変革
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「答えは出た?」
「いえ…」
会長室の応接ソファでHIROさんと向かい合いながら、私はコーヒーを啜った。
「そうか。まぁ決めるのは君だけど、僕にも中々引けない事情があってね」
「事情?」
相変わらずHIROさんは無邪気さと穏やかさが共存した不思議な笑顔を浮かべている。
1か月前、この部屋でLDH所属のピアニストとしてデビューしないかと提案された。デビューまでにはプロからのレッスンなど様々なサポートもしてくれるという。
ピアニスト。憧れ続けた夢の職業。
一度は諦めたその夢が今になって。まさに青天の霹靂だった。
パーティーでの君のピアノを聴いて惚れ込んじゃったんだよね、とHIROさんは冗談めかしていたけど私は全く笑えなかった。
「それはまた、後々分かるんじゃないかな?」
「はあ…」
どうにも掴みどころのない人だ。だからこそ突然降って湧いたこの話に現実味を持てないのかもしれない。
「みさちゃんが迷う理由を聞いても?」
私は深い琥珀色をしたコップの中に視線を落とした。
「…自信が持てません。私はピアノを習ったことなんてなくて、音大にも行ってなくて、楽譜も読めない。この耳だけを頼りにひとりでピアノに向かい合ってきたんです。誰かに聞かせるピアノじゃない」
コーヒーの温かさがてのひらに伝わって、こぼれていく。
「今活躍しているピアニストの方々は血のにじむような努力を重ねて、ようやくデビューしているんです。どれだけ神童と呼ばれようとも、その才能の裏側には必ず努力がある」
「うん」
「あの、失礼なことを言っていたら申し訳ないんですけど、でも私はたまたまHIROさんの目に止まっただけのピアノフリークで。私は何の努力もしていない。世間に認められてもられなくても、こんな奴がピアニストを名乗るのは本気でピアノに向き合ってる方々に失礼だと思ってしまうんです」
確かに憧れる。好きなことを職業にできることがいかに有意義か、RAMPAGEのみんなを見ていれば分かる。
でも、私にその資格はない。
THE RAMPAGEのみんなが日頃から厳しいトレーニングをしているのを知っている。みんなのあの実力は、努力の上に成り立っている。だからこそ血湧き肉躍るようなパフォーマンスを届けられるのだ。
私はピアニストになれない。
それきり黙り込んだ私に、HIROさんは優しく言葉をかける。
「みさちゃんは本当にピアノが好きなんだね」
「好きです。THE RAMPAGEのみんなと同じくらい好きです」
柔らかく微笑むHIROさんにつられて私も笑った。
「音楽はことばを探す愛、なんだってさ」
「え?」
「シドニイ・ラニエっていうピアニストの言葉。すごく素敵じゃない?」
「…はい。素敵です」
音楽はことばを探す愛。小さく呟いてみる。
「これってピアノだけじゃないと思うんだよね。きっと全ての音楽に携わる人に通じることで、それは俺らもだ」
「LDHにも?」
「そう。LOVE、DREAM、HAPPINESSのうちのひとつだからね。俺たちは等しく音楽を愛する身として、言葉を探し続けるんだと思うよ」
HIROさんがおもむろに立ち上がって窓に近寄った。コーヒーマグ片手に外を眺める姿は本当に絵になる。
「うちの社員なんだから、みさちゃんもそうだよ」
「え?」
「君の愛にも言葉を探してもらおう」
「どういうことですか?」
「要は、みさちゃんに自信がつくまで努力してもらえばいいわけだろ?」
…ん?
