日常
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「何でピアニスト目指さへんの?」
「えぇ?」
帰り道、駅から寮までの道を歩きながら壱馬が尋ねる。
私はちょっと迷ってから、正直に話すことにした。
「私の実家ね、すごく貧乏だったの。アップライトピアノはあったけどピアノ教室に行くお金はなくて」
ずっとひとりで弾き続けた。思いつくまま、楽譜はない。
「中学生までは本気でピアニストになるんだーって言ってたんだけどね…でもプロになるには音大に通わないといけなくて、でももちろんそんなお金なんてない。それにプロでやっていく自信もなくて」
『身の程を知れ』、だ。
「結局無難に勉強して、そこそこの大学に入って。ま、そんな感じかな~」
夕日に照らされて、影が長く伸びる。隣を歩く壱馬は黙って私の話を聞いていた。
「あ、このことみんなに言わないでよ?恥ずかしいから」
「何も恥ずかしくないやろ」
ぼそりと壱馬が呟いた。
「たとえ貧乏やったとしてもあんなにピアノうまくて勉強もできて、家事もできる。なんも恥ずかしくなんかないやん」
「壱馬が珍しく優しい」
「いつもやろ」
肩と肩がとん、と触れた。じゃれつくようにぶつかってくるので、私はそれから逃げるように走り出す。
「お先にー!」
「あ、待て!」
いや壱馬足速ッ!
秒で追いつかれると、後ろから腕が伸びてきてがしっと私の首に絡みつく。
「おらっ」
「わわ、ひゃあ~やめろぉ~」
きゃあきゃあ騒いでいると、ふいに壱馬が私の耳元に顔を寄せた。
「…今日、みさのこといっぱい知れてよかった。買い物付き合ってくれてほんまにありがと」
どくん
ようやく気づいた、距離の近さ。私の背中と壱馬の胸板がぴったりくっついて、服越しに体温を感じる。
どくん
拍動するのは私の心臓か、それとも壱馬のものか。
きっと、どっちもだ。
「えぇ?」
帰り道、駅から寮までの道を歩きながら壱馬が尋ねる。
私はちょっと迷ってから、正直に話すことにした。
「私の実家ね、すごく貧乏だったの。アップライトピアノはあったけどピアノ教室に行くお金はなくて」
ずっとひとりで弾き続けた。思いつくまま、楽譜はない。
「中学生までは本気でピアニストになるんだーって言ってたんだけどね…でもプロになるには音大に通わないといけなくて、でももちろんそんなお金なんてない。それにプロでやっていく自信もなくて」
『身の程を知れ』、だ。
「結局無難に勉強して、そこそこの大学に入って。ま、そんな感じかな~」
夕日に照らされて、影が長く伸びる。隣を歩く壱馬は黙って私の話を聞いていた。
「あ、このことみんなに言わないでよ?恥ずかしいから」
「何も恥ずかしくないやろ」
ぼそりと壱馬が呟いた。
「たとえ貧乏やったとしてもあんなにピアノうまくて勉強もできて、家事もできる。なんも恥ずかしくなんかないやん」
「壱馬が珍しく優しい」
「いつもやろ」
肩と肩がとん、と触れた。じゃれつくようにぶつかってくるので、私はそれから逃げるように走り出す。
「お先にー!」
「あ、待て!」
いや壱馬足速ッ!
秒で追いつかれると、後ろから腕が伸びてきてがしっと私の首に絡みつく。
「おらっ」
「わわ、ひゃあ~やめろぉ~」
きゃあきゃあ騒いでいると、ふいに壱馬が私の耳元に顔を寄せた。
「…今日、みさのこといっぱい知れてよかった。買い物付き合ってくれてほんまにありがと」
どくん
ようやく気づいた、距離の近さ。私の背中と壱馬の胸板がぴったりくっついて、服越しに体温を感じる。
どくん
拍動するのは私の心臓か、それとも壱馬のものか。
きっと、どっちもだ。