第一章
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【routeA】
「Cの動きを待って倉庫に潜入だ。中に入ったら目標まで最短距離で向かう」
健太の指示に、龍、樹、北人は小さく頷いた。倉庫の陰から警備兵の詰所に忍び込むrouteCの様子を見つめる。
【routeB】
「俺たちは倉庫に潜入したら地下5階の制御室に向かう。制圧の後、AとCのサポートだ」
陣が拓磨、翔平、陸、翔吾に向かって小さく言った。
【routeC】
「現在詰所には警備兵が4人。制圧・変装を終えたらすぐに倉庫入口のセキュリティを解除だ」
彰吾の合図で海青、壱馬、瑠唯が詰所の天井からひらりと飛び降り、瞬く間に警備兵たちを倒した。
『こちらrouteC壱馬。みさ、よろしく』
「おまかせあれ」
次なる私の仕事は警備兵に扮したrouteCの面々がダミーのICカードで内部に入れるようにコンピュータで管理されているデータを書き換えること。
認証動作の最中でなければシステムが作動しないため、ICを読み取る2秒間の間にそれを行わなければならない。指紋と網膜のデータは事前に入手し、テープとコンタクトに写したものをそれぞれが付けている。
さらに入口が開いたら再びセンサー回路を遮断、routeA、Bの9人が忍び込んでも反応しないようにする。
スピードと正確さが求められるが、私に言わせてみれば造作もない仕事だ。
かたかたと、私の指がキーボードをタップする音が静かなフロアに響く。慎が息を詰めて私の手元を見つめていた。
「次やましょ、どうぞー」
かたかたかたかた
「次、るいるい」
かたかたかたかた
「海青」
かたかたかたかた
『こちらrouteB、陣。入口が開いた。潜入する』
『こちら北人。routeAも入るよ。みさセンサーよろしく』
「OK、センサーブロック。3秒カウントダウン。3…2…1…0」
エンターキーから指を離す。私の手元を見つめていた慎と昂秀が同時に「すげぇ…」と呟いた。
『陣から力也さんへ。全員潜入成功しました』
「よし、こちら力也。各班次の作戦行動に移れ」
作業がひと段落すると、私はパソコンを脇に置きぱたんと仰向けに寝転がった。
「んあー」
「お前ほんと腕だけはいいよな」
だけ、を強調して慎が言った。こいつちょいちょいディスってくるけど私のこと好きなのか?思春期男子か?チェリーボーイか?
「顔もスタイルも性格も完璧だと思うけど、ハッキング技術はその中でも抜きん出て素晴らしいものを持ってると我ながら恐ろしくなる時があります」
「俺からすればお前のその訳の分からない自信の方が恐ろしい」
「んっふふ」
「なに」
私はごろりと寝返りをうって窓際に座る慎を見た。
「自信じゃない。事実だ」
「きっしょ」
「良かったなみさ、まこっちゃんのきしょいなんてなかなか聞けないぞ」
「お前ら!仕事に集中しろ!」
力也さんの一喝で慎の昂秀の2人は窓に向き直る。私はまた寝返りをうってうつ伏せになると、床に頬杖をついてパソコンの画面を眺めた。GPS位置情報を示す13個の点が3グループに分かれ倉庫内を移動している。
さすがは新進気鋭の新チーム、最短距離を迅速に進んでいく。倉庫内部はアスレチック迷路のように複雑な構造だが、彼らはフリーランニングでも楽しんでいるかのようにすいすい地下へと潜る。
「…routeBへ。こちら慎、前方10m先の通路に警備兵が2人。注意してください」
『こちら翔平。サンキューまこっちゃん』
慎の瞳が金色の光を発している。
千里眼は物理的距離や障害だけでなく、時に時空をも超える。まだ自分でコントロールできるわけではないようだが、いずれその力をものにすることができたならばTHE RAMPAGEにとってもLDHにとっても強力な切り札となるだろう。
ふいに、頭の中に『あの人』の言葉が思い浮かんだ。
【能力のすべてをものにしろ。意識の支配下に置くんだ。お前が生まれた意味を思い出せ】
私の全ては、あの人にもらった。あの人が私という人間を創造した。
あの人が望んだのが、私だった。
そして10年前、あの人に変わって私の手を取ったHIROは共に理想郷を作ろうと言った。
人間とはどこまでも愚かな生き物だ。
人間だけでは飽き足らず、世界まで作ろうとしている。愚かしく浅ましい。
でも私は、その愚かな人間に作り出されたもののひとつなのだ。どうしてあの時あの手を振り払うことができただろう。
HIROの言う理想郷とやらを作るのも悪くないと思った。人に作られた人である私がまた別の何かを創造するのいうのは少し背徳的で、でも面白そうだと思った。
だから私は今、ここにいるのだ。
「…みさ、おいみさ」
「へあ?」
我に返る。慎の金色に輝く瞳が私に向けられていた。
「ほら、routeBがもうすぐ制御室に到達する」
