第二章
夢小説設定
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HIROさんから次の任務が来た。
「『貿易会社とテロ組織との繋がりを証明しろ』…だそうだ」
「ま、それ以外ないよね」
開店の1時間前。
バックヤードの部屋に集められ力也さんからの報告を受ける。みさは客用のケーキをもぐもぐやりながらそう言った。
ブルーライト以外の光を極端に苦手とするこいつをあの地下の巣窟から引きずり出すのに小一時間かかった。仕方なく甘いもので釣ったがこのままのペースで行くと今日の客のデザートが無くなる。
「繋がり…具体的な作戦はあるんですか?」
翔吾さんが尋ねると、力也さんは肩を竦めた。
「今のところは、何も」
ま、そんなとこだろうと思っていた。俺たちの仕事なんていつもいきあたりばったりのリスキーゲームだ。もう慣れた。
「…来週の金曜日」
17個目のモンブランを完食したみさがぼそりと呟く。16人全員がそちらを見た。
「何?」
「ケーキ」
「…海青」
「次からはみさの地下室で会議やってください」
海青さんが厨房から持ってきたガトーショコラをみさの前に置く。
「来週の金曜日夜7時、その貿易会社の社長がサンドレイシティの高級ホテルで海外支部発足の祝賀パーティを主催する。まだ公にされてはないけどメディアも呼ぶ大規模なやつ。招待状リストの中にひとつ、偽名があった。フランスの宝石商ってことになってるけど本当はリヒテンシュタイン国籍の43歳男性、職業テロリスト。ちなみにその貿易会社の支部が置かれる国がリヒテンシュタイン。両者に接触があるとしたらその日だね。出席者名簿いじって二人分適当に架空の人物作っといたから潜入捜査でも行うならどうぞ。招待状は明後日の午後3時に一斉発送されるから、それ以降にここに届くよ」
みんな呆けた顔でガトーショコラを頬張るみさの顔を眺めていた。
伊達にパソコンに張り付いているわけではなかったのだ。流石はHIROさんの懐刀。
今日ばかりはその優秀ぶりに感謝したい。
「…その情報は、どこから?」
「どうって、貿易会社のネットワークをハッキングして」
薄い舌がちろりとのぞいて、口の端についたチョコレートクリームを舐めとった。
「戦場で真っ先に死ぬのは情報を持たないおバカさんだから。私が君らを殺さないためにできることは力を尽くして敵を徹底的に調べあげることでしょ」
うわ。
まさかこいつの仕事スタンスに感動を覚える日が来るとは。
「…今日は店は休みだ」
力也さんが言った。異論を唱える者はいない。
「ケーキ!ケーキあるだけお持ちしろ!」
「フルーツもありましたよね!?カットフルーツ!」
「酒!シャンパン!」
「とにかく甘いものだ!姫に甘いものを献上しろ!」
みんなが弾かれたようにバタバタ動き出す。瞬く間にみさの目の前にズラリと甘いものとお酒が並んだ。
そこは副業でもホストたち。カクテルを作りコールで煽り。
「「いいオンナーいいオンナーいいオンナ!ほんとにキレイだいいオンナ!」」
「っぷはー!」
「「うぇーい!」」
みさが空いたグラスをドン、と机に置く。そういえばこいつがお酒飲むの見たことないな。
右隣に座った陣さんがすぐさま次のお酒を作る。と、昂秀が俺の背中を押して空いていたみさの左隣に座らせた。
「何、何だよ」
「やっぱみさのキャストはまこっちゃんでしょ!」
シャワールームの一件以来、誤解は解いたものの何かとみさの世話を頼まれるようになった。こちらとしては迷惑この上ないのだが、今回もそんなノリなんだろう。
ま、楽しいしいっか。
「はい、姫が飲んで~!慎が飲まないわけがない~?」
「「わけがない~!」」
いや壱馬さんの悪ノリが過ぎる。みんなも乗っかってるし、くそ、あとで覚えてろよ。
「「愛情一気愛情一気、愛情一気!」」
俺は思いっきりグラスを傾けた。胃袋にかっとアルコールの熱が直撃する。
「いいぞ~まこつ~」
みさは珍しく満面の笑みを浮かべていて、普段は憎らしいだけなのに今日ばかりはその奇跡の造形美を遺憾無く発揮していた。
あぁ、やっぱ可愛い。
