けむりの向こうの君へ
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瑠唯から着信。
「…何」
電話の向こうの声は、少し掠れていた。
『るな、死んだって』
連絡を絶っていた半年の間に、るなは誰にも言わずひっそりと死んでしまっていた。1人で開店準備をしている最中に倒れ、店に来た客に発見されたという。葬式もいつの間にか執り行われていたらしい。
死因は脳卒中。司法解剖を担当した医者からは肺が真っ黒だったとだけ伝えられたそうだ。
ああ、本当にバカなやつ。
涙も出ないや。
『お墓、沖縄にあるって。明日PGのイベントで沖縄に行くし、墓参りしよう』
「やだ」
『健太』
「瑠唯ひとりで行けよ」
結局次の日、瑠唯に引きずられて渋々墓参りに行った。
無機質で冷たい石の塊になってしまったるなのことを可哀想だと思った。今頃天国であいつと一緒にいるのだろうか。あいつの墓は別の墓地にあるはずだ。
タバコなんて有害なものは置いていないであろう天国なんて、るなにとってはつまらないに違いない。
「バカだなぁ」
海風が頬を撫ぜる。それがあの日、キスをする直前、頬すれすれに感じたタバコの熱のようだと思った。
まるでタバコの煙のようにふわふわと形なく俺の手をすり抜けていった君のようだと思った。
「だからタバコなんてやめろって言ったのに」
呟いた言葉が海風に飛ばされていく。墓前にしゃがみこんで花を生けていた瑠唯が、ぼそりと言った。
「言ってないよ」
「…え?」
紫色の頭頂部を見下ろす。高校の頃はもっとまっすぐな黒髪だった。
「やめないの、とはよく聞いてたけど。健太はるなに『やめろ』って言ったことはないんじゃない。少なくとも俺は聞いたことないよ」
ざあ、と。
海が鳴る。
その瞬間、俺は走り出した。
白いビーチを、何度も躓きそうになりながら、肺から火を噴きそうになりながら、俺の何倍ものスピードで人生を駆け抜ける君に追いつかれそうになりながら、走った。走った。
「おじさん!」
飛び込んだのは、海辺の小さな店。
るなの生まれ育った家。
ちょうど客を送り出そうとしていたところだったらしい、毛むくじゃらの熊のような風貌のおじさんが「健太くん!?帰ってたのか」とぎょっとこちらを振り返る。
上がりきった息を整える間もなく、俺は外に聞こえるような大声でがなった。
「入れて欲しい文字があるんだけど!」
「…何」
電話の向こうの声は、少し掠れていた。
『るな、死んだって』
連絡を絶っていた半年の間に、るなは誰にも言わずひっそりと死んでしまっていた。1人で開店準備をしている最中に倒れ、店に来た客に発見されたという。葬式もいつの間にか執り行われていたらしい。
死因は脳卒中。司法解剖を担当した医者からは肺が真っ黒だったとだけ伝えられたそうだ。
ああ、本当にバカなやつ。
涙も出ないや。
『お墓、沖縄にあるって。明日PGのイベントで沖縄に行くし、墓参りしよう』
「やだ」
『健太』
「瑠唯ひとりで行けよ」
結局次の日、瑠唯に引きずられて渋々墓参りに行った。
無機質で冷たい石の塊になってしまったるなのことを可哀想だと思った。今頃天国であいつと一緒にいるのだろうか。あいつの墓は別の墓地にあるはずだ。
タバコなんて有害なものは置いていないであろう天国なんて、るなにとってはつまらないに違いない。
「バカだなぁ」
海風が頬を撫ぜる。それがあの日、キスをする直前、頬すれすれに感じたタバコの熱のようだと思った。
まるでタバコの煙のようにふわふわと形なく俺の手をすり抜けていった君のようだと思った。
「だからタバコなんてやめろって言ったのに」
呟いた言葉が海風に飛ばされていく。墓前にしゃがみこんで花を生けていた瑠唯が、ぼそりと言った。
「言ってないよ」
「…え?」
紫色の頭頂部を見下ろす。高校の頃はもっとまっすぐな黒髪だった。
「やめないの、とはよく聞いてたけど。健太はるなに『やめろ』って言ったことはないんじゃない。少なくとも俺は聞いたことないよ」
ざあ、と。
海が鳴る。
その瞬間、俺は走り出した。
白いビーチを、何度も躓きそうになりながら、肺から火を噴きそうになりながら、俺の何倍ものスピードで人生を駆け抜ける君に追いつかれそうになりながら、走った。走った。
「おじさん!」
飛び込んだのは、海辺の小さな店。
るなの生まれ育った家。
ちょうど客を送り出そうとしていたところだったらしい、毛むくじゃらの熊のような風貌のおじさんが「健太くん!?帰ってたのか」とぎょっとこちらを振り返る。
上がりきった息を整える間もなく、俺は外に聞こえるような大声でがなった。
「入れて欲しい文字があるんだけど!」