第三章
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自分のステーキも食べ終わって、俺は水をぐいっと飲み干した。
「さ、行こ」
「どこに?」
「行けばわかるから」
俺の奢りで会計を済ませ、店の外に出る。バイクに2人でまたがると、激情のままにみさを家に連れ込んだあの夜のことを思い出した。
「ちゃんと掴まってよー」
「ういっす」
きゅ、と俺のお腹のあたりに腕が回る。背中にあたる柔らかい感触には気付かないふりをして、俺はアクセルを握りこんだ。
シルバーブラックに塗られ、黒豹をモチーフにしたフロントフェイスをもつこのZ1000は俺のLDHでの初陣のあと壱馬さんがプレゼントしてくれたものだ。壱馬さんも同じモデルに乗っている。
プレゼントがある、と言って壱馬さんに連れていかれたアジトの外。
そこに俺の銀色の車体と壱馬さんの黒い車体が停まっているのを見た時はもちろん死ぬほど驚いた。
こんな高いものは受け取れないと言ったら、戦場での自分のシンボルであり脚となるものなんだから最高のものを使わないとダメだと押し切られた。これが兄貴分としての仕事なのだと。
「はやーい」
後ろでみさが楽しげに声をあげる。
「気持ちいいでしょ。こうやって夜に走るのがたまんなくてさ」
「うん、風が涼しい」
トン、と背中にみさがヘルメットを押し付けてくるのを感じた。
「前も思ったけど、こうやってふたり乗りするの好き」
ぎゅっと俺に掴まる腕に力がこもった。ぴたりと身体が密着して、服越しに体温が伝わってくる。
みさはそんなに体温が高くない。それでも、夜風で冷えた俺の背中はじわじわと暖かくなっていく気がした。
「もうすぐ見えてくるよ」
「何が?」
「まだ秘密ー」
ダウンタウンの外れにある、廃工場群。俺はそこでバイクを停めた。
「…ここ?」
「そう。大丈夫、誰もいないから」
みさの手を引いて歩き出す。自然と指が絡み合った。
静まり返った建物の間を歩いていく。日はとっぷりと暮れていたが夜目が効く俺にとっては昼も夜も変わらない。みさが躓かないよう気を配りながら、奥の一際高い鉄塔に辿り着いた。側面にジグザグの階段が付いている。
「登るよ」
「はぁ?」
文句を言い出す前に手を引っ張って階段を登り始める。
かつん、かつん
鉄製の階段を登る足音だけが夜の薄暗闇に吸い込まれていく。
これは一緒に仕事をした時に気づいたのだが、案外押しに弱いところがあるみさは俺の予想通りそのうち文句を言うのをやめて大人しく足を動かし始めた。
「着いた」
「はぁ、疲れた…」
上がった息を整えながら、みさが繋いだ手を引っぱった。
「もう、ホント何なの?こんな所まで連れてきて」
俺は答える代わりに少し笑って、前方を指さす。
みさの青い瞳が月明かりで宝石のように輝いた。
今俺たちが立っているのは、高さ約40mの鉄塔の中ほどにある踊り場。足場があるだけ、視界を遮るものは何も無い。
ここからはダウンタウンが一望できた。
ネオンや家の光がちかちかと瞬いて、まるで満天の星空を上から見下ろしているようだ。あの灯りひとつひとつの下で誰かが生きているのだと思うと命そのものが輝いているように見えてくる。
ダウンタウンの奥に見えるのは俺たちの街、ウェスタンシティ。さらにそのずっと奥でちらちらと光っているのは海だ。
風が吹いて、みさの前髪をかきあげた。
「すごい…」
みさが繋いでいた手を離し、踊り場の縁に腰掛けた。大きな瞳いっぱいに街のひかりを映して眼下の光景にじっと魅入っている。
「俺がLDHに来てすぐくらいの頃に、HIROさんに教えてもらった場所なんだ」
「HIROに?」
青い虹彩が俺を見上げた。俺はポケットに手を突っ込んで、街を眺める。
「今でも覚えてる。『お前の目ならこの街のさらに向こうも見えるだろ。海の向こうまで、その先まで…そこに、俺たちの目指す理想郷 があるんだ』」
