第二章
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銃声が響いた。
「大ハズレだ」
壱馬が呟いて窓から顔を出した。アサルトライフルのトリガーを引くと、銃弾が背後につけていたバイクのタイヤに直撃しスリップして数台を巻き込む。
「北人、このまま街抜けろ!一般人巻き込みたくない」
「分かってる」
その時、私の座っている側の窓に、バイクが追いついてきた。銃口がこちらを向く。
「みさ!」
壱馬が叫んだその時だった。
どこからともなく飛んできた弾丸が針の穴を通すようなコントロールでライダーの右から左の耳の穴を貫通していく。
ライダーはあっけなくこと切れると後方に転がっていった。
この神業的な射撃テクニック。
こんなことができるのはひとりしかいない。
「…遅いんや兄弟」
口調とは裏腹に、嬉しそうに笑って壱馬が言う。
『すんません、ライフルの組み換えに時間かかっちゃって』
慎の声が脳内に響いた。
どこだ、と前方に目を凝らして。
見つけた。
前方に停まる大型トラック。その荷台のリア部分が全開になっており、そこに愛用している対物ライフル、PGMへカートIIをセッティングしスコープをのぞき込む慎の姿があった。
「待たせたなお前らぁ!!!!」
隣のクラシックオープンカーで立ち上がって嬉しそうに目をギラギラさせているのは陣だ。大声を出してライトマシンガンを片手で振り回す。
「THE RAMPAGEのお出ましだ!!暴れ回ろうぜ!!」
カッとライトが眩しく光ったかと思うと、街の出口にあたる道にはクラシックカーとトラックの他にもバイクが4台こちらを向いて停まっていた。
男どもの猛り狂った雄叫びがこだまする。
「うわぁ…野蛮この上ないね」
「これがええんやって。やべ、テンションぶち上がってきたわ」
「俺も暴れるの久々」
「ていうかUSBの中身も確認してないのに交戦しちゃっていいの?」
私が首を傾げると目をギラギラさせた壱馬が吐き捨てるように笑った。
「知るかそんなん。先手ぇ出てきたのは向こうやろ、俺らは売られたケンカ買うだけや」
「倍にしてね」
北人も思いっきりアクセルを踏み込みながら楽しげに言う。ダメだこいつら。
「もう勝手にやってくれ」
その時、ふいに私たちの乗る車がガコンと大きく傾いだ。何事かと後ろを振り返ると車が後部からみるみる朽ちていく。
「ちッ、能力者か」
「腐敗の能力ってところだね」
「外出ろ!俺らまで腐るぞ!」
私はドアを開け指笛を鳴らした。すぐに翔吾がバイクで並走してくれて、私はぴょんとその後ろに飛び移る。リムジンが完全に崩壊する前に壱馬と北人もそれぞれ味方のバイクに移っていた。
「USBは?」
「私が持ってる」
「ナイス!じゃあ俺らはあとはこいつらを片すだけ?やっべー!ぶち上がってきた!」
「いや…しょごのそのハイテンション未だに理解できないわ。とりあえず私トラック行っていい?」
「あ、せやなそっちの方がみさ安全だ」
翔吾がぐるりとバイクを方向転換させて街から遠ざかるように走り始めたトラックに向かう。慎に手をぐいっと引っ張られ無事荷台に乗り移った。
荷台に乗っていたのは慎、力也、拓磨、陸、健太、瑠唯、龍の7人だ。
慎が私を見上げてニヤリと方頬を吊り上げた。
「さっきの、貸し1だから」
「はぁ?あんなの私だけでも倒せたし」
べ、と下を出して私は力矢に尋ねる。
「私のパソコンは?」
「俺が持ってる」
力矢は私にノートパソコンを手渡しながら、髪の毛をくしゃくしゃと撫でた。
「みさ本当にありがとう。あとは俺たちに任せてくれ」
「プリンね」
「分かってる」
力矢が笑った。私はUSBを取り出してパソコンに繋ぐ。その時、爆音が響いてトラックが大きく揺れる。
