｢みさ～！しばらく見ない間におっきくなったなぁ！おじさん嬉しいぞ！！｣
｢おじさん誰～！？｣

帰ってくるなり陣くんが私を高い高いした。他のみんなも私のほっぺをむにむにしたり髪をくしゃくしゃにしたりさらには私の身体を振り回したりして手荒く久しぶりの再会を喜ぶ。

｢ただいま｣
｢おかえり壱馬｣

壱馬が両手で私の顔を挟んだ。そのまま顔を少し上に向けられると目の前に壱馬の綺麗な瞳があって、私の心臓はバカ正直に跳ね上がる。
と、壱馬の鼻と私の鼻が一瞬触れ合った。

｢ははっ、顔真っ赤やで｣
｢い、いや、だだだって今、は、鼻ちゅー…｣

ひとりテンパる私に笑いかけて、壱馬はさっさとみんなの後を追いかけてリビングに行ってしまう。
もう、ほんとどうしちゃったんだろう私。
その日は2週間ぶりにみんなと食卓を共にしてのんびり過ごした。あっという間に夜が来る。
やっぱり疲れていたんだろう、昼間は元気だったみんなはすぐにそれぞれの部屋で爆睡し始めた。

｢壱馬は寝ないの？｣
｢まだみさのピアノ聞きたい｣
｢えー、じゃあ何か眠くなるような曲を…｣

きらきら星。ゆったりと低音を重ねながらスローテンポで弾く。
ピアノを弾いていると、HIROさんの声が聞こえてくる気がした。

『ピアニストにならないか』

｢…なぁ｣
｢うん？｣

ピアノの側板に腕をかけて、壱馬が言った。

｢何かあったやろ｣
｢…何かって？｣
｢悩んどるんやろ、何か知らんけど。元気ないからすぐ分かるで｣
｢…クリスマスの予定がないなぁって悩んでる｣

鍵盤から視線を上げられない。壱馬がじっと私を見つめているのが分かる。
息の詰まるような時間が1分ほど続いて、壱馬はふいにピアノからぱっと離れた。

｢…ま、ええわ。眠くなってきたし俺寝る｣

ちょっと機嫌を損ねてしまった気がする。私の嘘に気づいたのだろうか。扉を閉める一瞬前、壱馬はあ、と声を上げて振り返った。

｢クリスマスなら俺がデートしたるし予定開けとけよ｣