「理想郷 …」
「そう」
片手をまっすぐ前にかざす。能力を発動した。
空を飛ぶ鴎のように海を越え、その先にある大陸まで目線を送る。俺たちとは肌も髪も瞳の色も異なる人々が生活を送っているのが見えた。
「この先に能力者も非能力者も関係なくみんな平等で、殺し合うことなく、傷つけあうこともない理想郷がある。俺たちはそこを目指すんだって、HIROさんはそう言ってた。その為に今戦ってるんだって」
瞼を閉じて、また開けた時には瞳のひかりは消えていた。
みさは空中で足をぶらぶらさせながら、星空の街を眺めている。
「じゃあ、この街は?」
風にのってみさの言葉が俺の耳まで運ばれてくる。
「今私たちが必死で守ってるこの街は、この街に住む人たちは。どうなるんだろうね」
「この街もひっくるめて、HIROさんの目指す場所まで連れて行ってくれるんだろ」
「あは、壮大」
突然みさがぱっと足場の上に立ち上がった。一歩踏み外せば真っ逆さま、というギリギリの場所で俺の方を向いて立っている。長い髪がぶわりと舞い上がって、月光色に輝く。街のひかりをいっぱいに背負って、両腕を広げた。
「まーこっちゃーん」
笑顔が咲いた。
あまりに綺麗で、無邪気な笑顔だった。
ふっ、とみさの身体が後ろに倒れる。
「っ、おい」
とっさにその腕を掴んで自分の方に引き寄せる。
ガシャン、鉄製の足場が鳴って気づいた時には鉄塔に背中を預けみさの身体を抱きすくめていた。
心臓が早鐘を打っている。あのまま落ちて、二度と手の届かない所へ行ってしまうかと思った。
「あっ、ぶね…おま、何考えてんの!?落ちたら死んでたぞ!」
「あははは、何となく飛び込んでみたくなったんだよね。まこっちゃんなら助けてくれる気がしてたし」
無邪気、無関心、無頓着。
どこまでも掴みどころがない、不思議な人。
俺はまだどくどく暴れている心臓を落ち着かせるためにみさの身体をきつく抱き寄せた。
「まこっちゃん痛い、痛いって。離してよ」
「やだ。離さない」
俺はそのままずるずると座り込む。立てた俺の膝の間でぺたりと座り込んだみさは、大人しく俺に抱きしめられている。
「…ねぇ、みさ」
「何?」
「もっと自分を大切にした方がいいよ」
「お説教?」
違う、と俺は首をふる。
「メシちゃんと食って、たまには日光にあたって。しっかり寝て」
「おかんかよ」
「いろんな男の誘いにほいほい乗っかっちゃダメ」
「ええ~?」
みさが頭をすり、と俺の肩に擦り付ける。
「今現在熱い抱擁を交わしてる男に言われたくないよ」
「…みさ」
「うん?」
俺は柔らかい髪にそっと頬を寄せて、その耳元で囁いた。
「俺と恋人同士になったらさ、そういう相手、俺だけに絞ってくれる?」
夜風が俺の髪を撫でていく。
みさはしばらく答えなかった。
ぽつりと声が零れる。
「嫌だよめんどくさい」
…まぁ、だろうと思ってた。俺だってまさかこんなアンティークドールみたいなとびきりの美人を恋人にできるとは期待してない。
「恋人とか、縛られるの嫌いだし。今までそういうのひとりもいないんだよ私」
みさがすぐ下から俺を見上げて、悪戯っぽく瞳をきょろりと回す。
「うん、だろうと思ったわ」
「まこっちゃん結構私のこと好きだよね」
「かもね」
最後にぎゅう、とその華奢な身体を抱きしめて俺は腕を離した。
「さ、帰ろ。本社まで送ってく」
「え?」
「え?」
階段を降りながらみさがきょとんと目を丸くした。
「ホテルとか行かないの?」
「…俺そんなに野獣じゃないから」
「何言ってんのあの時…」
「あー言うな言うな」
バイクの所まで戻ってきた俺はみさの小さな頭にヘルメットをがぽりと被せた。
「ほら乗って」
「何だよもう、このままアジト戻ったら直人に怒られるよ」
「知らね」
「無理やり予定ねじ込んできたのまこっちゃんでしょ!」
足をばたつかせて喚くみさを乗せて、俺はバイクを走らせる。
