｢ん…｣

うっすらと空が色づく早朝に、自分のベッドで目が覚めた。少し視線を上げると、抱き枕よろしく私を抱きしめる壱馬の穏やかな寝顔がある。
起きなきゃ。みんなの朝ごはん作らなきゃ。
身体の裡に残る甘いけだるさを何とか押しやって身じろぎすると壱馬がうっすら目を開けた。

｢あ、ごめん起こしちゃった？まだ寝てていいよ｣
｢んー…｣

私をホールディングする腕に力を込めて、布団の中に引き戻された。

｢もうちょっとだけ｣

最近知ったことだけど、寝起きの壱馬は結構甘えん坊だ。ガードが緩むというか、隙だらけの姿なんて昼間には見られないから私はいつもこうやってつい意図的に寝坊してしまう。

｢…離れたくない｣

私の首筋に顔を埋めて、壱馬がぼそりと言った。

｢明日からまたしばらく会えへんのやろ｣
｢でも栃木公演の直前くらいに1回戻ってこれるって力也さん言ってたよ。3週間くらいのことじゃん｣
｢…ツアーは楽しいけど、みさと一緒にいるのも同じくらい楽しいから。どっちかなんて選べるわけないやろ｣

拗ねたように言う壱馬が可愛くて、この人の特別になってこんなに愛されていることが嬉しくて、つい笑ってしまう。

｢…何笑ってんねん｣
｢ふふ、可愛いなぁと思って｣

壱馬の形のいい耳たぶにさがるシルバーピアスに触れる。同じものが私の耳にもついている。昨日2人で出かけた時に買ったものだ。
私だって離れたくない。次会うときには私の職業が変わっているかもしれないのだ。そんな時に壱馬が側にいてくれたらどれだけ心強いだろう。

｢…さ、みんなの朝ごはん作るから｣

するりと壱馬の腕の中から抜け出して、服を着る。
ドアノブに手をかけたところで、壱馬を振り返った。
二度寝に突入した壱馬の寝顔はまだあどけなくて、またくすりと笑ってしまう。
こんな幸せな時間が永遠に続けばいいのに、と思ってしまうのはきっと心のどこかに不安が隠れているからだ。