日常
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共用スペースの扉を開けると、みさがピアノを弾いていた。
メンバーのほとんどはすでに自室で寝ているのを配慮してか、小さな音の、ゆったりとした子守唄のような曲。近くのソファではみさの魔力にやられた翔平が音に合わせてこっくりこっくり船を漕いでいる。
「翔平、寝るんなら部屋で寝ろ」
「んぁ…壱馬さん……ふぁい…」
緩慢な動作で部屋を出ていく翔平を見送って、俺はピアノを弾くみさを眺めた。
飛び抜けて可愛いというわけじゃない。スタイルも並。こんなこと本人に言ったら怒られるけど。
でも、なぜか惹かれてしまう。
俺はテーブルにジンジャーミルクのマグを置くと、長いピアノ椅子のはしっこに座った。それに気づいたみさがちょっと横に移動して、ふたり寄り添って座る。
滑らかに曲が変わった。
「あ、」
「EXILEさんの『愛すべき未来へ』。小さい頃に偶然テレビで聞いてね、大好きなの」
俺たちの大先輩にあたるEXILEの珠玉のバラードの中でも名曲だ。俺の口から、自然と歌がこぼれた。
二人きりの部屋。みさのピアノと、俺の歌。聞こえるのはそれだけ。
「僕が笑顔でいられたら
あなたの笑顔が見ていられる
そう信じて僕は叫び続ける
愛する気持ちまだ
止めないで…」
きらきらとピアノがフェードアウトしていく。鍵盤から手を離して、みさがふわりと笑った。
「私、壱馬の歌好きだな」
「…俺もみさのピアノ好きやで」
言い出したのはみさの方なのに俺に言われた途端に顔を赤くするところとか、からかいがいがあるというか。
可愛いというか。
「でっ、でも途中のGの音はピッチが2くらい高かったのが気になったかな」
「いや細かいわ。+2なんて普通分からへんし」
けらけら笑いながら、ぽーんと人差し指で鍵盤を押さえてみる。
みさに言わないといけないことがあったんだった。
「今度な、」
「うん?」
「単独ツアーが決まってんやんか」
「え、」
両手を上げて大喜びしようとするみさの口を慌てて手のひらで塞ぐ。せっかくみんな寝たところなのに起こしてしまう。
「公式発表はまだまだ先やけど、詳しいことも決まってきてて。そんでそのツアーが今年の12月から来年の8月まで47都道府県全部回るっていうスケジュールやねんけど」
再び万歳で喜ぼうとするみさは、きっとこの意味を分かっていないのだろう。
「やから、ツアーの最中は寮にはほとんど帰ってこられへんと思う」
みさが固まった。上げかけていた手をゆっくり下ろして、膝に置く。顔を俯けると、長い髪で目元がすっかり隠れてしまった。
「…そっか。うん、そうだよね。でも、嬉しいよ!?単独ツアーなんて本当にすごい。みんなが全国のファンと触れ合えて、もっともっと力を付けられるってことだもん。私は嬉しい」
たぶんその言葉に偽りはない。
でも、心で思ってること全部を口に出してくれているわけじゃない。
「…なぁ、」
さらり、髪を梳いて目元が見えるようにするとみさの肩が緊張で強ばった。顔を覗き込む。
思った通りだ。
瞳に涙の膜が張っていた。
「やっぱ寂しいんやろ」
「…寂しくないよ」
「嘘つけ」
特別可愛いわけじゃない。スタイルも普通。
なのにどうして、
こんなにも愛おしいのだろう、この人は。
俺はみさの頭をそっと俺の肩にもたせかけた。驚いて離れようとするのを手で押さえて、安心させるようにぽんぽんと軽く叩く。
「このまま」
「…」
「みさは俺に会えへんと泣いちゃうくらい寂しいんやな」
「…ナルシスト。みんなに会えないのが寂しいの」
かすかに感じる右肩の重さが心地よい。みさが俺の肩に頭を預けてくれているからだ。
「でも大丈夫。待ってるよ、ここで。みんなが全国で暴れ回って、何倍も成長して帰ってくるのを」
「うん」
とろとろと時間が流れていく真夜中のピアノの前で、俺たちはしばらく頭を寄せあって座っていた。