「ねぇまこっちゃんー」
「掴まってないと落ちる!今度は助けてやんないからな!」
「さ、行こ」
「どこに?」
「行けばわかるから」
俺の奢りで会計を済ませ、店の外に出る。バイクに2人でまたがると、激情のままにみさを家に連れ込んだあの夜のことを思い出した。
「ちゃんと掴まってよー」
「ういっす」
きゅ、と俺のお腹のあたりに腕が回る。背中にあたる柔らかい感触には気付かないふりをして、俺はアクセルを握りこんだ。
シルバーブラックに塗られ、黒豹をモチーフにしたフロントフェイスをもつこのZ1000は俺のLDHでの初陣のあと壱馬さんがプレゼントしてくれたものだ。壱馬さんも同じモデルに乗っている。
プレゼントがある、と言って壱馬さんに連れていかれたアジトの外。
そこに俺の銀色の車体と壱馬さんの黒い車体が停まっているのを見た時はもちろん死ぬほど驚いた。
こんな高いものは受け取れないと言ったら、戦場での自分のシンボルであり脚となるものなんだから最高のものを使わないとダメだと押し切られた。これが兄貴分としての仕事なのだと。
「はやーい」
後ろでみさが楽しげに声をあげる。
「気持ちいいでしょ。こうやって夜に走るのがたまんなくてさ」
「うん、風が涼しい」
トン、と背中にみさがヘルメットを押し付けてくるのを感じた。
「前も思ったけど、こうやってふたり乗りするの好き」
ぎゅっと俺に掴まる腕に力がこもった。ぴたりと身体が密着して、服越しに体温が伝わってくる。
みさはそんなに体温が高くない。それでも、夜風で冷えた俺の背中はじわじわと暖かくなっていく気がした。
「もうすぐ見えてくるよ」
「何が?」
「まだ秘密ー」
ダウンタウンの外れにある、廃工場群。俺はそこでバイクを停めた。
「…ここ?」
「そう。大丈夫、誰もいないから」
みさの手を引いて歩き出す。自然と指が絡み合った。
静まり返った建物の間を歩いていく。日はとっぷりと暮れていたが夜目が効く俺にとっては昼も夜も変わらない。みさが躓かないよう気を配りながら、奥の一際高い鉄塔に辿り着いた。側面にジグザグの階段が付いている。
「登るよ」
「はぁ?」
文句を言い出す前に手を引っ張って階段を登り始める。
かつん、かつん
鉄製の階段を登る足音だけが夜の薄暗闇に吸い込まれていく。
これは一緒に仕事をした時に気づいたのだが、案外押しに弱いところがあるみさは俺の予想通りそのうち文句を言うのをやめて大人しく足を動かし始めた。
「着いた」
「はぁ、疲れた…」
上がった息を整えながら、みさが繋いだ手を引っぱった。
「もう、ホント何なの?こんな所まで連れてきて」
俺は答える代わりに少し笑って、前方を指さす。
みさの青い瞳が月明かりで宝石のように輝いた。
今俺たちが立っているのは、高さ約40mの鉄塔の中ほどにある踊り場。足場があるだけ、視界を遮るものは何も無い。
ここからはダウンタウンが一望できた。
ネオンや家の光がちかちかと瞬いて、まるで満天の星空を上から見下ろしているようだ。あの灯りひとつひとつの下で誰かが生きているのだと思うと命そのものが輝いているように見えてくる。
ダウンタウンの奥に見えるのは俺たちの街、ウェスタンシティ。さらにそのずっと奥でちらちらと光っているのは海だ。
風が吹いて、みさの前髪をかきあげた。
「すごい…」
みさが繋いでいた手を離し、踊り場の縁に腰掛けた。大きな瞳いっぱいに街のひかりを映して眼下の光景にじっと魅入っている。
「俺がLDHに来てすぐくらいの頃に、HIROさんに教えてもらった場所なんだ」
「HIROに?」
青い虹彩が俺を見上げた。俺はポケットに手を突っ込んで、街を眺める。
「今でも覚えてる。『お前の目ならこの街のさらに向こうも見えるだろ。海の向こうまで、その先まで…そこに、俺たちの目指す
「
「そう」
片手をまっすぐ前にかざす。能力を発動した。