今まで見てきたどの女よりも。
「慎が飲んで~!壱馬が飲まないわけがない~?」
「「わけがない~!」」
「まじすか」
「「はい友情一気友情一気、友情一気!」」
でた、友情一気。最高に盛り上がってる夜とかだと、16人全員がやることもある。
今日もそうだ。
身内だけの飲みとあってみんな好き勝手に酔っ払っている。
やっぱ美人っていいな、なんて何気に失礼なことを思いながら、つい普段の接客のクセで肩に腕を回しみさの顔を覗き込む。普段なら「触るな」と怒られていただろうが、いつの間に陣さんと交代したのかみさの隣に座る樹さんは腰のあたりにしっかり腕を絡めているし、ソファの後ろから背もたれに肘をついた山彰さんはみさの耳をくすぐって遊んでいる。
酔っているのかみさもガードが緩く、くたりとこっちにもたれかかってきた。
目のふちを赤くして、瞳と唇は艶っぽく潤んでいる。長い銀髪が一筋、赤らんだ頬にかかっていた。
うわ、やばいなこれ。
暴力的なまでの色気に思わず俺の喉がごくりと音を立てた。
「まこつ~」
「なに?今夜のCLUB THE RAMPAGEの姫はみさだけだから。俺たち16人のキャストが心を込めて姫をもてなすよ」
アルコールとみさの色気にあてられて柄にもないことを口走る。
陶器のように滑らかな頬を人差し指の甲で撫でると、みさは擽ったそうに笑った。
と、反対側の樹さんが
「みさ、今日は好きなだけ甘いもの食べていいから。ほら、くち、開けて」
とマスカットとひと粒差し出す。
うちの店でもかなり人気を誇る樹さん。それはもちろんかっこいいというのもあるだろうけどそれに加えてこのナチュラルに女心をくすぐる仕草がお客を捉えて離さないのだろう。
みさは大人しくぱくりとそれを食べた。普段なら絶対やらないだろうに、どうやら相当酔っているようだ。俺も人のこと言えないし、樹さん含めたみんなもそうだけど。
「おいしい?」
「おいしい!」
こくんと頷いたみさを見て、樹さんは「良かった」と微笑む。営業スマイルというよりも素の笑顔だった。
あぁくそ、かっこいいな。
俺は思わずみさの肩をぐいっとこちらに引き寄せた。
「んぉ、どしたのまこっちゃん」
「…なんか飲む?」
「んー…じゃあドンペリ~」
その言葉にみんな大喜びでドンペリの栓を抜く。コールに煽られてぐいっとそれを飲み干したみさはご機嫌そうに笑って俺にもたれかかった。
「ふふふ、たのしい」
俺を見上げたその目はとろんとしていて、ビー玉の瞳がきらきらと光っていた。
あぁ、まるで宝石だ。
そんなことを考えながらぼんやりと眺めていたら、
ふに
「…え?」
今、くちびる、
「ふふ、お礼のちゅー」
はにかむように笑った顔。世界一美しい曲線を描くその唇。
その唇で、今、キスをされた。
んだと思う。
「ええ!?みさちゃんまさかの肉食!?」
「きゃーやっぱり2人はそういう関係だったの!?」
「お礼のちゅー、俺にも!俺にもちょうだい!」
もうお酒でハイテンションなみんなはキスシーンを目にしてもなぜか大盛り上がりで、俺ひとりだけが現状についていけてない。
アルコールでとろけた脳細胞は働きたくないと叫んでいる。
甘さの残る唇は驚くほどに柔らかい感触を覚えている。
そうだ、あまくて、やわらかかった。
それだけでいいじゃないか。
楽しいならそれでいいじゃないか。俺たちは明日死ぬとも知れない世界に生きる身、刹那が楽しければそれで。
酔うとキス魔に変貌するらしいみさは樹さんに口づけ、海青さんにもキスの雨を降らせ、次の狙いを翔平さんに定めたようだ。両手を差し出された翔平さんは大喜びでその腕の中に飛びこむ、
寸前で空を切り、ソファの背もたれに顔面からダイブした。
俺がみさの身体を引き寄せたからだ。
「おおおおいまこっちゃん!?」
「まだ俺が味わいつくしてないんで」
そう言って、みさの顎を掴み俺の方に向かせる。
「みさ、もういっかい」
「まこっちゃん…」
みさの長いまつ毛がはたりと伏せられた。がなる翔平さんと中学男子のノリではやし立てる周囲を無視して、俺はゆっくりと顔を近づけていく。