「ロケットランチャーか」
慎が瞳を金色に光らせながら呟く。バシュ、と撃ち込んだ一発は車のエンジン部に命中し爆発、炎上した。
と、ふいに夜空に黒雲が垂れ込める。
「能力、『雷霆』」
バイクに乗った山彰が右腕を薙ぐ。
耳をつんざくような轟音と共に巨大な雷が車を直撃した。思わず首を竦めた私の目の前で、敵の乗員諸共一瞬で黒焦げになる。近くにいたバイクのライダー数人も地面を伝って流れた電気で感電して死んでしまった。
「…俺に触れるなら痺れるだけじゃ済まないよ」
山彰が倒した敵を乗り越えて、さらに奴らが追いかけてくる。壱馬は翔平の運転するバイクのタンデムシートに両足を踏ん張って立ち上がると、右手を真上に掲げた。
その手のひらにみるみる巨大な火の玉が形成されていく。
「能力、『焔』」
まるでボールでも投げるようなスイングで、直径5メートルはあろうかという火球を後方の敵に向かって投げつける。地響きと共に一瞬で炎が全てを灰にした。地面が抉れ、タンパク質の燃える匂いがこちらにまで届く。
あれが超攻撃型能力と言われる壱馬の力か…
「焼き尽くせ、全てを」
と、ふいに突風が巻き起こった。壱馬が放った炎が一瞬で消え、「あっせっかく綺麗に燃えてたのに!」と壱馬がその風を起こした張本人に不満げな視線を向けた。
風は意思を持った生き物のようにうねり、次第に強さを増してライダーたちを巻き上げる。
竜巻だ。
「能力、『風神』」
荷台の後方で陸が両手を広げて笑った。いつもの明るい陸らしからぬ、殺戮の興奮で瞳がギラギラと輝く危険な笑顔だった。
「風が全てを運んでいく。お前の命もな」
しかし荒れ狂っていた竜巻を乗り越えて再び迫る敵の車に、樹のバイクが180°方向転換し突進していった。車体を大きく傾けて、右手を地面に伸ばす。
その指が地面に触れた瞬間、そこからビキビキと音を立てて氷が道を走っていった。
「能力、『ICE』」
ナイフのように尖った氷の柱が何本も、車を下から串刺しにした。薄く開いた樹の唇からはぁ、と白い息が漏れる。
「じっくり味わえ。これが絶対零度の冷たさだ」
ふいに動物の唸り声が轟いた。私がぎょっとそちらを見やると、隣を走るオープンカーから巨大なライオンが敵の車の屋根に飛び移る。海青の獣化した姿だ。
「能力、『獅子奮迅』」
海青が猫パンチなんてものじゃ済まされない威力でフロントガラスを叩き割り、鼻面を突っ込んで運転手の首を喰いちぎる。
白い牙を紅に染めた海青が猛々しく吠えた。
「俺こそが百獣の王。全員俺の餌となれ!」
次に敵に突っ込んでいったのは翔平だ。後ろに乗っていた壱馬にハンドルを任せると驚異的な身体能力でライダーの後ろに飛び乗り、抵抗する隙も与えずその頭を両側から挟み込む。
「能力、『裂破』」
強烈な音と共にライダーの首から上がヘルメットごと爆発した。とたんに傾くバイクからぴょんと壱馬のバイクに飛び移ると、触れた物を爆発させる能力を持つ翔平は顔にかかった返り血をぺろりと舐める。
「全力ぶちかまし少年、全てを爆発させちゃいます」
と、ふいに地面が大きくうねった。固いコンクリートで舗装されているはずの地面が液体のように波が起こり、敵の車を地中に飲み込んでいく。
「能力、『土竜』」
拓磨が右腕を振り抜いた。その動きと連動するように、地響きと共に道が完全に崩壊する。瓦礫の山と化した背後の道を振り返って、拓磨がにやりと笑った。
「足元から崩れていく感覚っつーのは怖いだろ?」
と、その時突然景色が一変した。地獄の釜のように地面のあちこちでマグマがぐらぐらと煮えているかと思えばジャングルの密林に入り込む。突然現れた太い樹をとっさに避けようとした車が派手にスリップしひっくり返る。しかし樹や山彰のバイクは何食わぬ顔で実体のないその幻をすり抜けていった。
