けむりの向こうの君へ
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「たばこ、やめないの」
換気扇の下でタバコを吸う私の方を見ないまま、健太がぽつりと問うた。
「やめないんじゃなくて、やめらんないの」
ふーん、とだけ返ってきた。視線は相変わらず部屋に置いてあるタトゥーのデザイン集に固定されたまま。静かな部屋に換気扇の音と、デザイン集をめくるぺらり、ぺらり、という音だけが響く。沈黙に耐えかねて、私はタバコをくしゃりと灰皿に押し付ける。
「あんたの機嫌の乱高下が沖縄の天気くらい読めないのは知ってるけどさ、さすがにちょっとやりずらいんだけど。人参しりしりそんなにマズかった?」
「いや、美味しかった」
「じゃあ顔だけでもそういう顔しといてよ」
「むり」
「…はぁ」
24歳児め。さすがにもう慣れてきたが、やはりこうなった健太は面倒くさい。私は真ん中に丸い赤が描かれた見慣れたパッケージからもう一本取り出して火をつける。
すると、それをちらりと横目で捉えた健太がまた唐突に尋ねた。
「タバコ、せめてマルボロは卒業したら」
「は?何で」
「何でも」
…イライラしてきた。私は自分を落ち着けるために深く煙を吸い込む。一息吐く度に寿命が削れていく気がする。
落ち着け。ここで私までイライラし出したらもう収集がつかなくなる。
「…やめないよ。私、マルボロが好きだから」
「るなが好きなのはマルボロじゃないだろ」
苦い。煙が。
「あんた、喧嘩売りに来たわけ?叩き出すよ」
顔にかかる髪が鬱陶しくてかきあげる。右耳が空気に晒される。
その瞬間、健太がぱっと立ち上がった。突然のモーションに驚いている間に距離を詰められる。
私がもたれ掛かっていたシンクのふちに両手をつかれ、逃げ場を失う。咥えていたタバコの先が健太の顔をかすりそうになって本能的に危ない、と思った。
大事な商売道具に火傷跡でもついたらどうするのだと。
いきなり壁ドンもどきのようなことをされ、目の前に健太の綺麗な顔があって、なんかちょっと怖いし、こんなことされるの初めてだし、とか。頭を駆け巡ることは沢山あったが、何よりもそのきめ細かくて綺麗な肌にはタトゥーは似合えど根性焼きの跡など似合わない。その思いが最優先に押し寄せて、慌てて首を引く。
しかし、それを追いかけるように伸びてきた健太の右手が、私の唇からタバコを奪い取った。
「俺よりも、タバコの方が好きなの?」
換気扇の下でタバコを吸う私の方を見ないまま、健太がぽつりと問うた。
「やめないんじゃなくて、やめらんないの」
ふーん、とだけ返ってきた。視線は相変わらず部屋に置いてあるタトゥーのデザイン集に固定されたまま。静かな部屋に換気扇の音と、デザイン集をめくるぺらり、ぺらり、という音だけが響く。沈黙に耐えかねて、私はタバコをくしゃりと灰皿に押し付ける。
「あんたの機嫌の乱高下が沖縄の天気くらい読めないのは知ってるけどさ、さすがにちょっとやりずらいんだけど。人参しりしりそんなにマズかった?」
「いや、美味しかった」
「じゃあ顔だけでもそういう顔しといてよ」
「むり」
「…はぁ」
24歳児め。さすがにもう慣れてきたが、やはりこうなった健太は面倒くさい。私は真ん中に丸い赤が描かれた見慣れたパッケージからもう一本取り出して火をつける。
すると、それをちらりと横目で捉えた健太がまた唐突に尋ねた。
「タバコ、せめてマルボロは卒業したら」
「は?何で」
「何でも」
…イライラしてきた。私は自分を落ち着けるために深く煙を吸い込む。一息吐く度に寿命が削れていく気がする。
落ち着け。ここで私までイライラし出したらもう収集がつかなくなる。
「…やめないよ。私、マルボロが好きだから」
「るなが好きなのはマルボロじゃないだろ」
苦い。煙が。
「あんた、喧嘩売りに来たわけ?叩き出すよ」
顔にかかる髪が鬱陶しくてかきあげる。右耳が空気に晒される。
その瞬間、健太がぱっと立ち上がった。突然のモーションに驚いている間に距離を詰められる。
私がもたれ掛かっていたシンクのふちに両手をつかれ、逃げ場を失う。咥えていたタバコの先が健太の顔をかすりそうになって本能的に危ない、と思った。
大事な商売道具に火傷跡でもついたらどうするのだと。
いきなり壁ドンもどきのようなことをされ、目の前に健太の綺麗な顔があって、なんかちょっと怖いし、こんなことされるの初めてだし、とか。頭を駆け巡ることは沢山あったが、何よりもそのきめ細かくて綺麗な肌にはタトゥーは似合えど根性焼きの跡など似合わない。その思いが最優先に押し寄せて、慌てて首を引く。
しかし、それを追いかけるように伸びてきた健太の右手が、私の唇からタバコを奪い取った。
「俺よりも、タバコの方が好きなの?」