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いざ、現世へ

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薬祖神神農の別名

「こちらが頼まれていたものです」
「…ありがとうございます」

神農と白澤は同じ薬の神と言えど白澤が営む漢方薬局と違い、毒の研究を主体としてそれを地獄へ納品している。
いつも忙しそうな閻魔殿、主に鬼灯が今日は特に目の下に濃い隈を作り、まるで死人のような表情で積み上がっていた書類を片付けていた。彼は本当に一度死んでいるのだけれど。

「最近の地獄は随分と忙しそうですね」
「えぇまぁ、現世で色々…」

あの鬼灯が酷く頭を悩ませているその出来事に大きな興味が沸いた。

「拝見してもよろしいですか?」

返事はないが、小さく頷くのが見えたので数枚の書類を手に取り、目を通す。
薬祖神と祀られる神農にひとつ気になるものがあった。

「変若水…仙丹、霊薬ですか」
「私が今悩んでいるのはまさにそれです。変若水は人を羅刹に、所謂吸血鬼の様なものに変えてしまう代物です」
「それって、」

人が生を終えた時、供養される。それは現世での話で、地獄では亡者の生涯の罪を裁かれる。
変若水で羅刹と成った者の魂は地獄にやってこない。鬼火が体内に入った様なものなのだからその時点で亡者では無くなってしまうのだ。

「それに羅刹は強大な力を手に入れる反面、欠点があるんです」

欠点、と聞き返すと鬼灯はまたもうんざりした様子で頭を抱えた。

「そのお陰で本来よりも早く亡くなってしまうという…」
「寿命と…」

地獄にとって、いや、それ以外にも異例は最も嫌われるものだろう。
ぼんやりと考えていると、ふと頭にある可能性を思い浮かべた。

「羅刹を人に戻す薬は無いんですか?」
「まずそんな特効薬があればこんなことにはなっていませんよ」

少し考えればすぐに分かることを指摘され、恥ずかしくなり目を伏せる。

「あ。そうだ…」

鬼灯がひとり名案だと言うように顔を明るくさせた。徹夜漬けの頭では碌な案がとても思い付くとは思えないが気になったので聞いてみた。

神農さん。変若水、仙丹に知識がおありですよね?」
「い、一応、それなりには…」

あの金棒をいとも容易く振りかぶれる程の腕力、眠気からいつも以上の鋭い眼光で見つめられ、肩を強く掴まれる。いつ折れるかも分からない骨に怯えて精一杯頷く。
この鬼神から逃げ切れるわけが無い。この後の展開を予想するなどとんでもない馬鹿でも可能だろう。また面倒事に巻き込まれたと、否、無闇矢鱈に踏み込みすぎたと後悔するも後の祭りだ。
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