「能力、『Phantom』」
慌てふためきライダーたちがバランスを崩したところを、昂秀の正確な射撃が狙い撃つ。スコープをのぞき込みながら、昂秀は不敵な笑みを浮かべてみせた。
「ここは俺のワンダーランド。楽しんでいきなよ」
と、その傍で翔吾が指をパチンと鳴らした。その瞬間に偶然車がエンストし、ライダーが偶然石に乗り上げてバランスを崩し、偶然銃があちこちで暴発する。
「能力、『SIX pence』」
敵の銃弾はなぜか尽く翔吾に当たらない。全ては確率を支配した翔吾が引き起こした『偶然』の事象だ。瞳を金色に光らせた翔吾は楽しげに笑いながら言った。
「お前らのアンラッキーは、俺を敵に回したことだね」
どれだけ倒しても後から後から湧いてくる敵に、力矢が舌打ちを打つ。
「どれだけいるんだよ…キリがないな」
『俺が片すんで大丈夫です』
脳内に響いたのは北人のシルキーな柔らかい声。それとほぼ同時に道端の草木が突然生き物のようにざわめき、急成長した蔦が蛇のようにうねってライダーを絡めとる。その近くでは巨大な樹木の枝がまるで意思を持っているかのように動き、車を串刺しにする。
「能力、『cerisiers』」
両腕から生やした何本もの蔦をムチのように操って敵を薙ぎ払いながら、北人は呟いた。さっきまでの柔和な様子からは想像もできないような、冷たい声だった。
「人間は自然を破壊しすぎた。罪を今ここで、死んで償え」
さらに畳み掛けるように、龍がその蔦の上にとん、と飛び移る。大きな体躯からは想像もつかない素早い動きで蔦の上を駆け抜け敵の車に降り立つと、ボンネットに両手をついた。その手のひらからじわりと猛毒が広がっていく。
「能力、『コブラ』」
一瞬にして広がった毒が車も乗員も溶かしていく。車の中にいた敵は抵抗もできないまま苦しみ死んでいった。
「苦しんで死ね。俺の毒で」
と、ふいにかっと周囲が明るくなった。街の中心部を抜け、工場地域に突入したのだ。地面に幾重もの影が伸びる。
すると瑠唯がまるで水泳でもするようにそのうちの一つに飛び込んだ。敵は発砲するもただ地面に当たるだけ。
「能力、『LANTERN』」
突然バイクの影がありえない形にひしゃげた。影は己の分身。影が動けばその持ち主も必ず同じように動く。影に追随するかのように、バイクがありえない動きで真っ二つに折れ曲がり、それに挟まれたライダーがぐしゃりと潰れる。影からにょきりと顔を出した瑠唯の頬に、押し潰されたライダーの血しぶきがかかった。
「ハイサイ!ようこそ影の世界へ」
一方、それと同時に突然周囲から音が消えた。風の音も、エンジン音も、怒号や悲鳴も。さっきまで鼓膜を揺らしていたはずの音が何も聞こえなくなる。健太が瞳を金色に光らせ、手のひらを大きく広げている。
その手のひらに、音が吸収されているのだ。
「能力、『Disc jockey』」
不気味な無音空間にその言葉だけが響いたかと思うと、健太の手のひらからたった今吸い取ったあらゆる音が放出された。それは凄まじい衝撃波となって車を木っ端微塵に吹き飛ばす。
「ここは俺のDJブースだ。盛り上がって行こうぜ」
こちらの総攻撃でようやく敵の猛襲が止んだと思ったら、今度は遠距離からの攻撃にシフトしたようだ。あらゆるところから弾丸が降り注ぐ。
しかし、その敵の急所を的確に慎の銃弾が撃ち抜いていく。どれだけ小さな的も決して外さず、針の穴を通すようなコントロールで矢継ぎ早に弾丸を放つ。
「能力、『広目天』」
こっちにまっすぐ飛んでくる弾丸と慎の弾丸が正面からぶつかり、爆ぜた。
まさに神業だ。
