力也さんがお手製のミルクティーをテーブルに置くと、みさは小さく｢ありがとうございます｣と言った。

｢…で、一体何があったんや｣

荒れ放題のリビングと壊れたみさの部屋の扉は一旦置いておいて、俺たちはダイニングに移動。みさの両隣には俺と慎、前には力也さんと陣さんが座る。

｢去年の12月…｣

ぽつぽつと、みさはあらましを話し始めた。
HIROさんにピアニストにならないかと言われたこと。不本意ではあったが俺たちに隠して半年以上練習してきたこと。そして先日HIROさんにピアノを聞いてもらい、認められなかったこと。
それを聞いて思い出した。
クリスマス、みさはあの日一日中ピアノの練習をしていたのだ。なのに俺は。
それから｢前の弾き方の方が好き｣だなんてみさの努力を踏みにじるようなことも言った。

｢それで、もう自分がどうしたいか分からなくて、考えるのも疲れちゃって。限界だったっていうか｣

この数日全くご飯を食べなかったというみさは心労もあってかやせ細っていた。
大切な人が苦しい時にそばにいられなかったばかりか、傷つけるようなことをした自分が腹立たしくて仕方ない。

｢HIROさんに言われたんです、自信がないなら自信がつくまで努力すればいいって。でも、このまま努力し続けてもきっと自信なんてつかない。むしろ自信がなくなるばっかりで…私はただ、この寮で暇な時にピアノを弾いて、みんなと楽しく笑ってるだけでいいんです。それだけで充分なのに、｣

みさの瞳から何度目か分からない涙が落ちる。

｢いざピアニストになれないって言われて、こんなふうになっちゃう自分もいる。もうわからないんです。どうしたらいいか分からない｣

はたはたと、テーブルに涙の水たまりが出来ていく。
誰もが、その言葉の重みに口を開けないでいた。何を言っても衰弱しきったみさの心は簡単に崩れてしまう気がして。
それでも、今みさが必要としているものは。
俺が、みさのためにできることは。

｢______________みさ。俺らと一緒にライブ、出よ｣