日常
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「大丈夫?まだ痛い?」
壱馬と私が入ったのは落ち着いた雰囲気の楽器屋だった。少し奥まで行けば、通りの雑踏の音も遠ざかる。
「ううん、もう平気。静かなところにいれば大丈夫だから」
「ならよかった…急に死にそうな顔してるからまじ焦ったわ。耳が痛いって、病気とかと違う?」
「あ、ううん違うの。私絶対音感があって、その副作用というか、まぁ騒音とかに敏感になりすぎちゃうんだよね。ほんと困っちゃう」
あはは、と私の乾いた笑いがむなしく響いた。壱馬は目をまん丸にして私をじっと見つめている。
「絶対音感?…あ、だからいっつも出かける時イヤフォン…」
「そう、耳栓代わりに」
「…知らんかった」
「言ってなかったっけ」
「言ってへん」
沈黙。
そこで私はようやく壱馬と手を繋いだままだったこと、そして店員の男の人が眉をひそめてこちらの様子をチラチラ見ていることに気づいた。
さりげなく手を解いて、恥ずかしさを誤魔化すために店を見渡す。
「あ、あれ、ここ楽器屋なんだね」
「ん…あぁ、静かそうだったから」
ぐるりと視線を巡らせて、ある楽器に目が留まる。
あ、
「ピアノ…」
照明のひかりを吸い込んでしまうような深い黒色をしたグランドピアノ。
「みさ、ピアノ弾けるん?」
「独学だけどね」
何ヶ月ぶりだろう。黒と白のコントラスト。
「…これって、自由に触っても大丈夫なやつですか?」
近くにいた例の店員さんに尋ねると、一転にこやかに頷いた。
誘われるようにピアノ椅子に座る。
鍵盤の上にそっと10本の指を置くと、気持ちがすうっと凪いでいった。
さぁ、何を弾こうか。数ヶ月ぶりの演奏だ。
すぐに頭に浮かんだ曲があった。
ドン
叩きつけるように鍵盤を押して、一気に運指が加速する。
この曲。
みんなの曲。
「Lightning…」
壱馬が呟くのが聞こえた。
私は衝動に突き動かされるまま曲を紡いでいく。
目覚めろ Wake up 見逃すな
全てを変えろ
何も無い場所から
描き始めるヒストリー
「……あー…やっぱ音楽って楽しいね!」
一曲弾き終えて、未だ興奮冷めやらない私は壱馬を
振り返る。
「やっべぇ」
その場に立ち尽くして、壱馬が呆然と言った。数秒後、はっと我に返ったかと思うと駆け寄ってきて私の肩をがしっと掴む。
「やべぇ、すげぇなみさ!!これ、完全に耳コピなんやろ!?こんな…こんな上手い人初めて見た!!!まじやべぇ、みさ天才やろ!!!」
壱馬があまりにも目をキラキラさせるもんだから今度は私の方が呆気に取られて前後に揺さぶられる。
「え、えぇ…?壱馬落ち着いて…」
「ちょ、寮にもピアノ置こ!すいません、これいくらですか!?」
「はぁ!?いや、ちょっと、グランドピアノなんてすごい高いんだよ!?あと寮にこんなでっかいもの持ち込んだらみんなに怒られるから!」
「98万円でございます」
店員さんの言葉に、私と壱馬がピタリと固まる。
「あれ…?グランドピアノって安くても160万とかですよね…?」
私が戸惑いながら尋ねると、店員さんは物腰柔らかに答える。
「こちらは試し弾き用に長年置かれているものでございまして中古品扱いで、ところどころに傷もございますので格安で提供させていただいております」
「そうなんだ…いや、それでもそんな大金…」
「みさ」
壱馬が再び私の肩をがしっと掴んだ。マスクを取って、私の目を見つめながら言う。
「あと半年だけ待ってくれへん?」
「え?」
