第一章
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俺たちTHE RAMPAGEはLDHの広い縄張りの中でも西部のウエスタンシティを任されている。表向きのカモフラージュとして経営するホストクラブを拠点に、縄張りを荒らしたり悪事を働いたりする奴に制裁を加え、依頼された仕事を行うのだ。
LDHは行き場を無くした能力者たちがその力を正しいことのために使えるように、HIROさんが作った秘密結社だ。孤独な能力者たちに居場所を作り、貧困や差別で苦しむ人々が安心して暮らせる場所を守っている。
17年前にたった6人の男から始まった小さな不良グループが、今ではこの街でも有数の軍事力を備えた組織にまで成長した。
俺たちは俺たちの『居場所』を荒らす奴らには決して容赦しない。売られた喧嘩は買うし、やるんなら徹底的にやる。コロシなんて当たり前。俺たちが生きるのはそういう世界だ。
ま、裏でこんなことやって表では不動産やアパレルやらカジノ・クラブなんかを経営してたらマフィアまがいの恐ろしい組織なんて思われるのも当たり前なんだけど。
「ねぇ~まことぉ」
「何?」
客の女がしなを作って擦り寄ってきた。
プライベートだったらこんな女絶対相手にしないが、仕事だと割り切ってしまえばそんなに嫌じゃない。
LDH配下のチームにはそれぞれ表の顔がある。EXILEさんはカジノ、SECONDさんはバーと不動産、GENERATIONSさんはクラブ、三代目さんはアパレルブランド。
俺たちTHE RAMPAGEは人数の多さと個性の豊かさを当て込んでホストクラブだ。
「このまま抜け出しちゃおうよ~」
「だめだめ、ほら次何飲む?」
「いいじゃん慎ぉ、いっつもお金落としてあげてるんだし」
初めのうちは人見知りを発揮して接客は苦手だったが最近は慣れて、さらに潜入捜査のスキルアップに役立つことに気づいてからはむしろ結構楽しめてる。それは多分みんなそうで、今日は誰がトップだったなんて笑い合っているほどだ。
とはいえ、この手の客はやっぱりめんどくさい。壱馬さんが気を利かせてフォローに入ってくれたが、そこはトップを争う人気者とあってすぐに他のテーブルに連れていかれてしまった。
「まーこーとぉ、ねえってばぁ。私慎一筋なの!」
うちは枕はやらない。そういう決まりだし、そもそも頼まれてもやりたくない。
いい加減俺がイライラし始めたその時。
「その割にはその指輪、よそのホストに買ってもらったブランドものじゃん」
突然俺のすぐ隣から声がして、ぎょっと横を見る。
そして絶句した。
小柄な女。プラチナシルバーの長い巻き毛はあっちこっちにはねている。ぼさぼさの髪から覗くのは長い睫毛に縁取られた大きなアーモンドアイだ。瞳の色は淡いブルー。つんと通った小さな鼻と、ふっくらとした唇は思わずキスしたくなるほどに形がよい。真っ白できめ細かい肌も相まって、まるで芸術作品だった。
ぶかぶかの白シャツにこれまたダボダボのジーンズを着ているため分かりにくいが、小柄で華奢な体格をしている。前髪を鬱陶しそうに払うその手の爪ですら磨きこまれた宝石のように美しかった。
何だこの恐ろしいほどに美しい生き物は。本当に人間?客か?口ぶりからしてこのお客の連れ?でもこんな女が出入りしてたら絶対に気づくはず。どうやって入り込み、いつからここにいた?そもそもここは会員制でICカードがないと入ることすらできないのに。
呆気に取られる俺をよそに、そのお人形めいた女は平然とした様子でさらに続ける。
「ネックレスは一週間前にまた別の男にプレゼントさせたもので、ピアスはこれまた別のホストに買ってもらったやつか。でもそれ純金謳ってるけど輸入段階の中国で亜鉛混ぜられてるよ。ニセモノだね」
俺はもう開いた口が塞がらない。どうしてそんなことまで分かる?普通の人間はピアスを見ただけで輸入経路まで分かったりしない。
つまりこの女、普通じゃない。
即座に俺の頭に『能力者』という単語が浮かんだ。
(LDHのメンバー?それとも敵?)