「あ、でもたまには電話とかしてね?」
「寂しがり屋のウサギか」
メンバーのほとんどはすでに自室で寝ているのを配慮してか、小さな音の、ゆったりとした子守唄のような曲。近くのソファではみさの魔力にやられた翔平が音に合わせてこっくりこっくり船を漕いでいる。
「翔平、寝るんなら部屋で寝ろ」
「んぁ…壱馬さん……ふぁい…」
緩慢な動作で部屋を出ていく翔平を見送って、俺はピアノを弾くみさを眺めた。
飛び抜けて可愛いというわけじゃない。スタイルも並。こんなこと本人に言ったら怒られるけど。
でも、なぜか惹かれてしまう。
俺はテーブルにジンジャーミルクのマグを置くと、長いピアノ椅子のはしっこに座った。それに気づいたみさがちょっと横に移動して、ふたり寄り添って座る。
滑らかに曲が変わった。
「あ、」
「EXILEさんの『愛すべき未来へ』。小さい頃に偶然テレビで聞いてね、大好きなの」
俺たちの大先輩にあたるEXILEの珠玉のバラードの中でも名曲だ。俺の口から、自然と歌がこぼれた。
二人きりの部屋。みさのピアノと、俺の歌。聞こえるのはそれだけ。
「僕が笑顔でいられたら
あなたの笑顔が見ていられる
そう信じて僕は叫び続ける
愛する気持ちまだ
止めないで…」
きらきらとピアノがフェードアウトしていく。鍵盤から手を離して、みさがふわりと笑った。
「私、壱馬の歌好きだな」
「…俺もみさのピアノ好きやで」
言い出したのはみさの方なのに俺に言われた途端に顔を赤くするところとか、からかいがいがあるというか。
可愛いというか。
「でっ、でも途中のGの音はピッチが2くらい高かったのが気になったかな」
「いや細かいわ。+2なんて普通分からへんし」
けらけら笑いながら、ぽーんと人差し指で鍵盤を押さえてみる。
みさに言わないといけないことがあったんだった。
「今度な、」
「うん?」
「単独ツアーが決まってんやんか」
「え、」
両手を上げて大喜びしようとするみさの口を慌てて手のひらで塞ぐ。せっかくみんな寝たところなのに起こしてしまう。
「公式発表はまだまだ先やけど、詳しいことも決まってきてて。そんでそのツアーが今年の12月から来年の8月まで47都道府県全部回るっていうスケジュールやねんけど」
再び万歳で喜ぼうとするみさは、きっとこの意味を分かっていないのだろう。
「やから、ツアーの最中は寮にはほとんど帰ってこられへんと思う」
みさが固まった。上げかけていた手をゆっくり下ろして、膝に置く。顔を俯けると、長い髪で目元がすっかり隠れてしまった。
「…そっか。うん、そうだよね。でも、嬉しいよ!?単独ツアーなんて本当にすごい。みんなが全国のファンと触れ合えて、もっともっと力を付けられるってことだもん。私は嬉しい」
たぶんその言葉に偽りはない。
でも、心で思ってること全部を口に出してくれているわけじゃない。
「…なぁ、」
さらり、髪を梳いて目元が見えるようにするとみさの肩が緊張で強ばった。顔を覗き込む。
思った通りだ。
瞳に涙の膜が張っていた。
「やっぱ寂しいんやろ」
「…寂しくないよ」
「嘘つけ」
特別可愛いわけじゃない。スタイルも普通。
なのにどうして、
こんなにも愛おしいのだろう、この人は。
俺はみさの頭をそっと俺の肩にもたせかけた。驚いて離れようとするのを手で押さえて、安心させるようにぽんぽんと軽く叩く。
「このまま」
「…」
「みさは俺に会えへんと泣いちゃうくらい寂しいんやな」
「…ナルシスト。みんなに会えないのが寂しいの」
かすかに感じる右肩の重さが心地よい。みさが俺の肩に頭を預けてくれているからだ。
「でも大丈夫。待ってるよ、ここで。みんなが全国で暴れ回って、何倍も成長して帰ってくるのを」
「うん」
とろとろと時間が流れていく真夜中のピアノの前で、俺たちはしばらく頭を寄せあって座っていた。
「あ、でもたまには電話とかしてね?」
「寂しがり屋のウサギか」