第二章
夢小説設定
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2018年5月26日。
GOTR奈良公演。
アンコールも間もなく終わる。
1番最後の曲GO ON THE RAMPAGEは客降りがあり、お客さんと直に触れ合うことができる唯一のチャンスだった。
とはいえ、こちらに手を伸ばされたりすると圧迫感があって発作が起きないか心配ではあるのだが。
「We are THE RAMPAGE 繰り出す無限のMove…」
曲の始まりで、龍と共に客席へと降りる。
歓声をあげるファンとハイタッチを交わしながらざっと見回すと、少し奥に私のボードを胸元のあたりで持っている人がいた。
1番出口に近いブロックだ。
よし、あの人のブロックに行こう。
私は身を乗り出してくるお客さんに応えながらそちらのブロックに近づいていった。
通りすがりに健太と軽く抱き合うと、いわゆる『けんゆき』ファンの悲鳴が上がる。
「隣には最強Buddy…」
ようやく辿り着いた、ボードのお姉さんの前。
アドレナリン出まくりでテンションが上がっていた私は微笑んでそのお姉さんとハイタッチしようと両手を上げた。
その時。
ふいにその人が私の長い髪を掴んだ。
通路に立っていた警備の人が反応する間もなく、空いている方の手に握っていたものがぎらりと光る。
「え、」
ざくり
気がついた時には、背中まである髪の数房を半分ほどにまで切られていた。
女の人は持っていたハサミを振り回しながら、切った髪を私に向かって投げつける。
「あんたなんかTHE RAMPAGEにいらない…!THE RAMPAGEは16人で充分なの!私の北人や樹とベタベタしやがって!今も見せつけるみたいに健太くんと…このメス猫!」
周りのお客さんは何が起こったのか分からずに呆然とする。喚くように叫び続ける彼女を、警備員が取り押さえて会場を出ていった。
会場は広いため興奮状態にある他のお客さんは気づいていないようだが、さすがにメンバーは気づいたらしい。
1番近くにいた健太や瑠唯がこっちに駆け寄ってくる。
「白奈!」
人間は一度に処理できる許容範囲を超えると逆に冷静になるらしい。
私はとっさに不格好に短くなった右側の髪を手で隠して、ショックで呆然とするお客さんに呼びかける。
「怪我してる人はいませんか?大丈夫ですか?」
お客さんは青ざめた表情を浮かべながらも、みんなふるふると首を横に振って無事を伝えてくれる。
「よかった…驚かせてすみません、私は大丈夫なんで、みなさん最後の最後までひとつになって暴れ回っていきましょう」
私はファンのみなさんに笑いかけるとステージの上へ戻ろうとする。
と、1番初めに私の隣に来た健太が通路に散らばる髪を見てさっと顔を強ばらせた。
「白奈、何が…!?」
「健太、ダメ。最後まで楽しいライブにしたいから」
「でも…!」
「大丈夫」
私のところに集まってきた他のメンバーにも頷きかける。
今にもパニック発作が起きそうだ。
でも今ここで私が倒れたら、せっかくのライブが台無しになる。
さりげなく支えてくれる健太と瑠唯に感謝しながら私は最後まで何とかステージに立つことができた。
壱馬は最後の挨拶までやってくれたが、顔は青ざめている。
舞台袖に引っ込んだ途端に胸を押さえて倒れ込む私を、とっさに健太が抱きとめる。
「白奈、白奈!」
「は、は、ぜ、ひゅ、ぁ、は、ッ」
ファンの視線がなくなった瞬間に押し寄せる、恐怖。
『あんたなんかいらない』
その言葉が狂った駒のように、私の頭の中をがんがん跳ね回る。
髪を切られた音が耳にこびりついている。
やだ、やだ、やだ。
こわい。
「やばい、救急車!救急車呼んで!」
「白奈さん、しっかりしてください!白奈さん!」
周囲でメンバーやスタッフがバタバタと慌てた様子で声を上げているのも、耳に入っていなかった。
ただ、健太の力強い腕の温もりと、必死に私の名前を呼ぶ声だけは。