俺は女の死角となる位置で手首をくっと折り曲げた。袖の内側に仕込んだ極細の刃物が手のひらに滑り落ちてくる。
どうやって潜り込んだのかは不明だが、もし敵だとしたらとんだ怖いもの知らずがいたものだ。
ここは勝手知ったる俺たちの縄張りだというのに。
「なっ…なによあんた!!誰!?気持ち悪いのよ!!違うの慎、私は本当に慎が運命の相手だと思って…!」
「ちなみに君が金づるとして付き合ってる彼氏くんがプレゼントしたその服、元カノが着てたやつをリメイクしてブランド品に見せかけたやつって話聞く?」
客の女が首まで赤く染めるほどに怒りと焦りを顕にしている。まずい、このままだと事態が複雑化しそうだ。
早急に恐ろしいほど美しいこの女がどちら側の人間なのかを確かめる必要がある。俺はひとつ息を吸った。
「オーダーをお伺いします」
きろり、ビー玉のように透き通った瞳が俺を見上げる。答え次第では今この場で殺さなければならないのが惜しいほどに、美しい瞳だった。泉をたたえているかのように艷めく彼女の唇が開く。
「XYZ」
ひゅ、と側で聞き耳を立てていた陣さんの喉が鳴った。
目をそらせない。底なしに透明なその瞳の奥から心の全てを見透かされているようで、背筋にぞわぞわと寒気が這い登ってくる。
「…ホワイトラム切らしてる」
「ジンは?」
「1人分だけ」
「2杯欲しいんだけど」
「できない相談だな」
「じゃあサイドカーとバラライカのロング氷なし、それぞれ1杯ずつ」
まじかよ。俺はごくりと唾を飲み込んで、手のひらの刃物を袖の中に戻した。
LDH内には自身の身分を示す合言葉がいくつかあるが、まさか俺がこの合言葉を聞くことになるとは思ってもみなかった。
この人、HIROさんの客だ。
俺はすぐさま立ち上がって彼女の手を取った。少し力を込めれば壊れてしまいそうな、小さな手だった。
「VIPルームへどうぞ」
「どーも」
表の顔の時に使いを寄越さなければならないほどに重要な何かが起こったのだ。メンバーも平静を装いつつ緊張しているのが伝わってくる。
その時それまで黙っていた客の女が金切り声をあげた。
「待ちなさいよ!!!!何なのこの女!!??私に恥かかせるだけかかせてVIPルーム!!??ふざけんな!!!」
怒りで我を忘れた女が傍に置いてあった空のシャンパンボトルを引っ掴んで、こっちにぶん投げた。使いで来た彼女の額に向かって一直線に飛んでいく。
だが、日頃から音速に等しい速さの銃弾降り注ぐ場所に身を晒しているこちらとしては、非力な女性の投げるボトルなどのろのろ運転の車程度にしか感じなかった。
彼女の顔の目の前で手のひらを開き、ぱしりとキャッチする。彼女は「ナイスキャーッチ」なんて余裕の笑みを浮かべていた。
「なッ…慎、」
「俺女に暴力ふる女って、一番嫌い」
客の女が一気に老けた気がした。今まで被っていた金と男とプライドという仮面が剥がれた瞬間だった。
そんな女の肩を陣さんが掴む。
「お客様、当店での暴力行為、及びそれに準ずる行為は禁止されてるんで。規律違反とみなし、会員証を没収させていただきます」
「はぁ!?ちょっと、何を…!」
叫ぶ女性をボーイが出口まで引きずっていく。さらにその日は力也さんの判断で店じまいとなった。お客が皆帰り、残ったのはTHE RAMPAGEのメンバーと、例の女だけ。彼女はVIPルームのソファで足をぶらぶらさせながら、不機嫌そうに目をきゅっと細めた。
「HIROが甘いもの奢ってやるって言うから仕方なーく出てきたけどやっぱ明るいところは嫌いだね。落ち着かない」
この女HIROさん呼び捨てにしたぞ。どう見ても俺と同い年くらいなのに。
「名前は?」
「先に名乗るのが礼儀じゃないの?エリオット・ロシャード・力也…1990年11月28日生まれ、9年前兄と共に入社。能力名『re』心臓に致命的ダメージを負うか脊髄を損傷しないかぎりほぼ無制限に肉体的損傷を再生できる」
