第二章
夢小説設定
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人々の視線が自分に集中しているのをひしひしと感じる。ちらりと視線を送ると、スリーピーススーツでキメた壱馬が小さく頷いた。
『みんな見てるで、みさのこと。俺の今日の仕事は虫除けやな』
「腕でも組む?」
『とりあえずまずは目標に接触してから考えよか。それでええですか陣さん力矢さん』
壱馬が確認を取ると、リーダー2人からOKの返事があった。離れたところから透視で目標を監視している慎から指示が出る。
『みさの右斜め前方20mで赤ワインを飲んでるグレーのスーツの男』
「OK、行くよ」
私はカツカツとヒールを鳴らしながら人と人の隙間を塗って何気なく男の方に近づいていった。目標は他の女と談笑している。
私を見ろこの変態おじさん。
今日この場で1番美しいのは私だ。
男が軽く手を置いているテーブルに指を滑らせる。男と通りすがりざまに無意識を装ってその手の甲に触れた。
「失礼」
艶っぽく微笑み、そのまま目標から遠ざかる。
背後で目標がそれまで話していた女に断り、私の背中を追いかけ始めた。
『…かかった』
壱馬が呟く。
『さすが』
力矢さんの声に、私は「当然です」と少し笑って答えた。
「Bonsoir, Mademoiselle.」
とん、と男の手が肩に触れる。
流暢なフランス語。私は振り返ると同じくフランス語で返した。
「Bonsoir. 」
「Oh, vous pouvez parler à la France.」
「Un peu.」
『…何語?』
『マドモワゼルって言ったからフランス語ですかね?』
『えっみさフランス語話せるの?ていうかなんて言ってるの?』
耳元がうるさい。でも目標の目の前で返事をするわけにもいかず、無視して会話を続ける。
「Tu es si beau. Tes yeux brillent comme des joyaux. J’ai est pour la première fois de rencontrer de belles femmes.」
「Merci. Vous êtes un homme très charmant.」
『何て!?何て言ってんの!?』
『翔吾うるさい!とりあえずみさに任せるんや!ちなみに俺はなんて言うとんのかさっぱり分からん!』
うん、陣潔し。
ちなみに今は男が「きみは驚くほどに美しい」みたいなことを言って私も「あなたは魅力的ね」という返しをしたところ。
私としてはこのままでも全然いいんだけど、みんなのために日本語に切り替えることにした。
「日本語は話せる?」
「ええ、話せますよ。僕は20年ほど日本で暮らしていますから」
20年間日本でテロ活動に勤しんでたんだろうが、と心の中で舌を出しつつ談笑を続ける。
「お名前を伺っても?」
そう聞かれ、私は自分の招待状の名前を口にした。
「カナン」
「Canaan…約束の楽園か。素敵な名前だ」
「ありがとう。あなたの名前は?」
「Eriasu・LEROY…エリアスでいいよ」
招待状の偽名の通りだ。
その時、スーツを着た男が近づいてきて目標に何かを耳打ちした。その視線の先にはパーティー会場の2階、主催者のいるVIPルームがある。
きたか。取引の時間だ。
男が離れていくと、目標は困ったように微笑んだ。
「呼ばれてしまったよ」
「人気者なのね?」
「また後で話そう。こんなにも美しいあなたと出会えたのはきっと運命の巡り合わせだから」
「ええ」
男は私の手を取って軽く口づけると、2階へ続く螺旋階段へと向かった。
途端に別の男が私に話しかけてくる。私がおざなりに相手をしていると壱馬が隣にやってきた。これ幸いとその腕にするりと自分の腕を絡ませ、会場の隅まで歩く。
「…男どもの視線で焼き殺されそうやわ」
