第三章
夢小説設定
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樹はしばらく何も答えなかった。
状況を飲み込めない15人は固唾を呑んで樹を見つめている。
やがて、樹がぽつりと言った。
「父さん…?」
突然弾かれたように女のもとに駆け寄り、胸ぐらを掴む。額がつくほどの距離で、樹は女を問い詰めた。
「どうして父さんのことを知っている。『もうひとり』ってどういうことだ、父さんの実験台は俺だけだった、母さんも、3つ子のあと2人も父さんのせいで死んだんだ、なぁおい、あんた俺の何を知ってる、答えろ、なぁ、」
いきなり豹変した樹の様子に初めはみんな呆気に取られていたが、すぐに慌てた陣が止めに入ろうとする。
「お、おい樹!落ち着け!どうしたんや一体」
「来ないでください」
地を這うような低い声で、樹が言った。陣や同じく止めようとしていたメンバーの足がぴたりと止まる。樹の視線は目の前の女に固定されたままだった。
「答えろ。どうして父さんのことを知っている」
彼女は落ち着き払っていた。ブラックホールの視線がじっと樹に注がれている。
「直接会ったことはありません。ある人から聞いた話です。LDHの保護下にあると聞いていましたが、やはりそうだったのですね」
はっと、樹が身体を強ばらせた。彼女は次に私を見る。
「ひと目見た瞬間に分かりました。あなたが『アフロディーテ』だと。ドクターの失われた最高傑作」
最高の美神であり、愛と美と性を司る戦いの女神。
それが、あの人の求めた理想だった。
それが私だった。
「…あんた、アレスにはいなかったよね。メンバーの顔は全員覚えてるけど、あんたは記憶にはない」
「アレス?何のことですか?」
「…!」
ドクターのことといい、彼女は私や樹の過去に直接関わりのある人物というわけではなさそうだ。
それならば、一体誰から聞いたのか。
かつてのメンバーは全員10年前の抗争で殺された。生き残ったのは私だけのはずだ。
私の通り名も、ドクターのことも。
どうして知っている?
「みさ、」
思考の泥沼に浸かっていた私を、樹の声が現実に引き戻す。
「父さんの最高傑作って、どういうこと」
カチリと、またどこからか音がした。
樹の手が彼女の襟から離れる。私に歩み寄る。
「みさ、お願い。教えて」
私はそれに答えず、樹と入れ替わるように彼女に近づいていく。あの瞳に浮かぶ不気味なブラックホールの正体を探るために。
彼女が目を閉じる。
その時突然、瞳を金色に光らせた慎が叫んだ。
「危ない!!!!!!!!!!!」
何事かと振り返った私の背後で、カッと閃光が迸った。慎が飛び出してきて私を守るようにぎゅっと抱きしめる。
爆音。衝撃。
ああ、どうりで何も話してくれないわけだ。彼女は知っていること全てを私たちを道連れに墓場まで持っていくつもりで、ハナから生きて帰る気などなかったんだ。
でも、いつまで経っても予想した痛みは訪れなかった。
土煙が晴れてから、その理由に気づく。
17人の周囲を氷と石と蔦が覆っていた。樹と拓磨と北人がとっさに作り出したこのシェルターのおかげで爆発から守られたのだ。
「…やられた。体内に爆弾仕込んでたんだ」
慎の腕の中で呟く。どうして見抜けなかったんだろう。
…いや。過ぎたことを考えていても仕方ない。今はもっと大事なことが別にある。
「…そういえばまこっちゃん、やればできるじゃん」
「うん。いきなりあの人が爆破する未来がぱって浮かんだ」
慎が叫んでくれなかったら、みんな爆発に巻き込まれていただろう。訓練の成果かは分からないが、危機察知的に未来を見ることはできるようになったらしい。
私は腕を回して、慎の背中をぽんぽん叩いた。
「よく出来ました」
「子供扱いすんな同い歳のくせに」
「ふふ」
慎はぎゅっと腕に力を込めてから私の身体を離した。私は彼女がいた方向に歩み寄り、太く頑丈な蔦が絡み合う壁に触れる。蔦はざわざわと揺れると北人の両腕に吸い込まれていった。
「危なかった…慎が言ってくれなかったら反応できなかったよ」
「俺もっす」
石の壁を元に戻しながら、拓磨が頷く。
「壱馬さん、氷溶かしてもらっていいですか」
「おう」
樹の頼みで、壱馬が炎で氷を溶かし始める。水浸しになった部屋の中は凄惨だった。
壁と屋根の一部は爆発の衝撃で崩落し、瓦礫が散乱していた。爆心地となった彼女自身は見るも無残な肉片と化している。
樹は呆然と黒焦げになった椅子に歩み寄ると、思いっきり蹴飛ばした。下半身の一部が縛り付けられたままの椅子が壁にぶちあたり、完全に壊れる。
「くそッ!!」
結局彼女についても、彼女の組織についても何も分からなかった。
残ったのは謎ばかり。
「いっちゃん」
肩で荒く息をする樹の背中に声をかけた。
