第三章
夢小説設定
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扉が開く音がして振り返る。メインフロアに入ってきたのはみさだけだった。
「樹さんは?」
「私の地下室で泣き疲れて寝ちゃった」
広いフロアにいるのは俺とみさだけ。接客用ソファに座る俺の隣に来たみさは、俺が飲んでいたカクテルを勝手に飲み干した。
こくりこくりと上下する細い喉をぼんやり眺めながら、俺はさっきまでの話を思い出す。
「…樹さんが自分の兄だって、いつ知ったの?」
「んあ?ええと、HIROがいっちゃんをLDHに入れたいって相談に来た日かな。まぁ本人は全く知らないみたいだったし私も家族だとはあんまり思ってなかったから特に言わなかったけど、まさか抱かれるとはね」
薄く笑ったみさの横顔からは何も窺い知ることはできない。
俺はその手をそっと包み込んだ。青い瞳が俺を見上げる。
「たとえ過去がどうであれ、みさと樹さんはたったひとりの家族なんだ。大事にしなきゃダメだよ」
血の繋がった『家族』というものの大切さ。
かけがえのないというのはこのことだったのだと知ったのは、全て失った後だった。
「どしたのまこっちゃん」
「俺とひとつだけ、約束しよ」
「約束?」
俺は右手の小指を差し出した。
「俺たちの理想郷で、俺たちは幸せを掴もう」
みさが目を大きく見開く。だが、次の瞬間には言葉で言い表せないくらいに爆笑し始めた。
腹を抱えてげらげら笑い続けるみさを、俺はぽかんと眺めていた。
満面の笑みなんて初めて見た。
「はー、まこっちゃん面白すぎ。すごい真剣な顔してるから何かと思えばなにその超抽象的なイッタイ発言」
「…人が真剣に言ってること笑うなよ」
みさの悪戯っぽい視線が俺を見上げる。
目の前に差し出されたのは、すらりと細い右手の小指。
「いいよ。約束」
「え、」
「ほら」
促され、慌てて自分の小指を絡める。
女のひと特有の柔らかい指の感触がなぜだか強く印象に残った。
「ふふ、幸せになる」
本当は幸せに『なる』じゃなくて。
幸せに『する』って、言いたかったんだ。
その小さな身体で抱え込んだ重たい荷物も俺が全部捨ててやるって、そう言いたかった。
でも、そんなことを言う勇気はまだ無いから。
今はこうして、少しずつでもみさを笑顔にさせてやれたら。
誰もいない夜のフロアで笑い合う俺たちの声を、樹さんはこっそり扉越しに聞いていた。
柔らかい笑みをたたえて。
「お兄ちゃんの入る隙間はない、かな」
「樹さんは?」
「私の地下室で泣き疲れて寝ちゃった」
広いフロアにいるのは俺とみさだけ。接客用ソファに座る俺の隣に来たみさは、俺が飲んでいたカクテルを勝手に飲み干した。
こくりこくりと上下する細い喉をぼんやり眺めながら、俺はさっきまでの話を思い出す。
「…樹さんが自分の兄だって、いつ知ったの?」
「んあ?ええと、HIROがいっちゃんをLDHに入れたいって相談に来た日かな。まぁ本人は全く知らないみたいだったし私も家族だとはあんまり思ってなかったから特に言わなかったけど、まさか抱かれるとはね」
薄く笑ったみさの横顔からは何も窺い知ることはできない。
俺はその手をそっと包み込んだ。青い瞳が俺を見上げる。
「たとえ過去がどうであれ、みさと樹さんはたったひとりの家族なんだ。大事にしなきゃダメだよ」
血の繋がった『家族』というものの大切さ。
かけがえのないというのはこのことだったのだと知ったのは、全て失った後だった。
「どしたのまこっちゃん」
「俺とひとつだけ、約束しよ」
「約束?」
俺は右手の小指を差し出した。
「俺たちの理想郷で、俺たちは幸せを掴もう」
みさが目を大きく見開く。だが、次の瞬間には言葉で言い表せないくらいに爆笑し始めた。
腹を抱えてげらげら笑い続けるみさを、俺はぽかんと眺めていた。
満面の笑みなんて初めて見た。
「はー、まこっちゃん面白すぎ。すごい真剣な顔してるから何かと思えばなにその超抽象的なイッタイ発言」
「…人が真剣に言ってること笑うなよ」
みさの悪戯っぽい視線が俺を見上げる。
目の前に差し出されたのは、すらりと細い右手の小指。
「いいよ。約束」
「え、」
「ほら」
促され、慌てて自分の小指を絡める。
女のひと特有の柔らかい指の感触がなぜだか強く印象に残った。
「ふふ、幸せになる」
本当は幸せに『なる』じゃなくて。
幸せに『する』って、言いたかったんだ。
その小さな身体で抱え込んだ重たい荷物も俺が全部捨ててやるって、そう言いたかった。
でも、そんなことを言う勇気はまだ無いから。
今はこうして、少しずつでもみさを笑顔にさせてやれたら。
誰もいない夜のフロアで笑い合う俺たちの声を、樹さんはこっそり扉越しに聞いていた。
柔らかい笑みをたたえて。
「お兄ちゃんの入る隙間はない、かな」