6月に入って、みさと唐突に連絡が取れなくなった。
電話もメールもLINEも繋がらない。そんな状態で3日経過している。

｢くそッ、何で電話出えへんねん…！何があったんやみさ…｣
｢落ち着け壱馬。確認に行ってくれた事務所の人がみさは寮にいるって連絡してくれただろ。何があったかは分からないけど、とにかく俺たちは急いで寮に戻ろう｣

力也さんの静かだが迫力ある声に俺はぐっと押し黙る。
とりあえずみさは無事で、寮にいるらしい。
じゃあ何で電話にもLINEにも反応しないのか？
富山公演を終えてもしばらくそこで仕事があり、帰るに帰れなかった。ようやく東京行きの新幹線に乗ったが、移動の時間が永遠に思えた。夜になってからようやく東京に戻って、みんなで寮まで急ぐ。

｢みさ！！｣

玄関にはみさの靴が転がっていた。電気は付いておらず真っ暗だ。
バタバタとリビングに入って、息を呑んだ。
月光に照らされたリビングにはあらゆるものが床に転がって、その中心でピアノが寂しげに佇んでいた。紙くずが俺の足元で舞い上がる。まるで廃墟だ。

｢何やこれ…｣

絶句する俺たち。足元の紙くずを拾った北人が呟いた。

｢これ楽譜だ…みさ、楽譜なんて読めないのに何で｣
｢みさの字で書き込みもあるで。ていうか書き込みだらけや｣

翔吾も呆然とつぶやく。
立ち尽くすみんなを押しのけて家中探し回る
。みさの部屋のドアノブに手をかけたが、鍵がかかっていた。
…ここだ。

｢みさ！みさ、ここにおるんやろ！！開けてくれ！！なぁ！返事しろよ！！みさ！｣

扉をどんどん叩いても返事はない。海青が俺をどかせ思いっきり扉に体当たりをすると、木製の扉は派手な音を立てて内側に開いた。
窓際のベッドの布団が人一人分膨らんでいる。俺は無我夢中でそこに駆け寄ると、無理やりに布団を引き剥がした。

｢…みさ……｣

子供のように小さく丸まって、みさはそこにいた。みんなもベッドに駆け寄る。

｢みさちゃん！｣
｢みさ…みさ！何やっとんねんお前！！俺らがどんだけ心配したと思う！？｣

肩を掴んで、無理やりベッドに座らせる。
その身体の軽さにぞっとした。

｢なぁみさ！｣
｢壱馬、みんな｣

掠れた声が漏れる。ようやく俺を見上げたその瞳は、涙で真っ赤に腫れていた。

｢助けて…｣