「俺の目は全てを見通す。逃げられるなんて思わない方がいいよ」
「大ハズレだ」
壱馬が呟いて窓から顔を出した。アサルトライフルのトリガーを引くと、銃弾が背後につけていたバイクのタイヤに直撃しスリップして数台を巻き込む。
「北人、このまま街抜けろ!一般人巻き込みたくない」
「分かってる」
その時、私の座っている側の窓に、バイクが追いついてきた。銃口がこちらを向く。
「みさ!」
壱馬が叫んだその時だった。
どこからともなく飛んできた弾丸が針の穴を通すようなコントロールでライダーの右から左の耳の穴を貫通していく。
ライダーはあっけなくこと切れると後方に転がっていった。
この神業的な射撃テクニック。
こんなことができるのはひとりしかいない。
「…遅いんや兄弟」
口調とは裏腹に、嬉しそうに笑って壱馬が言う。
『すんません、ライフルの組み換えに時間かかっちゃって』
慎の声が脳内に響いた。
どこだ、と前方に目を凝らして。
見つけた。
前方に停まる大型トラック。その荷台のリア部分が全開になっており、そこに愛用している対物ライフル、PGMへカートIIをセッティングしスコープをのぞき込む慎の姿があった。
「待たせたなお前らぁ!!!!」
隣のクラシックオープンカーで立ち上がって嬉しそうに目をギラギラさせているのは陣だ。大声を出してライトマシンガンを片手で振り回す。
「THE RAMPAGEのお出ましだ!!暴れ回ろうぜ!!」
カッとライトが眩しく光ったかと思うと、街の出口にあたる道にはクラシックカーとトラックの他にもバイクが4台こちらを向いて停まっていた。
男どもの猛り狂った雄叫びがこだまする。
「うわぁ…野蛮この上ないね」
「これがええんやって。やべ、テンションぶち上がってきたわ」
「俺も暴れるの久々」
「ていうかUSBの中身も確認してないのに交戦しちゃっていいの?」
私が首を傾げると目をギラギラさせた壱馬が吐き捨てるように笑った。
「知るかそんなん。先手ぇ出てきたのは向こうやろ、俺らは売られたケンカ買うだけや」
「倍にしてね」
北人も思いっきりアクセルを踏み込みながら楽しげに言う。ダメだこいつら。
「もう勝手にやってくれ」
その時、ふいに私たちの乗る車がガコンと大きく傾いだ。何事かと後ろを振り返ると車が後部からみるみる朽ちていく。
「ちッ、能力者か」
「腐敗の能力ってところだね」
「外出ろ!俺らまで腐るぞ!」
私はドアを開け指笛を鳴らした。すぐに翔吾がバイクで並走してくれて、私はぴょんとその後ろに飛び移る。リムジンが完全に崩壊する前に壱馬と北人もそれぞれ味方のバイクに移っていた。
「USBは?」
「私が持ってる」
「ナイス!じゃあ俺らはあとはこいつらを片すだけ?やっべー!ぶち上がってきた!」
「いや…しょごのそのハイテンション未だに理解できないわ。とりあえず私トラック行っていい?」
「あ、せやなそっちの方がみさ安全だ」
翔吾がぐるりとバイクを方向転換させて街から遠ざかるように走り始めたトラックに向かう。慎に手をぐいっと引っ張られ無事荷台に乗り移った。
荷台に乗っていたのは慎、力也、拓磨、陸、健太、瑠唯、龍の7人だ。
慎が私を見上げてニヤリと方頬を吊り上げた。
「さっきの、貸し1だから」
「はぁ?あんなの私だけでも倒せたし」
べ、と下を出して私は力矢に尋ねる。
「私のパソコンは?」
「俺が持ってる」
力矢は私にノートパソコンを手渡しながら、髪の毛をくしゃくしゃと撫でた。
「みさ本当にありがとう。あとは俺たちに任せてくれ」
「プリンね」
「分かってる」
力矢が笑った。私はUSBを取り出してパソコンに繋ぐ。その時、爆音が響いてトラックが大きく揺れる。
「ロケットランチャーか」