あと数ミリ、というところでふと違和感を感じて目を開けた。
「ぐう…」
まじかこいつ。
「寝てる…」
「『貿易会社とテロ組織との繋がりを証明しろ』…だそうだ」
「ま、それ以外ないよね」
開店の1時間前。
バックヤードの部屋に集められ力也さんからの報告を受ける。みさは客用のケーキをもぐもぐやりながらそう言った。
ブルーライト以外の光を極端に苦手とするこいつをあの地下の巣窟から引きずり出すのに小一時間かかった。仕方なく甘いもので釣ったがこのままのペースで行くと今日の客のデザートが無くなる。
「繋がり…具体的な作戦はあるんですか?」
翔吾さんが尋ねると、力也さんは肩を竦めた。
「今のところは、何も」
ま、そんなとこだろうと思っていた。俺たちの仕事なんていつもいきあたりばったりのリスキーゲームだ。もう慣れた。
「…来週の金曜日」
17個目のモンブランを完食したみさがぼそりと呟く。16人全員がそちらを見た。
「何?」
「ケーキ」
「…海青」
「次からはみさの地下室で会議やってください」
海青さんが厨房から持ってきたガトーショコラをみさの前に置く。
「来週の金曜日夜7時、その貿易会社の社長がサンドレイシティの高級ホテルで海外支部発足の祝賀パーティを主催する。まだ公にされてはないけどメディアも呼ぶ大規模なやつ。招待状リストの中にひとつ、偽名があった。フランスの宝石商ってことになってるけど本当はリヒテンシュタイン国籍の43歳男性、職業テロリスト。ちなみにその貿易会社の支部が置かれる国がリヒテンシュタイン。両者に接触があるとしたらその日だね。出席者名簿いじって二人分適当に架空の人物作っといたから潜入捜査でも行うならどうぞ。招待状は明後日の午後3時に一斉発送されるから、それ以降にここに届くよ」
みんな呆けた顔でガトーショコラを頬張るみさの顔を眺めていた。
伊達にパソコンに張り付いているわけではなかったのだ。流石はHIROさんの懐刀。
今日ばかりはその優秀ぶりに感謝したい。
「…その情報は、どこから?」
「どうって、貿易会社のネットワークをハッキングして」
薄い舌がちろりとのぞいて、口の端についたチョコレートクリームを舐めとった。
「戦場で真っ先に死ぬのは情報を持たないおバカさんだから。私が君らを殺さないためにできることは力を尽くして敵を徹底的に調べあげることでしょ」
うわ。
まさかこいつの仕事スタンスに感動を覚える日が来るとは。
「…今日は店は休みだ」
力也さんが言った。異論を唱える者はいない。
「ケーキ!ケーキあるだけお持ちしろ!」
「フルーツもありましたよね!?カットフルーツ!」
「酒!シャンパン!」
「とにかく甘いものだ!姫に甘いものを献上しろ!」
みんなが弾かれたようにバタバタ動き出す。瞬く間にみさの目の前にズラリと甘いものとお酒が並んだ。
そこは副業でもホストたち。カクテルを作りコールで煽り。
「「いいオンナーいいオンナーいいオンナ!ほんとにキレイだいいオンナ!」」
「っぷはー!」
「「うぇーい!」」
みさが空いたグラスをドン、と机に置く。そういえばこいつがお酒飲むの見たことないな。
右隣に座った陣さんがすぐさま次のお酒を作る。と、昂秀が俺の背中を押して空いていたみさの左隣に座らせた。
「何、何だよ」
「やっぱみさのキャストはまこっちゃんでしょ!」
シャワールームの一件以来、誤解は解いたものの何かとみさの世話を頼まれるようになった。こちらとしては迷惑この上ないのだが、今回もそんなノリなんだろう。
ま、楽しいしいっか。
「はい、姫が飲んで~!慎が飲まないわけがない~?」
「「わけがない~!」」
いや壱馬さんの悪ノリが過ぎる。みんなも乗っかってるし、くそ、あとで覚えてろよ。
「「愛情一気愛情一気、愛情一気!」」
俺は思いっきりグラスを傾けた。胃袋にかっとアルコールの熱が直撃する。
「いいぞ~まこつ~」
みさは珍しく満面の笑みを浮かべていて、普段は憎らしいだけなのに今日ばかりはその奇跡の造形美を遺憾無く発揮していた。
あぁ、やっぱ可愛い。
今まで見てきたどの女よりも。
「慎が飲んで~!壱馬が飲まないわけがない~?」