「あぁ、うん」
「ぼーっとしてんなよ」
「うん」
私が突っかからなかったので慎は怪訝な表情を浮かべた。能力を発動したまま私の顔を眺めていたが、すぐにふい、とその視線を倉庫に向ける。
いつか慎の瞳は私の過去を映すのだろうか。それは別に構わないのだけど、もしその時が来たら慎は私のことをどう思うのだろう。
『routeBの陣や。制御室の制圧完了した。これより他二班のシステムサポートに入る』
『こちらrouteAの龍から後方支援班へ。地下8階G5ブロック到達しました』
「目標はあったか?」
『はい。映します』
力也の問いかけに、龍は小型カメラから私のパソコンへ映像を送ってきた。すかさず3人が私のところにひっついて画面を見ようとするので私は「邪魔!」と押し戻す。
「…龍ちゃん?健太の顔のどアップはいいから目標が見たいな。健太もピースしなくていいから。求めてないから」
『あっみさひどい』
「あ、ごめん。間違えたこっちだ」
何をどう間違えたら健太と目標を勘違いするのかは知らないが、とにかく画面には目標が収められているコンテナのコード票が映し出された。
「…うん、これで間違いない。そのコンテナって通常タイプのロックだけだよね?ピッキングで開く?」
『今樹さんが開けてくれてる』
どうやら樹が氷で鍵穴の型を取り開けることに成功したようだ。カメラから送られてくる映像に、コンテナの側面がゆっくりと開いていく様子が映し出される。
内部には木箱がびっしりと入っていた。北人がそのうちひとつを取り出し、蓋を開ける。
中に入っていたのはビニール袋で包装された白い粉。
「まこっちゃん、何か分かる?」
「俺の目は成分まで見えるほど優秀じゃないから」
「デスヨネ」
「見えなくても割とあからさまにそれっぽいな…北人、それひと袋持ち帰ってきてくれ」
力也の指示で画面の中の北人がこくりと頷いた。
『routeA北人、目標確保。これより撤退行動に移る』
『こちらrouteB陸、了解した。撤退する』
『routeC瑠唯、撤退する』
「おうちに帰るまでが潜入捜査だからねー余ったおやつとか食べてちゃダメだよー300円までって言ったでしょ、バナナはおやつに入らないって言ったでしょ」
『みさ、おうちに帰るまでしっかりサポートしてくれたらプリン買ってくれるって。龍が』
『北人さん!?』
「ぼくがんばれるっ」
私は瞳を金色にびかびか光らせてキーボードを叩き始める。
そんな私の横では慎が例のごとく呆れ顔でため息をついていた。
「Cの動きを待って倉庫に潜入だ。中に入ったら目標まで最短距離で向かう」
健太の指示に、龍、樹、北人は小さく頷いた。倉庫の陰から警備兵の詰所に忍び込むrouteCの様子を見つめる。
【routeB】
「俺たちは倉庫に潜入したら地下5階の制御室に向かう。制圧の後、AとCのサポートだ」
陣が拓磨、翔平、陸、翔吾に向かって小さく言った。
【routeC】
「現在詰所には警備兵が4人。制圧・変装を終えたらすぐに倉庫入口のセキュリティを解除だ」
彰吾の合図で海青、壱馬、瑠唯が詰所の天井からひらりと飛び降り、瞬く間に警備兵たちを倒した。
『こちらrouteC壱馬。みさ、よろしく』
「おまかせあれ」
次なる私の仕事は警備兵に扮したrouteCの面々がダミーのICカードで内部に入れるようにコンピュータで管理されているデータを書き換えること。
認証動作の最中でなければシステムが作動しないため、ICを読み取る2秒間の間にそれを行わなければならない。指紋と網膜のデータは事前に入手し、テープとコンタクトに写したものをそれぞれが付けている。
さらに入口が開いたら再びセンサー回路を遮断、routeA、Bの9人が忍び込んでも反応しないようにする。
スピードと正確さが求められるが、私に言わせてみれば造作もない仕事だ。
かたかたと、私の指がキーボードをタップする音が静かなフロアに響く。慎が息を詰めて私の手元を見つめていた。
「次やましょ、どうぞー」
かたかたかたかた
「次、るいるい」
かたかたかたかた
「海青」
かたかたかたかた
『こちらrouteB、陣。入口が開いた。潜入する』
『こちら北人。routeAも入るよ。みさセンサーよろしく』
「OK、センサーブロック。3秒カウントダウン。3…2…1…0」
エンターキーから指を離す。私の手元を見つめていた慎と昂秀が同時に「すげぇ…」と呟いた。
『陣から力也さんへ。全員潜入成功しました』
「よし、こちら力也。各班次の作戦行動に移れ」
作業がひと段落すると、私はパソコンを脇に置きぱたんと仰向けに寝転がった。
「んあー」
「お前ほんと腕だけはいいよな」
だけ、を強調して慎が言った。こいつちょいちょいディスってくるけど私のこと好きなのか?思春期男子か?チェリーボーイか?