慎が瞳を金色に光らせながら呟く。バシュ、と撃ち込んだ一発は車のエンジン部に命中し爆発、炎上した。
と、ふいに夜空に黒雲が垂れ込める。
「能力、『雷霆』」
バイクに乗った山彰が右腕を薙ぐ。
耳をつんざくような轟音と共に巨大な雷が車を直撃した。思わず首を竦めた私の目の前で、敵の乗員諸共一瞬で黒焦げになる。近くにいたバイクのライダー数人も地面を伝って流れた電気で感電して死んでしまった。
「…俺に触れるなら痺れるだけじゃ済まないよ」
山彰が倒した敵を乗り越えて、さらに奴らが追いかけてくる。壱馬は翔平の運転するバイクのタンデムシートに両足を踏ん張って立ち上がると、右手を真上に掲げた。
その手のひらにみるみる巨大な火の玉が形成されていく。
「能力、『焔』」
まるでボールでも投げるようなスイングで、直径5メートルはあろうかという火球を後方の敵に向かって投げつける。地響きと共に一瞬で炎が全てを灰にした。地面が抉れ、タンパク質の燃える匂いがこちらにまで届く。
あれが超攻撃型能力と言われる壱馬の力か…
「焼き尽くせ、全てを」
と、ふいに突風が巻き起こった。壱馬が放った炎が一瞬で消え、「あっせっかく綺麗に燃えてたのに!」と壱馬がその風を起こした張本人に不満げな視線を向けた。
風は意思を持った生き物のようにうねり、次第に強さを増してライダーたちを巻き上げる。
竜巻だ。
「能力、『風神』」
荷台の後方で陸が両手を広げて笑った。いつもの明るい陸らしからぬ、殺戮の興奮で瞳がギラギラと輝く危険な笑顔だった。
「風が全てを運んでいく。お前の命もな」
しかし荒れ狂っていた竜巻を乗り越えて再び迫る敵の車に、樹のバイクが180°方向転換し突進していった。車体を大きく傾けて、右手を地面に伸ばす。
その指が地面に触れた瞬間、そこからビキビキと音を立てて氷が道を走っていった。
「能力、『ICE』」
ナイフのように尖った氷の柱が何本も、車を下から串刺しにした。薄く開いた樹の唇からはぁ、と白い息が漏れる。
「じっくり味わえ。これが絶対零度の冷たさだ」
ふいに動物の唸り声が轟いた。私がぎょっとそちらを見やると、隣を走るオープンカーから巨大なライオンが敵の車の屋根に飛び移る。海青の獣化した姿だ。
「能力、『獅子奮迅』」
海青が猫パンチなんてものじゃ済まされない威力でフロントガラスを叩き割り、鼻面を突っ込んで運転手の首を喰いちぎる。
白い牙を紅に染めた海青が猛々しく吠えた。
「俺こそが百獣の王。全員俺の餌となれ!」
次に敵に突っ込んでいったのは翔平だ。後ろに乗っていた壱馬にハンドルを任せると驚異的な身体能力でライダーの後ろに飛び乗り、抵抗する隙も与えずその頭を両側から挟み込む。
「能力、『裂破』」
強烈な音と共にライダーの首から上がヘルメットごと爆発した。とたんに傾くバイクからぴょんと壱馬のバイクに飛び移ると、触れた物を爆発させる能力を持つ翔平は顔にかかった返り血をぺろりと舐める。
「全力ぶちかまし少年、全てを爆発させちゃいます」
と、ふいに地面が大きくうねった。固いコンクリートで舗装されているはずの地面が液体のように波が起こり、敵の車を地中に飲み込んでいく。
「能力、『土竜』」
拓磨が右腕を振り抜いた。その動きと連動するように、地響きと共に道が完全に崩壊する。瓦礫の山と化した背後の道を振り返って、拓磨がにやりと笑った。
「足元から崩れていく感覚っつーのは怖いだろ?」
と、その時突然景色が一変した。地獄の釜のように地面のあちこちでマグマがぐらぐらと煮えているかと思えばジャングルの密林に入り込む。突然現れた太い樹をとっさに避けようとした車が派手にスリップしひっくり返る。しかし樹や山彰のバイクは何食わぬ顔で実体のないその幻をすり抜けていった。