「「わけがない~!」」
「まじすか」
「「はい友情一気友情一気、友情一気!」」
でた、友情一気。最高に盛り上がってる夜とかだと、16人全員がやることもある。
今日もそうだ。
身内だけの飲みとあってみんな好き勝手に酔っ払っている。
やっぱ美人っていいな、なんて何気に失礼なことを思いながら、つい普段の接客のクセで肩に腕を回しみさの顔を覗き込む。普段なら「触るな」と怒られていただろうが、いつの間に陣さんと交代したのかみさの隣に座る樹さんは腰のあたりにしっかり腕を絡めているし、ソファの後ろから背もたれに肘をついた山彰さんはみさの耳をくすぐって遊んでいる。
酔っているのかみさもガードが緩く、くたりとこっちにもたれかかってきた。
目のふちを赤くして、瞳と唇は艶っぽく潤んでいる。長い銀髪が一筋、赤らんだ頬にかかっていた。
うわ、やばいなこれ。
暴力的なまでの色気に思わず俺の喉がごくりと音を立てた。
「まこつ~」
「なに?今夜のCLUB THE RAMPAGEの姫はみさだけだから。俺たち16人のキャストが心を込めて姫をもてなすよ」
アルコールとみさの色気にあてられて柄にもないことを口走る。
陶器のように滑らかな頬を人差し指の甲で撫でると、みさは擽ったそうに笑った。
と、反対側の樹さんが
「みさ、今日は好きなだけ甘いもの食べていいから。ほら、くち、開けて」
とマスカットとひと粒差し出す。
うちの店でもかなり人気を誇る樹さん。それはもちろんかっこいいというのもあるだろうけどそれに加えてこのナチュラルに女心をくすぐる仕草がお客を捉えて離さないのだろう。
みさは大人しくぱくりとそれを食べた。普段なら絶対やらないだろうに、どうやら相当酔っているようだ。俺も人のこと言えないし、樹さん含めたみんなもそうだけど。
「おいしい?」
「おいしい!」
こくんと頷いたみさを見て、樹さんは「良かった」と微笑む。営業スマイルというよりも素の笑顔だった。
あぁくそ、かっこいいな。
俺は思わずみさの肩をぐいっとこちらに引き寄せた。
「んぉ、どしたのまこっちゃん」
「…なんか飲む?」
「んー…じゃあドンペリ~」
その言葉にみんな大喜びでドンペリの栓を抜く。コールに煽られてぐいっとそれを飲み干したみさはご機嫌そうに笑って俺にもたれかかった。
「ふふふ、たのしい」
俺を見上げたその目はとろんとしていて、ビー玉の瞳がきらきらと光っていた。
あぁ、まるで宝石だ。
そんなことを考えながらぼんやりと眺めていたら、
ふに
「…え?」
今、くちびる、
「ふふ、お礼のちゅー」
はにかむように笑った顔。世界一美しい曲線を描くその唇。
その唇で、今、キスをされた。
んだと思う。
「ええ!?みさちゃんまさかの肉食!?」
「きゃーやっぱり2人はそういう関係だったの!?」
「お礼のちゅー、俺にも!俺にもちょうだい!」
もうお酒でハイテンションなみんなはキスシーンを目にしてもなぜか大盛り上がりで、俺ひとりだけが現状についていけてない。
アルコールでとろけた脳細胞は働きたくないと叫んでいる。
甘さの残る唇は驚くほどに柔らかい感触を覚えている。
そうだ、あまくて、やわらかかった。
それだけでいいじゃないか。
楽しいならそれでいいじゃないか。俺たちは明日死ぬとも知れない世界に生きる身、刹那が楽しければそれで。
酔うとキス魔に変貌するらしいみさは樹さんに口づけ、海青さんにもキスの雨を降らせ、次の狙いを翔平さんに定めたようだ。両手を差し出された翔平さんは大喜びでその腕の中に飛びこむ、
寸前で空を切り、ソファの背もたれに顔面からダイブした。
俺がみさの身体を引き寄せたからだ。
「おおおおいまこっちゃん!?」
「まだ俺が味わいつくしてないんで」
そう言って、みさの顎を掴み俺の方に向かせる。
「みさ、もういっかい」
「まこっちゃん…」
みさの長いまつ毛がはたりと伏せられた。がなる翔平さんと中学男子のノリではやし立てる周囲を無視して、俺はゆっくりと顔を近づけていく。
あと数ミリ、というところでふと違和感を感じて目を開けた。
「ぐう…」
まじかこいつ。
「寝てる…」