「は?」
まるでカンペでも見ているようにスラスラ話すが、視線は力也さんに固定されている。
「いや、あの、」
「え、あぁ私の名前?」
彼女はこてんと首を傾げて、こともなげに言い放った。
「唐島みさ。天才と呼べ」
LDHは行き場を無くした能力者たちがその力を正しいことのために使えるように、HIROさんが作った秘密結社だ。孤独な能力者たちに居場所を作り、貧困や差別で苦しむ人々が安心して暮らせる場所を守っている。
17年前にたった6人の男から始まった小さな不良グループが、今ではこの街でも有数の軍事力を備えた組織にまで成長した。
俺たちは俺たちの『居場所』を荒らす奴らには決して容赦しない。売られた喧嘩は買うし、やるんなら徹底的にやる。コロシなんて当たり前。俺たちが生きるのはそういう世界だ。
ま、裏でこんなことやって表では不動産やアパレルやらカジノ・クラブなんかを経営してたらマフィアまがいの恐ろしい組織なんて思われるのも当たり前なんだけど。
「ねぇ~まことぉ」
「何?」
客の女がしなを作って擦り寄ってきた。
プライベートだったらこんな女絶対相手にしないが、仕事だと割り切ってしまえばそんなに嫌じゃない。
LDH配下のチームにはそれぞれ表の顔がある。EXILEさんはカジノ、SECONDさんはバーと不動産、GENERATIONSさんはクラブ、三代目さんはアパレルブランド。
俺たちTHE RAMPAGEは人数の多さと個性の豊かさを当て込んでホストクラブだ。
「このまま抜け出しちゃおうよ~」
「だめだめ、ほら次何飲む?」
「いいじゃん慎ぉ、いっつもお金落としてあげてるんだし」
初めのうちは人見知りを発揮して接客は苦手だったが最近は慣れて、さらに潜入捜査のスキルアップに役立つことに気づいてからはむしろ結構楽しめてる。それは多分みんなそうで、今日は誰がトップだったなんて笑い合っているほどだ。
とはいえ、この手の客はやっぱりめんどくさい。壱馬さんが気を利かせてフォローに入ってくれたが、そこはトップを争う人気者とあってすぐに他のテーブルに連れていかれてしまった。
「まーこーとぉ、ねえってばぁ。私慎一筋なの!」
うちは枕はやらない。そういう決まりだし、そもそも頼まれてもやりたくない。
いい加減俺がイライラし始めたその時。
「その割にはその指輪、よそのホストに買ってもらったブランドものじゃん」
突然俺のすぐ隣から声がして、ぎょっと横を見る。
そして絶句した。
小柄な女。プラチナシルバーの長い巻き毛はあっちこっちにはねている。ぼさぼさの髪から覗くのは長い睫毛に縁取られた大きなアーモンドアイだ。瞳の色は淡いブルー。つんと通った小さな鼻と、ふっくらとした唇は思わずキスしたくなるほどに形がよい。真っ白できめ細かい肌も相まって、まるで芸術作品だった。
ぶかぶかの白シャツにこれまたダボダボのジーンズを着ているため分かりにくいが、小柄で華奢な体格をしている。前髪を鬱陶しそうに払うその手の爪ですら磨きこまれた宝石のように美しかった。
何だこの恐ろしいほどに美しい生き物は。本当に人間?客か?口ぶりからしてこのお客の連れ?でもこんな女が出入りしてたら絶対に気づくはず。どうやって入り込み、いつからここにいた?そもそもここは会員制でICカードがないと入ることすらできないのに。
呆気に取られる俺をよそに、そのお人形めいた女は平然とした様子でさらに続ける。
「ネックレスは一週間前にまた別の男にプレゼントさせたもので、ピアスはこれまた別のホストに買ってもらったやつか。でもそれ純金謳ってるけど輸入段階の中国で亜鉛混ぜられてるよ。ニセモノだね」
俺はもう開いた口が塞がらない。どうしてそんなことまで分かる?普通の人間はピアスを見ただけで輸入経路まで分かったりしない。
つまりこの女、普通じゃない。
即座に俺の頭に『能力者』という単語が浮かんだ。
(LDHのメンバー?それとも敵?)
