメキと音を立てて燃える建物に駆け寄って、必死に名前を呼ぶ。灰を吸い込んで喉が焼け付くように傷んでも、叫び続けた。
「崩れるぞ!」
誰かが叫んだ。
つい数時間前まで美しい花たちが並んでいた店が、今は赤一色に染まって轟音と共に崩れ落ちる。
その一瞬を、俺の目が捉えた。
もはや性別も分からないほどに焼けただれたおじさんとおばさんの姿を。
崩れ行く店の中でグレーの眸いっぱいに恐怖を映した彼女が炎に飲み込まれていくのを。
俺の千里眼は、全てを見ていた。
「危ない!」
見ず知らずの男性が俺を抱えあげ、炎から遠ざかるように走り出す。
俺は肩に担がれたまま瞳を金色に光らせて、焼けていく彼女の姿を目の前に見ていた。肌は醜く焼けただれ、瞳が濁っていく。
片恋の相手が生きたまま炎に舐られて死にゆく様を、それでも目を離すことも出来ず、俺はただ眺めていた。
「あ………」
そうか。
朝に見たあの映像は、彼女の未来だったんだ。
俺はもしかしたらあの子を助けられたかもしれなかったのに。
俺があの子を、おじさんとおばさんを、
殺したも同然だ。
ドォン!!!!!!!!!!!!!
気がつけばあちこちで爆発が起こっている。黒いマスクに銃を持った男たちが口々に何かを叫んではパニックを起こす人々を殺していた。
「クソッ、無差別テロか…!」
俺を抱える男性が吐き捨てるように呟いた。
銃声が響いて、ふいに視界がガクンと傾く。
地面に頭からぶつかって、俺は一瞬だけ意識を失う。
頭を振りながら身体を起こすために手のひらをつく。
ぬるり
何か生暖かいものに触れたと思ったら、手のひらがどす黒く染まっていた。
傍に、俺を助けてくれた男性が倒れている。
眉間を銃弾に撃ち抜かれて。
俺の喉から絹をさくような絶叫が漏れる。
男性を撃ち抜いたのは、小型のスナイパーライフルを持った男だった。
男はゆっくりと近寄ってきて、俺に狙いを定める。
「ひ…ッ」
殺される。
殺される。
殺される。
脳裏に浮かんだのは、見る影もなく黒焦げになったあの子。
「嫌だ」
死にたくない。
瞳がぎらりと金色の光を帯びた。
男の次の動きが見える。
俺は傍に落ちていたバールを掴むと、無我夢中で男に襲いかかった。