「あと半年でもっと売れて、もっと稼いで、そんでみさにこのピアノ買う。絶対」
壱馬と私が入ったのは落ち着いた雰囲気の楽器屋だった。少し奥まで行けば、通りの雑踏の音も遠ざかる。
「ううん、もう平気。静かなところにいれば大丈夫だから」
「ならよかった…急に死にそうな顔してるからまじ焦ったわ。耳が痛いって、病気とかと違う?」
「あ、ううん違うの。私絶対音感があって、その副作用というか、まぁ騒音とかに敏感になりすぎちゃうんだよね。ほんと困っちゃう」
あはは、と私の乾いた笑いがむなしく響いた。壱馬は目をまん丸にして私をじっと見つめている。
「絶対音感?…あ、だからいっつも出かける時イヤフォン…」
「そう、耳栓代わりに」
「…知らんかった」
「言ってなかったっけ」
「言ってへん」
沈黙。
そこで私はようやく壱馬と手を繋いだままだったこと、そして店員の男の人が眉をひそめてこちらの様子をチラチラ見ていることに気づいた。
さりげなく手を解いて、恥ずかしさを誤魔化すために店を見渡す。
「あ、あれ、ここ楽器屋なんだね」
「ん…あぁ、静かそうだったから」
ぐるりと視線を巡らせて、ある楽器に目が留まる。
あ、
「ピアノ…」
照明のひかりを吸い込んでしまうような深い黒色をしたグランドピアノ。
「みさ、ピアノ弾けるん?」
「独学だけどね」
何ヶ月ぶりだろう。黒と白のコントラスト。
「…これって、自由に触っても大丈夫なやつですか?」
近くにいた例の店員さんに尋ねると、一転にこやかに頷いた。
誘われるようにピアノ椅子に座る。
鍵盤の上にそっと10本の指を置くと、気持ちがすうっと凪いでいった。
さぁ、何を弾こうか。数ヶ月ぶりの演奏だ。
すぐに頭に浮かんだ曲があった。
ドン
叩きつけるように鍵盤を押して、一気に運指が加速する。
この曲。
みんなの曲。
「Lightning…」
壱馬が呟くのが聞こえた。
私は衝動に突き動かされるまま曲を紡いでいく。
目覚めろ Wake up 見逃すな
全てを変えろ
何も無い場所から
描き始めるヒストリー
「……あー…やっぱ音楽って楽しいね!」
一曲弾き終えて、未だ興奮冷めやらない私は壱馬を
振り返る。
「やっべぇ」
その場に立ち尽くして、壱馬が呆然と言った。数秒後、はっと我に返ったかと思うと駆け寄ってきて私の肩をがしっと掴む。
「やべぇ、すげぇなみさ!!これ、完全に耳コピなんやろ!?こんな…こんな上手い人初めて見た!!!まじやべぇ、みさ天才やろ!!!」
壱馬があまりにも目をキラキラさせるもんだから今度は私の方が呆気に取られて前後に揺さぶられる。
「え、えぇ…?壱馬落ち着いて…」
「ちょ、寮にもピアノ置こ!すいません、これいくらですか!?」
「はぁ!?いや、ちょっと、グランドピアノなんてすごい高いんだよ!?あと寮にこんなでっかいもの持ち込んだらみんなに怒られるから!」
「98万円でございます」
店員さんの言葉に、私と壱馬がピタリと固まる。
「あれ…?グランドピアノって安くても160万とかですよね…?」
私が戸惑いながら尋ねると、店員さんは物腰柔らかに答える。
「こちらは試し弾き用に長年置かれているものでございまして中古品扱いで、ところどころに傷もございますので格安で提供させていただいております」
「そうなんだ…いや、それでもそんな大金…」
「みさ」
壱馬が再び私の肩をがしっと掴んだ。マスクを取って、私の目を見つめながら言う。
「あと半年だけ待ってくれへん?」
「え?」
「あと半年でもっと売れて、もっと稼いで、そんでみさにこのピアノ買う。絶対」