俺は女の死角となる位置で手首をくっと折り曲げた。袖の内側に仕込んだ極細の刃物が手のひらに滑り落ちてくる。
どうやって潜り込んだのかは不明だが、もし敵だとしたらとんだ怖いもの知らずがいたものだ。
ここは勝手知ったる俺たちの縄張りだというのに。
「なっ…なによあんた!!誰!?気持ち悪いのよ!!違うの慎、私は本当に慎が運命の相手だと思って…!」
「ちなみに君が金づるとして付き合ってる彼氏くんがプレゼントしたその服、元カノが着てたやつをリメイクしてブランド品に見せかけたやつって話聞く?」
客の女が首まで赤く染めるほどに怒りと焦りを顕にしている。まずい、このままだと事態が複雑化しそうだ。
早急に恐ろしいほど美しいこの女がどちら側の人間なのかを確かめる必要がある。俺はひとつ息を吸った。
「オーダーをお伺いします」
きろり、ビー玉のように透き通った瞳が俺を見上げる。答え次第では今この場で殺さなければならないのが惜しいほどに、美しい瞳だった。泉をたたえているかのように艷めく彼女の唇が開く。
「XYZ」
ひゅ、と側で聞き耳を立てていた陣さんの喉が鳴った。
目をそらせない。底なしに透明なその瞳の奥から心の全てを見透かされているようで、背筋にぞわぞわと寒気が這い登ってくる。
「…ホワイトラム切らしてる」
「ジンは?」
「1人分だけ」
「2杯欲しいんだけど」
「できない相談だな」
「じゃあサイドカーとバラライカのロング氷なし、それぞれ1杯ずつ」
まじかよ。俺はごくりと唾を飲み込んで、手のひらの刃物を袖の中に戻した。
LDH内には自身の身分を示す合言葉がいくつかあるが、まさか俺がこの合言葉を聞くことになるとは思ってもみなかった。
この人、HIROさんの客だ。
俺はすぐさま立ち上がって彼女の手を取った。少し力を込めれば壊れてしまいそうな、小さな手だった。
「VIPルームへどうぞ」
「どーも」
表の顔の時に使いを寄越さなければならないほどに重要な何かが起こったのだ。メンバーも平静を装いつつ緊張しているのが伝わってくる。
その時それまで黙っていた客の女が金切り声をあげた。
「待ちなさいよ!!!!何なのこの女!!??私に恥かかせるだけかかせてVIPルーム!!??ふざけんな!!!」
怒りで我を忘れた女が傍に置いてあった空のシャンパンボトルを引っ掴んで、こっちにぶん投げた。使いで来た彼女の額に向かって一直線に飛んでいく。
だが、日頃から音速に等しい速さの銃弾降り注ぐ場所に身を晒しているこちらとしては、非力な女性の投げるボトルなどのろのろ運転の車程度にしか感じなかった。
彼女の顔の目の前で手のひらを開き、ぱしりとキャッチする。彼女は「ナイスキャーッチ」なんて余裕の笑みを浮かべていた。
「なッ…慎、」
「俺女に暴力ふる女って、一番嫌い」
客の女が一気に老けた気がした。今まで被っていた金と男とプライドという仮面が剥がれた瞬間だった。
そんな女の肩を陣さんが掴む。
「お客様、当店での暴力行為、及びそれに準ずる行為は禁止されてるんで。規律違反とみなし、会員証を没収させていただきます」
「はぁ!?ちょっと、何を…!」
叫ぶ女性をボーイが出口まで引きずっていく。さらにその日は力也さんの判断で店じまいとなった。お客が皆帰り、残ったのはTHE RAMPAGEのメンバーと、例の女だけ。彼女はVIPルームのソファで足をぶらぶらさせながら、不機嫌そうに目をきゅっと細めた。
「HIROが甘いもの奢ってやるって言うから仕方なーく出てきたけどやっぱ明るいところは嫌いだね。落ち着かない」
この女HIROさん呼び捨てにしたぞ。どう見ても俺と同い年くらいなのに。
「名前は?」
「先に名乗るのが礼儀じゃないの?エリオット・ロシャード・力也…1990年11月28日生まれ、9年前兄と共に入社。能力名『re』心臓に致命的ダメージを負うか脊髄を損傷しないかぎりほぼ無制限に肉体的損傷を再生できる」
「は?」
まるでカンペでも見ているようにスラスラ話すが、視線は力也さんに固定されている。
「いや、あの、」
「え、あぁ私の名前?」
彼女はこてんと首を傾げて、こともなげに言い放った。
「唐島みさ。天才と呼べ」