いざ、現世へ
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しんしんと雪の降る街。天国は常に春の暖かさを纏うお陰で桃の木はいつまでも枯れることなく、多くの神もうさぎも何不自由なく暮らせている。
こんなにも寒い冬は、昔現世にいた時くらいか。あまりにも冷たい空気が鼻にかすかな痛みを伝える。
_決して、人の生死に干渉しないで下さい。
現世への扉を潜る前、鬼灯に強く釘を刺された言葉だ。人の死期は生まれた時から定められたものであり、神であってもそれを侵してはならない。
「ひゃははははははは!!」
夜の京の街にとても狂気の沙汰とも思えない、甲高い笑声がやけに耳についた。およそ人のそれではなく、嫌な予感に急いで向かう。
__そしてもう一つの欠点、それは強い吸血衝動に襲われる事。
そこには目を疑うほど惨たらしい光景が広がっていた。三人の浪士は無残に息絶えていたにも関わらず、それに構うものかと何度も何度も刃を突き、叩き込んでいた。
人の道を外れた化け物はこんなにも醜いのか、羅刹というものは。
あまりにも悲惨な事態に目を逸らすと、一人の少女が怯えた様子で身を潜めている。ただ目も離せない状況に、こちらを心配そうに見詰めていた。
羅刹に薬を与えることが出来ればこの危機を乗り越えられ、また人としての生を歩むことができる。だが血に狂い、強大な力を手にした彼らに近づくことすら出来ない。
何千年もの時を生きた神農ですらこの常軌を逸した様子に到底耐えられそうにない。
怖気付き知らずのうちに後ずさった。砂利を踏む音に反応した羅刹が浪士を斬る手を止め、ゆらゆらと覚束無い足取りで向かってくる。殺される、殺されてしまう。
羅刹の手に握られている刀が月明かりに照らされ薄らと輝く。
勢い良く振り下ろされた刃は何かに弾かれ、神農に届くことは無かった。
依頼を受けてから篭もりっぱなしで薬を調合していたからだろうか。自身でも気付かぬうちに神気は極限まで高まりきっていたようだ。
一度弾かれた刀を羅刹はまた力いっぱい振り下ろす。
当たらないことが分かっていてもやっぱり恐ろしい。額を流れた冷や汗が喉に差し掛かった時、白光が羅刹を斬り裂いた。
地に広がる鮮血。鼻をかすめる血の匂いは向こうの少女にも届いていることだろう。
「あーあ、残念だな…」
言葉とは裏腹に、その声はおかしげに弾む。
「僕ひとりで始末しちゃうつもりだったのに。斎藤くん、こんなときに限って仕事が速いよね」
恨み言を吐く割に楽しそうに微笑む目の前の男に少なからず狂気を感じた。
「俺は務めを果たすべく動いたまでだ。あんたと違って戦闘狂の気はない」
「うわ、酷い言い草だなあ」
非常に的を得た表現に納得した。貶されても表情ひとつ変わらない男にもはや恐怖を覚える。地獄の鬼でさえもあそこまで打たれ強くは無い。
襟巻きの男、斎藤は呆れ混じりにため息をついた。
こんなにも寒い冬は、昔現世にいた時くらいか。あまりにも冷たい空気が鼻にかすかな痛みを伝える。
_決して、人の生死に干渉しないで下さい。
現世への扉を潜る前、鬼灯に強く釘を刺された言葉だ。人の死期は生まれた時から定められたものであり、神であってもそれを侵してはならない。
「ひゃははははははは!!」
夜の京の街にとても狂気の沙汰とも思えない、甲高い笑声がやけに耳についた。およそ人のそれではなく、嫌な予感に急いで向かう。
__そしてもう一つの欠点、それは強い吸血衝動に襲われる事。
そこには目を疑うほど惨たらしい光景が広がっていた。三人の浪士は無残に息絶えていたにも関わらず、それに構うものかと何度も何度も刃を突き、叩き込んでいた。
人の道を外れた化け物はこんなにも醜いのか、羅刹というものは。
あまりにも悲惨な事態に目を逸らすと、一人の少女が怯えた様子で身を潜めている。ただ目も離せない状況に、こちらを心配そうに見詰めていた。
羅刹に薬を与えることが出来ればこの危機を乗り越えられ、また人としての生を歩むことができる。だが血に狂い、強大な力を手にした彼らに近づくことすら出来ない。
何千年もの時を生きた神農ですらこの常軌を逸した様子に到底耐えられそうにない。
怖気付き知らずのうちに後ずさった。砂利を踏む音に反応した羅刹が浪士を斬る手を止め、ゆらゆらと覚束無い足取りで向かってくる。殺される、殺されてしまう。
羅刹の手に握られている刀が月明かりに照らされ薄らと輝く。
勢い良く振り下ろされた刃は何かに弾かれ、神農に届くことは無かった。
依頼を受けてから篭もりっぱなしで薬を調合していたからだろうか。自身でも気付かぬうちに神気は極限まで高まりきっていたようだ。
一度弾かれた刀を羅刹はまた力いっぱい振り下ろす。
当たらないことが分かっていてもやっぱり恐ろしい。額を流れた冷や汗が喉に差し掛かった時、白光が羅刹を斬り裂いた。
地に広がる鮮血。鼻をかすめる血の匂いは向こうの少女にも届いていることだろう。
「あーあ、残念だな…」
言葉とは裏腹に、その声はおかしげに弾む。
「僕ひとりで始末しちゃうつもりだったのに。斎藤くん、こんなときに限って仕事が速いよね」
恨み言を吐く割に楽しそうに微笑む目の前の男に少なからず狂気を感じた。
「俺は務めを果たすべく動いたまでだ。あんたと違って戦闘狂の気はない」
「うわ、酷い言い草だなあ」
非常に的を得た表現に納得した。貶されても表情ひとつ変わらない男にもはや恐怖を覚える。地獄の鬼でさえもあそこまで打たれ強くは無い。
襟巻きの男、斎藤は呆れ混じりにため息をついた。
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