第二章
夢小説設定
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「これはアレキサンドライト。太陽光下ではエメラルドグリーン、人工照明下ではレッド、光の種類によって色が変わるんだ石言葉は『秘めた思い』」
血のように赤い宝石が輝くブローチを示して、目標はすらすらと説明する。これは素性を知っていなければ宝石商だと勘違いしてしまいそうだ。スーツケースから出てきた数多くの宝石も全て本物だ。
「へぇ…色が変わるなんて不思議ね」
「まるで君だ。捉えたと思ったら全く違う顔が現れる」
目標の手がするりと私の背中に回った。そっと引き寄せて、胸元にブローチを留める。その輪郭をなぞって、そのまま指が鎖骨、首筋、頬へと登ってくる。
「よく似合ってる。綺麗だ」
男の背後でシャンデリアの影が揺れた。
瑠唯だ。
私は気づかないふりをして目標を見上げる。
「今夜は最高の夜だよ。世界中のどの宝石よりも美しいひとを見つけてしまった」
目標の背後では音も気配もなく、健太が天井からひらりと降りてくる。瑠唯は影を伝ってついに目標の影の中に入った。
ふ、と小さく笑い声をもらして私は言った。
「ええ、最高ね。最高で、最後の夜」
「え?」
男の身体がガチリと固まった。
私は抵抗も出来ない目標のスーツの内側を探り、慎の言っていたUSBメモリを取り出した。
健太が私と入れ替わりに目標の前に立つ。その手にはハンドガンが握られていた。
「THE RAMPAGEだ」
目標の目が大きく見開かれた。目標は影を瑠唯に支配されて動けない。宝石を美しく見せるために明かりを煌々と付けたのがこの男の運の尽きだった。私たちの足元には影がくっきりと浮き出ている。影を操る瑠唯の能力は影がはっきりとしているほどにその力を増していくのだ。
「なっ…THE RAMPAGEだと…!?なぜ…ここはお前らの縄張りじゃないだろう!」
「こっちにも色々あるんだよ」
健太が冷たく答えたその時。
部屋の外からどさりと人が倒れる音がして、壱馬が入ってきた。廊下で見張っていたはずの目標の部下を引きずっている。
「なぁ、部下はもっと強いやつ選んだ方がいいと思うけど。テロリストさん」
首を傾けて、壱馬が口の端を吊り上げた。目標が怒りと恐怖でぶるぶると震え始める。
「クソガキどもが…」
「そのクソガキの術中にはまって死ぬのはそっちだろ」
目標の影の中からにゅっと瑠唯が肩から上を出してせせら笑った。
『こちら力也。さっさと片付けて帰るぞ』
「こちら壱馬。了解しました」
健太がハンドガンの銃口を真っ直ぐ目標に向ける。
USBも手に入れた今、この男に用はなかった。私はひらひら手を振る。
「じゃあねおじさん、次会う時は地獄かな」
男が大きく口を開けた。だがそこからもれるはずの絶叫は聞こえない。
健太の瞳が金色に光っていた。能力で音を吸い取っているのだ。
無音の一発。男は左胸を撃ち抜かれて絶命した。
「…こちらみさ。終わったよ」
『こちら力矢、お疲れ様。ハイサイコンビは天井裏から、みさと壱馬は作戦通り通常出口から撤退してくれ』
「はぁーい」
瑠唯と健太が再び天井裏に消えるのを見送って、私と壱馬は平然と廊下に出た。パーティーホールに戻り、怪しまれないようにゆったりとした足取りで出口に向かう。
「…あ」
「ん?」
「このブローチ、もらってきちゃった」
壱馬は私の左胸に光るブローチを見て、眩しそうに笑った。
「ええやん、くれるって言ったんやろ?もらっとけよ」
「こういうの興味ないんだけどな」
「似合ってる。すげぇ綺麗」
こういうことをサラリと言えるから人気トップを争うホストなんだろうな、なんて思いながら私は「ありがと」と笑い返す。
その時、慎の緊迫した声が私たちの耳に響いた。
『こちら慎。みさ、壱馬さん、奴ら死体に気づいた。後ろから追いかけてくる。少なくともみさは顔バレてるから急いで』
その瞬間に背後の関係者扉が開いて明らかに場違いな男たちがバタバタと出てきた。
その手に握られているのはハンドガン、小機関銃、サバイバルナイフ。
「やっべ」
壱馬が私の手を掴んで走り出した。突然のことに戸惑うパーティーの参加者たちの隙間を縫って出口に向かう。
でも私は慣れないピンヒールでうまく走れない。