「私は女にめちゃくちゃ睨まれてる。やるねイケメン」
「ははっ、ありがと」
ダークスーツが良く似合う壱馬はその整った顔立ちとも相まって女性たちを釘付けにしている。私に向けられる嫉妬の視線が痛い。
「前半何話しとんのか全く分からへんかったけど、うまいことやったみたいやな」
「うん。今たぶんVIPルームで取引の交渉でもしてるんじゃないかな」
「この後が勝負やな。サポートは任せろ」
「頼んだ」
2人で笑いあって、シャンパングラスをこつんとぶつける。傍では盛り上がった男女が密やかなキスを交わしていた。
年齢層がそれほど高くないこのパーティーは独身も多いようで、品定めの視線が飛び交っている。
「バチバチしてんね」
「やな。目標がみさに速攻話しかけに行ったのもそういうことやろ。こんな可愛い女、男ならほっとかれへん」
手ぇ出されんように気をつけや?壱馬がからかうように笑ったその時、慎の声が私たちの耳に響いた。
『みさ、壱馬さん、こちら慎。目標は貿易会社社長との接触でUSBメモリを受け取ったんで、そこに取引内容とかが全部入ってると思います。目標のジャケット右の内ポケットです』
「OK」
「出てきたで」
壱馬が小さく鋭く呟いた。ちらりと2階に視線を送ると階段から優雅に降りてくる目標が見えた。
あんな温和そうなイケおじがテロリストか。世も末だ。
私は壱馬から素早く離れ、何気ないふうを装う。階段を降りきった目標が私を見て、軽く手を挙げた。私も笑顔を返す。
その時、目標の前に女が立った。そこそこの美女だ。
私ほどじゃないけど。
でも目標は興味を持ったようで、女と談笑を始めてしまう。
『なんやあの人』
壱馬が舌打ちを打つのが聞こえた。
『力矢からみさへ。一旦様子を見よう、焦って身バレするのが1番怖い』
「りょー」
しかし待てど暮らせど女は目標から離れようとしない。どうやら狙っていたようだ。もしかしたらさっき私と話しているのを見ていてこちらに来させまいとしているのかもしれない。
待つのが嫌いな私はひとつ、作戦を思いついた。
くるりと振り返り、そばにいた壱馬に近づいていく。その腕を取り、男の視野に入る位置までリードして行った。
「みさ?どうした?」
私は黙ったまま壱馬の二の腕にそっと手を添わせた。その目を見つめる。
そこで私の意図に気づいた壱馬ははっと目を見開いた。
「…本気か?」
「ほんき」
ちらりと目標を見やる。私と壱馬に気づいたようだ。
壱馬はふっと口角を上げ、私の顎に指をかけた。そのままくい、と上を向かせる。
『え、ちょっと』
慎の焦ったような声が聞こえたが無視した。瞼を閉じる。
「悪いな慎」
唇が重なる一瞬前、壱馬がなぜかそう言った。慎は関係ないじゃん、と思った瞬間に2人の距離がゼロになる。
やわく食むようなキスは数秒間続いた。女慣れしてんなこいつ、と思いつつそっと唇を離す。壱馬は額と額を合わせて妖艶に微笑むと私の顔から手を離し、人混みの中に消えていった。
キスの余韻を味わいつつ、私ははっきりと目標に視線を送る。目標は目を見開いて私を見ていた。
色気を含んだ笑みを送る。
男が私に向かって歩き出した。
『どうや』
「成功。ありがとカズ」
『みさ唇柔らかいな』
「変態」
目標が私の肩を掴む。その力の強さに骨が軋みそうだった。
本性を隠しきれてないですよおじさん、と心の中で顔をしかめる。
「いけない仔猫ちゃんだ」
「猫は猫でも野良猫よ。飼い慣らされた家猫じゃないわ」
「あの男は誰?」
「素敵な人でしょう?」
「僕には彼のような若さはないけど君を楽しませることができるささやかな財力と余裕がある」
「口で言うのは簡単ね」
「このホテルのスイートルームに泊まっているんだけど、そこに仕事用に持ってきたジュエリーが沢山置いてあるんだ。君に似合いそうなものを選んであげよう」
『こちら陣。健太と瑠唯を部屋に張らせる。壱馬も後をつけろ。あとはみさの判断次第だ』