「いや、あの、」
「来年の6月」
「え?」
何だか雲行きが怪しい。さっきまであんなにかっこよかったHIROさんの笑顔が今は憎らしい。
「来年の6月まで、君には僕の組んだプログラムのもとピアノの練習に取り組んでもらう。その後僕がみさちゃんのピアノを聞いて、メジャーデビューさせるか最終判断をする。君の意思もその時には固まってるだろ?あ、その間寮母の仕事は免除だ。給料は今まで通り出すしあの寮から追い出すことはないから安心して。あいつらの生活に支障が出ないように別の社員が今まで君がやってきた寮での仕事をやってもらおうか。あとはそうだな、課題曲は…」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってください!」
「何?」
「本気ですか!?」
「僕は本気だよ。みさちゃんのピアノには聞き手を惹き付ける何かがある」
ダメだ、負けた。この人には敵わない。
「…分かりました。でも、寮での仕事は続けさせてください。みんなツアー中でしばらく帰ってきませんし。あと、みんなにこの事は言わないでいただきたいんです。ツアーで忙しいのに、余計な気を回させたくない」
「決まりだな」
握手を求められ、HIROさんの大きな手を握る。
その瞬間に腹を括った。
もう、後には引けない。
「いえ…」
会長室の応接ソファでHIROさんと向かい合いながら、私はコーヒーを啜った。
「そうか。まぁ決めるのは君だけど、僕にも中々引けない事情があってね」
「事情?」
相変わらずHIROさんは無邪気さと穏やかさが共存した不思議な笑顔を浮かべている。
1か月前、この部屋でLDH所属のピアニストとしてデビューしないかと提案された。デビューまでにはプロからのレッスンなど様々なサポートもしてくれるという。
ピアニスト。憧れ続けた夢の職業。
一度は諦めたその夢が今になって。まさに青天の霹靂だった。
パーティーでの君のピアノを聴いて惚れ込んじゃったんだよね、とHIROさんは冗談めかしていたけど私は全く笑えなかった。
「それはまた、後々分かるんじゃないかな?」
「はあ…」
どうにも掴みどころのない人だ。だからこそ突然降って湧いたこの話に現実味を持てないのかもしれない。
「みさちゃんが迷う理由を聞いても?」
私は深い琥珀色をしたコップの中に視線を落とした。
「…自信が持てません。私はピアノを習ったことなんてなくて、音大にも行ってなくて、楽譜も読めない。この耳だけを頼りにひとりでピアノに向かい合ってきたんです。誰かに聞かせるピアノじゃない」
コーヒーの温かさがてのひらに伝わって、こぼれていく。
「今活躍しているピアニストの方々は血のにじむような努力を重ねて、ようやくデビューしているんです。どれだけ神童と呼ばれようとも、その才能の裏側には必ず努力がある」
「うん」
「あの、失礼なことを言っていたら申し訳ないんですけど、でも私はたまたまHIROさんの目に止まっただけのピアノフリークで。私は何の努力もしていない。世間に認められてもられなくても、こんな奴がピアニストを名乗るのは本気でピアノに向き合ってる方々に失礼だと思ってしまうんです」
確かに憧れる。好きなことを職業にできることがいかに有意義か、RAMPAGEのみんなを見ていれば分かる。
でも、私にその資格はない。
THE RAMPAGEのみんなが日頃から厳しいトレーニングをしているのを知っている。みんなのあの実力は、努力の上に成り立っている。だからこそ血湧き肉躍るようなパフォーマンスを届けられるのだ。
私はピアニストになれない。
それきり黙り込んだ私に、HIROさんは優しく言葉をかける。
「みさちゃんは本当にピアノが好きなんだね」
「好きです。THE RAMPAGEのみんなと同じくらい好きです」
柔らかく微笑むHIROさんにつられて私も笑った。
「音楽はことばを探す愛、なんだってさ」
「え?」
「シドニイ・ラニエっていうピアニストの言葉。すごく素敵じゃない?」
「…はい。素敵です」
音楽はことばを探す愛。小さく呟いてみる。
「これってピアノだけじゃないと思うんだよね。きっと全ての音楽に携わる人に通じることで、それは俺らもだ」
「LDHにも?」
「そう。LOVE、DREAM、HAPPINESSのうちのひとつだからね。俺たちは等しく音楽を愛する身として、言葉を探し続けるんだと思うよ」
HIROさんがおもむろに立ち上がって窓に近寄った。コーヒーマグ片手に外を眺める姿は本当に絵になる。
「うちの社員なんだから、みさちゃんもそうだよ」
「え?」
「君の愛にも言葉を探してもらおう」
「どういうことですか?」
「要は、みさちゃんに自信がつくまで努力してもらえばいいわけだろ?」
…ん?
「いや、あの、」
「来年の6月」
「え?」
何だか雲行きが怪しい。さっきまであんなにかっこよかったHIROさんの笑顔が今は憎らしい。
「来年の6月まで、君には僕の組んだプログラムのもとピアノの練習に取り組んでもらう。その後僕がみさちゃんのピアノを聞いて、メジャーデビューさせるか最終判断をする。君の意思もその時には固まってるだろ?あ、その間寮母の仕事は免除だ。給料は今まで通り出すしあの寮から追い出すことはないから安心して。あいつらの生活に支障が出ないように別の社員が今まで君がやってきた寮での仕事をやってもらおうか。あとはそうだな、課題曲は…」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってください!」
「何?」
「本気ですか!?」
「僕は本気だよ。みさちゃんのピアノには聞き手を惹き付ける何かがある」
ダメだ、負けた。この人には敵わない。
「…分かりました。でも、寮での仕事は続けさせてください。みんなツアー中でしばらく帰ってきませんし。あと、みんなにこの事は言わないでいただきたいんです。ツアーで忙しいのに、余計な気を回させたくない」
「決まりだな」
握手を求められ、HIROさんの大きな手を握る。
その瞬間に腹を括った。
もう、後には引けない。