「ちッ…カズ先行って」
「行けるわけないやろ!」
男たちが私に気づいた。私は乱暴に靴を脱ぎホールを振り返る。
瞳が金色に光る。
右手をまっすぐ上に上げてパチンと指を鳴らした。
その瞬間、ぶわりとホールに人が溢れかえった。様々な国籍、性別、年齢、服装の人々が時折その身体を通り抜けながらも平然と歩き回る。ざわめきの中に悲鳴と怒号、ものが落ちる音が響いて場は混沌と化した。
「なッ…なんやこれ…みさどこや!」
「ここ」
スーツの男を通り抜けて現れた私を見て、壱馬が腰を抜かしそうなほどに驚く。
「これみさがやったんか?」
「そう。この場所に残る過去1年間の記憶を一時的に可視化してる。実体はないからこうやってすり抜けられるの。体力使うからあんまり長いことできないけど、時間稼ぎにはなるでしょ。行くよ」
私は裸足で外まで出る。ちょうどそこへ行きにも乗ってきたリムジンが滑り込んできた。北人が運転席から怒鳴る。
「乗って!健太さんと瑠唯さんはもう離脱してる!」
私と壱馬が後部座席に飛び乗ると、北人はアクセルを思いっきり踏み込んだ。
「っぷは、もう無理」
これ以上は体力を使い果たしてしまう。私は瞳の光を消した。
壱馬が自前のアサルトライフルFN SCAR-Hにマガジンを装填しながら私の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「ありがと、だいぶ稼げたやろ」
「でもたぶん撒けてはないよね」
「連中しぶとそうだし諦めはせんやろな」
「みさ、これ護身用に持っといて」
北人が私の膝にハンドガンを放り投げた。弾の入った箱も同時に寄越す。
「ベレッタ・モデル92。女の子ならそれが一番使いやすいと思う。装弾数は15発、ダブルアクション。使い方は分かる?」
「分かる」
「お、来たで北人」
壱馬が後ろを振り返った。そこからは荒い運転でこちらに迫る十数台の車とバイクが見える。
「北人から全員へ。壱馬とみさを回収、アジトに向かう途中敵に見つかった。交戦します」
『こちら力矢。俺たちもすぐ応援に向かう。いのち大事にな』
「了解」
ネオンの瞬く夜の街を黒塗りのリムジンが爆走する。リロードを完了した壱馬がニヤリと笑った。
「さぁ、祭りの始まりや。派手に暴れようぜ」
血のように赤い宝石が輝くブローチを示して、目標はすらすらと説明する。これは素性を知っていなければ宝石商だと勘違いしてしまいそうだ。スーツケースから出てきた数多くの宝石も全て本物だ。
「へぇ…色が変わるなんて不思議ね」
「まるで君だ。捉えたと思ったら全く違う顔が現れる」
目標の手がするりと私の背中に回った。そっと引き寄せて、胸元にブローチを留める。その輪郭をなぞって、そのまま指が鎖骨、首筋、頬へと登ってくる。
「よく似合ってる。綺麗だ」
男の背後でシャンデリアの影が揺れた。
瑠唯だ。
私は気づかないふりをして目標を見上げる。
「今夜は最高の夜だよ。世界中のどの宝石よりも美しいひとを見つけてしまった」
目標の背後では音も気配もなく、健太が天井からひらりと降りてくる。瑠唯は影を伝ってついに目標の影の中に入った。
ふ、と小さく笑い声をもらして私は言った。
「ええ、最高ね。最高で、最後の夜」
「え?」
男の身体がガチリと固まった。
私は抵抗も出来ない目標のスーツの内側を探り、慎の言っていたUSBメモリを取り出した。
健太が私と入れ替わりに目標の前に立つ。その手にはハンドガンが握られていた。
「THE RAMPAGEだ」
目標の目が大きく見開かれた。目標は影を瑠唯に支配されて動けない。宝石を美しく見せるために明かりを煌々と付けたのがこの男の運の尽きだった。私たちの足元には影がくっきりと浮き出ている。影を操る瑠唯の能力は影がはっきりとしているほどにその力を増していくのだ。
「なっ…THE RAMPAGEだと…!?なぜ…ここはお前らの縄張りじゃないだろう!」
「こっちにも色々あるんだよ」
健太が冷たく答えたその時。
部屋の外からどさりと人が倒れる音がして、壱馬が入ってきた。廊下で見張っていたはずの目標の部下を引きずっている。
「なぁ、部下はもっと強いやつ選んだ方がいいと思うけど。テロリストさん」
首を傾けて、壱馬が口の端を吊り上げた。目標が怒りと恐怖でぶるぶると震え始める。