素早く陣の指示が飛んだ。私は一瞬の逡巡の後、笑顔で頷いた。
「ぜひ、お願いしたいわ」
『みんな見てるで、みさのこと。俺の今日の仕事は虫除けやな』
「腕でも組む?」
『とりあえずまずは目標に接触してから考えよか。それでええですか陣さん力矢さん』
壱馬が確認を取ると、リーダー2人からOKの返事があった。離れたところから透視で目標を監視している慎から指示が出る。
『みさの右斜め前方20mで赤ワインを飲んでるグレーのスーツの男』
「OK、行くよ」
私はカツカツとヒールを鳴らしながら人と人の隙間を塗って何気なく男の方に近づいていった。目標は他の女と談笑している。
私を見ろこの変態おじさん。
今日この場で1番美しいのは私だ。
男が軽く手を置いているテーブルに指を滑らせる。男と通りすがりざまに無意識を装ってその手の甲に触れた。
「失礼」
艶っぽく微笑み、そのまま目標から遠ざかる。
背後で目標がそれまで話していた女に断り、私の背中を追いかけ始めた。
『…かかった』
壱馬が呟く。
『さすが』
力矢さんの声に、私は「当然です」と少し笑って答えた。
「Bonsoir, Mademoiselle.」
とん、と男の手が肩に触れる。
流暢なフランス語。私は振り返ると同じくフランス語で返した。
「Bonsoir. 」
「Oh, vous pouvez parler à la France.」
「Un peu.」
『…何語?』
『マドモワゼルって言ったからフランス語ですかね?』
『えっみさフランス語話せるの?ていうかなんて言ってるの?』
耳元がうるさい。でも目標の目の前で返事をするわけにもいかず、無視して会話を続ける。
「Tu es si beau. Tes yeux brillent comme des joyaux. J’ai est pour la première fois de rencontrer de belles femmes.」
「Merci. Vous êtes un homme très charmant.」
『何て!?何て言ってんの!?』
『翔吾うるさい!とりあえずみさに任せるんや!ちなみに俺はなんて言うとんのかさっぱり分からん!』
うん、陣潔し。
ちなみに今は男が「きみは驚くほどに美しい」みたいなことを言って私も「あなたは魅力的ね」という返しをしたところ。
私としてはこのままでも全然いいんだけど、みんなのために日本語に切り替えることにした。
「日本語は話せる?」
「ええ、話せますよ。僕は20年ほど日本で暮らしていますから」
20年間日本でテロ活動に勤しんでたんだろうが、と心の中で舌を出しつつ談笑を続ける。
「お名前を伺っても?」
そう聞かれ、私は自分の招待状の名前を口にした。
「カナン」
「Canaan…約束の楽園か。素敵な名前だ」
「ありがとう。あなたの名前は?」
「Eriasu・LEROY…エリアスでいいよ」
招待状の偽名の通りだ。
その時、スーツを着た男が近づいてきて目標に何かを耳打ちした。その視線の先にはパーティー会場の2階、主催者のいるVIPルームがある。
きたか。取引の時間だ。
男が離れていくと、目標は困ったように微笑んだ。
「呼ばれてしまったよ」
「人気者なのね?」
「また後で話そう。こんなにも美しいあなたと出会えたのはきっと運命の巡り合わせだから」
「ええ」
男は私の手を取って軽く口づけると、2階へ続く螺旋階段へと向かった。
途端に別の男が私に話しかけてくる。私がおざなりに相手をしていると壱馬が隣にやってきた。これ幸いとその腕にするりと自分の腕を絡ませ、会場の隅まで歩く。
「…男どもの視線で焼き殺されそうやわ」
「私は女にめちゃくちゃ睨まれてる。やるねイケメン」
「ははっ、ありがと」
