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壱馬に電話をかける。
「事務所の近くにある〇〇公園。待ってる」
それだけ言って切る。10分後、壱馬が息を切らして現れた。
「はぁ、は……みさ…」
「謝りたいことがあるの」
2人の間の距離はちょうどグランドピアノ一個分くらい。壱馬は中途半端な距離感で立ち竦んでいる。
「壱馬が前に予定空けとけって言ってくれたのに、すっぽかしてごめん」
「いや、それは、」
「私が悪い」
壱馬の言葉を遮って、私は少し言葉に力を込める。
「でも、昨日どこに行ってたかは言えない。今はまだ……もう少ししたら、言えるようになると思う。それまで待っててほしい」
これが今の私が言える精一杯の本当のこと。まっすぐに壱馬を見て伝えると、昨日とは打って変わって穏やかな目が静かに私を見つめていた。
「分かった。待つ」
「ありがとう」
ほっと息をつく。
今日言わなきゃいけないのはこれだけじゃない。私は再びぐっと拳に力を込めた。
「それから…壱馬に聞きたいことがあって、」
さらに言葉を続けようとした瞬間に、今度は壱馬が遮る。
「俺に言わせて」
「え…」
壱馬が柔らかく微笑んでいた。
綺麗な笑顔だと思った。
これが、私の好きなひとの好きな表情だと思った。
「好きや。みさが」
ざあっと、木枯らしが吹く。冬の朝の空気がまるで勇気づけるように私の背中を叩いた。
均衡を破って、一歩踏み出す。徐々にふたりの距離が縮まっていく。
あと1m。
あと1cm。
その頬に手を添わせ、背伸びをする。
0cm。
顔を離して目を開ける。
「私も好き。壱馬のことが好き」
…とまぁ、そんな感じで壱馬とお付き合いすることになったのだけれど。
メンバーのみんなには報告した。お祭り騒ぎで祝ってもらった。陣さんなんて号泣してた。
でも大掃除や帰省、年明けもリハやレッスンでバタバタしていた私たちはなかなか恋人らしいことをする時間もなく。
あっという間にツアーが再開し、壱馬たちは名古屋に出発していった。
「おや、ピアノの音色がまた変わったね」
「うっ」
「恋に悩むレディの音だ」
いやそれどんな音ですか先生。相変わらずよく分からないフランス紳士にしごかれながら、みっちり一日中ピアノに向かい続ける。
嫌じゃないけどでも何だろう、しんどいというか楽譜通りやるって結構疲れる。
自信がつくまで努力、か。
『何か疲れてへん?大丈夫?』
「ううん、大丈夫。明日名古屋でライブだよね、頑張って。みんなにも伝えといてね」
『おう。じゃあ、おやすみ』
「うん、おやすみ」
通話が切れる直前、壱馬がはちみつみたいな甘い声で「好きやで」と言った。とっさに好き、と返したけど聞こえただろうか。
暗くなったスマホの画面をぼんやり眺める。
幸せだ。
幸せだけど、どこか満たされない。
惚気かと怒られそうだけど、でも本当のことだ。
一度に沢山のことが起こってるからだろう。
「…頑張んなきゃ」
弾みをつけて立ち上がる。
こういう時こそピアノだ。
「事務所の近くにある〇〇公園。待ってる」
それだけ言って切る。10分後、壱馬が息を切らして現れた。
「はぁ、は……みさ…」
「謝りたいことがあるの」
2人の間の距離はちょうどグランドピアノ一個分くらい。壱馬は中途半端な距離感で立ち竦んでいる。
「壱馬が前に予定空けとけって言ってくれたのに、すっぽかしてごめん」
「いや、それは、」
「私が悪い」
壱馬の言葉を遮って、私は少し言葉に力を込める。
「でも、昨日どこに行ってたかは言えない。今はまだ……もう少ししたら、言えるようになると思う。それまで待っててほしい」
これが今の私が言える精一杯の本当のこと。まっすぐに壱馬を見て伝えると、昨日とは打って変わって穏やかな目が静かに私を見つめていた。
「分かった。待つ」
「ありがとう」
ほっと息をつく。
今日言わなきゃいけないのはこれだけじゃない。私は再びぐっと拳に力を込めた。
「それから…壱馬に聞きたいことがあって、」
さらに言葉を続けようとした瞬間に、今度は壱馬が遮る。
「俺に言わせて」
「え…」
壱馬が柔らかく微笑んでいた。
綺麗な笑顔だと思った。
これが、私の好きなひとの好きな表情だと思った。
「好きや。みさが」
ざあっと、木枯らしが吹く。冬の朝の空気がまるで勇気づけるように私の背中を叩いた。
均衡を破って、一歩踏み出す。徐々にふたりの距離が縮まっていく。
あと1m。
あと1cm。
その頬に手を添わせ、背伸びをする。
0cm。
顔を離して目を開ける。
「私も好き。壱馬のことが好き」
…とまぁ、そんな感じで壱馬とお付き合いすることになったのだけれど。
メンバーのみんなには報告した。お祭り騒ぎで祝ってもらった。陣さんなんて号泣してた。
でも大掃除や帰省、年明けもリハやレッスンでバタバタしていた私たちはなかなか恋人らしいことをする時間もなく。
あっという間にツアーが再開し、壱馬たちは名古屋に出発していった。
「おや、ピアノの音色がまた変わったね」
「うっ」
「恋に悩むレディの音だ」
いやそれどんな音ですか先生。相変わらずよく分からないフランス紳士にしごかれながら、みっちり一日中ピアノに向かい続ける。
嫌じゃないけどでも何だろう、しんどいというか楽譜通りやるって結構疲れる。
自信がつくまで努力、か。
『何か疲れてへん?大丈夫?』
「ううん、大丈夫。明日名古屋でライブだよね、頑張って。みんなにも伝えといてね」
『おう。じゃあ、おやすみ』
「うん、おやすみ」
通話が切れる直前、壱馬がはちみつみたいな甘い声で「好きやで」と言った。とっさに好き、と返したけど聞こえただろうか。
暗くなったスマホの画面をぼんやり眺める。
幸せだ。
幸せだけど、どこか満たされない。
惚気かと怒られそうだけど、でも本当のことだ。
一度に沢山のことが起こってるからだろう。
「…頑張んなきゃ」
弾みをつけて立ち上がる。
こういう時こそピアノだ。