「クソガキどもが…」
「そのクソガキの術中にはまって死ぬのはそっちだろ」
目標の影の中からにゅっと瑠唯が肩から上を出してせせら笑った。
『こちら力也。さっさと片付けて帰るぞ』
「こちら壱馬。了解しました」
健太がハンドガンの銃口を真っ直ぐ目標に向ける。
USBも手に入れた今、この男に用はなかった。私はひらひら手を振る。
「じゃあねおじさん、次会う時は地獄かな」
男が大きく口を開けた。だがそこからもれるはずの絶叫は聞こえない。
健太の瞳が金色に光っていた。能力で音を吸い取っているのだ。
無音の一発。男は左胸を撃ち抜かれて絶命した。
「…こちらみさ。終わったよ」
『こちら力矢、お疲れ様。ハイサイコンビは天井裏から、みさと壱馬は作戦通り通常出口から撤退してくれ』
「はぁーい」
瑠唯と健太が再び天井裏に消えるのを見送って、私と壱馬は平然と廊下に出た。パーティーホールに戻り、怪しまれないようにゆったりとした足取りで出口に向かう。
「…あ」
「ん?」
「このブローチ、もらってきちゃった」
壱馬は私の左胸に光るブローチを見て、眩しそうに笑った。
「ええやん、くれるって言ったんやろ?もらっとけよ」
「こういうの興味ないんだけどな」
「似合ってる。すげぇ綺麗」
こういうことをサラリと言えるから人気トップを争うホストなんだろうな、なんて思いながら私は「ありがと」と笑い返す。
その時、慎の緊迫した声が私たちの耳に響いた。
『こちら慎。みさ、壱馬さん、奴ら死体に気づいた。後ろから追いかけてくる。少なくともみさは顔バレてるから急いで』
その瞬間に背後の関係者扉が開いて明らかに場違いな男たちがバタバタと出てきた。
その手に握られているのはハンドガン、小機関銃、サバイバルナイフ。
「やっべ」
壱馬が私の手を掴んで走り出した。突然のことに戸惑うパーティーの参加者たちの隙間を縫って出口に向かう。
でも私は慣れないピンヒールでうまく走れない。
「ちッ…カズ先行って」
「行けるわけないやろ!」
男たちが私に気づいた。私は乱暴に靴を脱ぎホールを振り返る。
瞳が金色に光る。
右手をまっすぐ上に上げてパチンと指を鳴らした。
その瞬間、ぶわりとホールに人が溢れかえった。様々な国籍、性別、年齢、服装の人々が時折その身体を通り抜けながらも平然と歩き回る。ざわめきの中に悲鳴と怒号、ものが落ちる音が響いて場は混沌と化した。
「なッ…なんやこれ…みさどこや!」
「ここ」
スーツの男を通り抜けて現れた私を見て、壱馬が腰を抜かしそうなほどに驚く。
「これみさがやったんか?」
「そう。この場所に残る過去1年間の記憶を一時的に可視化してる。実体はないからこうやってすり抜けられるの。体力使うからあんまり長いことできないけど、時間稼ぎにはなるでしょ。行くよ」
私は裸足で外まで出る。ちょうどそこへ行きにも乗ってきたリムジンが滑り込んできた。北人が運転席から怒鳴る。
「乗って!健太さんと瑠唯さんはもう離脱してる!」
私と壱馬が後部座席に飛び乗ると、北人はアクセルを思いっきり踏み込んだ。
「っぷは、もう無理」
これ以上は体力を使い果たしてしまう。私は瞳の光を消した。
壱馬が自前のアサルトライフルFN SCAR-Hにマガジンを装填しながら私の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「ありがと、だいぶ稼げたやろ」
「でもたぶん撒けてはないよね」
「連中しぶとそうだし諦めはせんやろな」
「みさ、これ護身用に持っといて」
北人が私の膝にハンドガンを放り投げた。弾の入った箱も同時に寄越す。
「ベレッタ・モデル92。女の子ならそれが一番使いやすいと思う。装弾数は15発、ダブルアクション。使い方は分かる?」
「分かる」
「お、来たで北人」
壱馬が後ろを振り返った。そこからは荒い運転でこちらに迫る十数台の車とバイクが見える。
「北人から全員へ。壱馬とみさを回収、アジトに向かう途中敵に見つかった。交戦します」
『こちら力矢。俺たちもすぐ応援に向かう。いのち大事にな』
「了解」
ネオンの瞬く夜の街を黒塗りのリムジンが爆走する。リロードを完了した壱馬がニヤリと笑った。
「さぁ、祭りの始まりや。派手に暴れようぜ」