ダークスーツが良く似合う壱馬はその整った顔立ちとも相まって女性たちを釘付けにしている。私に向けられる嫉妬の視線が痛い。
「前半何話しとんのか全く分からへんかったけど、うまいことやったみたいやな」
「うん。今たぶんVIPルームで取引の交渉でもしてるんじゃないかな」
「この後が勝負やな。サポートは任せろ」
「頼んだ」
2人で笑いあって、シャンパングラスをこつんとぶつける。傍では盛り上がった男女が密やかなキスを交わしていた。
年齢層がそれほど高くないこのパーティーは独身も多いようで、品定めの視線が飛び交っている。
「バチバチしてんね」
「やな。目標がみさに速攻話しかけに行ったのもそういうことやろ。こんな可愛い女、男ならほっとかれへん」
手ぇ出されんように気をつけや?壱馬がからかうように笑ったその時、慎の声が私たちの耳に響いた。
『みさ、壱馬さん、こちら慎。目標は貿易会社社長との接触でUSBメモリを受け取ったんで、そこに取引内容とかが全部入ってると思います。目標のジャケット右の内ポケットです』
「OK」
「出てきたで」
壱馬が小さく鋭く呟いた。ちらりと2階に視線を送ると階段から優雅に降りてくる目標が見えた。
あんな温和そうなイケおじがテロリストか。世も末だ。
私は壱馬から素早く離れ、何気ないふうを装う。階段を降りきった目標が私を見て、軽く手を挙げた。私も笑顔を返す。
その時、目標の前に女が立った。そこそこの美女だ。
私ほどじゃないけど。
でも目標は興味を持ったようで、女と談笑を始めてしまう。
『なんやあの人』
壱馬が舌打ちを打つのが聞こえた。
『力矢からみさへ。一旦様子を見よう、焦って身バレするのが1番怖い』
「りょー」
しかし待てど暮らせど女は目標から離れようとしない。どうやら狙っていたようだ。もしかしたらさっき私と話しているのを見ていてこちらに来させまいとしているのかもしれない。
待つのが嫌いな私はひとつ、作戦を思いついた。
くるりと振り返り、そばにいた壱馬に近づいていく。その腕を取り、男の視野に入る位置までリードして行った。
「みさ?どうした?」
私は黙ったまま壱馬の二の腕にそっと手を添わせた。その目を見つめる。
そこで私の意図に気づいた壱馬ははっと目を見開いた。
「…本気か?」
「ほんき」
ちらりと目標を見やる。私と壱馬に気づいたようだ。
壱馬はふっと口角を上げ、私の顎に指をかけた。そのままくい、と上を向かせる。
『え、ちょっと』
慎の焦ったような声が聞こえたが無視した。瞼を閉じる。
「悪いな慎」
唇が重なる一瞬前、壱馬がなぜかそう言った。慎は関係ないじゃん、と思った瞬間に2人の距離がゼロになる。
やわく食むようなキスは数秒間続いた。女慣れしてんなこいつ、と思いつつそっと唇を離す。壱馬は額と額を合わせて妖艶に微笑むと私の顔から手を離し、人混みの中に消えていった。
キスの余韻を味わいつつ、私ははっきりと目標に視線を送る。目標は目を見開いて私を見ていた。
色気を含んだ笑みを送る。
男が私に向かって歩き出した。
『どうや』
「成功。ありがとカズ」
『みさ唇柔らかいな』
「変態」
目標が私の肩を掴む。その力の強さに骨が軋みそうだった。
本性を隠しきれてないですよおじさん、と心の中で顔をしかめる。
「いけない仔猫ちゃんだ」
「猫は猫でも野良猫よ。飼い慣らされた家猫じゃないわ」
「あの男は誰?」
「素敵な人でしょう?」
「僕には彼のような若さはないけど君を楽しませることができるささやかな財力と余裕がある」
「口で言うのは簡単ね」
「このホテルのスイートルームに泊まっているんだけど、そこに仕事用に持ってきたジュエリーが沢山置いてあるんだ。君に似合いそうなものを選んであげよう」
『こちら陣。健太と瑠唯を部屋に張らせる。壱馬も後をつけろ。あとはみさの判断次第だ』
素早く陣の指示が飛んだ。私は一瞬の逡巡の後、笑顔で頷いた。
「ぜひ、お願いしたいわ」