「能力、『Phantom』」
慌てふためきライダーたちがバランスを崩したところを、昂秀の正確な射撃が狙い撃つ。スコープをのぞき込みながら、昂秀は不敵な笑みを浮かべてみせた。
「ここは俺のワンダーランド。楽しんでいきなよ」
と、その傍で翔吾が指をパチンと鳴らした。その瞬間に偶然車がエンストし、ライダーが偶然石に乗り上げてバランスを崩し、偶然銃があちこちで暴発する。
「能力、『SIX pence』」
敵の銃弾はなぜか尽く翔吾に当たらない。全ては確率を支配した翔吾が引き起こした『偶然』の事象だ。瞳を金色に光らせた翔吾は楽しげに笑いながら言った。
「お前らのアンラッキーは、俺を敵に回したことだね」
どれだけ倒しても後から後から湧いてくる敵に、力矢が舌打ちを打つ。
「どれだけいるんだよ…キリがないな」
『俺が片すんで大丈夫です』
脳内に響いたのは北人のシルキーな柔らかい声。それとほぼ同時に道端の草木が突然生き物のようにざわめき、急成長した蔦が蛇のようにうねってライダーを絡めとる。その近くでは巨大な樹木の枝がまるで意思を持っているかのように動き、車を串刺しにする。
「能力、『cerisiers』」
両腕から生やした何本もの蔦をムチのように操って敵を薙ぎ払いながら、北人は呟いた。さっきまでの柔和な様子からは想像もできないような、冷たい声だった。
「人間は自然を破壊しすぎた。罪を今ここで、死んで償え」
さらに畳み掛けるように、龍がその蔦の上にとん、と飛び移る。大きな体躯からは想像もつかない素早い動きで蔦の上を駆け抜け敵の車に降り立つと、ボンネットに両手をついた。その手のひらからじわりと猛毒が広がっていく。
「能力、『コブラ』」
一瞬にして広がった毒が車も乗員も溶かしていく。車の中にいた敵は抵抗もできないまま苦しみ死んでいった。
「苦しんで死ね。俺の毒で」
と、ふいにかっと周囲が明るくなった。街の中心部を抜け、工場地域に突入したのだ。地面に幾重もの影が伸びる。
すると瑠唯がまるで水泳でもするようにそのうちの一つに飛び込んだ。敵は発砲するもただ地面に当たるだけ。
「能力、『LANTERN』」
突然バイクの影がありえない形にひしゃげた。影は己の分身。影が動けばその持ち主も必ず同じように動く。影に追随するかのように、バイクがありえない動きで真っ二つに折れ曲がり、それに挟まれたライダーがぐしゃりと潰れる。影からにょきりと顔を出した瑠唯の頬に、押し潰されたライダーの血しぶきがかかった。
「ハイサイ!ようこそ影の世界へ」
一方、それと同時に突然周囲から音が消えた。風の音も、エンジン音も、怒号や悲鳴も。さっきまで鼓膜を揺らしていたはずの音が何も聞こえなくなる。健太が瞳を金色に光らせ、手のひらを大きく広げている。
その手のひらに、音が吸収されているのだ。
「能力、『Disc jockey』」
不気味な無音空間にその言葉だけが響いたかと思うと、健太の手のひらからたった今吸い取ったあらゆる音が放出された。それは凄まじい衝撃波となって車を木っ端微塵に吹き飛ばす。
「ここは俺のDJブースだ。盛り上がって行こうぜ」
こちらの総攻撃でようやく敵の猛襲が止んだと思ったら、今度は遠距離からの攻撃にシフトしたようだ。あらゆるところから弾丸が降り注ぐ。
しかし、その敵の急所を的確に慎の銃弾が撃ち抜いていく。どれだけ小さな的も決して外さず、針の穴を通すようなコントロールで矢継ぎ早に弾丸を放つ。
「能力、『広目天』」
こっちにまっすぐ飛んでくる弾丸と慎の弾丸が正面からぶつかり、爆ぜた。
まさに神業だ。
「俺の目は全てを見通す。逃げられるなんて思わない方がいいよ」