振り返る。揺らぐその瞳をまっすぐに見つめて、私は薄く笑う。
「聞きたい?『家族』のこと」
状況を飲み込めない15人は固唾を呑んで樹を見つめている。
やがて、樹がぽつりと言った。
「父さん…?」
突然弾かれたように女のもとに駆け寄り、胸ぐらを掴む。額がつくほどの距離で、樹は女を問い詰めた。
「どうして父さんのことを知っている。『もうひとり』ってどういうことだ、父さんの実験台は俺だけだった、母さんも、3つ子のあと2人も父さんのせいで死んだんだ、なぁおい、あんた俺の何を知ってる、答えろ、なぁ、」
いきなり豹変した樹の様子に初めはみんな呆気に取られていたが、すぐに慌てた陣が止めに入ろうとする。
「お、おい樹!落ち着け!どうしたんや一体」
「来ないでください」
地を這うような低い声で、樹が言った。陣や同じく止めようとしていたメンバーの足がぴたりと止まる。樹の視線は目の前の女に固定されたままだった。
「答えろ。どうして父さんのことを知っている」
彼女は落ち着き払っていた。ブラックホールの視線がじっと樹に注がれている。
「直接会ったことはありません。ある人から聞いた話です。LDHの保護下にあると聞いていましたが、やはりそうだったのですね」
はっと、樹が身体を強ばらせた。彼女は次に私を見る。
「ひと目見た瞬間に分かりました。あなたが『アフロディーテ』だと。ドクターの失われた最高傑作」
最高の美神であり、愛と美と性を司る戦いの女神。
それが、あの人の求めた理想だった。
それが私だった。
「…あんた、アレスにはいなかったよね。メンバーの顔は全員覚えてるけど、あんたは記憶にはない」
「アレス?何のことですか?」
「…!」
ドクターのことといい、彼女は私や樹の過去に直接関わりのある人物というわけではなさそうだ。
それならば、一体誰から聞いたのか。
かつてのメンバーは全員10年前の抗争で殺された。生き残ったのは私だけのはずだ。
私の通り名も、ドクターのことも。
どうして知っている?
「みさ、」
思考の泥沼に浸かっていた私を、樹の声が現実に引き戻す。
「父さんの最高傑作って、どういうこと」
カチリと、またどこからか音がした。
樹の手が彼女の襟から離れる。私に歩み寄る。
「みさ、お願い。教えて」
私はそれに答えず、樹と入れ替わるように彼女に近づいていく。あの瞳に浮かぶ不気味なブラックホールの正体を探るために。
彼女が目を閉じる。
その時突然、瞳を金色に光らせた慎が叫んだ。
「危ない!!!!!!!!!!!」
何事かと振り返った私の背後で、カッと閃光が迸った。慎が飛び出してきて私を守るようにぎゅっと抱きしめる。
爆音。衝撃。
ああ、どうりで何も話してくれないわけだ。彼女は知っていること全てを私たちを道連れに墓場まで持っていくつもりで、ハナから生きて帰る気などなかったんだ。
でも、いつまで経っても予想した痛みは訪れなかった。
土煙が晴れてから、その理由に気づく。
17人の周囲を氷と石と蔦が覆っていた。樹と拓磨と北人がとっさに作り出したこのシェルターのおかげで爆発から守られたのだ。
「…やられた。体内に爆弾仕込んでたんだ」
慎の腕の中で呟く。どうして見抜けなかったんだろう。
…いや。過ぎたことを考えていても仕方ない。今はもっと大事なことが別にある。
「…そういえばまこっちゃん、やればできるじゃん」
「うん。いきなりあの人が爆破する未来がぱって浮かんだ」
慎が叫んでくれなかったら、みんな爆発に巻き込まれていただろう。訓練の成果かは分からないが、危機察知的に未来を見ることはできるようになったらしい。
私は腕を回して、慎の背中をぽんぽん叩いた。
「よく出来ました」
「子供扱いすんな同い歳のくせに」
「ふふ」
慎はぎゅっと腕に力を込めてから私の身体を離した。私は彼女がいた方向に歩み寄り、太く頑丈な蔦が絡み合う壁に触れる。蔦はざわざわと揺れると北人の両腕に吸い込まれていった。
「危なかった…慎が言ってくれなかったら反応できなかったよ」
「俺もっす」
石の壁を元に戻しながら、拓磨が頷く。
「壱馬さん、氷溶かしてもらっていいですか」
「おう」
樹の頼みで、壱馬が炎で氷を溶かし始める。水浸しになった部屋の中は凄惨だった。
壁と屋根の一部は爆発の衝撃で崩落し、瓦礫が散乱していた。爆心地となった彼女自身は見るも無残な肉片と化している。
樹は呆然と黒焦げになった椅子に歩み寄ると、思いっきり蹴飛ばした。下半身の一部が縛り付けられたままの椅子が壁にぶちあたり、完全に壊れる。
「くそッ!!」
結局彼女についても、彼女の組織についても何も分からなかった。
残ったのは謎ばかり。
「いっちゃん」
肩で荒く息をする樹の背中に声をかけた。
振り返る。揺らぐその瞳をまっすぐに見つめて、私は薄く笑う。
「聞きたい?『家族』のこと」