なぜだか、私の心に響いていた。
「白奈!白奈!しっかりしろ!」
GOTR奈良公演。
アンコールも間もなく終わる。
1番最後の曲GO ON THE RAMPAGEは客降りがあり、お客さんと直に触れ合うことができる唯一のチャンスだった。
とはいえ、こちらに手を伸ばされたりすると圧迫感があって発作が起きないか心配ではあるのだが。
「We are THE RAMPAGE 繰り出す無限のMove…」
曲の始まりで、龍と共に客席へと降りる。
歓声をあげるファンとハイタッチを交わしながらざっと見回すと、少し奥に私のボードを胸元のあたりで持っている人がいた。
1番出口に近いブロックだ。
よし、あの人のブロックに行こう。
私は身を乗り出してくるお客さんに応えながらそちらのブロックに近づいていった。
通りすがりに健太と軽く抱き合うと、いわゆる『けんゆき』ファンの悲鳴が上がる。
「隣には最強Buddy…」
ようやく辿り着いた、ボードのお姉さんの前。
アドレナリン出まくりでテンションが上がっていた私は微笑んでそのお姉さんとハイタッチしようと両手を上げた。
その時。
ふいにその人が私の長い髪を掴んだ。
通路に立っていた警備の人が反応する間もなく、空いている方の手に握っていたものがぎらりと光る。
「え、」
ざくり
気がついた時には、背中まである髪の数房を半分ほどにまで切られていた。
女の人は持っていたハサミを振り回しながら、切った髪を私に向かって投げつける。
「あんたなんかTHE RAMPAGEにいらない…!THE RAMPAGEは16人で充分なの!私の北人や樹とベタベタしやがって!今も見せつけるみたいに健太くんと…このメス猫!」
周りのお客さんは何が起こったのか分からずに呆然とする。喚くように叫び続ける彼女を、警備員が取り押さえて会場を出ていった。
会場は広いため興奮状態にある他のお客さんは気づいていないようだが、さすがにメンバーは気づいたらしい。
1番近くにいた健太や瑠唯がこっちに駆け寄ってくる。
「白奈!」
人間は一度に処理できる許容範囲を超えると逆に冷静になるらしい。
私はとっさに不格好に短くなった右側の髪を手で隠して、ショックで呆然とするお客さんに呼びかける。
「怪我してる人はいませんか?大丈夫ですか?」
お客さんは青ざめた表情を浮かべながらも、みんなふるふると首を横に振って無事を伝えてくれる。
「よかった…驚かせてすみません、私は大丈夫なんで、みなさん最後の最後までひとつになって暴れ回っていきましょう」
私はファンのみなさんに笑いかけるとステージの上へ戻ろうとする。
と、1番初めに私の隣に来た健太が通路に散らばる髪を見てさっと顔を強ばらせた。
「白奈、何が…!?」
「健太、ダメ。最後まで楽しいライブにしたいから」
「でも…!」
「大丈夫」
私のところに集まってきた他のメンバーにも頷きかける。
今にもパニック発作が起きそうだ。
でも今ここで私が倒れたら、せっかくのライブが台無しになる。
さりげなく支えてくれる健太と瑠唯に感謝しながら私は最後まで何とかステージに立つことができた。
壱馬は最後の挨拶までやってくれたが、顔は青ざめている。
舞台袖に引っ込んだ途端に胸を押さえて倒れ込む私を、とっさに健太が抱きとめる。
「白奈、白奈!」
「は、は、ぜ、ひゅ、ぁ、は、ッ」
ファンの視線がなくなった瞬間に押し寄せる、恐怖。
『あんたなんかいらない』
その言葉が狂った駒のように、私の頭の中をがんがん跳ね回る。
髪を切られた音が耳にこびりついている。
やだ、やだ、やだ。
こわい。
「やばい、救急車!救急車呼んで!」
「白奈さん、しっかりしてください!白奈さん!」
周囲でメンバーやスタッフがバタバタと慌てた様子で声を上げているのも、耳に入っていなかった。
ただ、健太の力強い腕の温もりと、必死に私の名前を呼ぶ声だけは。
なぜだか、私の心に響いていた。
「白奈!白奈!しっかりしろ!」