空を飛ぶ鴎のように海を越え、その先にある大陸まで目線を送る。俺たちとは肌も髪も瞳の色も異なる人々が生活を送っているのが見えた。
「この先に能力者も非能力者も関係なくみんな平等で、殺し合うことなく、傷つけあうこともない理想郷がある。俺たちはそこを目指すんだって、HIROさんはそう言ってた。その為に今戦ってるんだって」
瞼を閉じて、また開けた時には瞳のひかりは消えていた。
みさは空中で足をぶらぶらさせながら、星空の街を眺めている。
「じゃあ、この街は?」
風にのってみさの言葉が俺の耳まで運ばれてくる。
「今私たちが必死で守ってるこの街は、この街に住む人たちは。どうなるんだろうね」
「この街もひっくるめて、HIROさんの目指す場所まで連れて行ってくれるんだろ」
「あは、壮大」
突然みさがぱっと足場の上に立ち上がった。一歩踏み外せば真っ逆さま、というギリギリの場所で俺の方を向いて立っている。長い髪がぶわりと舞い上がって、月光色に輝く。街のひかりをいっぱいに背負って、両腕を広げた。
「まーこっちゃーん」
笑顔が咲いた。
あまりに綺麗で、無邪気な笑顔だった。
ふっ、とみさの身体が後ろに倒れる。
「っ、おい」
とっさにその腕を掴んで自分の方に引き寄せる。
ガシャン、鉄製の足場が鳴って気づいた時には鉄塔に背中を預けみさの身体を抱きすくめていた。
心臓が早鐘を打っている。あのまま落ちて、二度と手の届かない所へ行ってしまうかと思った。
「あっ、ぶね…おま、何考えてんの!?落ちたら死んでたぞ!」
「あははは、何となく飛び込んでみたくなったんだよね。まこっちゃんなら助けてくれる気がしてたし」
無邪気、無関心、無頓着。
どこまでも掴みどころがない、不思議な人。
俺はまだどくどく暴れている心臓を落ち着かせるためにみさの身体をきつく抱き寄せた。
「まこっちゃん痛い、痛いって。離してよ」
「やだ。離さない」
俺はそのままずるずると座り込む。立てた俺の膝の間でぺたりと座り込んだみさは、大人しく俺に抱きしめられている。
「…ねぇ、みさ」
「何?」
「もっと自分を大切にした方がいいよ」
「お説教?」
違う、と俺は首をふる。
「メシちゃんと食って、たまには日光にあたって。しっかり寝て」
「おかんかよ」
「いろんな男の誘いにほいほい乗っかっちゃダメ」
「ええ~?」
みさが頭をすり、と俺の肩に擦り付ける。
「今現在熱い抱擁を交わしてる男に言われたくないよ」
「…みさ」
「うん?」
俺は柔らかい髪にそっと頬を寄せて、その耳元で囁いた。
「俺と恋人同士になったらさ、そういう相手、俺だけに絞ってくれる?」
夜風が俺の髪を撫でていく。
みさはしばらく答えなかった。
ぽつりと声が零れる。
「嫌だよめんどくさい」
…まぁ、だろうと思ってた。俺だってまさかこんなアンティークドールみたいなとびきりの美人を恋人にできるとは期待してない。
「恋人とか、縛られるの嫌いだし。今までそういうのひとりもいないんだよ私」
みさがすぐ下から俺を見上げて、悪戯っぽく瞳をきょろりと回す。
「うん、だろうと思ったわ」
「まこっちゃん結構私のこと好きだよね」
「かもね」
最後にぎゅう、とその華奢な身体を抱きしめて俺は腕を離した。
「さ、帰ろ。本社まで送ってく」
「え?」
「え?」
階段を降りながらみさがきょとんと目を丸くした。
「ホテルとか行かないの?」
「…俺そんなに野獣じゃないから」
「何言ってんのあの時…」
「あー言うな言うな」
バイクの所まで戻ってきた俺はみさの小さな頭にヘルメットをがぽりと被せた。
「ほら乗って」
「何だよもう、このままアジト戻ったら直人に怒られるよ」
「知らね」
「無理やり予定ねじ込んできたのまこっちゃんでしょ!」
足をばたつかせて喚くみさを乗せて、俺はバイクを走らせる。
「ねぇまこっちゃんー」
「掴まってないと落ちる!今度は助けてやんないからな!」