「顔もスタイルも性格も完璧だと思うけど、ハッキング技術はその中でも抜きん出て素晴らしいものを持ってると我ながら恐ろしくなる時があります」
「俺からすればお前のその訳の分からない自信の方が恐ろしい」
「んっふふ」
「なに」
私はごろりと寝返りをうって窓際に座る慎を見た。
「自信じゃない。事実だ」
「きっしょ」
「良かったなみさ、まこっちゃんのきしょいなんてなかなか聞けないぞ」
「お前ら!仕事に集中しろ!」
力也さんの一喝で慎の昂秀の2人は窓に向き直る。私はまた寝返りをうってうつ伏せになると、床に頬杖をついてパソコンの画面を眺めた。GPS位置情報を示す13個の点が3グループに分かれ倉庫内を移動している。
さすがは新進気鋭の新チーム、最短距離を迅速に進んでいく。倉庫内部はアスレチック迷路のように複雑な構造だが、彼らはフリーランニングでも楽しんでいるかのようにすいすい地下へと潜る。
「…routeBへ。こちら慎、前方10m先の通路に警備兵が2人。注意してください」
『こちら翔平。サンキューまこっちゃん』
慎の瞳が金色の光を発している。
千里眼は物理的距離や障害だけでなく、時に時空をも超える。まだ自分でコントロールできるわけではないようだが、いずれその力をものにすることができたならばTHE RAMPAGEにとってもLDHにとっても強力な切り札となるだろう。
ふいに、頭の中に『あの人』の言葉が思い浮かんだ。
【能力のすべてをものにしろ。意識の支配下に置くんだ。お前が生まれた意味を思い出せ】
私の全ては、あの人にもらった。あの人が私という人間を創造した。
あの人が望んだのが、私だった。
そして10年前、あの人に変わって私の手を取ったHIROは共に理想郷を作ろうと言った。
人間とはどこまでも愚かな生き物だ。
人間だけでは飽き足らず、世界まで作ろうとしている。愚かしく浅ましい。
でも私は、その愚かな人間に作り出されたもののひとつなのだ。どうしてあの時あの手を振り払うことができただろう。
HIROの言う理想郷とやらを作るのも悪くないと思った。人に作られた人である私がまた別の何かを創造するのいうのは少し背徳的で、でも面白そうだと思った。
だから私は今、ここにいるのだ。
「…みさ、おいみさ」
「へあ?」
我に返る。慎の金色に輝く瞳が私に向けられていた。
「ほら、routeBがもうすぐ制御室に到達する」
「あぁ、うん」
「ぼーっとしてんなよ」
「うん」
私が突っかからなかったので慎は怪訝な表情を浮かべた。能力を発動したまま私の顔を眺めていたが、すぐにふい、とその視線を倉庫に向ける。
いつか慎の瞳は私の過去を映すのだろうか。それは別に構わないのだけど、もしその時が来たら慎は私のことをどう思うのだろう。
『routeBの陣や。制御室の制圧完了した。これより他二班のシステムサポートに入る』
『こちらrouteAの龍から後方支援班へ。地下8階G5ブロック到達しました』
「目標はあったか?」
『はい。映します』
力也の問いかけに、龍は小型カメラから私のパソコンへ映像を送ってきた。すかさず3人が私のところにひっついて画面を見ようとするので私は「邪魔!」と押し戻す。
「…龍ちゃん?健太の顔のどアップはいいから目標が見たいな。健太もピースしなくていいから。求めてないから」
『あっみさひどい』
「あ、ごめん。間違えたこっちだ」
何をどう間違えたら健太と目標を勘違いするのかは知らないが、とにかく画面には目標が収められているコンテナのコード票が映し出された。
「…うん、これで間違いない。そのコンテナって通常タイプのロックだけだよね?ピッキングで開く?」
『今樹さんが開けてくれてる』
どうやら樹が氷で鍵穴の型を取り開けることに成功したようだ。カメラから送られてくる映像に、コンテナの側面がゆっくりと開いていく様子が映し出される。
内部には木箱がびっしりと入っていた。北人がそのうちひとつを取り出し、蓋を開ける。
中に入っていたのはビニール袋で包装された白い粉。
「まこっちゃん、何か分かる?」
「俺の目は成分まで見えるほど優秀じゃないから」
「デスヨネ」
「見えなくても割とあからさまにそれっぽいな…北人、それひと袋持ち帰ってきてくれ」
力也の指示で画面の中の北人がこくりと頷いた。
『routeA北人、目標確保。これより撤退行動に移る』
『こちらrouteB陸、了解した。撤退する』
『routeC瑠唯、撤退する』
「おうちに帰るまでが潜入捜査だからねー余ったおやつとか食べてちゃダメだよー300円までって言ったでしょ、バナナはおやつに入らないって言ったでしょ」
『みさ、おうちに帰るまでしっかりサポートしてくれたらプリン買ってくれるって。龍が』
『北人さん!?』
「ぼくがんばれるっ」
私は瞳を金色にびかびか光らせてキーボードを叩き始める。
そんな私の横では慎が例のごとく呆れ顔でため息をついていた。